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停電への備えと注意事項を防災専門ショップに聞く。断水や火事への意識も

「シュアファイヤー」(15,400円から33,200円)

多くの台風が日本に上陸した2019年夏。あらゆる災害に見舞われ、一部のエリアでは長期間の大規模停電に陥った。停電は、地震はもとより、台風、大雪といった気象災害によっても起こりうることを思い知らされた。

停電になると日常では当たり前のように使っていたものが使えなくなり、生活に支障をきたすもの。そこで大規模・広域停電時の対応や必要な備えについて、防災用品専門のセレクトショップ「セイショップ」の平井敬也さんに話を聞いた。

平井敬也さん

停電は様々な被害につながる可能性も

「停電対策」というテーマで取材に臨んだが、平井さんから最初に出た言葉は「停電と断水はセットでなるもの」ということだった。停電というと、明かりが消え、冷蔵庫やテレビなどの家電が使えなくなることだけをイメージしがちだが、台風や地震などで起こる広域停電では断水になる可能性も高いという。

「水道局の水はポンプを使って各家庭に送られています。当然、電気が遮断されるとポンプが動かず送水ができなくなる。これは戸建でもマンションでも同じです。停電しても水は大丈夫、と思っている人も多いと思いますが、大元のところで電気を使っているので断水になる可能性も高いのです」

停電発生後すぐに断水になるのではなく、時間が経ってから断水が発生する場合もあるとのこと。そのため、“水が出ているから大丈夫”ではなく、停電が発生したら水が出るうちに、空いているペットボトルやお風呂に水を貯めておいたほうが良いと教えてくれた。

電気は企業や商店にとっても生命線。携帯電話の基地局でも電気を使っているため電話やインターネットへのアクセスができなくなる可能性があり、レジや自動ドア、冷蔵庫などがストップするためコンビニやスーパーなどへの影響も少なくない。長期化すれば交通、金融機関を含め、社会全体が機能しなくなる。

「停電自体が悪さをするのではなく、停電に伴うシステムのエラーなどで複合的な被害が出てしまうのです。現代生活は電力供給に依存している部分が大きいため、単なる停電といえどもあらゆる災害の可能性を秘めています。電気だけでなく、水も止まるかもしれないとあらかじめ想定して行動することが危機管理の上では重要です」

停電の時、二次被害を防ぐためにするべきことは?

停電になったら、まずは停電の状況を把握することが大切。自分の家だけなのか、近隣の家も電気が消えているのか。近隣も停電しているならば範囲はどこまでか、目視で停電被害を確認。そして電気のコンセントをすべて抜く。これは停電時の基本だ。

「1995年に起こった阪神淡路大震災は直下型で、神戸・淡路という比較的狭い範囲での地震でした。大阪は被害が少なく、電線も地中化していなかったため停電への対応が素早くでき、ほぼ1日で復旧しています。停電の原因がわかり、そこに割く人員を確保できれば今は1、2日で復旧が可能です。しかし、2019年夏、東日本に大きな被害をもたらしたスーパー台風19号のように、土砂崩れによる道路の遮断で人員を派遣できず、原因究明に時間がかかると長期化してしまいます」

停電時はコンセントを抜くだけでなく、避難所に行くなどの外出時にはブレーカーを落とすことも重要だと平井さん。阪神淡路大震災では、電気が復旧した後に起こる「通電火災」という二次被害も起きた。1月の寒い時期に起きた震災だったため暖房器具を使っている家が多かったこと、さらに電気の復旧が早かったことが重なって起きた被害だ。

「震度7の都市型地震だったため、倒壊した家が多かったんです。ですから、自宅を出て避難している人が多かった。そこに電気が復旧。使っていたヒーターに電気が通り、倒れた家財や布団などから火が出る。これが通電火災です。阪神淡路大震災では発災当日の1月17日に206カ所で出火し、その後も複数箇所で火災が発生しています。1週間以上たっても火災が止まらず、社会不安から“誰かが火をつけたのでは?”と疑心暗鬼になった人も多いと聞きます。ブレーカーさえ落としていれば、通電火災も起こらなかったでしょう」

停電発生時にまずやるべきこと

・近隣の状況を見て停電範囲を確認する
・水が出る場合は水を貯める
・電気のコンセントをすべて抜く
・ブレーカーを落とす

日頃から備えておくべき三種の神器

停電による断水を想定すると、基本的な備えは地震の時と変わらない。「食料」「水」「トイレ」は三種の神器。人が生きて行く上で最低限必要なのはこの3つだ。

「スーパー台風19号の時、被災した方から“地震に備えて用意しておいた簡易トイレが役に立った”という声を聞きました。水や食料は不可欠ですが、なかでも大変だったのはトイレだったようです。災害の規模によっては3つの優先順位が違ってきますが、3つすべて用意しておけば安心です。普段の生活と違う行動をとるとストレスになり、そこから体調を崩すことも多いので、この3つは常に備蓄しておくことをおすすめします」

災害用トイレ処理剤「ほっ!トイレ タブレット」(10回分:2,000円、100回分:21,000円)

