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自転車の交通違反の「青切符」制度でなにが変わる?  取り締まられやすくなる

青切符導入を前に、導入の背景から違反となる自転車の通行まで解説した自転車の警察庁の「自転車ルールブック」

近年、自転車による交通事故が社会問題とされ、2020年前後に各地で保険義務化、2023年のヘルメット努力義務化など、自転車の安全対策がより厳しくなっています。

そして、いよいよ2026年4月、自転車に青切符(交通反則通告制度)の制度が開始されます。一部で厳罰化などと言われ、自転車が乗りにくくなるとまで言う人もいます。いったい何が変わるのでしょうか。

青切符は厳罰化ではなく、実質的な取り締まり強化

青切符(交通反則通告制度)については自動車の免許証を持っている人なら馴染み深い制度で、比較的軽い交通違反など対象となる交通違反に対して「刑事処分に代えて反則金を科す」仕組みです。

軽い交通違反など定められた違反の場合、警察官が青色の用紙、いわゆる青切符を交付し、同時に渡される納付書で期限までに反則金を納付すれば刑事手続には進みません。反則金は行政処分の一種であり、刑罰ではないので前科もつきません。

しかし、この制度が自転車にも導入されることは同時に「取り締まりの強化」を意味します。なぜなら、これまでは自転車の違反にペナルティを与えるには、取り締まった警察官が赤切符を交付し刑事手続きを開始、形式的ではあっても捜査をして検察官送致や裁判(略式裁判がほとんど)を経なければならず、手間をかけて検察官送致しても軽い交通違反のために不起訴になることもあり、違反者に対する責任追及が不十分だったとされているからです。

現実的な問題として、取り締まり後の手続きの煩雑さから自転車の交通違反を積極的に取り締まらない傾向があったのかもしれませんし、すべて取り締まっていたら検察官も裁判所も事務量が増えてパンクしていたとも思われます。

そこで、青切符制度の導入により、大きな手間をかけずに違反者に責任追及をすることができるようになります。

厳しくなるのではなく取り締まりの機会が増えます。現在は赤切符を交付され略式裁判であっても罰金刑になると前科ですが、青切符導入後なら反則金を払えば刑事手続無しで前科もつきません。責任面では緩くなるのですが、検挙される機会は増え、青切符を交付されれば反則金を払う義務が生じます。実質的には厳罰化と感じるかもしれません。

そして、危険な違反を繰り返す自転車運転者には「自転車運転者講習」の受講が命じられます。背いて受講しない場合は罰則もあります。

また、反則金を払わないと刑事手続が進み、場合によっては逮捕ということになります。自動車の交通違反で反則金を払わない人が逮捕されるニュースを見たことがあると思いますが、それが自転車にも適用されるようになるのです。

自転車は「車両」で交通ルールがきっちりと決められている

今回の青切符導入で、自転車の基本的なルールが変わるわけではありません。同時に細かい変更はありますが、あくまで「従来から存在する道路交通法のルールを、より実効的に守らせる」ための仕組みが整えられるということです。

そこで、あらためて交通ルールを確認することが必要です。自転車のルールを理解する上で最も大切なのは、自転車は「車両」という基本です。道路交通法上、自転車は細かくは「軽車両」と分類されますが、自動車や原動機付き自転車と同じく「車両」であり、車道を通行するのが原則です。

そして、今回の青切符で特に話題になっている自転車の歩道通行(反則金6,000円)ですが、本来のルールでは「標識などで許可された場合」「13歳未満の子供や70歳以上の高齢者」「身体に障害のある方」などといった限定的な条件のもとでのみ認められ、歩道では車道側を徐行することとしています。

また、当たり前のこととして、飲酒運転は禁止、道路は左側通行(反則金6,000円)で、信号無視(反則金6,000円)はしてはならず、一時停止(反則金5,000円)もしなくてはなりません。夜間(道路交通法では日没から日の出までと定義)はライトを点灯する必要(反則金5,000円)もあります。

