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都心の大雪、どう備えればいい? 天気予報では衛星画像の確認も

2018年1月22日の大雪。東京都渋谷区にて

秋ごろから「今シーズンは寒くなる」とか「雪が多い」とかのニュースがちらほら聞かれ始め、あっという間に冬到来。急に寒くなりまして、12月から日本海側を中心に大雪が降り、新潟では16日から18日まで関越自動車道で1,000台以上が立ち往生。年が明けてからも記録的な大雪となっています。

こうなってくると心配なのが都心部での大雪。ちょっと雪が降るだけでも大騒ぎの東京、首都圏にもドカ雪が降るのでしょうか。思い返せば前回の大雪は3年前。2018年1月でした。雪が降る年もあれば降らない年もある首都圏。その謎と、雪が降るメカニズムについて、日本気象協会の気象予報士、平松信昭さんにお伺いしました。

日本気象協会 社会・防災事業部 気象予報士 平松信昭さん

日本海側の大雪は“JPCZ出現時”が要警戒

「長いトンネルを抜けると雪国だった」とは川端康成の『雪国』の冒頭。この雪国のモデルが新潟の湯沢温泉といわれています。視界が一瞬で銀世界に変わるなんてステキ! という感想はさておいて、そもそも日本はなぜゆえに日本海側でたくさん雪が降るのでしょうか。

平松さん:日本海を流れる対馬暖流と脊梁山脈(奥羽山脈・越後山脈)が大雪を降らせる理由です。温かい対馬暖流が供給する熱と水蒸気がシベリアから流れ込む寒気と出合い雪雲が発生、山脈にぶつかり上昇することで雪雲が発達し、大雪を降らせます。

なるほど、つまり雪雲が山にぶつかる方(日本海側)で雪がほとんど降ってしまうから、太平洋側には雪雲がやってこない、というわけです。しかも、このようなメカニズムで雪が降る場所は世界的にも珍しく、日本以外ではアメリカ東海岸の五大湖周辺くらいなのだそう。世界有数の雪が降る国、日本なのです。

平松さん:日本海側で降る雪は筋状の雲が通過する場合に降るため、断続的に雪が降ります。実際、新潟や金沢に住んでみると、さっと雪が降って、上がり、時間をおいて、またさっと雪が降るような繰り返しがあることがわかります。さらに、日本海側で大雪が降るときはJPCZが出現して停滞したとき。JPCZとは日本海寒帯気団収束帯(Japan sea Polar air mass Convergence Zone)のことで、特に顕著な筋状の雲が現れる場合です。この筋状の雲の下では激しい雪が降っていて、それが停滞した場合は災害級の大雪をもたらす場合があります。

提供:日本気象協会

大雪が降る理由があれば、その予兆も現れる。やみくもに天気予報の「降る、降らない」だけに耳を傾けるのではなく、じっくり衛星画像などを確認して身構えることを覚えていた方がよさそうです。

太平洋側は“南岸低気圧”が雪を降らせるポイント

日本海側の大雪メカニズムを聞いていると、太平洋側であまり雪が降らないこともわかってきました。しかし、しかしです! 数年に1度ぐらいの頻度で首都圏にパニックを起こし、子どもが喜び、犬も喜ぶほどの大雪が降るのです。それはなぜで、天気予報はどのように見ればいいのでしょう?

平松さん:太平洋側で雪が降るのは、南岸低気圧(本州の南の沿岸部を通る低気圧)がもたらす降水と本州の北東方面から流れ込む寒気が原因です。南岸低気圧の温暖前線が寒気に乗り上げるように雲が発生するのですが、この前線による雲が首都圏にかかるかどうかで雨や雪が降る状況が変わってきます。

南岸低気圧による大雪の原因。発達した低気圧が北から寒気を引き込んだことと、低気圧の動きが遅くなって降水量が非常に多くなったことにより大雪に(提供:日本気象協会)

確かに、日々天気予報を見ていると高気圧や低気圧の発達具合で天気が変わる様子を説明してくれています。夏の場合でいえば、台風が太平洋高気圧の発達具合で上陸する、しないを解説してくれたり、台風の進行ルートを図解してくれたり。