さらに大規模停電の影響から、都市ガス事業者のガス供給に支障が生じる可能性もある。ガスが止まることも想定して、カセットコンロを持っておくのも備えの1つだ。

「震災後は、熱源を確保するためにカセットコンロがよく売れたという話を聞きます。カセットコンロはいざという時だけでなく、ふだんから卓上コンロとして鍋料理などに使えるので、非常時のためにも持っておくといいでしょう」

光と情報があれば不安の解消に

夜間での停電時、まず必要になるのは明かりだ。暗いと人は不安になるもの。精神的にも実用的にも役に立つ懐中電灯は常に備え、電池も多めに備蓄しておきたい。

「水を入れたペットボトルがあれば、懐中電灯の光だけで部屋全体を明るくできます。ペットボトルの下から懐中電灯の光を当てると光が拡散してランタンのようになるので、ぜひ覚えておいてください。自立しない懐中電灯の場合、グラスなどに入れて立てるとよいでしょう。また、懐中電灯に電池を入れっぱなしにしておくと、いざという時に液漏れなどで点灯しないことがあるので、使わない時は電池を外しておくこと。念のため、懐中電灯は複数本持っておくと安心です」

ラベルを外せばより効果的。自立しない場合はグラスなどに入れて立てる

なおセイショップでは高性能な懐中電灯「シュアファイヤー」を取り扱っているが、一般的な懐中電灯でも十分に役割を果たしてくれるという。

停電時はテレビを観られず、携帯基地局への影響があればスマホも通じない。情報がまったく入ってこなくなるため、現状を把握するためにも電池を電力とするラジオがあると便利。車でラジオを聞くこともできるので、移動手段の確保とあわせ、常にガソリンを満タンにしておくよう心掛けたい。ガソリンスタンドの給油も電力を使っているので、停電時には給油できない可能性もあるからだ。

「さらに、バッテリー類を充電しておくことも大切です。とくに医療機器を使っている方にとって停電は命に関わることなので、バッテリーは常にお持ちになっていると思います。しかし医療機器の場合、バッテリーのコンセントの差し込み口であるインバーター(電気を直流から交流にする変換器)が正弦波インバーターという種類でないと、機器が正常に動作しないケースがあります。ふだん使わないバッテリーを使う場合はご注意ください」

停電時にはモバイルバッテリーが活躍するが、充電されていることが前提
開封して空気に触れると発電するという災害・非常用電池「エイターナス」(65,000円から89,800円)

食料は非常食ではなく、まず冷蔵庫から

停電して断水となると、被災の色が濃くなり、つい非常食に手を伸ばしがちだが食べ物はそれだけではないはず。特に自宅にいる場合は、どの食材から消費すべきか、考えることが重要だ。

「災害対策で非常食を備蓄していると“災害時には非常食を食べなきゃ”と思ってしまう人が多いですが、家には他にも食べる物があるものです。停電すれば当然、冷蔵庫も動かなくなるので、まずは冷蔵庫の中の腐りやすいものから消費しましょう。氷が溶けて庫内が水浸しになる可能性もありますから、その対策も忘れずに。そう考えると日頃からの庫内の整理整頓が大事ですね」

停電時には氷が溶け、水浸しになってしまうこともあるので注意

まずは冷蔵庫の中のものから手をつけ、最後の手段として非常食というのが災害時のセオリーだ。停電の復旧は比較的早いようなので、冷蔵庫の中身も腐ることはないかもしれない。それでも優先順位は冷蔵庫の中が先。長期化に備えて食べる順番を考えるべきだろう。

冬場は大雪も停電の原因になる

「冬は大雪の影響で停電になることもあります。想定以上の雪が積もり、木が倒れて電線を壊したり、風吹によって電線に物が引っかかってショートしたり。大雪による停電の場合は広域になる可能性は少なく、一時的なもので済むと考えられますが備えがあるに越したことはありません。悪天候な上に道路状況も悪化するため、復旧までに時間がかかるかもしれませんから」

停電になると明かりを確保するためにロウソクを用意する人もいるが、ろうそくの明かりは想像以上に暗いもの。この夏の台風でも、停電でロウソクを使っていて火災になった家があると平井さん。火災防止のためにもロウソクは使用は控えるべきだ。

「小火のうちは消せますが、大火になると消火器でも消すことができません。一般的に初期消火が可能なのは天井に火が回るまでとされています。木造建築の場合、出火から2分半ほどで天井に火が回り、プロでも消せなくなるのです。木造一軒家が全焼するまでの平均時間は約20分。それだけ火の回りが早いので、とにかく火の始末に気をつけてください」

どんな災害でも停電は起こりうるもの。停電により水やガスが止まり、電話が使えなくなり、車が使えなくなり……と考えると、備えはどんな災害でも変わらないと平井さん。停電をはじめとする災害は、一度経験したことを自分の中に落とし込むのも大切なこと。知っていると、できることも心構えも変わってくる。経験がない人は物だけではなく過去の事例の情報を得るようにし、経験がある人はその時のことを思い出し、適切な対応を心がけて欲しい。

セイショップ(東京都千代田区四番町8-13 吉野ビル1F)