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防災の日に考える、地震が起きたらそのときどうする?

9月1日は防災の日。東日本大震災から8年、その間も熊本地震のほか、大小さまざまな地震が発生している。防災についての意識はかつてに比べ高まってきているとは言われているが「ほとんど意識してません……」という人も多いかと思う。ということで、日々、地震や防災に関する情報を発信している日本気象協会に「地震が起きたらどうする?」という基本中の基本についてお話を伺った。

日本気象協会の沼本秀紀さん(手前)と久保智子さん(奥)

お話してくれたのは、日本気象協会 事業本部 メディア・コンシューマ事業部の久保智子さんとの沼本秀紀さん。さっそく「地震が起きたらまずどうしたらいいですか?」とチビッ子の疑問のようなシンプルで初歩的な質問をぶつけてみた。

とにかく「頭を保護」。慌てず冷静に

「自宅や会社など建物内で大地震に遭遇した場合は、とにかく『頭を保護』。姿勢を低くし、落下物に備えるのが鉄則です。机やテーブルなどの下に隠れるのも忘れずに。皆さんが抱いている地震への備えの通りですね」(久保さん)

さらにガラス窓から離れることも覚えておいた方がいいとのこと。割れたガラスで負傷する可能性があるからだ。そして、頭を守ったり、机の下に隠れたりの行動をとるためには“落ち着く”のが何よりも大事。パニックにならないよう、普段から意識していおくことがいざというときに役立つのだそう。

頭を守る時は膝をつく。しゃがむだけや体育座りも良くないとのこと
カバンなどで頭を隠しても良い。基本姿勢は同じ

「屋外にいる場合は電柱や塀、自動販売機などから離れてください。倒れてきたり看板などが落下する場合がありますから。そして揺れが収まるまでは屋内同様に頭を保護する基本姿勢に。近くのビルなどに逃げ込むのはやめておいた方がいいでしょう。建物に亀裂が入っていたりして崩落の危険があるかもしれません」(沼本さん)

また、エレベーター内で地震が起きた場合はすべての階のボタンを押し、とにかく止まった階で降りた方がいいと沼本さん。閉じ込められないようにするのがポイントだ。そして、揺れている最中に“やってはいけないこと”として教えてくれたのは「ガスを止める」行為。

「揺れている最中にガスを止めようとすれば、料理中の油や熱湯をかぶる危険性があります。今は震度5程度以上でガスメーターが自動的にガスを遮断します(東京ガスの場合)。子どもの頃から『地震=ガスを止める』と覚えている方も多いかと思いますが、その必要はありません」(久保さん)

日本気象協会推進「トクする!防災」プロジェクト より

まさに「地震の時はガスを止める」と教えられた世代の人(筆者含む)にとっては目からウロコかもしれない。なお、やはり昔から教えられている「窓やドアを開ける」のは今も昔も正しい行為だそう。揺れによるゆがみで開かなくなってしまう可能性があるからだ。窓やドアを開け、逃げ道を確保して余震に備えるのが正解だ。

東京ガスのガスメーターに付いている、地震等でガスが止まったときの復帰方法。目にしたり、実際に操作したことがある人も多いだろう

「あと、例えばスーパーやコンビニのような場所では、買い物カゴが簡易ヘルメットになります。さらに上着やタオルなどを頭とカゴの間に挟めばクッションになります」(久保さん)

買い物カゴは意外なアドバイスではあったが、その発想がなかったからこそ、決して忘れることはない気がする。やはりいろいろとプロに聞いてみると防災意識が高まる。

揺れが収まったら何をすべきか

とりあえず地震が起きた時は身を守る、頭を守ることが何よりも大切なことがわかったところで、その次に「揺れが収まったら?」を伺う。情報を集めたり、自宅の破損状況などを確認する前に必要なこと。ここにも基本中の基本があった。

「揺れが収まったら靴やスリッパを履いてください。大地震の時は食器などが散乱、割れてしまうので素足は危険です。自宅内を靴で上がることにためらってはいけません。足元を安全にしてから火の元確認、ブレーカーを落とす、備蓄品のチェックなどをします」(久保さん)

ちなみにブレーカーを落とすのは、万が一のガス漏れがあった場合の引火を防ぐため。ブレーカーを落とす前に照明のスイッチなどをONにすると、引火の可能性があるので要注意。当然だが「気持ちを落ち着かせるためにタバコを一服……」なども御法度だ。

「一通り周囲の安全が確認できてから、情報収集に当たってください。携帯ラジオはもちろん、今はスマートフォンで情報収集が可能ですが、ここでひとつ注意点があります。それは行政や気象庁など公の情報に頼ること。SNSなどは細かい情報を得られますが間違い・デマも混ざっている可能性があります」(沼本さん)

災害の時は確かな情報を得るのが鉄則のようだ。もちろん公の情報を確認して、ある程度情報の正誤が判断できると思えばSNSなども活用してOK。事実、東日本大震災の時はSNSなどネットの情報を有効活用した人も多いだろう。要は落ち着いて正しい情報を集めることが大切なのだ。

「地域に密着した情報は市役所などの自治体が発信していますし、電気の安全性が確認できれば、NHKや民放はもちろん、ケーブルテレビなどでローカル情報を収集するのもいいと思います」(久保さん)

避難するときの注意点

では、避難指示が出ているという情報を得た場合はどうするか。つまり逃げる時の注意点は?

