鈴木淳也のPay Attention

第113回

Amazon Go型無人決済店舗は日米で真逆の商圏を開拓する

太陽鉱油 千葉新港サービスステーションに10月1日オープンした「TTG-SENSE MICRO」の7m2サイズの無人決済店舗

今回は2つの話題を取り扱う。1つは海外での「Amazon Go」最新事情、もう1つは国内のAmazon Goライクな「“無人”決済店舗」の最新事情だ。同じ技術を使っているものの、微妙にその方向性や目指すゴールの異なる両者。同じカテゴリということで話題を集めてみたが、それぞれに異なる最新情報を整理してみたい。

Amazon Goの海外展開とリブランディング

本連載では過去にAmazon Goそれに類する「無人決済店舗」の話題を何度か取り扱ってきたが、もともとAmazon Goの1号店が米ワシントン州シアトルで2018年1月に一般オープンした際に同社が掲げていた目標が「今後10年で全米に2,000店舗展開」というものだった。

詳細は後述するが、「Amazon Go」の看板を冠する店舗は現在全米4都市で一時閉鎖中の店舗も含めて22店舗、米国外としては初となる店舗(正確には「Amazon Fresh」のブランドとなっている)が英ロンドンに5店舗の計27店舗存在している。これ以外に「Amazon Go Grocery」「Amazon Fresh」の名称を冠する店舗がシアトルならびにそこと隣接する米ワシントン州ベルビューに2店舗存在しており、同社がAmazon Goで掲げる「Just Walk Out」技術を採用する店舗は現状で29店舗ということになる。

新型コロナウイルスの影響があったとはいえ、約3年半で30店舗という水準はやや足踏みしているように思えるが、今後技術の外部提供が進んでいくことで、Amazon直営でなくても対応店舗の拡大が可能となる。今後10年を見据えれば3桁単位の店舗拡大は充分に視野に入っている。

米ワシントン州シアトルのAmazon本社ビル1階に位置するAmazon Go 1号店の一般オープン直後の様子
英ロンドンにあるJust Walk Out技術を採用したAmazon Fresh店舗の様子。公式の紹介ビデオより抜粋

前段のように2020年は停滞状態にあったAmazonのリアル店舗計画だが、2021年が近付いたタイミングで大きく動き出している。

その1つは「手のひら認証」技術の「Amazon One」の2020年9月の提供開始で、これまでAmazon Goのモバイルアプリにアカウント登録を行なうことで2次元コードを表示させ、それを入り口に“かざす”ことで本人認証を行なっていたものが、入り口のAmazon Oneに登録済みの“手のひら”を“かざす”だけでゲートの通過と退店後の決済が可能になった。

現状はオンライン登録が行なえないため、いちど現地で登録作業を行なう必要があるが、以後はスマートフォンさえ不要な状態で買い物が可能になり、買い物や決済履歴はあとでモバイルアプリ上からの確認が行なえるようになっている。Amazon Oneは翌2021年4月には一部のWhole Foods Market店舗での利用が可能になっており、(子会社ながら)実質的に外部提供の道筋が見えている。

コロナ禍での非接触に適したソリューションということで話題を呼んだが、今後プライバシーとの狭間でどのように米国内展開が進むかが注目だ。

Whole Foods MarketでのAmazon One(出典:Amazon)

もう1つ、2020年でのAmazon Goに関する注目トピックは、同年2月にシアトルにオープンした「Amazon Go Grocery」の存在だ。従来のAmazon Goは飲料やパッケージ商品などの提供形態に限定されており、いわゆる「野菜などの不定形の生鮮食品」を扱ってこなかった。

日本の営業形態でいえば、Amazon Goは「コンビニ」に該当し、食品全般を扱う「Grocery Store(食料品店)」ではない。つまり、スーパーマーケットのような比較的大きなスペースでさまざまな種類の膨大な点数の食品を販売するわけではなかった。「Amazon Go Grocery」は比較的大規模な店舗スペースで「Just Walk Out」技術を用いた「Grocery Store」を展開することを目標にしており、Amazon Goというよりも「Just Walk Out」の利用範囲を大幅に拡大するものとなる。

ただ、タイミングの問題なのかAmazon Go Groceryの拡大は最大2店舗までとなっており、最初の店舗がオープンした直後に米国の各都市がロックダウンに突入した不幸も合わせ、いろいろ模索が続いていたと思われる。

こうした状況もあるのか、2店舗目にあたる米ワシントン州レドモンドの店舗は閉鎖となり、従業員も含めて設備は新たにベルビューに設置された「Amazon Fresh」へと移管され、同時にJust Walk Out技術を採用した食料品店は「Amazon Fresh」の名称で統一されることが発表されている。既存のAmazon Go Grocery店舗も近いタイミングでAmazon Freshにリブランディングされるとみられる。