意外ですがスピード違反(反則金6,000円~)もあります。自転車の場合、自動車の60km/h、原付バイクの30km/hのような標識のないところでの法定最高速度はありませんが標識があれば従う必要があり、安全な速度で走行する義務もあります。最近は住宅地などで30km/h制限エリア「ゾーン30」が増え、スポーツ自転車なら制限速度を超えることは難しくなく、スピード違反で検挙される可能性も十分あります。

また、徐行が必要なところは徐行する必要(反則金3,000円)もあります。歩道の走行はもちろん、見通しの悪い交差点など徐行が指定される場所は意外に多いです。徐行とは「直ちに停止することができるような速度」であるため、すぐ止まれない速度で走っては徐行ではありません。

反則金の項目はかなり多い、日常的に違反をしていないかチェックを

これまであげたものはすべて反則金対象か、場合によっては重大な違反で赤切符になります。これまでは「注意で済まされがち」だった違反に対して、今後は反則金というペナルティが加わるようになる、というのが青切符導入です。

たとえば、日常の自転車の運転でもしてしまいがちな違反は以下のようなものあります。

  • スマートフォンの保持(反則金1万2,000円)
  • 両耳イヤフォンでの運転(反則金5,000円)
  • 傘さし運転(反則金5,000円)
  • 泥はね運転(反則金5,000円)
  • 横に並んで走る並進(反則金3,000円)
  • 優先道路を交差する場合に優先道路走行車の妨害(反則金5,000円)
  • 交差点で右側通行するなどの交差点右左折方法違反(反則金3,000円)
  • 踏切で一時停止しない(反則金6,000円)
  • バスの発進妨害(反則金5,000円)

このほかにもたくさんの反則金が設定された違反があります。

なお、スマートフォン(携帯電話)の違反は「保持」の場合は反則金ですみますが、交通の危険を招いた場合は赤切符となり刑事手続きに進み、有罪になれば前科が付きます。

自転車の交通ルールを知るには、当面は公式情報も確認

青切符を導入するにあたり「自転車の交通ルールを学ぶ機会がなかったのにおかしい」と考える人もいるようですが、違法を知らなかったとしても罪を免れることはないので、知らないではすまされません。

では、どうやって自転車の交通ルールを学ぶかですが、青切符導入にあたり公開された警察庁が公開した「自転車ルールブック」があります。具体的な交通ルールが図解入りで説明されていますので、一読することを強くすすめます。PDF形式の53ページなので、印刷しておくのもおすすめです。

自転車ルールブック」。図解入りで解説してあるので、印刷して一冊用意しておくと便利

ほかには警視庁が「自転車の交通ルール」としてまとめているWebページもわかりやすく記載していますし、神奈川県警では公式アプリ「かながわポリス」で交通学習としてクイズ形式で交通ルールが学べます。交通ルールを解説した動画を各県警の動画公式チャンネルで配信しているところもあります。

青切符導入にあたっては解説本が出版され、Webサイトや報道での解説なども出てくること予想されます。しかし、解釈には幅があり必ずしも正確な情報を記しているとは限らず、なかには警察庁が出した自転車ルールブックとは解釈が異なっているものも見受けられます。

わかりやすく書いてあるものはたいへん貴重な情報ですが、交通ルールや取り締まりの実態が浸透して落ち着くまでは警察関連などの公式情報も同時に参照することが確実と言えるでしょう。

実際の取り締まりはどうなる?

2026年4月1日から青切符の制度が始まると、自転車で歩道に1ミリでも乗ってしまったら青切符で反則金を払わないといけないと思われますが、実際はそうでもなさそうです。

まず、16歳未満は反則金の対象外です。といっても守らなくてはよいわけでもなく、警察官もスルーするわけではありません。警察官から指導警告票が渡され、指導警告を受けることになります。

また、歩道通行は16歳以上であっても即反則金となるわけでもなさそうです。前述の警察庁の「自転車ルールブック」の6ページには以下の記載があります。

自転車の運転者による反則行為のうち、交通事故につながる危険な運転行為をした場合や、警察官の警告に従わずに違反行為を継続した場合といった、悪質・危険な行為が自転車の交通違反の取締り対象となります。

