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「ほぼ現金と同じ」が強み。みずほのスマホ決済「J-Coin Pay」の狙い

みずほ銀行は20日、QRコードを用いた決済サービス「J-Coin Pay(ジェイコインペイ)」を発表した。地方銀行など約60の金融機関と協働し、3月より提供を開始する。加盟店開拓は今後進めていくが、ビックカメラ、ファミリーマート、ダイソー(大創産業)、すかいらーくホールディングス、東京急行電鉄など22社が導入を検討中。また地方銀行の営業基盤を活かし、中小の店舗にも導入を促していく。

(左から)みずほフィナンシャルグループ執行役社長 グループCEOの坂井辰史氏、同専務執行役員 CDIOの山田大介氏

預金口座を紐付けてチャージ&決済~ユーザー間送金や口座戻しも無料

みずほフィナンシャルグループでは、J-Coin Payを「銀行系デジタル通貨のプラットフォーム」と説明。送る・送ってもらう・支払うといった、お金に関するさまざまな行為がスマホ上のアプリで完結するとしている。

J-Coin Payの概要

J-Coin Payの利用にあたっては、銀行の預金口座を紐付ける必要がある。この際、J-Coin Payサービスに参画する金融機関の預金口座を登録できるが、サービス立ち上げ時点では、みずほ銀行を含む以下の約60行が対応を予定している。ただし、具体的な時期については銀行によって前後する可能性がある。また、連携する金融機関については、信用金庫なども含めて今後も増やしていく計画。

連携予定の金融機関

【北海道】

北海道銀行、北洋銀行

【東北】

青森銀行、みちのく銀行、秋田銀行、北都銀行、荘内銀行、山形銀行、七十七銀行、東邦銀行、北日本銀行、福島銀行

【関東】

群馬銀行、足利銀行、常陽銀行、筑波銀行、千葉興業銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、東和銀行、栃木銀行、みずほ信託銀行、みずほ銀行

【中部】

第四銀行、北陸銀行、富山銀行、大垣共立銀行、十六銀行、三重銀行、大光銀行、長野銀行、富山第一銀行、名古屋銀行、第三銀行

【近畿】

滋賀銀行、京都銀行、池田泉州銀行、但馬銀行

【中国】

鳥取銀行、山陰合同銀行、中国銀行、広島銀行、山口銀行、トマト銀行、もみじ銀行

【四国】

阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行、愛媛銀行、高知銀行

【九州沖縄】

筑邦銀行、佐賀銀行、肥後銀行、宮崎銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行

参画予定の銀行一覧

J-Coin Payで支払いや送金を行なうには、預金口座からまずチャージする。チャージは24時間365日、1円単位で行なえる。チャージ分については、他のJ-Coin Payユーザーへ手数料無料で送金できる。

加えて、J-Coin Payではいったんチャージした金額を預金口座へ手数料無料で戻せる。競合サービスの多くは、そもそもチャージ分を現金化できなかったり、現金化できたとしても数パーセント程度の手数料がかかってしまっていた。

主要機能

J-Coin Pay用のiOS/Androidアプリは3月1日より配信される。同日からはみずほ銀行の預金口座を登録する手続きも開始する。この日からはユーザー間送金など一部機能は利用できるが、店頭決済などは加盟店側の対応なども必要となるため、時期がずれる見込み。なお、みずほ銀行以外の金融機関の預金口座登録は3月25日以降順次拡大させていく。

店頭での決済については、高額・高性能な専用端末を用いることなく、一般的なタブレットが使えるため、店舗側の導入ハードルが低いという。また、加盟店の開拓に銀行の営業網を活用できるため、大規模なチェーン店以外に、中小規模の店舗にも広げていく意向だ。

送金のデモンストレーション画面。SMSやLINEでも相手先を指定できる
一度チャージしたり、あるいは送金されてきた分を預金口座に戻せるが、この際に手数料がかからない

坂井社長が語る「みずほ流キャッシュレス」の狙い

2月20日に開催されたサービス発表説明会には株式会社みずほフィナンシャルグループの執行役社長 グループCEOである坂井辰史氏、同専務執行役員 CDIOの山田大介氏が列席した。

まず坂井氏は、日本が諸外国と比べてキャッシュレス決済比率が非常に低い点に改めて言及。この背景には、店舗側にとっては専用端末や手数料が高く、消費者側も小口現金決済に慣れていたり、使いすぎが心配といった声が多いとされる。

坂井氏

とはいえ、キャッシュレスへの期待は近年高まっている。例えば、店頭レジにおける現金の処理は、人手不足に悩む企業にとって、すでに大きな負担となっている。また、インバウンド需要を取り込むには、中国で普及しているAlipayなどQRコード決済への対応が急務だ。

そして2018年10月の消費税増税に際しては、キャッシュレス決済時にポイントなどを還元する制度が今まさに政府レベルで議論されている。坂井氏は、J-Coin Payでこの増税対策の適用を受けられるとしつつ、さらには日本を取り巻くさまざまな課題の解決に寄与できるとアピールする。