Amazon Freshでのショッピング(出典:Amazon)
現在Amazonで展開されているリアル店舗のブランド群

1点、Amazonに関しての大きなトピックは、このストア戦略のリブランディングと“境界”の整理だ。5月に米国で大きな話題となっていたが、Amazonが「Prime Now」のアプリとWebサービスを終了し、アプリの機能はAmazonのメインアプリに、最低金額35ドルで2時間での無料の食品配達が可能なサービスはAmazon FreshまたはWhole Foodsで提供される類似サービスを利用するよう促されている。

Prime NowはAmazon Primeの会員特典としてアピールされていた面が強いが、コロナ禍においてデリバリーサービスの比重が増えたことで採算性やキャパシティの面で維持が難しくなったことが理由とみられる。同時に食品関連サービスのAmazon Freshへの統一と、子会社であるWhole Foodsの活用という形でブランドの整理が進められており、前述のJust Walk Out技術を使ったAmazon Freshの拡大はその一環だろう。

ブランドやアプリの整理、技術移管も同時に進んでおり、例えばAmazon Goは専用アプリが実質的に廃止され、現在はAmazonのメインアプリ上から2次元コードを表示する形式へと誘導が進んでいるほか、9月には2022年にもWhole Foodsの2店舗でJust Walk Out技術を採用する計画が発表されている。おそらくは、都市型店舗としてのAmazon Goを展開しつつ、郊外向けにはAmazon FreshやWhole Foods MarketのブランドでJust Walk Outを広域展開していく計画なのだろう。

もっとも、Whole Foods店舗数が全米で500程度で、すべての店舗に同技術を展開できるわけでもない。Amazon Freshのリアル店舗展開も限界があり、すべての計画が順調にいったとして1,000店舗到達が可能かどうかと予測する。おそらくはJust Walk Outの外部提供が広く行なわれない限り、同技術を採用した店舗の拡大は限界があると考えるが、米国ではAmazonに対する既存の小売の警戒心も強く、パートナーを見つけるのもそれほど用意ではないだろう。

採算性の面と合わせ、事業拡大のためのスイートスポットを見つけられるかがAmazon Go、ひいてはJust Walk Out技術の今後の展開の鍵となる。

マイクロマーケットが切り開く日本の市場

Amazon Go“的”な無人決済店舗の仕組みは、同社が最初のサービスを社内向けに展開した2017年以降に開発が盛んになり、2018年から2019年にかけては「コンピュータビジョン」と呼ばれる画像認識技術を持つ企業を中心にさまざまなサービスが発表された。中国のCloudPickなどごく一部の企業を除けば商用展開に成功しているケースは限られているが、その理由の1つは前述の「スイートスポット」の“はまりにくさ”にある。

商用展開にあたってパートナー契約が結ばれても、実際にサービスインするかは別の話だ。仮に導入コストが安価であっても、実際の小売店舗のニーズにマッチしなければならない。Amazon Goは設備がコスト高と世間一般で言われていても、パートナーの有無にかかわらず自社や子会社の枠の中でサービスを広げられる。

こうしたなかで、日本国内におけるサービス展開のスイートスポットを見つけつつあるのがJR東日本スタートアップの事業として始まったTOUCH TO GO(TTG)だ。

ファミマとTTGの提携第1弾となる東京駅隣接の「ファミマ!!サピアタワー/S店」

高輪ゲートウェイ駅のオープンに合わせて無人決済店舗を開店したのを皮切りに、ファミリーマートとの提携ですでに無人決済可能なファミマ3店舗(西武鉄道系列のトモニー含む)に加え、紀ノ國屋との提携で「KINOKUNIYA Sutto目白駅店」などをオープンしている。

最大のポイントは「省人化」で、従来のコンビニ業態では常時最低でも2-3人の人員配置が必要な店舗でも、TTGであれば最低1人がバックヤードに待機していれば店舗運営可能な点にある。コンビニ業界では毎回人手不足が話題となり、特に深夜時間帯のアルバイトが集まらずに24時間営業が厳しくなっている状況がある。各社ともにさまざまな方策を探っているものの決定打がない状態だ。TTGは月額課金のサブスクリプションモデルでサービスを提供しており、通常のコンビニ業態では人件費の問題で採算ラインに乗らない店舗であっても、一定以上の売上があれば店舗を維持できる点に特徴がある。

