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「デジタルバンク」はネット銀行と何が違うのか。「みんなの銀行」の狙い

「みんなの銀行」が、5月28日にサービス開始した。口座開設からATM入出金、振込など、全てのサービスがスマートフォン上で完結できる、新しい銀行として展開。国内初の「デジタルバンク」を目指すという。

「みんなの銀行」スタート。スマホで振込・支払を完結、5万円立替も

スマホだけで口座開設できるほか、開設とともに、バーチャルデビットカードを発行し、すぐに入金や決済が可能。さらに、使ったお金を管理する「Record」や目的ごとの貯金ができる「Box」などユニークな機能も用意している。ATM手数料の優遇やデビットカード還元率をプラスする月額600円の「プレミアムサービス」も銀行サービスとしてかなり目新しいものだ。

一方、最近は住信SBI銀行やソニー銀行など、ネット銀行も一般的になっている。また、メガバンクも非対面のネットサービスを強化し、使いやすいアプリを提供している銀行も多い。なぜいま“新しい銀行”が必要なのか? 事業推進責任者である、みんなの銀行 代表取締役 副頭取の永吉健一氏に聞いた。

永吉健一副頭取(提供:株式会社みんなの銀行)

なぜいま「みんなの銀行」なのか

みんなの銀行は、ふくおかフィナンシャルグループの子会社として設立。デジタル起点の新しい銀行として展開する。

ターゲットは1981年以降生まれのデジタルネイティブ世代と呼ばれるミレニアル(Y世代/24~38歳)、Z世代(23歳以下)。既存の銀行サービスがカバーできていない世代だが、10年後には日本の生産年齢人口の60%となることから、この世代に向けたゼロベースの新しい銀行を目指すという。

みんなの銀行のターゲットユーザー(提供:みんなの銀行)

しかし、なぜ今新しい銀行が必要なのか?

まずは、世の中のデジタルシフトの潮流が明らかであること。そしてその流れに対する銀行の「危機感」と永吉氏は語る。

福岡銀行の来店客数を例に取ると、この10年間で3割減少し、さらにコロナ禍に入り1割減少。一方で、インターネットバンクは2.4倍増えている。銀行・金融以外の多くの業種でも同じだが、コロナ禍によってデジタルシフトが“加速“している。

もちろん、既存の銀行も手をこまねいているわけではなく、システムやサービスのデジタル化に取り組んでいる。しかし、既存のシステムの改修など、“今動いている”銀行の変化にはある程度長い時間が必要となる。

また銀行の「危機感」は、他の業界から金融サービス参入が続いていることからもたらされている。海外の例を見ても、GAFAなど大手テック企業が金融サービスに手を伸ばしている。また、規制緩和により、電子マネーや〇〇Payなどの決済サービス、後払い(BNPL)などのFintech企業が、これまで銀行が担っていた事業に近い領域を侵食してきている。

そうした“新しい”サービスは、UI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザー体験)のわかりやすさや使いやすさなどで支持されている。そしてその部分は、従来の銀行サービスが劣っていた部分だ。永吉氏は、こうした流れの中で、2030年までの10年で「既存銀行から最大3,500万の顧客が離反する可能性がある」と予測する。

統計上、地方の人口減少は確実で、規制緩和も進み、銀行ではない企業が金融サービスを始めやすい環境にある。「みんなの銀行の設立は、ある意味『時間を買う』こと。時間をかけずにDXするには、ゼロから求められているものを作るほうが、早く安くユーザーにアプローチできる。既存の銀行ビジネスのDXだけでなく、デジタルバンクも一緒にやるという2面のアプローチで、その後者がみんなの銀行」とする。

デジタルネイティブに必要なもの

では、「デジタルネイティブ世代」に求められる銀行サービスとは、どのようなものなのか?

