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SpaceX、100万機のAI衛星「スターマインド」計画は実現するか?

Credit: SpaceX

2026年8月4日、SpaceXは軌道上AIデータセンター衛星の構想を「Starmind(スターマインド)」と名付け、第1世代衛星「AI1」にNVIDIAのRubin GPUとVera CPUを採用すると発表しました。AIの普及で地上のデータセンターが電力と冷却の制約に直面するなか、SpaceXが描くのは、天候に左右されない軌道上で太陽光を得て、真空へ熱を捨てながらAI計算を行なう、最大100万機規模の衛星群です。

6月の株式公開時から設計は一段と大型化し、打上げを担うスターシップも試験を重ねています。試験機の打上げは早ければ2027年。本記事では、アップデートされた衛星の設計と実現に向けた課題、そしてその先に語られる月面データセンター構想までを、順を追って見ていきます。

衛星網とAI1第1世代衛星

SpaceXは2026年1月30日に米連邦通信委員会(FCC)に、最大100万機の軌道上データセンター構想を申請しました。続いて6月12日の新規株式公開時には、これを「AIコンピュート」事業と名付けています。第1世代の「AI1」衛星群では、すでに地上で利用されているNVIDIA製のGPUを利用する基本的な設計についても言及しました。

Credit: SpaceX

さらに8月のスターマインド構想アップデートでは、「AI1衛星」にはNVIDIA Rubin GPUとVera CPUを採用すると発表。衛星は6月時点の発表よりもさらに大型化し、太陽電池パネルが差し渡し75m、展開型の「両面ラジエーター(放射冷却パネル)」が30mにもなります。

計算電力は最大で250kW、平均で175kWというスペックになっています。6月時点では72基のGPUを搭載したNVIDIAの「GB300」ラック1台分に相当するとのことでしたが、アップデートによってNVIDIAのVera Rubin NVL72ラック1台に相当するものになりました。

衛星の運用高度は600~800kmの地球を南北に周回する太陽同期軌道(SSO:Sun-synchronous orbit)を利用します。SSOの中には、毎日ほぼ一定の時刻に太陽電池パネルが太陽光を受けることができる「ドーン・ダスク」軌道と呼ばれる軌道があります。安定して必要な電力を生み出せることから、世界のAIデータセンター衛星の中にはこの軌道を目指すものが複数あります。

SpaceXはまだ軌道の詳細を公表していませんが、発電の条件として考えている可能性があるでしょう。衛星をいくつかの異なる高度に配置し、異なるバージョンの衛星ハードウェアを設計・運用する予定だといいます。

既存のスターリンク衛星とAI衛星を光リンクで結び、地上とのデータの送受信にスターリンクを使用する予定です。AI1衛星も通信機能を備えていますが、これは管制やバックアップ通信用のものです。AI衛星はデータ送受信と計算機能に特化することができ、シンプルな構成にできることがメリットです。

テキサス州のバストロップにはもともとスターリンクの地上端末を生産していた工場があり、この場所をAIコンピューティング事業のために拡張して衛星生産や試験棟建設が始まっています。2027年には量産型衛星の軌道上展開が始まるといいます。

AIデータセンター衛星の熱処理

AI1衛星が太陽電池75m、高さ30mとさらに大型化するのに伴い、ピーク電力が増加したほか、展開式の液冷ラジエーターも110m2から160m2に大型化しています。これは、プロセッサ決定に伴って必要な計算電力と排熱の制約がより具体的になったからだと考えられます。

Credit: SpaceX

AIデータセンター衛星では、計算機が発する熱の処理が大きな課題となります。真空中では輻射でしか熱を捨てることができないため、計算機の熱を効率的に冷却機構まで輸送し、大型展開ラジエーターで放熱することになります。

液冷の冷媒は公表されていませんが、宇宙機で一般的に使用されるアンモニアを使用すると仮定してみましょう。ピーク電力の250kWがすべて熱に変わったと考え、これを160m2のラジエーターで捨てるならば、2面で放熱する場合は放熱板の温度が約85度になります。アンモニアの最大の性能は約132度ですから、ラジエーターの面積と消費電力は物理的な条件の範囲内に入っているということができます。