羽田空港第2ターミナルにオープンしたお土産販売中心のTTG店舗「ANA FESTA GO」
ファミリーマートが西武鉄道と共同で店舗運営を行う「トモニー中井店」。ファミマTTGとしては2店舗目
トモニー中井店では既存の施設を流用した関係で天井が低くカメラ台数が通常より多い。また面積の関係で商品点数は従来よりも減少しているが、採算ライン自体が下がっているので問題ないという

例えばTTGを導入した「トモニー中井店」では、商品点数が従来の営業スタイルより減少したものの、人件費が圧縮できたことで採算ラインが下がったという。売上の推移も含めて今後の検証が必要だが、駅の売店を兼ねた小規模な店舗が無人決済システムでどこまで運営できるかのテストケースとなっている。

同様に、従来まではガソリンスタンドの休憩コーナーにTTGが開発した小型の「TTG-SENSE MICRO」を導入してコンビニのサービスを開始した太陽鉱油 千葉新港サービスステーションでは、月額あたりの採算ラインが従来のTTGの半分近い水準に下がっている。コンビニを誘致するには出店条件が折り合わず、もともと単純に自販機を置いていたような場所のため、コンビニではなくても朝1回搬入という最低限の労力でプラスアルファの売上が期待できるというわけだ。

太陽鉱油 千葉新港サービスステーションにオープンした「TTG-SENSE MICRO」の外観。もともとは自販機が設置されたスペースで、周囲の工場や倉庫を往復するトラック運転手が休憩に利用していたという

GSにこそ無人店舗。飲食ニーズに応えるTTGの極小地システム

出店可能な土地はあらかた開拓され、前述の人手不足やコロナ禍における人の移動の変化により、拡大という面で厳しい曲面に立たされるコンビニ業界だが、その活路を省力化店舗の運営に見出しつつある。

ファミマとTTGの提携が典型で、同社は2024年度内にも1,000店舗展開を目指す。採算ラインが下がったことによりコンビニが進出可能な領域がさらに広がるため、今後は施設内や集合住宅向けの店舗も含め、これまで見かけるようなことがなかった土地にもコンビニが増えていくことだろう。

また、TTG-SENSE MICROにみられるように、あらかじめボックス型で店舗のフォーマットを決めてしまい、インストールに関するコストや時間を大幅に削減する試みもある。TTGは出店ごとに店舗設営や運営のノウハウが蓄積されていくため、今後はさらに出店が加速することも期待される。

一方で、TTG-SENSE MICROが狙うマイクロマーケットの障害となるのが食品衛生法の問題だ。現状、コンビニの主力商品であるおにぎりや弁当などの食品だが、販売に際して最低でも1人の人員を配置することが義務付けられていたことで、コンビニの無人運営における障害となっていた。ガソリンスタンドという性格上必ず営業時間中に人員がいる太陽鉱油 千葉新港サービスステーションのようなケースを除き、特にマイクロマーケット型の店舗は利用頻度も商品点数も少なく、人員を置く前提では採算が取れないことの方が多い。

令和3年度の法改正で6月以降に基準が緩和されたことを受け、基準を満たせば無人での弁当等の販売が可能になった。このように規制緩和と合わせ、日本国内ではマイクロマーケットを含む小売商圏の拡大がAmazon Go型店舗の拡大に寄与する現状がある。

もう1点、海外におけるAmazon Goと日本のTTGの違いを挙げるとすれば、前者がAmazonアカウント利用を前提としたID認証で入退店や決済の管理が行なわれているのに対し、後者は入店における制限は特にない「誰でもウェルカム」状態で、現金を含む複数の豊富な決済手段が用意されている点に特徴がある。

Amazon Goが会員向けサービスの延長というスタンスなのに対し、あらかじめ複数の決済手段を用意して客を受け入れるというのは、ある意味で日本らしい。

前者では常連客以外を呼び込みにくいという事情もある。日本で後者の例を採用したのは、富士通が米Zippinとの提携で導入した技術を用いた「Be There Go」の店舗だが、これはリクルートの九段下オフィス内部に設置されたビル内店舗であり、あらかじめアプリのインストールやアカウント登録を行なうスタイルであっても問題ないという理由による。現金が使えない問題もあるが、リクルート社内のスタッフであれば現金を使えなくてもそれほど利用に支障はないと思われ、このあたりも現金決済比率が7割近いコンビニ業態との違いとなる。このように地域それぞれの事情を反映する形で、無人決済店舗の仕組みは世界で徐々に広がりつつある。

リクルートの九段下オフィス内部に設置されたBe There Goの店舗。こちらはZippinと提携した富士通が技術を提供している

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)