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AI時代のタクシー会社「夢洲交通」誕生 自動運転車両も公開

奥が夢洲交通のタクシー車両、手前側が自動運転車両

タクシーを呼ぼうとしても、電話がさっぱり繋がらない。その後も場所を伝えるのに一苦労で、タクシーが来るまでに時間がかかる。配車アプリ利用者が増えているものの、電話での配車ニーズもまだまだあるという中で、こういった悩みをDXの力で解決するタクシー会社「夢洲交通」本社が、2025年12月17日に正式開業した。

同社は大阪でタクシー・ライドシェア事業を展開するnewmo株式会社の傘下にあり、24年7月に傘下入りした「未来都」などのブランド(タクシーの場合は“行燈”)を掲げた車両基地と本社機能を一体化した上で、新たに大阪市城東区に拠点を置く。親会社であるnewmoは、各タクシー会社(未来都・さかい交通など)を含めて1,000台の車両を運行しており、今後は既存タクシー会社のM&Aなどで、タクシーの運用台数を3,000台まで引き上げる方針だという。

夢洲交通 代表取締役CEO 青柳直樹氏、代表取締役 井本陽子氏によるテープカット

フロアを見る限り、新しく誕生した「夢洲交通」は、DXによる業務の効率化をかなり進めているようだ。オペレーターに繋がらない時もタクシーを呼べる「AI配車システム」や、営業所内でかなりの手間を要していた「点呼の自動化」などを導入しており、同社はさながら「未来のタクシー会社」。かつ、女性でも働きやすい環境づくりなど、利用する側にも働く側にもメリットがある会社づくりを行なっている。

まずは本社の開業式典に足を運び、現場を拝見しつつ、いろいろとお話を伺ってみよう。

本社社屋はリノベーション物件 元はパチンコ店

JR大阪環状線・Osaka Metro中央線 森ノ宮駅からほど近い場所に新設された夢洲交通・本社は、1階が本社機能、2階から4階・屋上までがタクシー車両の駐車場となっている。大阪在住の筆者としては、見たことがあるような建物だと思ったら……「駐車場併設」などの条件で物件を求め、結果的にパチンコ店があった場所をリノベーションして完成させたという。

夢洲交通本社。パチンコ店を改装している

井本氏によると、「建設費用が高騰しているので、既存の建物を使うといった考え方も大切だというふうに考えて、今回この場所に設立させていただきました」とのことで、今後もこういったリノベーション営業所が、増加していくのかもしれない。

DXで「乗る人にも」「働く人にも」優しいタクシーへ

さて、夢洲交通が取り組むDXプロダクトとして、AI音声配車システム「maido(マイド)」、自動点呼機器「newmo点呼」がある。

maidoは8月に本格導入されたシステムだ。夢洲交通に電話でタクシー配車を頼んだ場合、堺市中百舌鳥(なかもず)にある配車センターのオペレーターが現在地と行先を聞き出し、配車を行なう。maidoなら、オペ―レーターに繋がらない場合にはAIに切り替わり、自動音声に答えることでタクシーを呼べるという。

デモンストレーションでは、通話終了まで3分少々の時間を要した。しかし、夢洲交通森ノ宮営業所 不破大樹所長によると、タクシーを呼ぶ顧客はほとんどがリピーターで、出発地や目的地もいつも同じだと、電話番号の過去履歴から、さらにスムーズにタクシーを呼べるという。

AI音声配車システム「maido」実演の様子

また、ドライバーもタブレットに直接指示が飛んでくるので電話を取る必要もなく、状況に応じてオペレーターに切り替わるため、初めてAIと会話するような方でも安心だ。

不破所長によると、「アプリ配車の方もずいぶん増えたが、電話で配車を希望される方も、まだまだ多い」そうだ。しかし、人手不足もあって電話対応が難しいケースもあり、電話注文の約3割を取りこぼしていたという。

夢洲交通森ノ宮営業所 不破大樹所長

現在では、AIを活用したmaidoの導入により、「100%の受電体制」を実現していると説明。オペレーターの業務軽減だけでなく、売り上げの取りこぼしも防ぐmaidoは、これからもフルに活用されていきそうだ。

newmo点呼は、業務前の対面点呼と業務後の自動点呼を一台でできる機器。通常のアルコールチェック・事前点呼だと、運行管理者などがチェックした上で、息を吹きかける「呼気検査」や、健康状態などの自己申告を行ない、紙ベースでいちいちファイルに記録する。このアナログな体制が、各タクシー会社の負担となっていた。

newmo点呼では、これまでファイルで管理されていた乗務員・車両などの基幹データや、業務記録などが入ったタブレットを操作するだけで、点呼が完結する。さらに、呼気検査は「専用機器に息を4秒吹きかける」だけ、反応があった場合はすぐ事務所に連絡されるため、見落としがある人的チェックよりも安心だ。

