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「コードを何万行書いても意味はない」 Microsoftが進める本物の成果を生むAI

7月29日(現地時間)、米マイクロソフトは、2026年度第4四半期(4~6月)の決算を発表した。

売上高は前年同期比18%増の900億700万ドル。米OpenAIへの投資による影響を除いた純利益も、前年同期比22%増の352億8,600万ドルと好調だ。

売上を押し上げているのは、Intelligent Cloud部門の好調さ。すなわち、AI関連の売上である。

なぜマイクロソフトは好調を維持できているのか。今後はどのような点が重要になってくるのか。

そうした部分を、米マイクロソフト Executive Vice President of Copilot, Agents, and Platformのチャールズ・ラマナ氏に聞いた。

実証段階に進んで「マルチモデル」型を推進

まず決算の状況をもう少し深掘りしてみよう。

冒頭で述べたように、マイクロソフトの好調を支えているのはIntelligent Cloud部門だ。売上高が前年同期比32%増の393億600万ドル、特にクラウドインフラである「Azure」の売上高は、前年同期比43%増と、大幅な増加となっている。2026年通期では、Azureの売上が初めて1,000億ドル(約16.4兆円)を超えた。

マイクロソフトの決算発表より。Intelligent Cloud部門は前年比32%と大幅に成長

これと連動して増えているのが、マイクロソフトのAIサービスである「Copilot」利用量の増加だ。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)は、決算説明の中で、Microsoft 365 Copilotの有料契約(シート)数が3,000万件を超えたことに言及。「顧客がAIによる変革を推進する上で弊社に寄せる信頼を表している」と説明した。

ラマナ氏はこの変化について、「AIがプロトタイプや実証の時期を超え、実際のビジネス成果を求められるフェーズに移行しているため」と説明している。

ラマナ氏(以下敬称略):例えば、50万人以上の職員にCopilotを導入したイギリスのNHS(国民保健サービス)や、管理業務やバックオフィス業務の変革にCopilotを活用しているメルセデス・ベンツなど、大規模な導入例が見られます。

契約シート数が拡大しているのも、テストのために特定部門や少数組織が導入する段階を超え、企業への導入が進みつつあるから、と考えられるだろう。この変化はマイクロソフトだけでなく、Google CloudやAWSも主張しており、まさにここからが本格的な普及期、ということなのだろう。

拡大するMicrosoft 365 Copilot(提供:マイクロソフト)

そこでCopilotの強みはどこにあるのか? ラマナ氏は「複数モデルの選択と公平なルーティングにある」と話す。

ラマナ:マイクロソフトが本当に重視しているのは、単なる「モデル」を提供することではなく、お客様がAIから価値を得られる「製品」を届けることであり、お客様に多様なモデルから選択できるオプションを提供することです。

そのため、コストとパフォーマンスのバランスに応じてモデルを選択できるようにしています。すべてのタスクに最上位の超高性能モデルが必要なわけではありません。オープンソースモデルのような、よりコスト効率の高いモデルを適用できれば、多額の費用を節約できます。

これは、AIを専業で開発している企業などと比較した場合、マイクロソフトならではの特徴だと思います。現在Copilotをご利用いただくと、Anthropicのモデルも、OpenAIのモデルも、マイクロソフトが開発した「MAI」も、すべて選択肢にあります。

日本で開催された、日本マイクロソフトの記者説明会資料より抜粋。AIモデルは複数から選ぶ形に変化している(提供:マイクロソフト)

これらが統合されることで、お客様は常に同じモデルだけを選択する必要がなくなり、どのモデルでも一律の価格を支払う、という形もなくなります。特にフロンティアモデルで多く見られるような、特定のモデルだけ利用規約やポリシーに縛られることもありません。

このメッセージはお客様に非常に強く響いています。なぜなら、この12カ月間で、四半期ごとに業界のトップに立つ最先端モデルが目まぐるしく入れ替わるのを目撃してきたからです。

「AIで何万行書いたか」は無問題 コアビジネスの指標こそが効果

AIは企業の中にどう導入されていくべきか? もちろん重要なのは、組織をエージェンティックAIを前提としたものに変えていくことだ。

エージェンティックAIの活用は、組織を次第に「AI前提組織」に変えていく(提供:日本マイクロソフト)

ラマナ:初期には、既存の事業プロセスにAIを適用し、同じ作業をより速く実行することを目指すでしょう。ですがさらに視点を一歩引いて考えると、組織のプロセスとワークフローを根本的に再考し、AI前提のものへと再設計することになります。これこそ、最も重要な長期的利益が生まれると期待している領域です。

しかし、現状はまだAI全体の導入は初期段階であり、組織変革には長い道のりが必要になるでしょう。

AI、中でもエージェンティックAIが広く実用化される時代に入っているということは、「AIを導入したことによる投資効果」の判定が重要になるということだ。

一方で、複数のAIモデルが使えて、複数のAIエージェントを使う以上、その選択による投資効果の判断は複雑化しやすい。

社員が多くのAIを使い始めたはいいが、結局その効果ははっきりせず、トークン使用量だけが増大して抑制が必要になる……という話も聞く。また、人間が作業することとのコスト差の考え方も定まっていない。雇用抑制に関わる部分であるため、さまざまな議論がある。

この点についてラマナ氏は「AI独自の指標を持つのは避けるべきだ」との考え方を示す。

ラマナ:マイクロソフトとしては、AIエージェントとワークフローを既存のビジネスプロセスと成果に直接マッピングすることを推奨します。

つまり、我々は顧客に対し「AIツールの利益を測定する方法は、ビジネスの成功を測定するのと同じ方法であるべきだ」と説明している、ということです。

例えばコンタクトセンターの責任者がいて、コスト・顧客満足度・平均処理時間・1時間または1日あたりに処理されるケース数などを指標としている、としましょう。だとすれば、AIについても同じ指標を使用し、どう改善されているかを見るべきです。改善が見られないなら、AIは実際にはビジネスの運営方法を改善できていない、ということなのです。営業リーダーの場合は、収益などを目安にするでしょう。