「家族の安否が確認できない場合は、ドアにメモを貼ること。どの避難所に向かうか、現在、誰と誰の安否が確認できていないか、などの情報を残します。また逃げる際は持ち出し袋とともに印鑑や通帳などの貴重品と現金(小銭含む)を持っていきましょう」(久保さん)

避難の途中、いざ食糧などを購入できる機会があった場合も、現金(小銭)のみの対応であったり、停電によってクレジットカードなどが使えないケースもある。そのため、紙幣と小銭を用意して持ち出し袋に入れておいた方が良いようだ。そして、基本的には避難したら避難解除されるまで自宅に戻るのは厳禁とのこと。貴重品もあわせて持ち出し袋と一緒に管理することをおすすめする。

「避難するときは歩き慣れた靴、長袖長ズボン(暑くても)、軍手や革手袋をしてください。ケガ防止ですね。避難経路の安全を確認することも忘れずに。もしも行政が指定した避難所にたどり着けない場合は、公園や公民館など安全に避難できる他の避難場所に向かいます。そのためにも事前にハザードマップを確認したり、日頃家族とどこに避難するか、第二、第三の避難場所をどこに設定するか、などの話をしておくといいでしょう」(沼本さん)

日本気象協会推進「トクする!防災」プロジェクト より

「避難場所」と「避難所」の違い

避難場所:大きな公園や広場など、災害が発生または、発生する恐れがある場合にその危険から身を守るため、一時的に避難する場所。(基本的に飲料水や食料などの備蓄はされていない)
避難所:小・中学校など、災害により家に戻れなくなった方が一定の期間滞在するための施設。

つまり、避難時のシミュレーションをしておくことが重要のよう。通勤、通学の行き帰りや買い物、散歩の途中に避難できる場所をチェックしたり、老朽化したブロック塀がある場所などに気を付けておくと、いざという時に役に立つ。

自治体が設置している地域マップでは、広域避難場所などの情報も確認できる

「また、避難指示が出ていなくても避難した方がいいケースもあります。自宅が損傷している場合や、家族に高齢者や乳児がいる場合は『明るいうちに避難』すること。夜間は危険度が高まるからです。各自治体から避難勧告前に避難準備情報がアナウンスされるので、それを目安に行動するといいでしょう。なお、文京区では妊産婦・乳児のみを一時的に受け入れる妊産婦・乳児救護所があります。今後、このような活動が各自治体でも増えていくとうれしいですね」(久保さん)

ちなみに、防災意識が高く多くの備蓄品を準備している人もいるかと思うが、避難するときにそれらを運べるだけ運ぶ、可能な限り持っていこうとするのは止めておいた方がいい。

持ち物が増えれば増えるほど身軽に避難できず危険が伴う。持ち出し袋には数日間家族をまかなえる量を用意する。ペットは基本的には一緒に避難できないが、自治体によっては体制が整っていることもあるので、事前に確認しておくことをおすすめする。

地震が起こる前に備えておくことは?

ハザードマップやペットの避難の可否の確認の話が出たところで、地震が起こる前、日常的に備えておくことをおさらいしたい。具体的には何をしておくと安心なのか。

「持ち出し袋は、セットになっているものも販売されているのでぜひ用意しておいてもらいたい必需品。その中に災害用の笛や鈴など音の出るものを入れてください。万が一閉じ込められた場合は、とにかく音で外部に知らせなければなりません」(久保さん)

笛などがない場合は、極端な話、フライパンや鍋をガンガン叩いて代用してもいいとのこと。ただし、音が出れば何でもいいというものでもない。例えば、自宅が損傷して閉じ込められた場合、壁をドンドンしたくなるがそれによってさらに損傷、崩壊する恐れもある。

「食糧の備蓄は、保存食を用意することも大切ですが、日常生活の中で食糧備蓄をするという考え方(ローリングストック)が主流となってきています。普段から多めに食材、加工品、飲料水などをストックしておき、常に一定量の食糧を備蓄します。そして、たまには備蓄品で1日暮らしてみると、防災意識も高まり消費期限の近い食材も使い切ることができて一石二鳥。防災を少し楽しんでみる感じでいいと思います」(沼本さん)

食料などを一定量に保ちながら、消費と購入を繰り返す。日本気象協会推進「トクする!防災」プロジェクト より

事実、沼本さんはガス、電気、水道のライフラインを止めて備蓄品で生活してみたとのこと。残念ながらお子さんの「温かいものが食べたい」との意見で2日目には断念したそうだが、実際に災害時の生活をしてみることは、考えること以上に大切な経験だったそうだ。

「備蓄ということでは、日本気象協会のホームページで『秋の備蓄前線2019』を公開しています。災害は地震だけではありません。特に近年は大雨による河川の氾濫や浸水害、土砂災害などが頻発しています。9月は台風に加え、秋雨前線などの影響で雨量が増加する可能性がありますので、ぜひこちらで備蓄の確認をしてみてください。各地の気象予報士からのコメントも掲載しています!」(久保さん)

日本気象協会推進「トクする!防災」プロジェクト より

日本は地震の多い国であるが、ここ数年の異常気象で水害も増えている。防災の日は、地震はもちろん気象による災害にも備えて備蓄のこと、避難のこと、災害が起きたらどうするかを家族全員で考えてみてはいかがだろうか。