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ことでん、「デジタル券売機」を使ってみた 無人駅の券売機は撤廃へ
2026年9月3日 08:20
ことでん(高松琴平電気鉄道)は、9月1日よりQRコードを利用した乗車券販売システム「デジタル券売機」の運用を開始した。
レシップのWebアプリ型モバイルチケットシステム「QUICK TRIP Ticket」を活用し、スマートフォンから通常の乗車券を購入できるというもの。しかも、無人駅等に設置している物理券売機は今後撤去される。物理券売機撤去を前提としたWebチケットシステムへの移行はこれが全国初(ことでん、レシップ調べ)と、非常に興味深い取り組みということで、なぜこういったシステムの導入に至ったのか経緯を聞いてきた。
コスト削減と人手不足対策、インバウンド対応
ことでんは、2025年にオープンした香川県立アリーナでのイベント開催や3年ごとに開催されている瀬戸内国際芸術祭などの影響もあり、ここ数年は輸送人員、運輸収入ともに順調に伸びており、2026年3月期決算も黒字を確保している。
そういった中、人件費増加や物価高の影響から経常利益は減少傾向で、今後はその影響が拡大すると考えられる。合わせて人手不足も大きな問題となっており、こういった問題への対策が急務になっていたという。
また、近年香川県はインバウンド観光客が増加しており、インバウンドへの対応も急務となっている。
さらに、駅に設置している券売機の更新時期と、新500円硬貨や新紙幣の発行なども重なった。とはいえインバウンドを想定した多言語対応の券売機は価格が1台につき1,000万円ほどと高額になるため、券売機更新のコスト負担も大きな問題となっていた。
実は今回、いくつかの駅を巡ってみたが、高松築港駅や瓦町駅などの主要駅では新500円硬貨や新紙幣対応の多言語対応券売機が設置されていたものの、無人駅などに設置の券売機は多くが新500円硬貨や新紙幣に未対応のままとなっていた。
中には、故障した券売機が改修されずに設置されている駅もあった。おそらく、今回のデジタル券売機の導入が決まった段階で、多くの駅で券売機を改修しないと決めたため、そういった対応になっていたものと思われる。
そもそもことでんでは、オリジナルICカード「IruCa」を導入し全駅に設置するとともに、国内主要交通系ICカード10種類、いわゆる「10カード」の片方向乗り入れが完了しており、乗客の交通系ICカード利用率は約9割に達している。残りの約1割は通常の紙のきっぷの乗客だけでなく企画きっぷの乗客も含んでいるため、通常の紙のきっぷは1割に満たない利用率でしかない。
このように低い利用率の紙きっぷのために、多大なコストをかけて券売機を導入、更新するのは大きな負担となる。また、券売機は定期的なメンテナンスが必要で、設置以降も人件費や維持費が必要となる。
こういった様々な要因が重なったことで、コストを削減しつつ問題に対応できる手段として考えられたのが、デジタル券売機の導入だったわけだ。
ことでんでは、以前から企画きっぷをレシップのQUICK TRIP Ticketを活用し「ことでんデジタルきっぷ」として販売している。そういった中、ことでんから「QUICK TRIP Ticketの仕組みを利用して通常のきっぷ販売が行なえないか」とレシップに問い合わせたところ、「実現可能」との連絡があったことで実現に向けた取り組みがスタートし、「デジタル券売機」が実現されたそうだ。
インバウンド利用を想定しWeb方式を採用
デジタル券売機では、駅に掲出されているQRコードをスマートフォンで読み取ると、Webブラウザでデジタルきっぷ購入Webページが開き、そこから金額を指定してきっぷを購入する。WebブラウザでWebページにアクセスして購入するため専用アプリのインストールは不要だ。
駅掲出のQRコードは各駅固有で、読み取るとその駅出発のきっぷ購入メニューが表示されるので、目的の駅までの運賃を選択して購入する。大人用、子供用のどちらのきっぷも購入でき、1度に複数枚の同時購入も可能だ。
決済手段は、購入Webページにクレジットカード情報を登録して利用するか、Apple PayおよびGoogle Pay経由での決済と、PayPayが利用できる。Webページでクレジットカード情報の入力が面倒という場合には、あらかじめApple PayやGoogle Payに登録しておくといいだろう。
ただし、きっぷを購入するには、メールアドレスやApple/Googleなどのソーシャルアカウントを利用した会員登録が必要となる。これは物理券売機にはない少々手間のかかる部分だが、ソーシャルアカウントを活用すればそこまで大きな手間はかからない。なお、会員登録すると最終利用時点から90日間会員情報が保存され、継続利用が可能となる。
ところで、デジタル券売機では、基本的には駅に到着し掲出されているQRコードを読み取らないときっぷ購入Webページにアクセスできない仕様を採用している。企画きっぷのことでんデジタルきっぷは、ことでんホームページから購入Webページにアクセスでき、駅以外の場所からも事前に購入できるのとは対照的だ。これは、なるべく通常のきっぷと同じ扱いにすることや、きっぷの誤購入を防ぐためとのこと。通常のきっぷも駅の券売機でしか購入できないことから、まさに”デジタル券売機”という名称にふさわしい仕様と言える。
また、きっぷ購入用のWebページは、日本語以外に英語や中国語(繁体字および簡体字)など6言語7表記に対応。言語切替はWebページからも行なえるが、基本的にはスマートフォンの言語設定に合わせて自動切り替えとなるそうだ。こういった部分は、特にインバウンド観光客の利用を想定し、多言語対応も含めてなるべく手間なく利用できるように設計したとのことだ。