ここで、生産性やビジネス価値について、新しい指標測定を作成すべきではありません。

我々は、ROI(投資効果)を測定する指標をすでに持っています。収益やコスト、満足度、それに市場シェアの獲得。これらの指標の改善を探してください。

そして、2026年には、CopilotやAIエージェントに賭けた顧客の財務指標に、実際変化が現れ始めています。

個人的な例を挙げましょう。

私はエンジニアリングチームを率いています。

しかし私は、チームが「AIで何万行のコードを書いたか」「どれだけのAIプルリクエストを行なったか」は見ません。これらの点は、実際には重要ではないからです。

私がチェックするのは「採用を推進しているか」「サポートチケットの量を減らしているか」「品質は高いか」「製品のパフォーマンスとレイテンシーを改善しているか」「エンゲージメントを改善しているか」といった点。私がAI導入以前から常にチェックしてきたものです。

AIが魔法のような存在だと感じても、ビジネスリーダーとして蓄積してきたすべての知恵を失うべきではありません。

AIは他のツール、他のテクノロジーと同じで、コアビジネスの指標で判断できるはずです。

「マルチモデル」では自社モデルも贔屓せず

前述のように、マイクロソフトは自社開発のフロンティアAIモデルである「MAI」を開発中。オンデバイスAIに使うスモールモデルでも「Phi」シリーズを開発している。

過去にはOpenAIと強く連携した戦略を採っていたが、今はOpenAIから一定の距離を置き、マルチモデルを前提としたビジネスを行なう。

そこで、マイクロソフトの独自モデルはどのような意味を持っているのだろうか?

ラマナ:AIはすべてがまだ非常に初期段階であり、インターネットにおける1997年のようなものです。

6月に開かれた開発者会議「BUILD 2026」の基調講演より。マイクロソフトは独自のフロンティアAIモデル「MAI」の開発を進めている

その中で大きな企業での大規模な採用例が増えていることは、お伝えした通りです。

マイクロソフトは、オフィス環境にとって最適な製品を確実に持つことに集中しています。

そして、マイクロソフトを支持していただける場所として、OutlookとExcelとPowerPoint、そしてメールとWindowsについて、最高の製品を構築したいと考えています。顧客はコミュニケーション・コラボレーション・生産性などに関する部分で、すでに私たちを評価しています。

マルチAIモデルに関しては、使われるAIがマイクロソフトのAIモデルであるかどうかに関係なく、ジョブに最適なモデルを選択することが重要です。もちろん、マイクロソフトのAIモデルが顧客にとって最良のオプションである場合、それを使用します。

現在、画像認識や音声認識に関して、最高のコストとパフォーマンス、レイテンシに関する評価では、マイクロソフトのモデルである「MAI」がもっとも高い価値を持っています。今後はポートフォリオ全体で価値を高める機会を引き続き探求していきます。

とはいえ、大きなことは、すべての製品に「AIの自動選択」が組み込まれていることです。マイクロソフトのAIモデルが優遇選択されないようになっています。

Copilotでは、過去数カ月間、ある時点ではAnthropicモデルを使用し、その後GPT-5.6に切り替えられました。なぜなら、彼らが実際に優れていたAIモデルをリリースしたからです。

我々は、どう切り替わり続けていくかを見ていたのですが、顧客はそんな「ピンポンゲーム」をプレイする必要はありません。顧客はAIモデルを評価する必要はありません。

私たちは顧客のために自動的かつ透明にバックグラウンドでこれらの変更を行ないます。

「Work IQ」のような、顧客が既存のデータからより多くの価値を得ることを支援する技術があります。「Entra」や「Agent 365」のような優れたセキュリティとガバナンスもあります。

そして、Officeアプリ、すなわち「Word」「Excel」「PowerPoint」の内部で多くの素晴らしい仕事を行ない、本当に優れたAI体験を提供しています。

繰り返しますが、まだ非常に初期段階です。ただ、確かに改良と採用が拡大しており、我々は非常に活気づいています。

では、こうしたAIモデルやエージェント環境の変化は、WindowsというOSにどう影響するのだろうか?

ラマナ:Windowsについても楽しみにしていてください。より統合され、Windowsをよりエージェント的に動作するよう改善を続けます。そう遠くない将来、いくつかのクールな機能が登場すると思います。

製造国を限定せず「オープンモデルを支持」

現在アメリカでは、中国で作られたオープンウェイト型のAIモデルに対する脅威論が語られ始めている。

この点について、マイクロソフトはどう考えているのだろうか?

ラマナ:まず言えることは、私たちはオープンソースモデルとオープンソースウェイトの大きな信者であるということです。グローバルな声明であり、生成された国に関係はありません。

そして、オープンソースモデルについて、私たちがとても重要だと考えているのは、マイクロソフトのクラウドインフラでホストできることです。したがって、データは他の場所に流れません。

これこそがオープンソースであることの利点です。オープンモデルを取得して実行しても、データはモデルを作った企業に戻ることは一切なく、データはマイクロソフトの中に止まります。第三者にデータを送信するつもりはありません。例えば、顧客データを中国のモデルエンドポイントに送信するつもりはありません。

その上で私たちは、顧客に選択肢を与えることに集中しています。

もちろん、こうした運用は、潜在的な法律や規制、または大統領令によって制限されます。しかし、大部分、モデルを有効にするかどうかの選択は、顧客に委ねられています。これはAnthropicに対して行なっていることと同じです。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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