一方で、単に歩道を通行しているといった違反については、これまでと同様に、通常「指導警告」が行なわれます。青切符の導入後も、基本的に取締りの対象となることはありません。

警察庁の「自転車ルールブック」の6ページ

と記載されています。青切符になって検挙がしやすくなることと矛盾するようにも見えますが、

例えば、スピードを出して歩道を通行して歩行者を驚かせ立ち止まらせた場合や、警察官の警告に従わずに歩道通行を継続した場合には、取締りを受ける場合があります。

と具体例があり、危険な行為をした場合には取り締まりをするということが示されています。ただ、現場の警察官の判断によるところが大きく、歩行者への影響も自転車運転者からは分かりにくいため、歩道通行について慎重になったほうがいいと言えるでしょう。

そのほかの違反についても、取り締まりについての考え方が警察庁の「自転車ルールブック」の前半に詳しく記載されています。取り締まりについて気になるのなら、一読をおすすめします。

クルマを運転する人は、自転車で事故を起こすと免停の可能性

自転車の交通違反をして青切符が交付された場合、自動車の青切符と違って違反点数という制度はありません。しかし、すでに2015年から危険な違反を繰り返す自転車運転者には「自転車運転者講習」の受講が命じられるペナルティも待っています。

さらに、自動車の運転免許保持者にはどういう影響があるかというと、違反点数については影響がないことになりますが、自転車で轢き逃げをしたり、死亡事故などを起こしたりした場合には、運転免許停止の処分が行なわれることがあるとしています。

現在でもそうした理由による免停処分が行なわれた事例があり、青切符の導入に関係ないとされています。

原動機付自転車は全く別

ここで、あらためて「自転車」について説明しておきます。自転車は軽車両であり、法律上の「自転車」の定義は決まっており、警察庁の「自転車ルールブック」にも説明されています。

ところが、同じ自転車という言葉が含まれる原動機付き自転車(原付)は「自転車」の交通ルールは適用されません。どちらかというと自動車側のルールが適用され、すでに青切符の対象で、しっかり取り締まられています。

また、最近話題の電動キックボードが該当する特定原付も「特定小型原動機付自転車」となっていますが、ルールは自転車とは別で、すでに青切符の対象です。

そして、電動アシスト自転車と認められていないペダル付き電動バイクも見た目は自転車でも自転車ではなく、原動機の出力などによって原付や自動車に区分されます。このため自転車の青切符とは関係なく、免許なしで運転すれば無免許運転となるほか、ナンバープレートなしで走行させた違反も重なるため、とても厳しい刑罰を受けることになります。

反対に自転車以外の軽車両もあります。軽車両は主に原動機(エンジンやモーター)を持たない車両が含まれますが、リアカーや大八車、人力車も軽車両です。また、原動機はなくても動物の力によるものも軽車両で、馬車はもちろん、馬に乗って公道を走る場合も軽車両として信号や標識に従い、左側通行をして速度制限も守る必要があります。

今回、青切符が始まるのは自転車であり、軽車両すべてでもなく、原付や特定原付も関係ありません。自転車の青切符がはじまるまでは特定原付も取り締まられにくいと誤解している人もいるようですので、注意が必要です。

安全とスムーズな走行のため、交通ルールを学びなおす機会に

今回の青切符導入は、自転車に乗る人にとって「厳しくなる」「煩わしくなる」などと否定的な考えを持つ人もいますが、自転車にもよく乗る筆者は歓迎しています。なぜなら、交通ルールを守らない自転車が減れば身の危険が減るからです。

たとえば、夜間に無灯火で逆走の自転車が正面から突進してきた場合、一歩間違えば正面衝突で大けがや生命の危機になります。青切符の導入で取り締まられ、こうした危険が少なくなると思うほか、反則金を科す以上、現在でもあいまいな部分のある自転車の交通ルールがより明確化されていくことも期待できます。

そもそも道路は混合交通であり、道路を通行する車両は左側通行や進行の優先関係などといった共通のルールに従うことで、ぶつからずにスムーズに流れるのです。大事な共通認識である交通ルールは、青切符導入という機会で今一度、確認すべきではないでしょうか。

正田拓也