ただし、軌道上で衛星が設計通りに液冷のシステムを含む放熱板を正常に展開でき、想定通りに熱を輸送できることが前提となります。

打上げから運用終了後の処理まで

スターマインドコンステレーションの規模は最大で100万機ですが、この通りにFCCが認可を出すのかどうかはまだ不透明です。Amazonをはじめ他の衛星事業者から否定的なコメントも寄せられており、当初の認可は数万機程度にとどまる可能性があります。SpaceXはテキサスでの衛星生産が軌道に乗れば、2027年から数千機規模の打上げを開始するとしています。

この規模で衛星を打上げるには、完全再使用型ロケットであるスターシップが必須となるでしょう。スターシップは7月の第13回飛行試験でスターリンクV3衛星20機の放出に成功し、衛星打上げロケットとしての能力を高めつつあります。

スターマインド衛星は、そのスペックからスターリンク衛星よりも大型で、2トン以上の本体質量と推進剤を備えた衛星になると考えられます。100トン級の搭載能力を持つスターシップであっても搭載量は限られることから、今後の飛行試験の進展と繰り返し高頻度に打上げられる能力の獲得が重要になってくるでしょう。

スターマインド衛星の月面生産

スターマインドコンステレーションの発表に伴って、イーロン・マスクCEOは将来的に月面でスターマインド衛星を生産し、地球よりも小さな重力を活かしてロケットではなくマスドライバーで軌道上へ放出するという構想を公開しました。また8月には、月面にロボット駆動の工場を構築するとも述べています。

Credit: NASA

この構想はSF的で興味深いですが、深宇宙で大型の計算能力を持つ衛星工場が成立するには、そのインフラを必要とする人間の長期にわたる活動が存在していなければなりません。SpaceXが公開した動画では、スターマインド衛星から眺めた月の裏側には人工照明と思われる光が見えていて、月面での有人活動の存在を想起させます。

NASAはアルテミス計画の再編後、「Moon Base(月面基地)」を段階的に構築するとしており、フェーズ3では2032年以降に長期的で持続的な活動拠点を設けるという構想です。一方、JAXAは「日本の国際宇宙探査シナリオ案2025」で2040年代には日本人を含めて40人程度の国際的なグループが月面に長期滞在し、科学探査などの活動を行なうという構想を持っています。

NASAや各国宇宙機関が進める月面長期有人滞在を中核に、月面経済と呼ばれる活動が勃興し、その計算資源の需要に応える形でAIデータセンター衛星が機能している将来を思い描いているのかもしれません。

ただし、具体的なことはまだあまり語られていません。データセンター衛星と結びつけてマスクCEOが語っている「カルダシェフ・スケール」とは、恒星のエネルギーの利用率で文明の成熟度を測るという文明論の一種です。こうした文明の発達度の向上を体現するという思想的目標の一つとして、月面経済の構想を並べている可能性もあります。

地球低軌道と月近傍空間にまたがるスターマインドAIコンピューティング衛星の構想が広がるにつれて、現実的な脅威も浮上してきます。

バーミンガム大学の研究者が7月にプレプリントサーバーのarXivで公表した論文では、世界で計画されている16の大型衛星コンステレーションについて、軌道上での衝突可能性をモデル化しました。

いわゆるケスラーシンドロームと呼ばれる、スペースデブリが制御不能なほど増殖し、衛星群自体が維持不可能になる閾値を超える可能性があるとしていて、その中に計画衛星数では最も大型のスターマインドが含まれています。ただしスペースデブリの増殖は、衛星の持つ衝突回避機能がどの程度機能するのか、現実を反映させる必要があり、モデル化にはまだまだ議論の余地があります。

SpaceXはスターリンク衛星の運用を通じて、世界でも有数の衝突回避を含めた衛星網の運用技術を持っています。スターマインド衛星の場合、ミッション終了後には大気圏への安全な再突入で消滅させる一般的な方法に加え、将来的には高高度の地球周回軌道への移動、さらには太陽周回軌道への移動(地球周回軌道からの脱出)も目指しているといいます。

その機能を実際に評価するには、SpaceX自身にとっても試験衛星などを通じた軌道上実証が必要ではないでしょうか。スターリンク衛星の打上げ開始前、SpaceXは2機の試験衛星を打上げました。2027年にも衛星打上げを開始するのであれば、その前に試験衛星が打上げられる可能性があります。スターマインドの実現性を知る、重要な指標となるでしょう。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)