トピック

アマゾンはデバイスで稼がない。Fire TVは“テレビ”の可能性を広げる

Amazonエンターテインメント デバイス&サービス担当のダニエル・ラウシュ氏

プライム・ビデオ(Prime Video)やNetflixなど動画配信が普及して久しいが、動画配信を見るためのストリーミングプレーヤーの定番といえばアマゾンの「Fire TV」シリーズ。多くの動画配信サービスに対応するだけでなく、Alexaによる音声操作やレスポンスの良さ、なにより4,980円からという“買いやすさ”が支持を集めている。

2020年末時点で、全世界で1.5億台、月間アクティブユーザー5,000万人を超えているFire TVシリーズ。現在はさらにユーザー数を拡大しているとのことだが、3月にはFire TVを「テレビ」そのものに内蔵した「FUNAI Fire TVスマートテレビ」もヤマダ電機とのパートナーシップにより販売開始された。

一方、コロナ禍で急拡大した動画配信サービスが落ち着きを見せはじめ、Netflixの会員数減少など“逆風”も見られるようになってきた。そうした環境下でFire TVはどこを目指すのか? Fire TVデバイスを統括する、Amazonエンターテインメント デバイス&サービス担当バイス・プレジデントのダニエル・ラウシュ(Daniel Rausch)氏に聞いた。

Amazonブランドのテレビ日本発売あるのか?

Fire TVシリーズは、2014年から発売し、日本でも2015年から販売開始。すでに7年の歴史を持つプレーヤーとなっている。Netflixの日本上陸も2016年だが、動画配信の拡大にあわせて、Fire TVも歩んできた形だ。

現在のラインナップは、Fire TV Stick(4,980円)、Fire TV Stick 4K Max(6,980円)、Fire TV Cube(14,980円)だが、日本では「4K」のニーズが高く、Fire TV Stick 4K Maxが人気という。3月にはヤマダ電機とFUNAIと協力し、Fire TV搭載の「FUNAI Fire TVスマートテレビ」(55,000円~)を発売開始し、使いやすさで支持を集めているという。

Fire TV Stick 4K Max

Fire TV内蔵テレビは、米国の小売大手「Best Buy」などのパートナーと展開しており、100以上の製品が発売されている。その取り組みを日本市場においても拡大していく方針で、ヤマダ/FUNAI以外のテレビメーカーとの協力も目指している。ただし「現時点では発表できることは何もない」とする。

FUNAI Fire TVスマートテレビ

一方、米国ではAmazonの自社ブランド(ファーストパーティ)によるスマートテレビ「Fire TV Omni/4-Series」も'21年秋から展開している。テレビのシステムとより統合され、マイクを内蔵してAlexaでより多くの音声操作が行なえるほか、スマートホーム連携などを強化している。ヤマダ/FUNAIの違いとして「ファーストパーティFire TVテレビは、新しい発明を消費者に届けるもの」と位置づけており、日本での展開についての言及は避けたが、「大きな成功を収めており、グローバルでも提供したい」(ラウシュ氏)という。

日本のテレビメーカーにおいては、Google TV/Android TV搭載テレビの採用が進んでいるが、ラウシュ氏は「競争は歓迎すべきこと。市場に複数の選択肢があることは重要だと考えている。テレビの体験が本当にスマートにシンプルになる取り組みはまだ始まったばかりで多くの可能性がある」とした。

Fire TVを買う“スマートテレビ”ユーザー

新型コロナウイルスによるロックダウンなどは、この2年間ほどは動画配信サービスの“追い風”となっていた。コロナ禍が収まりを見せつつあり、動画サービスへの“逆風”も伝えられる状況にもなっている。

ラウシュ氏は、「この2年間はものすごい成長曲線でした。そして、Fire TVも数年分を前倒しで売れてしまいました。いま、成長カーブはたしかに緩やかになっています。しかし、成長は続いています。全く下がっておらず、コロナ禍以前の成長カーブに戻っています。またFire TVの在庫も十分です(笑)」と現状を語る。特に2020年の初夏にかけてFire TVが供給不足に陥ったこともあったが、現在は状況は落ち着いているという。ただし、世界的な半導体不足やロシアによるウクライナ侵攻の影響については、「サプライチェーンに関わる全ての人が影響を受けている」とした。