「newmo点呼」実演の様子

この自動点呼システムは、すでに国土交通省からも認定を受けている。一元管理による劇的な事務負担の削減や、より精密な記録を行なうことで、運行管理全体のDXを加速させていくという。

フロアは開放的、女性ドライバーのスペースも広々

夢洲交通の本社・営業所は1階のワンフロアで、かつてパチンコ台が並んでいたスペースに、デスクが置かれている。各部署に仕切りは設置されず、風通しよくやり取りを進めている様子が伺える。

夢洲交通本社フロア

また、パチンコ店だっただけあって天井が広く、タクシー会社の事務所とは思えないほど開放的だ。かつ、ほとんどの業務がDX化されているため机の上のファイルなども少なく、電話の必要もほとんどない。

そんな夢洲交通のコンセプトは「No Border」。仕切りを設けていないこともその一環で、一体感を持って事業を推進するカルチャーづくりに努めているという。また女性用の控室・フロアも広めにとってあり(ただし現時点では工事が間に合わず、パウダールームを追加予定)、働く人にとっても優しい環境と言えそうだ。

女性用控室

夢洲交通が新しいタクシー会社のモデルを作る

開業式典では、夢洲交通 代表取締役CEO 青柳直樹氏、代表取締役 井本陽子氏から挨拶があった。

青柳氏からは、夢洲交通が目指すタクシー会社像について、以下のようにコメントした。

「夢洲交通は新しいタクシー会社のモデルを作っていきたいなというふうに思っています。タクシー会社の事業のあり方、社屋のあり方もそうですし、デジタルやAIの活用などの形を示していきます。

(自動運転の実験にあたって)ご協力をいただきました堺市の皆様や、関係する皆さんにお礼を申し上げます。今後しっかり地域の皆さんに使っていただけるところまで仕上げていきたいと考えております。また、展示をさせていただいた自動運転も、社会に実装させていき、全国に発信していきたいと考えております。

夢洲交通を、森ノ宮から発信をして作り上げていきたいなと思っておりますので、これからの夢洲交通にご期待をいただきたいと思います」

青柳直樹氏

井本氏は正式開業を迎えたことへの思いや、目標についてコメントした。

「私たちはnewmoがゼロから立ち上げたタクシー会社として、7月の設立から本日の正式開業まで、本当に多くの方々に支えられてここまで来ることができました。準備をしっかり頑張ってくださった一人一人に感謝をお伝えしたいと思っております。

新社屋はタクシーの営業所であるとともに、グループの本社の機能が一堂に集まっています。私たちが大切にしているのは、役割や立場にかかわらず、みんなが一体となって、新しく良いタクシー会社を作っていきたいという考え方です。

この営業所は大阪の中心部から近い立地にありながら、全体で今58台の車両でスタートして、およそ330台ほどまでに拡大してきました。今後は大阪全体で2,000台、3,000台に拡大をしていきたいと考えております」

井本陽子氏

自動運転タクシーはすでに実現可能なレベル

最後に設けられた質疑応答の場では、青柳直樹CEOから、自動運転にかける思いが語られた。

青柳氏はアメリカ・中国などで自動運転サービスを体験し、すでに大阪府堺市での実証実験に成功している。そういった経験や実績から「タクシーの自動運転は遠い未来や2030年代の話をしているわけではなくて、実現可能な技術水準になってきていている。あとは導入できる事業者が手を挙げて出てくるか、社会でしっかり受け入れていただけるか」とのこと。「もちろんいろいろなケースがあるので、そこは学習をしていく段階だと思います」と語った。

自動運転について語る青柳氏
堺市での自動運転実証実験の車両

今後は法整備の進展や規制緩和を踏まえ、高性能センサーの「LiDAR(ライダー)」を搭載した自動運転タクシーの2027年以降の導入を目指すという。自動運転とDXを足掛かりに、スタートアップ企業「夢洲交通」がどこまで人に優しいタクシー会社に成長できるか、注目したい。

ガッツポーズをとる青柳氏と井本氏