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ちょっと背徳感? リクルート新社屋のレジなしコンビニ「BeeThere Go」を体験

リクルート新社屋のレジなしコンビニ「BeeThere Go」

リクルートは5月19日、東京都千代田区九段下の新社屋内に、富士通が国内での展開を手がけるAIレジレスソリューション「Zippin」を採用する社員向けコンビニエンスストア「BeeThere Go」を開店した。実際に店舗を体験するとともに、店舗やシステムの特徴などの模様を紹介しよう。

ちょっとした背徳感。商品を手に取り退店すると自動的に料金を精算

リクルート新社屋に設置されたBeeThere Goは、こちらの記事で紹介しているように、天井に設置されたカメラや商品棚に設置されているセンサー類と、クラウドのAIを組み合わせることで、利用客の動きや手に取った商品などを判別して自動的に決済を行なうという、レジなしで運営されるコンビニエンスストアだ。

店にはレジが設置されておらず、手に取った商品の代金は専用アプリで自動決済となる

利用客は、あらかじめスマートフォンに専用の「BeeThere Goアプリ」をダウンロードしてメールアドレスや決済に利用するクレジットカード情報を登録する必要がある。今回の体験で、一連の購買行動において最も面倒と感じたのが、このアプリのインストールとクレジットカード情報などの登録作業だ。

とはいえ、その登録作業自体も、はじめにメールアドレスとパスワードを入力して、アプリログイン後にクレジットカード情報を登録するだけと、かなり簡素なもの。住所や電話番号などの入力が伴うオンラインショッピングなどでの会員登録作業に比べると圧倒的に楽だ。また、アプリログイン時には、登録メールアドレスに届く認証番号の入力を必須としているため、安全性も高められている。

なお、アプリへのログイン状態は保持されるため、利用時に毎回認証番号を入力する必要はない。アプリはiOS、Android版が用意されている。

専用アプリ「BeeThere Go」。iOS、Android双方に用意されている
あらかじめメールアドレスやクレジットカード情報を登録して利用する

アプリの登録が完了したら、アプリのホーム画面にある「QRコード」ボタンをタップして入店用のQRコードを表示させ、店舗入り口に設置されている認証ゲートにかざして入店する。

認証ゲートを通って店内に入ると、あとは購入したい商品を手に取って、退店ゲートから外に出るだけでいい。先に触れたように、天井に設置されているカメラと棚に設置されているセンサーによって、入店した人の動きと手にした商品を自動判別しているため、通常のコンビニエンスストアのようなレジでの精算作業は一切不要。

そのため、店内には基本的に店員がおらず、精算用のレジも置かれていない。もちろん、入店に利用したアプリで商品のバーコードを読み取るといった作業も不要なので、入店直後にスマートフォンをポケットにしまっても全く問題ない。

商品購入の一連の流れを実際に体験してみたが、最初はまるで商品を万引きしているかのような気分になり、本当にこのまま退店していいのか戸惑うほどだった。退店後にアプリに届くレシートを見ると、手に取った商品が正しく認識され、精算されていることが確認でき、一度体験すれば、それ以降は気軽に利用できそうだ。

なにより、レジ待ちが一切発生しないため、昼休みなどの混む時間帯でもスムーズな買い物ができると感じた。

専用アプリで入店用のQRコードを表示させ、入店ゲートにかざして入店する
こちらが入店ゲート。オフィスビルの入館ゲートとほぼ同じものと考えていい
入店ゲートのQRコードリーダーに専用アプリのQRコードをかざせばゲートが開き入店できる
入店したら、店内の商品棚に置かれている商品を手に取る
購入する商品を手にしたら、そのまま入店ゲートの横にある退店ゲートから店の外に出ればいい
レジでの精算なく退店するのは、最初はやや戸惑いを感じるが、スピーディで非常に便利に感じる

また、商品を購入する際に、わざと商品を2個同時に取ってみたり、商品を手に取って棚に戻してみたりといった行動を何度か繰り返したが、いずれも正しく手に取った商品が認識され、正しい金額が精算された。

退店してしばらくすると自動的に決済が完了
専用アプリでレシートも表示できる

天井のカメラで人の動きを、商品棚のセンサーで手に取った商品を捕捉

BeeThere Goで採用されているAIレジレスソリューションのZippinは、アメリカのスタートアップであるVcognition Technologiesが開発したものだ。国内では富士通が総代理店として、国内に合わせたカスタマイズや機能拡張、システムの販売を行なっており、2020年2月から実施した実証実験を含めると、今回のリクルート新社屋内のBeeThere Goが3店舗目の導入となる。

BeeThere Goの店舗面積は50m2で、現時点ではコロナ禍ということもあり、商品棚を置いて商品を販売する面積を20m2に絞って運営している。その20m2のエリアに対して、天井に17個のカメラを設置し、入店した利用客の動きや商品を手に取る行動などを捕捉する。

店舗面積は50m2で、現在はコロナ禍のため、そのうちの20m2のみを利用して営業中
天井に設置されているカメラで、利用客の動きや商品を手に取る行動などを捕捉
天井には17台のカメラを設置している

