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ウクライナでも活躍する「スターリンク」は何がスゴイ?

(C)SpaceX

ロシアのウクライナ侵攻によって、一躍有名になったのが米SpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink」(スターリンク)である。元々宇宙ファンなどには良く知られていたものではあるが、一般メディアで取り上げられることが増え、初めて名前を聞いた人もいるのではないだろうか。Starlinkとは、どのようなサービスなのか。ここで解説していきたい。

ウクライナでも活躍するStarlink

現代の戦争において、「情報」の価値は極めて高い。そのため開戦となれば通信網は真っ先に狙われるのだが、ことの発端となったのは、ウクライナのデジタル担当大臣であるMykhailo Fedorov氏がTwitterにて、SpaceXの創業者・Elon Musk(イーロン・マスク)氏に支援を要請したことだった。

これに対し、マスク氏はすぐさま支援を表明。ウクライナでStarlinkのサービスを開始したことを明らかにした。この間、わずか10時間半。Twitterでのやり取りでこのような重要なことが決まってしまうのもすごいが、このスピード感も驚く。数々のイノベーションを起こしてきたマスク氏ならではだ。

その数日後には、Starlinkの地上端末がウクライナに到着した。Fedorov大臣はその後も度々Starlinkについて言及。軍用だけでなく、インフラが破壊された地域でも活用されているとのことで、5月2日には、1日あたり約15万人のアクティブユーザーがいるとツイートしている。

では、Starlinkはどのような仕組みでこういったサービスを実現しているのか。技術的な側面から見ていくことにしよう。

衛星コンステレーションとは?

Starlinkは、人工衛星を使った通信サービスである。スマートフォンの場合、電波が繋がっているのは地上の基地局で、そこからインターネットに接続されている。衛星インターネットの場合、地上に基地局が必要なことは変わらないが、その間の中継に衛星を使う。衛星との通信のためには、専用のアンテナが必要になる。

通信衛星自体は宇宙開発の初期から使われているものだが、従来と大きく異なるのは、衛星の軌道と機数だ。

これまで主流だったのは、静止衛星を使ったサービス。静止衛星であれば、1機だけで地球の広い範囲をカバーできるので、サービスを始めやすい。それに対し、Starlinkが飛行しているのは、高度550kmの地球低軌道。衛星1機でカバーできるのは数100kmくらいしかなく、上空に静止もできないので、その分、大量(数千機以上)の衛星を飛ばす必要がある。

しかし、高度36,000kmの静止衛星に比べ、はるかに地表から近いため、レイテンシ(遅延)を低くできるのが大きなメリット。Starlinkのレイテンシは、20ms程度まで抑えられるとのことで、同社はオンラインゲームも楽しめるとアピールしている。ダウンロード速度は、100~200Mbps程度が可能だという。

(C)SpaceX

このように、多数の衛星を使うシステムを「コンステレーション」と呼び、その中でもStarlinkのように数が多いものは特に「メガコンステレーション」とも言われる。大型衛星を使うとコストがかかりすぎるが、近年、小型衛星の高性能化が進んだことで、これが現実的になり、地球観測の分野でも普及が進みつつある。

とはいえ、大量の衛星を打ち上げ、大量の基地局を整備するには、巨額の初期投資が必要になる。しかし、これまで高速インターネットが難しかった山間部などの地域にもサービスを提供できるので、SpaceXのほか、英OneWebや米Amazonも計画を進めており、地上の通信サービスと同じように、宇宙でも競争が熾烈になってきている。

前代未聞のフラットパネル衛星

次は、Starlink衛星について見ていこう。筆者が初めて見たとき、驚いたのはその斬新なデザインだ。通常、衛星というのは箱形なのだが、Starlinkは“板状”とでも言った方が良いような薄い形をしている(同社はこれを「フラットパネルデザイン」と呼んでいる)。

サイズに関する公式情報は見当たらないのだが、Falcon 9ロケットのフェアリング(先端部分)の大きさは分かっているので、そこから計算すると、縦横は最大でも3m×1.5m程度だろう。ロケットには、一度に最大60機を搭載。30段×2列に積み重ねられているので、1機分の厚さはおそらく20cm程度しかない。

ロケットで打ち上げる時には、このように平積みされる((C)SpaceX)

打ち上げ後、目的の軌道に到着すると、Starlink衛星はロケット上段からまとめて放出される。ここから太陽電池パドルを展開するので、その分の厚さを考えると、衛星本体の厚さはさらに薄く、半分と仮定すると10cm程度ということになる。これで熱設計や内部レイアウトをどうしているのかは興味深いところだ。

Starlink衛星がこのような薄型を採用した理由は2つある。1つは、ロケットへの搭載量を最大化すること。そしてもう1つは、大気抵抗を減らすことだ。地球低軌道には薄い大気があり、その抵抗によって高度は徐々に下がる。高度を維持するためにはスラスタの噴射が必要だが、大気抵抗が小さければ、燃料を節約できる。

