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アルペンが新宿に旗艦店を出店する狙い。なぜ1階がバスケ?

スポーツ用品販売のアルペンが新宿に、アルペングループ史上最大の旗艦店舗「Alpen TOKYO」を4月1日にオープンした。なぜ今、新宿という大都市に大型店舗を出店するのか? その狙いを聞いた。

新宿の発信力でウィンタースポーツのイメージ払拭

Alpen TOKYOは、地上8階、地下2階の全10フロアからなる大型店舗。場所は西武新宿駅の目の前で、かつてヤマダデンキ LABI新宿東口があった場所だ。住所は新宿区新宿3-23-7。

新宿のような人の流れが多い立地に出店した狙いの1つとして、「リアル店舗だからこその価値の提供」があるという。

「コロナ禍において家で過ごす時間が増え、EC市場も拡大しています。ただ、ECでは商品を自宅で簡単に購入できますが、たくさんの商品の中から自分に合った商品を手に取り、他の商品と比較するといったことはできません。体感型の買い物のほか、リアルなコミュニケーションが生まれるという点も、実店舗ならではの価値と言えます。そういったECにはない価値をリアル店舗で提供することで、勝負できると考えました」

勝負できるとはいっても、家賃水準が高い新宿で、全10フロアの建物丸ごとアルペンというのは、かなり思い切った決断にも思える。

「首都圏は日本で一番大きなマーケットであり、今後もその状況は大きくは変わらないでしょう。当社は郊外中心の店舗展開だったため首都圏でのシェアが低く、また、まだまだウィンタースポーツのイメージを強く持たれています。そこで、発信力の強い新宿に出店することで、アルペンはスポーツ、ゴルフ、アウトドアと幅広いカテゴリーを展開していることを認識していただくことにつながるので、EC事業や既存店に対する波及効果もあると考えています」

1階のバスケットボール用品売場
4階のキャンプ用品売場
7階のゴルフ用品売場

テナントへの出店では、総合スポーツショップは「スポーツデポ」、ゴルフ専門店は「ゴルフ5」として展開しているケースも多い。そこに、スキーやスノーボードのブームを牽引したショップならではの、イメージ払拭の必要性が重なる。

新宿では「Alpen」の名称を前面に出し、その中でスポーツデポ、ゴルフ5、そしてアルペンアウトドアーズを展開していることから、これらすべてがアルペングループであることを新宿で知った人も多いかもしれない。

「Alpen TOKYOは、都心部スポーツ店では類を見ない3,721坪の延床面積を持つ店舗となっています。コロナ禍を経てリアルなコミュニケーションがより求められるようになると考えており、リアル店舗ならではの価値提供によりスポーツの魅力を伝え、『スポーツをもっと身近に』という当社のパーパスを実現させていきたいと思っています」

実店舗と同じ空間を体感「Alpen TOKYO VR STORE」

EC事業や既存店に対する波及効果の話があったが、効果が表れるのを漠然と待つのではなく、Alpen TOKYOをデジタル施策やOMOの拠点として活用するための様々な施策に取り組んでいる。その1つが、店内を完全バーチャル化した「Alpen TOKYO VR STORE」だ。

Alpen TOKYO VR STORE

「Alpen TOKYO VR STOREは、店舗に来店することが難しい方も、リアル店舗と同じ空間をバーチャルで体験できるようにするためにオープンしました。VR店舗として再現された各フロアを歩き回り、どんな商品が売られているかをチェックできますし、商品によってはVR STORE内で紹介動画を見たり、オンラインストアに移動して購入することもできます」

Alpen TOKYO VR STOREでフロアを俯瞰で見た際のビジュアル。赤いポイントの部分は動画、青いポイントの部分はオンラインストアへのリンク、緑のポイントの部分はフロア移動がある
フロア回遊時のビジュアル
動画再生時
オンラインストアへのリンク

オンラインでの“来店体験”を提供するほか、実店舗へのリアルな来店客に対する、オンラインへシームレスにつなぐサービスも提供する。

「持ち帰りが困難な大型の商品や店頭に在庫がない商品なども、ECと連動し店頭で注文することで商品を自宅で受け取ることができます。また、ショーカードに記載されたQRコードから、ECサイトで詳細な商品情報を確認でき、もちろんそのまま注文も可能です」

店頭で商品を見てECで購入するというスタイルは、小売業界で広がってきている。ただし、店頭在庫をなるべく少なくするためにこういったスタイルを採用しているケースも多く、その場合は“持ち帰る”という選択肢を選べない。

Alpen TOKYOの場合は大型店ならではの在庫を確保しており、“持ち帰る”ことも“持ち帰らない”こともできる。購入した商品を持って帰って、すぐに箱を開けて触りたい、というニーズにも応えられる。

「ほかにも、店舗スタッフが実際の商品を着用して、公式オンラインストアの専用ページに投稿したレビューを店頭のサイネージでお伝えするなど、お客様の商品選びに役立つ情報をタイムリーに発信するという活動を行なっています」

トレンドのキャンプやゴルフは上層階で、1階にバスケの理由

スポーツ用品店に限らず、ショップではトレンド商品を入口付近など最も目立つ場所で展開するケースも多い。対してAlpen TOKYOは、コロナ以降に人気が高まっている、アウトドアやキャンプは3階から5階、ゴルフは6階から7階と、上層階で展開している。これにはどういった意図があるのだろうか。

「ゴルフやアウトドアは目的買いのお客様が多いため上層階に設定し、臨場感を感じていただけるような売場にしています。野球やラケットスポーツといった専門性の高いカテゴリーも同様の理由で、これらは地下1階と地下2階です」