ただ、天井カメラの捕捉だけでは、死角などが発生するために、利用客が手に取った商品を正確に捕捉するのは難しい。そこでZippinでは、商品棚をエリア分けしてエリアごとにセンサーを設置し、1つのエリアに1つの商品のみを陳列するという形を取ることで、カメラでの人物捕捉と合わせ、利用客が手に取った商品を正確に捉えるという仕組みを実現している。

商品棚にもセンサーが取り付けられており、カメラと合わせて利用客が手にした商品の判別を行なう

この方法では、商品陳列の効率という点ではややマイナスとなる面もあるが、エリアごとに商品が決められているため、カメラだけでは判断しづらい場合でも、利用客が手にした商品を正確に把握できるという。また、カメラの映像のみでの商品認識では、新たな商品を登録する場合にその商品の全体の映像を取り込んでおく必要があるが、Zippinでは簡単な画像や重量だけでよく、店側の作業負担も軽減できる。合わせて、手に取った商品が自動的に精算される仕組みのため、理論上万引きが発生しないという点も、店側にとって大きなメリットとなる。

ただし、店員や利用客が間違ったエリアに商品を置いた場合には、正確に精算できない可能性もゼロではないという。そういった場合には、カメラの映像による商品把握も組み合わせて、なるべく正確な商品判断を行なうようにしているそうだ。

商品棚はエリアごとにセンサーを設置するとともに、1つのエリアに1つの決められた商品を陳列するようになっている
1つのエリアに1つの商品のみを陳列するため、効率はややマイナスだが、利用客が手に取った商品を正確に判別できるようになるとともに、商品の登録作業も簡単となる

店舗のシステムとしては、機器のメンテナンスや商品の棚出し、何かトラブルがあった場合を除いて、基本的に無人で運営できるように考えられているという。ただ、現時点ではまだオープンから日が浅いこともあって、バックヤードに人員を最低1名配置している。今後運営状況を見ながら、無人運営の時間を設けていきたいという。

販売商品は、ノンアルコールの飲み物やカップ麺、スナック類のみとなっている。これは、法律上、弁当などの生鮮食料品を取り扱う場合には、管理者が常駐しなければならないといった規制があるためとのことだ。今後規制が緩和されれば、おにぎりなどの生鮮食料品の取り扱いも検討していく。

今回のBeeThere Goで利用されているZippinのシステムは、過去に実証実験などで利用していたものから大きく変わっている部分はほとんどないそうだが、商品認識精度を高めたり、より簡単に商品を登録できるといった管理面での改善は日々進めているとのこと。合わせて、複数の人が一緒に入店する場合にどうするのかといった店舗運営のオペレーションを改善したり、商品の値段をダイナミックに変更する仕組みの導入などについて検討を進めているという。

マイクロマーケットを中心としてシステム導入を進める計画

BeeThere Goでの商品の仕入や棚出しといった実際の店舗運営は、リクルートではなく、各種システム開発や小売事業を展開しているKS LINKが担当している。

リクルートは、2019年12月頃に九段下のビルを入手して新社屋として利用することを決定し、未来の働き方に合わせた新しいソリューションにチャレンジしたいという考えがあったという。

そういったなか、富士通が手がけるZippinとの出会いがあり、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人との接触はもちろん、レジなどの精算機への接触もなく商品を購入できるという点が優れていると考え、導入を決定。その後、富士通とリクルートの間でZippinの仕組みを使った店舗導入の取り組みに賛同したKS LINKが店舗運営に名乗り出たのだという。そういう意味では、富士通とリクルート、KS LINKの3社が協同で運営していると考えていい。

そのうえでリクルートは、あくまでも社員の利便性や職場環境を向上するための取り組みとして今回の店舗導入に至ったとしており、BeeThere Goを利用しているリクルート従業員の評価も高いという。ただ、今後リクルート自身がコンビニエンスストアの運営を行なったり、Zippinのシステムを販売する場合の窓口になるといった考えはないという。

それでも、リクルートの他のオフィスへの展開については否定していない。現時点では、まだコロナ禍が終息していないという点もあるが、そもそもこういった店舗を出店するには、運営企業側にも十分な利益が発生する必要があるため、オフィス内店舗としても、ある程度の規模のある場所でなければ出店が難しく、そのあたりが今後の展開において重要なポイントになるだろうとの見通しを示した。

富士通としては、比較的小規模な商圏、いわゆるマイクロマーケットをターゲットとしてZippinを展開する可能性が高いと考えている。あわせて、誰でも利用できる店舗ではなく、今回のBeeThere Go同様に、ある程度の規模を備えるオフィスビル内などで特定の人のみが利用するといった店舗展開に、かなり大きな可能性を感じているという。

ただ、オープンな場所の店舗への展開も排除はしていないとのこと。そういった店舗では、家族入店や、悪意のある利用者への対応など、閉じた場所での店舗にはない対応が必要になる。その点を今後の課題としつつ、テクノロジーで快適な生活を実現する仕組みを一般の利用客に体験してもらうことには大きな意味があるため、仕組み作りも含めて取り組んで行きたいと説明した。