一見、従来の衛星からすると非常識な形状だが、目的を明確にし、そこから合理的に導いた設計なのだろう。そういった点も、SpaceXらしいと言えるかもしれない。

衛星の本体には、通信用に4枚のフェーズドアレイアンテナと2枚のパラボラアンテナを搭載。推進系としては、クリプトンを燃料とする電気推進のスラスタを搭載しており、ほかの宇宙機やデブリとの衝突可能性が出たときには、自動で軌道を変えて衝突を避ける機能も搭載している。

ガンガン作ってガンガン上げる

Starlink衛星は、2018年2月に、2機の試験機の打ち上げを実施。その実証成果を設計にフィードバックし、2019年5月より、量産型の打ち上げを本格的に開始した。打ち上げペースは凄まじく、2022年5月13日の時点で、投入した機数はすでに2,500機を超えている。

これまでの打ち上げ機数をまとめたグラフ。驚異的なペースで増えている(筆者調べ)

従来の衛星というのは生産数が少なく、手作りに近いところがあったのだが、同社によれば、毎週45機の衛星を製造する能力があるとのこと。製造工程は明らかになっていないものの、かなりの部分を自動化している可能性が高いだろう。

(C)SpaceX

これだけ大量の衛星を軌道に投入するとなると、気になるのはデブリの問題だ。同社はその対策として、衛星をまず高度がより低い軌道に投入、そこで機能をテストし、問題が無かった機体のみスラスタを噴射させ、所定の高度まで上げるという方法を採用している。

最初に投入した低い軌道であれば、大気抵抗はさらに大きい。衛星の不具合により、もし制御が全く不可能であったとしても、数年で大気圏に再突入し燃え尽きるため、軌道上に長期間残る心配は無い。もちろん、正常な衛星も、役目を終えるときには高度を下げ、意図的に再突入を早める手段を取る。

低い軌道に打ち上げる方法にはリスクもある。2022年2月3日の打ち上げでは、激しい地磁気嵐によって大気抵抗が最大50%も増加してしまい、その影響を受け、打ち上げた49機中、38機もの衛星を喪失するという事態が発生した。ただ、デブリへの懸念を払拭するためには、やむを得ないコストだと言えるかもしれない。

ところで前述のグラフを見ると、1,750機くらいのところで、一旦落ち着いていることが分かる。ちょうど、このタイミングで衛星が新型のV1.5にバージョンアップされているので、おそらく、軌道上での検証や、大量生産の準備などを行なっていたのだろう。

このV1.5には、衛星間通信のための光レーザーが搭載されている。従来、通信のためには衛星から見える範囲に必ず地上局を置かなければならなかったが、衛星間通信が可能になると、他の衛星を経由できるので、たとえば太平洋のど真ん中とか、極域など、地上局の設置が難しい場所での通信が可能になる。

また、宇宙の真空中なら光は光速で進めるが、有線回線の光ファイバーの中だと、それよりも遅くなる。マスク氏によれば、シドニー・ロンドン間では宇宙を経由した方が最大40%も高速とのことで、距離が遠い場合には、衛星インターネットの方がむしろ速くなる可能性もあるかもしれない。

Starlinkはどうやって使う?

Starlinkは衛星インターネットサービスであるので、原理的には、衛星が飛んでいる場所であればどこでも利用可能だ。ただ実際には、勝手に地上と通信することはできないため、各国での許認可が必要。2022年5月13日の時点で、サービスが提供されているのは、米国など、世界32カ国だ。

Starlinkのサービス提供エリアは、こちらのページで確認できる。明るい水色(Available)は、直ちに利用できるエリア。少し暗い水色(Waitlist)は、サービスが可能なエリアであるものの、キャパシティが一杯のため、予約のみ可能だ。暗い水色(Coming Soon)は、今後提供予定のエリアとなる。ちなみに日本は2022年Q3(第3四半期)予定となっている。

サービス提供エリアのマップ(StarlinkのWebサイトより)

衛星インターネットの強みは、電力さえ確保できれば、どんな僻地であっても利用できるということだ。日本などはほとんどの家庭で光回線を引くことができるが、アフリカなど、広大でインフラが脆弱な地域では、それも難しい。世界的なデジタル・デバイドを解決できる可能性があり、期待したいところだ。

Starlinkを使うには、専用のアンテナキットが必要になる。米国内の場合、その価格は599ドル(送料・税別)。通信サービスの月額料金として、別途110ドル(税別、日本円で約14,210円)が必要だ。日本国内の光回線サービスに比べると、かなり割高であるため、日本で使う必要があるのは限定的なケースになりそうだ。

StarlinkのWebサイトから申し込むと、アンテナキットが届く(StarlinkのWebサイトより)

サービスを申し込むと、アンテナキットが届くので、まずはそれを設置する必要がある。静止衛星であれば、空の1点が見えれば良かったのだが、Starlink衛星は全天で移動するため、周囲に高いビルなどがなく、空が広く見渡せる場所が望ましい。そういう点でも、都市部ではちょっと使いにくいサービスである。

YouTubeで検索すると、届いたアンテナキットを設置して、実際に使ってみたという人の動画を多数見つけることができる。様々な国からの動画がアップされているので、興味がある人はチェックしてみると良いだろう。

実際に設置した人の動画の例