別のトレンドとして、ストリーミングが「当たり前」になるにつれて、テレビに動画配信サービスの機能を内蔵するケースも増えている。テレビメーカー各社がリモコンに「Netflix」「Prime Video」などの専用ボタンを付けていることからもテレビの重要な機能の一つとなっていることがうかがえる。

「ストリーミングの再生機能を備えたいわゆる“スマートテレビ”があれば、Fire TVは要らないのでは?」という疑問も浮かぶ。

そうした疑問に対し、ラウシュ氏は、「面白いデータがあります。実はスマートテレビを持っている人のほうが、スマートテレビでない人より、Fire TVの購入意向が高いです。その理由はFire TVのユーザーインターフェースがシンプルであることだと考えています。動画サービスの世界は進化が早く、テレビの上で常に使いやすいアプリやインターフェイスを作っていくことは困難です。使いやすいサービスとしてFire TVが支持されており、最もポピュラーなメディアプレーヤーになっています。コンテンツを探しやすく、音声でコントロールできる、コンテンツファーストのシンプルさこそが消費者が求めているものです」と語る。また、アプリ開発でも動画配信パートナーと密接な協力関係があることから、こうした使いやすさが実現できると主張する。

なお、Fire TVではリモコンにPrime Video、Nefflix、DAZNなどのボタンを搭載しており、日本でも「Amazon Music」に変わり「ABEMA」のボタンを備えたリモコンも発売された。

Fire TV Stick用リモコンのボタン。「ABEMA」ボタンを備えたもの(左)も日本向けに展開している

リモコンボタン搭載の選択基準は「Prime Videoのようなグローバルパートナーと、ローカル(地域)パートナーが存在しますが、選択基準は“最もよく使われている”です。最もよく使われるサービスをボタンに入れます」とした。ボタン採用にあたる契約内容等は「非開示」。

デバイスで稼がない。広がるFire TVの世界

Fire TVの強みは「使いやすさ」はもちろんのことだが、圧倒的な価格競争力にある。Fire TV Stcikにいたっては、5,000円以下で、セール時には2,000円程度で販売されることもある。

2018年にラウシュ氏の上司でAmazonデバイス全体を統括するデイブ・リンプ氏に取材した際には、「Amazonデバイスの販売価格はほぼ製造コスト。製品を売ることで利益を出すのではなく、使われることで利益が出てビジネスになる」とコメントしていた。つまりハードウェアで稼ぐビジネスではないということだ。

その点について尋ねると、「ビジネスモデルは今も変更はありません。デバイスで稼ぐビジネスモデルではありません。デバイスを使って、それを楽しんでいただき、サービスで収益を上げる形です。私は9年前のキーボードが付いた第2世代Kindleを使っています。キーボードが好きなんです(笑)。9年前の製品でもしっかり動いていて、そこで本をずっと読んでいます。Fire TVも同じことです。適正でローコストな価格で提供すること。それが消費者の便益になると考えています」とした。

第2世代のKindleはキーボード付き

ラウシュ氏は、Fire TVの目標として「我々は放送と動画配信(ストリーミング)が異なるものだと理解しています。しかし、私の娘はおそらくその違いを理解していません。Fire TVは、消費者が最もカンタンに望むコンテンツにアクセスできる手段を目指しています」と説明する。

今後のFire TVのハードウェア展開については、「Stay Tune(乞うご期待)」と述べるにとどまったが、方向性としてテレビ画面“以外”での活用の広がりについて言及した。

その一例が自動車メーカーとの連携だ。FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)、PSA(プジョー、シトロエン、オペル)などによるステランティスの車載エンターテインメントへのFire TV機能搭載が決定しており、クルマにFire TVの視聴環境を広げていく。同グループ以外でも、BMWの後部シートにシネマアスペクトの31インチスクリーンを搭載し、社内でシアター体験を実現するなど、“クルマ”には大きな可能性を感じているという。