冬の大雪の場合も「その時々の気象の変化」が決め手になる、と理解しました。雪が降る、降らないに気をもむ方は、南岸低気圧を要チェックです。

平松さん:低気圧がやってきても本州の沖合を離れて通ると雨や雪の降水域はかかりません。一方、低気圧による降水域がかかっても上空の気温が高いと、雪が途中で溶けて、雨になってしまいます。上空の気温は、低気圧の近くは温度変化が非常に大きいので、わずかな差で雨になったり、雪になったりするのです。都心では、雨が降れば大したことのない量でも、雪になって1cmでも積もれば大変なことになるのです。

提供:日本気象協会
2018年1月22日19時ごろ、東京都渋谷区にて撮影

とくに関東平野で大雪になりやすい理由は“滞留寒気”

気象予報士の皆さんでも太平洋側で雪が降る予測は難しいとのこと。となると、首都圏での“大雪”予測はもっと難しそうです。

平松さん:気温のわずかな差で雨になるか雪になるか、積雪量を含め予測が難しいことはご説明しました。しかし、関東平野で大雪になる場合のパターンはわかっています。そのポイントは滞留寒気が形成されるかどうか。厚さ数百メートルの滞留寒気により内陸部は雪となります。

滞留寒気とは「降水による冷却や夜間の冷却により平野部の陸上部分に形成される、ある程度の厚みをもつ冷気層」とのこと。つまり地上から上空まで寒いので雪が降っても溶けないので雲の量が多ければ大雪になってしまいます。

要するに、南岸低気圧がやってきて雨が降り「冷たい雨だな……」と思ってると大雪になる可能性大! しかし、南岸低気圧の進路が北に寄りすぎると南からの暖気が流入してけっきょく雨のまま。ここが予測の難しさなのです。

関東平野に形成される滞留寒気の模式図(提供:日本気象協会)

大雪には事前に備える。それが鉄則

太平洋側での雪、関東平野での大雪予測が大変難しいことはわかりました。しかしながらお聞きします。ズバリ、今シーズンは都心部で大雪が降りますか?

平松さん:暖冬が昨シーズン、その前と2シーズン続きましたが、この冬は「平年並みの寒さ」となりそうです。とくに2月は日本付近での低気圧が発達しやすいので、太平洋側は南岸低気圧による積雪に警戒すべきでしょう。

うーむ……2月に大雪の可能性アリです。日々の天気予報をチェックして身を引き締めましょう。そして、その日に備えて「事前に準備しておくことが大切」と平松さんは続けます。

平松さん:大雪になると、とくに関東ではタイヤのチェーンを用意したりスタッドレスタイヤに変えている人は少ないので自動車が使えなくなります。買い物しづらくなりますので、まずは食料をストックしてください。また停電に備えてポータブルストーブや湯たんぽなどの暖をとれるものを備えておくことも大切です。

出典:日本気象協会「トクする!防災 避難の心得 雪害編」

実際、関東でも雪の重みで倒木し電線が切れるなど、停電はよく発生するそうです。そのほかスコップなどの除雪用品を準備したり、カーポートは補助柱で補強しておくと安心とのこと。確かに2年前の大雪のときも車庫の屋根が落ちているお宅がありました。

平松さん:また鉄道やバスなどの公共交通機関は間引き運転される場合があり、大混雑が予想されます。無理に出勤・通学はしない方がいいですね。歩道橋など外部の階段は凍っていたり残雪があったりと滑りやすいので要注意。路面に積もった雪もできるだけはやく片付けてください。一度凍ると雪をどけるのが困難になりますし、日陰ではしばらく溶けません。

少しの降雪でも交通に影響が出てしまう都心部。大雪に備えて事前に準備し、大雪が降った場合は、あまり無理をしないことが大切のようです。くしくも今シーズンはテレワークの人も多いので、出社するよりは自宅まわりの雪かきを優先した方がよいでしょう。

とはいえ、外出しなければならないケースもあります。そして都心部で積雪があった時には転倒事故が必ずと言ってもいいほど発生します。雪道を歩く時のポイントとして、「小さな歩幅で」「靴の裏全体をつけて」かつ「時間に余裕をもって」歩くようにと教えてくれました。

出典:日本気象協会「トクする!防災 避難の心得 雪害編」

大雪が降ると何かと大変ということで、雪のことについて学んできましたが、逆に考えれば、たまにしか降らない首都圏の大雪だからこそ楽しんでしまうのも一興です。わたくし自身、「明日は大雪」と聞くとワクワクソワソワしてしまう派のひとり。恐れるよりも、万全の体制で雪を楽しむ。そう思えば、大雪も待ちどおしくなってきませんか?

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