まず、身近な例ではUI/UX。既存のネットバンクサービスのUI/UXが劣っていると認識している人はデジタルネイティブ世代の83%に及ぶ。PayPayなどの決済・Fintechサービスに対し、使いやすいアプリやUI/UXを実現できている銀行は多くない。

みんなの銀行でも、UI/UXをゼロから作り直し、「とにかく使いやすいサービス」を目指す。これはある意味当たり前のアプローチだ。

また、生まれた時からインターネットがある世代の行動として、以下の4点の特徴と分析し、サービスに反映。これらを満たすサービスを「みんなの銀行」の軸に位置づける。

・フリクション(摩擦)レス
・ハイパーパーソナライズ
・成果主義へのシフト
・コミュニティ重視

デジタル時代の行動変容(提供:みんなの銀行)

「フリクションレス」は、とくかく煩わしいことは避けたい。デジタルで簡単にできるようにしたい、ということ。

「ハイパーパーソナライズ」は、「ググればでてくるけど、自分になにがあっているかわからないから提案してほしい」というニーズ。

「成果主義へのシフト」はややわかりにくいが、自分に必要で、価値があれば払うということ。例えば、毎月のサブスクリプションの支払いなど、必要に応じて投資対効果や成果をしっかり判断して、お金を支払う態度のこと。

「コミュニティ」は、個人のつながりを元にしたおすすめ・レコメンドを重視するという姿勢。仕事や遊び、あるいはTwitterやInstagramなど、様々なコミュニティ、アカウントをまたいで活動する中、そのコミュニティ活動ごとに対応できるサービスが必要という考えという。

「フリクションレス」の実例と言えるのが、スマホだけで即日口座開設でき、店に足を運ぶ必要がない“簡単さ”や、実物の財布がなくても困らない、バンキングとウォレットが一体となったサービス。実際に口座を開設してみたが、名前・住所などの入力と、マイナンバーカードなど本人確認書類のビデオ通話での確認を行なうだけで、10分程度で完了。デビットカードも登録できた。

さらに、月額600円の「プレミアムサービス」もそのコンセプトを形にしたものといえる。

通常の口座は無料で利用できるが、プレミアムサービスでは、月額料金を支払うことで、キャッシュバック料率のプラスや手数料の優遇などを受けられる。具体的には、デビットカードキャッシュバック率が5倍の1%となるほか、家計簿アプリ的な「Record」機能の一括更新に対応。また、ATM出金手数料が月15回まで無料、他行への振込手数料が月10回まで無料となる

「コンビニでお金をおろすにしても、手数料が時間によって違うとか、そういうことを考えたくない。そこをフリクションレスにしたい」(永吉氏)とする。また、プレミアムサービスに入っていない場合でも、手数料は1種類で、出金手数料は110円/回、他行あての振込手数料は220円/回とシンプルにしている。ユーザーを「考えさせない」ためのフリクションレスを徹底する一方、価値があるものには対価(この場合は月額費用)を払うというデジタルネイティブ向けのサービス設計となっている。

1300の金融期間のデータを取得できる「Record」
プレミアムサービスの概要

・デビットカードキャッシュバック率1%
・Recordの一括更新が可能に
・ATM出金手数料が月15回まで無料
・他行への振込手数料が月10回まで無料
・最大5万円の当座貸越枠【Cover】を利用可能に

「コミュニティ」を意識した機能が「Box」。貯蓄預金の中に仮想の「ボックス」を作成できる機能で、最大20個のボックスを作成し、Walletからドラッグ&ドロップで操作でお金を移動できる。仕事や趣味などの目的ごとのボックスを管理でき、ソーシャルメディアやアカウントの使い分けのように、お財布を使い分けるイメージとする。また、「毎日積立で100円、月次で1万円」など細かな条件設定での積立にも対応し、自由な貯蓄スタイルを選べるという。

Box

また、スマホでしか使えないという点も、ある意味特徴と言える。

「既存の銀行は誰でも使えるユニバーサルサービスで、社会インフラに近い。それ故に実現できないことがある。一方我々は、“モバイルだけ”でそれ以外からは使えないという割り切り。これは既存の銀行にはできないことで、その上で、銀行の仕組みをリデザインして、圧倒的にUI・UXを高めていく」(永吉氏)。

