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KDDI、船舶でスターリンク展開を加速 沖縄や5G対応も

KDDIは、米SpaceXの衛星ブロードバンド「Starlink」(スターリンク)を使用した法人向けサービスについて解説し、展開を加速させていく方針を明らかにした。18日には日本国内で初というスターリンクアンテナの海上での利用(電波の発射)を開始するセレモニーが開催されたほか、新たな「衛星間通信技術」で沖縄県がスターリンクのサービスエリアになったことも明らかにされている。

船舶に搭載のスターリンクアンテナの利用を開始するセレモニー
左のクルーザーと奥の釣り漁船にそれぞれスターリンクのアンテナが搭載されている

KDDIは7月3日、スターリンクを船舶に搭載して日本の領海内で利用できる海上向けサービスを開始すると発表している。離島や山間部といった地上に加えて海上にも対象エリアが広がることで、全方位で展開が可能になった。海上での通信はこれまで、低速で高額な(従来型の高軌道な)通信衛星に頼らざるを得なかったため、船上の通信サービスの発展は遅れていたが、高速かつ従来よりも大幅な低コストを実現するスターリンクの導入で、状況は一変する。

例えば、スターリンクへの要望や期待の声が非常に多いという漁業では、スターリンクを船に搭載することで、公的機関が提供している海域の各種データや、灯台からのライブ映像などを随時取得できるようになる。

クルーザーの設置例
漁船への設置例
スターリンクのWi-Fiに接続したスマートフォン。下り131Mbps、上り40Mbpsを計測している
気象庁などが提供する各種の海洋情報をいつでも確認できる
従来は通信速度の面で難しかったという灯台のライブ映像も確認可能

かつては朝FAXで受信した海域データを紙で船に持ち込んでいたというが、FAXで提供するサービスは終了し、Webサイトでの提供に移行。しかし従来型の衛星通信では速度が遅く高額なため、海上での実際の利用回数は限られていたという。

スターリンクに移行することで、現場の漁場データを仲間の船や陸の本部とリアルタイムに共有でき、漁場予測の高度化や省人化も実現可能。これまでにないレベルの大幅なデジタル化が期待できる。

旅客船や釣り客を乗せる漁船では、Wi-Fiなどで乗船客に高速な通信サービスを提供可能。QRコード決済といった、インターネットを使う決済サービスも提供できるようになり、旅客船では業務面でもDXを大幅に進められる。

このほか東海大学の海洋調査研修船「望星丸」(2,170トン)にもスターリンクが搭載されることが発表されている。離島などに派遣されることを想定した災害医療の実証実験も行なっており、高速なインターネットを活用した遠隔医療を活用し、乗船する医師では対応できない事態にも備えることが可能になるという。

山小屋Wi-Fiは100件が目標

スターリンクを設置する「山小屋Wi-Fi」も拡大させていく方針で、今夏にまずは11カ所からスタートする。登山客にWi-Fi環境を提供するだけでなく、宿泊施設の状況をリアルタイムに予約システムに反映させたり、キャッシュレス決済の導入といった“山岳DX”を実現する。

日本には山小屋が約550カ所あり、このうち百名山にあるのは約240カ所とのこと。設置の工事ができる期間は限られるため展開速度に限界はあるものの、山小屋のオーナーと契約を進めており、まずは百名山の山小屋を中心に100カ所への導入が目標としている。

ロックフェスへの導入も継続する

沖縄県は新技術でエリア化

スターリンクは通常、地上のアンテナから1機の衛星に対して接続し、この衛星は地上局と呼ばれる地上の特別な設備と接続、そこからインターネットに繋がる仕組みになっている。低軌道の衛星コンステレーションは、多数の衛星が地球のまわりを高速(時速28,000km)で移動しているため、地上のアンテナは“視界”に入る衛星に次々と切り替えて通信するという挙動になっている。

衛星と地上局の距離が離れていると安定した接続ができないため、つまり、地上局から離れている地域はサービスエリアにならないという状況だった。日本におけるスターリンクの地上局は現在、北海道、秋田県、茨城県、山口県の4カ所で、いずれもKDDIの施設の中に設けられている。

スターリンクの衛星にはあらかじめ衛星間通信(Inter Satellite Link)という光通信(レーザー通信)機能が装備されており、衛星から地上局までの距離が離れている場合、ほかの衛星が中継を行なって地上局に接続するということが技術的に可能になっている。KDDIはSpaceXと衛星間通信の共同検証を実施し、安定した品質を確立できたとして、スターリンクの衛星間通信技術を導入、KDDIのスターリンクのサービスにおいて、沖縄県をサービスエリアに追加する。

衛星間のレーザー通信は、距離が離れている場合は地上に敷設する光ファイバーケーブルよりも特性が良いとされ、今回の衛星間通信の遅延速度はau通信網の品質基準を大きく上回る品質(低遅延)を実現するという。

このほか、地上でスターリンクをバックホール回線に使う基地局について、2023年に5G対応が進められることも明らかにされている。通信速度自体はスターリンクの速度に制限されることになるが、5Gのエリア展開において、本格的なバックホール回線の設備を敷設するまでのつなぎとして設置するといったケースが考えられるとしている。

スターリンクのトップランナーを目指す

KDDIは2020年から、SpaceXと共同でスターリンクの技術検証を進めてきた。2022年にはauの通信網での活用が始まり、2023年には海上サービスも始めるなど、スターリンクのサービスを着々と自社サービスに落とし込んでいる。スターリンクの日本での地上局をKDDIが整備するなど両社の連携は深く、「認定Starlinkインテグレーター」という立場も国内の他社と一線を画すものになっている。

「スターリンクの提供を始めてから、ユースケースが次から次へと出てきている。非常に強いプロダクトだと感じる」(KDDI 取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長 兼 事業創造本部長の松田浩路氏)と、説明会では大きな手応えを感じている様子が語られたほか、「今後3年で100億円以上の売上を目指す。認定Starlinkインテグレーターとして、常に一歩先を行くようなものにしていく。スターリンクのトップランナーの地位を確立していきたい」(松田氏)と意気込みも語られた。

松田氏