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「困難こそ発展の好機」 くらしアップデートに挑むパナソニックの技術戦略

パナソニック 専務執行役員 宮部義幸氏

パナソニックは15日、同社が進める「くらしアップデート」につながる技術開発や新事業創出の技術戦略について技術説明会を開催し、パナソニック 専務執行役員(CTO、CMO)の宮部義幸氏が同社の技術ビジョンについて説明した。これまでの取り組みの概略のほか、新型コロナウイルス禍を踏まえ、この困難を大きな変革のチャンスとして捉えたいと述べた。

くらしと社会をアップデート。「Society5.0」へ

いま世界は「Society5.0 超スマート社会」に向けて急激な変化をしている。宮部氏は、「Society4.0(情報社会)」と「Society3.0(工業社会)」、すなわちサイバーとフィジカルが融合した社会が「Society5.0」だと述べた。

工業社会から情報社会、そして超スマート社会へ

パナソニックは「モビリティ」「ホーム」「ビジネス」の3領域で、「くらしアップデート」に取り組んでいる。ベース技術にはキーデバイスやエネルギー、センシング、AI、ロボティクスがあり、それらをネットワーク技術で繋ぎ合わせている。

モビリティには障害物検知や配車システムなどの自動運転・ソリューション、エネルギー最適化の2軸がある。次世代パワーデバイスなども開発の対象だ。ホーム分野では、暮らしに関する技術、くらし起点でのデータ分析などに加え、一般生活のなかで接する店舗や交通機関などで一般生活者が相対するものも全てふくめて、認証技術等に取り組んでいる。ビジネス分野ではAIやセンサーネットワーク、ロボットを活用した、次世代店舗や施設、工場・物流の効率化に取り組んでいる。

「モビリティ」「ホーム」「ビジネス」の3領域でくらしをアップデート

「困難こそ発展の好機」、当たり前を変えるチャンス

宮部氏は、いまのパンデミックの状況を踏まえ「戦略が大きく様変わりしている」と述べた。そして創業者・松下幸之助氏の「困難こそ発展の好機」という言葉を紹介した。「かつてない難局」こそが「かつてない発展の基礎」となるものだと考えることもできるのだという。

創業者・松下幸之助氏「困難こそ発展の好機」

いまは「当たり前」だったものを変えるチャンスともなっている。バーチャルで可能なものは急激にバーチャルになり、フェイストゥフェイスはオンライン化が進んだ。テレワークも急激に進んだ。パナソニックでも職種によっては10%くらいしか出社していなくても業務が回ることを実感できたと述べた。

これによって在宅時にやるべきことも変わった。

家でも仕事をしたり、子供たちが教育を受けたり、在宅医療を受ける世の中になる可能性がある。パナソニックがいう「ホーム分野」においてもあらゆる変化がおき、それらが成長のチャンスとなる可能性があり、様々な議論が加速しているという。「在宅勤務の課題については、今後明らかになるだろう」とし、既存技術の課題にいち早く気づいて製品で課題を解決しなければならないと考えていると語った。

当たり前を変えるチャンス

AI、IoTを活用した具体的なサービス

それらに関係している変化として、AI内蔵カメラの「Viewreka」プラットフォーム、スマートエイジングケアの「ライフレンズ」、「デジタルケアマネジメント」、歩行訓練ロボットなどを紹介した。

「Viewreka」は店舗内の混雑度や人流などを自動検知できるAIカメラ。「ライフレンズ」はその「Viewreka」などを活用することで介護施設での夜間巡視を減らし見守りが可能なソリューションとしてサービスを開始したソリューション。「歩行訓練ロボット」は、足腰の調子が悪くなった結果どんどん歩かなくなり健康寿命が短くなることを防ぐための機器で名古屋大学と共同研究開発を進めている。間もなく商品化の予定だ。

新しい生活様式に対応するための技術開発

これらを支える基盤テクノロジーとして、IoT機器をクラウドサーバにつなげる「パナソニックデジタルプラットフォーム」によるデータ集約、既存の電力線を使ってデータを送ることができる「IoT PLC(以前の名称はHD-PLC)」、そして工場やスマートホームの安全を守る「IoTサイバーセキュリティシステム」を挙げた。

基盤技術

環境への取り組み

パナソニック環境ビジョン2050

また、持続可能な社会とより良いくらしを両立するための取り組みとして「パナソニック環境ビジョン2050」を紹介した。製造販売のために使うエネルギーの削減だけではなく、製品が使われるときの社会全体のエネルギー削減と、エネルギーの創出・活用を進める。具体的には電力消費量の少ない照明の活用や、クリーンエネルギーの活用、省電力デバイスの開発、制御技術の開発を進める。また自然エネルギーには、むらがあるため、積極的に蓄電池を活用する。

宮部氏は「パナソニックは創業者以来、世の中と共存共栄し、役立つ会社でなければならないという理念をもっているが、SDGs(持続可能な開発目標)の考え方のもと、改めて再点検していこうとしている」と述べた。

SDGsのもと環境戦略を推進

ハードウェアがサービスとともに進化できるように

3つの力を重視して研究開発に注力

最後に宮部氏は、新しい事業を創るために「強い差別化技術を生み出す力」「ビジネスモデルを変革し、新事業を創る力」「クロスバリューイノベーション力」の3つの力を身につけることが非常に重要だと考えて研究開発体制も再編して取り組んでいると述べた。

ハードウェアについても、今後はソフトウェアを基軸とする新たなハードウェアが必要だろうと考えており、開発を進めているという。スマートフォンのように、ハードウェア製品がサービスとともに進化できるように変えていく。パナソニックでは今までは基本的に、全ての価値をハードウェアに変換していたが、今後はサービス事業に本格的に取り組むために経営管理にも大きく踏み込む。

元Googleの松岡陽子氏の部隊を本社直轄として別動にしたのも「今までのハードウェアビジネスと同じ経営管理指標ではサービス事業はうまくいかない」と考えたためだという。ただし、最終的に立ち上がって来たなかでサービスとハードウェアをどう絡めるかは無関係ではないと述べた。