銀行にしかできない「預金」サービスを磨く

永吉氏は、UX/UIを磨く一方で、「銀行にしかできないこと」こそが重要という。それが、「預金口座」だ。

預金口座は、銀行しか持てないもの。「データの窓口になる。預金口座があり、給与が入って、引き落としなどのデータが入ってくる。それらを与信に、あるいはマーケティングに使う。この預金口座が根源的な銀行の価値で、そこをもっと尖らせていこうというのが我々の考え」とする。

例えば、プレミアムサービスの機能「Cover」は、一定の与信審査はあるが、自動で5万円を「貸越」できるサービス。この与信にデータを活用し、口座残高が足りない場合でも、最大5万円まで立て替えてくれる。

別のサービス、例えばBNPL(後払い)サービスを使う場合、5万円で1,000円程度の利息が必要になるが、Coverでは無利息で借りられ、入金がされると自動で返済が行なわれる形になる。少しお金が足りないから小額のローンを申し込んだり、そのための審査を行なうといったことなしに、「銀行口座だけ」で完結できる。これもフリクション(手間)を減らすためのサービスと位置づける。また、複数の“貯金箱”を持てる「Box」も預金の新しい使い方の提案といえる。

従来の銀行をネット対応した「ネットバンク」に対し、新しい使い方を提案する「デジタルバンク」を目指すみんなの銀行。そのために、業務のオペレーションも再構築し、デジタルであれば不要となるプロセスなどを削ぎ落としていく。システム面もGoogle Cloud Platform(GCP)のクラウド基盤上に構築され、柔軟に変化に対応できるアーキテクチャとしている。

また、将来的には銀行機能を他社ブランドに供給する「BaaS(Banking as a Service)」の展開も想定。みんなの銀行が構築した金融サービスをAPIを通じて、非金融事業者に提供し、パートナー企業が自社ブランドで“銀行”サービスを実現するというもの。

このBaaS展開により、小売やITなど別業界のパートナーが銀行のサービスを自社の顧客に向けて提供できる。例えば、百貨店が発行するクレジットカードの銀行版と考えると、百貨店に金融サービスを提供し、小売店の顧客にみんなの銀行を使ってもらえるだけでなく、口座開設のリアル窓口としても使える可能性が広がる。パートナーと組むことで、「リアル」の新しい顧客接点を作るといった展開も想定される。

みんなの銀行の共感とデジタル

ただし、スタート時点ではスマホ専用の銀行となる。銀行の強みの一つであるリアル拠点を省いたサービスだが、顧客獲得策は「基本的にはデジタルマーケティング」(永吉氏)という。

「SNSやTwitterでブランディングしていく。いかに、デジタルネイティブに共感を呼ぶかが重要」という。

また、逆説的だが「銀行とも思われないサービス」を意識しているという。

例えば、友人にお金を送るため(送金機能)に、口座を作ってもらう。あるいは、貯金箱(Box)やによる家計簿アプリ(Record)的など、一部の機能やサービスをきっかけに使ってもらい、友達やコミュニティのネットワークを活かして、利用者を拡大していきたいという。

ある意味、Webサービスやアプリに近い、顧客獲得手法といえそうだ。また、「友だち紹介プログラム(リファラルプログラム)」も実施。紹介した友だちがみんなの銀行口座を開設することで、紹介する人・紹介された人それぞれに現金1,000円をプレゼントする。

ただ、現時点で「やらない」こともある。例えば「住宅ローン」だ。やらない理由は「ネットで完結できないから」。基本は「ネットで完結するもの」を軸にしていく。ただし、将来的にはローンを収益化の軸に据えて展開し、2023年の黒字化を目指す。開業3年目における目標は、顧客数120万口座、預金残高2,200億円。