ところで、インバウンド対応を重視するとなると、関西や関東の私鉄などで導入が進んでいるクレジットカードのタッチ決済への対応も効果がありそうだ。ことでんグループでも、ことでんバスが運行している高松空港リムジンバスでは、すでにクレジットカードのタッチ決済に対応している。
しかし、ことでんでは通常のきっぷや企画きっぷの利用率が1割ほどでしかない。最近はインバウンド観光客も交通系ICカードの利用が増えていることもあり、その1割ほどのきっぷ利用者の中でインバウンド観光客が占める割合はそこまで多くないと思われる。
そして、クレジットカードのタッチ決済に対応するとなると、全駅に専用リーダーを設置する必要があり、ハードウェア導入や将来の改修、メンテナンスコストも考えると、やはり大きなコスト負担となる。そのため、わずかなインバウンド観光客に対応するためにクレジットカードのタッチ決済を導入するのは対費用効果が合わないと判断し、導入を見送ったそうだ。
実際の利用はスムーズ
デジタル券売機の運用が開始された9月1日にさっそく利用してみた。
駅に行くと、券売機近くにデジタル券売機のQRコードを記載したポスターが掲示されていた。そのQRコードをスマートフォンで読み取ると、きっぷ購入用Webページが表示され、その駅からの購入メニューが表示された。
メニュー表示されるのは運賃ごとのボタンのみで、駅名を指定した購入はできない。また駅を指定して運賃を調べるメニューも見あたらないため、基本的には駅の運賃表を見ながら目的の駅までの運賃を確認する必要がありそうだ。このあたりはまさしく券売機といった印象だが、せっかくのデジタルなのだから、駅名指定や運賃検索メニューなどが用意されていてもいいように感じる。
目的の金額のボタンをタップすると、大人と子供の購入人数を設定するメニューに切り替わる。標準では大人1人が設定されているので、目的の人数を設定。
人数設定後、初利用時にはページ下部に「ログインして購入する」というボタンが表示されるので、そのボタンをタップして会員登録を行なう。会員登録は、特定のメールアドレスを登録するか、ソーシャルアカウントを選択する。今回はGoogleアカウントを選択したところ、本人認証を経て簡単に登録できた。
すでに会員登録が完了している場合は、登録したメールアドレスやソーシャルアカウントでログインすることになる。
会員登録が完了しログインすると、決済に進める。決済はクレジットカード、Apple Pay、Google Pay、PayPayに対応。Googleウォレットを選択すると、Googleウォレットに切り替わり使用したい決済手段を選択して決済が行なわれる。今回は登録済みのクレジットカードを選択し問題なく決済できた。また、帰路ではPayPayを利用してみたが、PayPayアプリに自動的に切り替わり決済できた。
購入が完了すると、画面に「今すぐ使う」というボタンがあるので、改札通過前または乗車前にボタンをタップ。するときっぷが使用開始状態となり、画面下に時刻を秒数まで表示するとともに、画面の一部がアニメーションで動き、きっぷ画面をタップするごとに背景が白と黒に入れ替わるようになる。
あとは、駅係員に画面を見せながら改札を通過するか、無人駅の場合は電車の乗務員に画面を見せて乗車、下車時には同様に電車の乗務員に画面を見せるか駅の係員に画面を見せて改札を通過すればいい。下車し改札を通過したらきっぷ画面の「使用終了」ボタンをタップすると、そのきっぷの利用が完了となる。
実際にデジタル券売機を使ってみて、初回利用時には会員登録が必要なため、その作業に多少時間がかかるものの、全体的には購入から乗車、下車まで、まずまずスムーズに利用できた。スマートフォンを使った操作に慣れていないと少々戸惑う場面があるかもしれないが、Webページはなるべく簡単に操作できるように考慮されており、多くの人は比較的簡単に使いこなせるだろう。
ただ、インバウンド観光客への対応を考慮しているにもかかわらず、駅掲出のQRコードには日本語の案内表記しかなく、その他にもデジタル券売機に関する外国語での案内が見あたらなかった。このままではインバウンド観光客がデジタル券売機の存在に気が付かない可能性が高く、改善の余地がありそうだ。
無人駅の券売機は9月30日を最後に撤去予定
9月1日よりデジタル券売機の運用が開始されたことで、駅設置の券売機は今後順次撤去されることになる。
ただし、全駅の券売機が撤去されることはないとのこと。高松築港駅や瓦町駅、琴電琴平駅など主要17駅では今後も券売機の設置を継続するという。
それに対し残りの駅の券売機は、9月30日までは利用可能だが、10月1日で稼働が終了し撤去されることになるそうだ。
ここで気になるのが、スマートフォンを持っていなかったり、スマートフォンの利用が難しい人への対応だが、そういった場合には現金での精算で対応するとのこと。琴平線では乗務している車掌に乗車駅と下車駅を伝えて現金で精算する。またワンマン運転が行なわれている志度線と長尾線では、運転士に伝えて精算するか、駅設置のきっぷ入れに現金を投入してもらうことになるという。こういった対応は以前からすでに行なっているそうなので、おそらく券売機が撤去されたとしても大きな混乱はないと言っていいだろう。
また、こういったデジタルきっぷでは不正利用の懸念もあるが、駅掲出のQRコードは定期的に更新するとともに、車内でスポット的に検札するなどして対応するとのことだ。
ことでんのように、国内の地方鉄道は券売機の運用やコストなど同様の悩みを抱えているところが多いと思う。今回のことでんの取り組みが成功し、さらに洗練されていけば、地方鉄道のコスト削減やQR・デジタル活用のいいお手本となるはずで、今後の推移に注目したい。


