J-Coin Payの狙い

一方、金融業界そのものも大きな変革期を迎えている。「決済の領域では、金融以外の他業種からの参入が相次いでいる。今や決済は、金融機関だけがサービスを提供するという常識が崩れた。銀行の“土管化”、銀行の存在意義低下という声も聞かれる」と、坂井氏は危機感を示す。

「銀行の土管化」を、新サービスで払拭へ

みずほフィナンシャルグループとしてはJ-Coin Payにより、顧客に対して預金口座だけでなく、決済サービスも併せて提供することで業務領域の拡大を狙う。そして顧客との関係を深めていく中で、膨大な量の顧客行動などを分析してさらなる業務改善に役立てようという、いわゆる「データビジネス」への将来的発展にも、坂井氏は期待する姿勢を見せた。

J-Coin Payは、さまざまな金融機関との連携を視野にいれた「プラットフォーム」としての側面もある。坂井氏も「オープンな協業を積極化する」と述べており、企業グループの垣根を越えた協調の可能性などについて、否定しなかった。

オープンな形での協業を目指す

銀行の信頼感で加盟店開拓

山田氏からはJ-Coin Payの詳細が解説された。まず、ロゴのカラーリングは桜色だが、これはみずほフィナンシャルグループのコーポレートカラーとなっている青色(コズミックブルー)とは違っている。山田氏は「赤(三菱UFJ銀行のイメージカラー)は使えないし、緑(同じく三井住友銀行)も使えない」と述べ、会場に集まった関係者を笑わせたが、その上で「青でないことに意味がある」と説明。それはなぜか? 「みずほのプロダクツを地域の金融機関に提供するのではない。新しいプラットフォームを作って、そこへ集まっていこうという発想。だからこそ新しい色が必要だった」(山田氏)

山田氏

J-Coin Payに参画する地方金融機関は、北海道から九州までほぼ全国に点在する。四国の銀行に口座を持っている預金者がJ-Coin Payにチャージし、東北の加盟店で決済するといった、地域依存の少ない形でサービスを利用できるのもポイントだ。

アプリのUIについては、福島市・北九州市での実証実験の結果などをもとに、シンプルかつわかりやすさを重視した。また機能面では、送金がほぼリアルタイムで完了し、J-Coin Payへのチャージ分を手数料無料で預金口座に戻せる点に言及。「例えば経費精算をJ-Coin Payで受け取っても、預金口座に戻せば、普段の生活費として使える。ほぼ現金と同じ」だと山田氏は語り、他社サービスにはない使い勝手に自信をのぞかせた。

サービスの全体像

加盟店が支払う決済手数料は明らかにされたなかったが、山田氏は「クレジットカードよりも低くする」と明言した。これは、バックエンド側のシステム開発において、既製のパッケージ製品をカスタマイズして活用するなど、徹底して予算を抑えた成果だ。

もう1つJ-Coin Payの武器となりそうなのが、加盟店開拓にあたって、地域の金融機関の顧客基盤を活かせる点。多くの企業にとって、銀行は信頼すべき存在であり、融資や振り込み業務を通じて日常的につきあいがある。顔なじみの銀行セールス員が日参する中でJ-Coin Payを売り込めるのは、新興の決済ベンチャーなどと比べて有利な部分だろう。

加盟店開拓での強みとは

なお、加盟店は、中小企業はもちろん、すでになんらかのQRコード決済を導入しているような大手チェーンなどにも広がる見通し。説明会の時点では22社が「導入を検討中」としているが、これは山田氏によると、J-Coin Payのローンチが最終確定した2月上旬から声をかけはじめ、その後わずか数週間で集まった数とのこと。ここでも、銀行がこれまでに築いてきたリレーションが活かされた格好だ。

J-Coin Payの導入を検討中の企業

インバウンド対応の観点からは、海外の決済業者との提携を進める。第1弾として、4月下旬からは中国のUnionPay(銀聯)およびAlipayとの連携を開始する。ただ、海外決済業者とのシステム連携については個人情報管理の面で懸念する声も多いため、J-Coin Pay利用者とその他海外QRコード決済利用者を明確に分離するなど、十分なセキュリティ施策を行なっているとした。

海外の決済事業者とも連携
個人情報の適切な管理のため、システム面での対応も進める

J-Coin Payでは、消費税増税と東京オリンピックを重要目標に据えつつ、機能強化や加盟店拡大施策を進めていく計画。「J-Coin Payが拡大していけるか、その試金石が今年の10月、そして来年7月。サービスとしてはとば口に立ったばかりで、決済サービスは百花繚乱だが、その中でもJ-Coin Payには勝算があると思う。頑張って広めていきたい」(山田氏)

なお、利用額に応じてポイントなどを還元する施策についても実施する予定。ただし時期や内容については、明らかにされなかった。

今後のロードマップ