ランニングとバスケットボールを1階、サッカーとメンズアパレルを2階としていることにも、しっかりとした理由がある。

「ランニングやアパレル商品はどのスポーツにも汎用性が高いカテゴリーです。またバスケやサッカーなどは球技スポーツの中でもアパレルと親和性が高い。こうした理由から、多くのお客様が回遊していただきやすい1階から3階にこれらを設定しています」

1階のランニング用品売場

バスケやサッカー、専門性が高いという話があったラケットスポーツ(テニス、バドミントン、卓球など)や野球のフロアを見ると、ストレス解消を目的としてスポーツをする趣味層のほか、部活動を行なう学生も含めた日常的にスポーツをしている人をターゲットとしていることが分かる。

「スポーツやゴルフ、アウトドアを趣味として楽しんでいらっしゃる成人の方だけではなく、部活動を行なう学生の皆様にも頻繁にご来店いただけるような専門店を目指しています。そのために加工やアフターサービスも充実し、スタッフも全国の店舗の中でも特に各カテゴリーに精通するスペシャリストを集めています」

地下2階のアフターサービスカウンター

筆者は高校時代は野球部に所属していたのだが、地下2階の野球のフロアに並んだ多彩な商品、例えば数々のグラブを見て触った時、若かりし頃にショップで感じたトキメキを思い出した。

グラブは1つのものをリペアなども繰り返し、大事に育てながら使うので、頻繁に買い替えることはない。しかし、トキメキは別物で、いろいろな物を見ているだけで楽しめる。そのため、頻繁に買替が発生するソックスなど、どこでも買えるものであっても、トキメキを感じられる店に足を運んで買うようになる、つまりリピーターになるわけだ。

地下2階の野球用品売場

「テニス用品売場には有明テニスの森公園テニスコートと同じ『DecoTurf』ハードコートの床材採用、ランニング用品売場には新国立競技場にも採用されたイタリア・モンド社のトラック素材採用、サッカー売場には人工芝とスタジアムのベンチで多数採用されているレカロシート設置など、売場自体にも様々な仕掛けを施しています」

地下1階のテニス用品売場
2階のサッカー用品売場

ニーズやトレンドをとらえるだけではなく、生活の中にスポーツがある人の心をとらえることも重視した戦略といえよう。

初モノづくしのアウトドアフロアとゴルフフロア

トレンドを意識したカテゴリーにも力を入れており、アウトドアとゴルフはそれぞれ2フロア以上で展開する。

「アルペンアウトドアーズでは初となる、ソロキャンプ専用コーナー『SOLO』や、焚火台や難燃グッズ・アパレルを集めた『TAKIBI』を展開します。そのほか既存店舗でも展開している『LIVing』『DINing』などのシーン売場を設置していますが、いずれもアルペンアウトドアーズフラッグシップストア柏店と同等以上の品揃えです。また、アルペンアウトドアーズ初となる『A&F』のブランドコーナーを展開します」

SOLO
TAKIBI
A&Fのブランドコーナー

リアル店舗のメリットを活かした体験提供にも余念がない。

「テント張りを体験できるテント試し張りコーナーを用意しました。新宿店にて取扱いのある約350品番以上のテントがすべてお試しいただけます。また、4つのデジタルサイネージで、テント設営動画を常時放映しています」

ゴルフに関しても、ブランドコーナーやコンセプトショップの“初”展開に注目してほしいという。

「ゴルフ5では、ゴルフアパレルブランドコーナーを設置します。バッグでも有名なBRIEFINGが展開する『ブリーフィングゴルフ』のブランドコーナーは、ゴルフ専門店では国内初となります。また、様々なブランドを取りそろえるTSIのコンセプトショップ「the HOUSE」の展開もゴルフ専門店では初です。さらにアディダスゴルフでは、プラスチックや紙を使わない自然由来の素材を商品から売場環境まで使用した国内初のフラッグシップストア『アディダスゴルフ サステイナビリティコンセプトショップ』を展開します」

ブリーフィングゴルフのブランドコーナー

アルペングループは2021年に新宿南口のFlags内に「初心者専用GOLF5」を出店し、2022年5月末までの期間限定で営業しているが、Alpen TOKYOではゴルフ初心者に限らず幅広いゴルファーに向けたサービスの充実を図る。

「Flagsの店舗では『初心者相談カウンター』を設置し、そのデータをもとに初心者に向けたサービスや品揃えなどを充実させていました。Alpen TOKYOではFlagsの店舗のコンセプトやサービスを移植・発展させ、初心者だけではなく、コア層や中上級者の方にも楽しんでいただけるよう『総合相談カウンター』を設置しました」

Alpen TOKYOの現在と今後の都心部出店

Alpen TOKYOがオープンした後、客足は想定と比べてどのような状況なのだろうか。

「想定を上回る多くのお客様にご来店いただいており、改めて集客力の高さや、お客様のご期待を感じております。一方で、集客の割に売上はまだまだの部分もあります。現状では様子見のお客様も多いと思われますので、売上面は今後に期待できると考えています」

新宿に続く都内への出店も、今後も継続して進めるという。

「4月28日にオープンした亀戸の大型商業施設『カメイドクロック』内にて、スポーツデポ、アルペンアウトドアーズの2店舗を出店しています。今後も、これまで手薄だった都心部への出店を積極的に検討していきます」

スポーツデポ カメイドクロック店
アルペンアウトドアーズ カメイドクロック店

「Alpen TOKYOでは、どのカテゴリーにおいてもスポーツの“ワクワク”を体験、体感していただける店舗になっております。ぜひ一度ご来店いただき、スポーツの魅力を感じてください」