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「eKYC」ってなんだ? メルペイやLINE Payも対応した“本人確認”の進歩

決済やFintech関連の取材で、最近「eKYC」というキーワードがよく出てくるようになった。メルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」が4月に、「LINE Pay」も5月から新たな本人確認手段としてeKYCを導入した。eKYCとは何か、そして利用者にどんなメリットがあるのだろうか。

eKYCとはなにか。「本人確認」を電子化でスピーディに

eKYCは、「electronic Know Your Customer」の略称。KYCは銀行口座開設などで必要な本人確認手続きの総称を指し、これを“電子的”に行なう仕組みが「eKYC」だ。KYCで必要な本人確認をオンラインで行なうことを指しており、すべてオンラインで完結するというのがポイントだ。

これまでは、例えば銀行口座開設に際して、オンラインで申請できても、本人確認書類の写しを郵送して、銀行側が本物かどうか、正しく本人のものかを確認した上で、申請者の住所に転送不要郵便や本人限定郵便で書類を送ることで本人確認を行なっていた。

しかし、この手法だとどうしてもタイムラグが発生してしまう。本人確認をするのに数日~10日間といった日数がかかってしまい、それだけ利用開始のタイミングが遅くなってしまう。特にスマートフォンにアプリをダウンロードして利用できる決済サービスでは、その数日間というタイムラグでユーザーの利用熱が冷めてしまう懸念もある。

日本政府もFinTechの拡大を企図しており、この本人確認のスピードアップを狙った施策を打ち出そうとしていた。その結果、2017年の「未来投資戦略2017」では本人確認書類の郵送など手続きが煩雑なKYCの仕組みをオンライン化することが検討された。その後、2018年の「未来投資戦略2018」で、eKYCの導入に向けた法改正などが決定した。

日本でKYCの仕組みを規定しているのは「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」だ。未来投資戦略2018の意向を受けて、犯罪収益移転防止法施行規則の一部を改正する命令が昨年11月に公表され、「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法」が追加された。

これがeKYCの根拠となり、金融機関の口座開設などで本人確認書類の郵送などの手続きなしで、オンラインだけで本人確認が行なえるようになった。

今回の改正では、本人確認方法としていくつかの手法が提示されており、例えば本人の顔の画像を撮影し、さらに氏名、住所、生年月日が記載された写真付き本人確認書類も撮影して送信する。この時、本人が確かに確認でき、本人確認書類の厚みなども同時に確認できるように撮影したデータが求められている。

オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法(出典:金融庁)

事業者が提供したアプリなどで、撮影から送信までが利用でき、途中で改変、改ざん、事前撮影した動画像の読み込みなどができない仕組みが指定されている。さらに、送信されたデータは事業者による目視確認が必要だ。

そのため、eKYCにいち早く対応したメルペイやLINE Payでは、メルカリアプリやLINEアプリ内で複数の撮影を行なって送信し、それを受け取って本人確認をした結果を返信する、という仕組みを構築した。

メルカリでは数時間、LINE Payでは最短で数分で確認が完了する、としている。

LINE PayのeKYCのフロー

eKYCはなんのため? メルペイの狙いは「あと払い」

いち早くeKYCを導入したメルペイは、2018年の夏前頃から興味を持って政府の動向をチェックしていたという。すでに海外ではeKYCを導入している国もあり、どういった手法でeKYCを実現できるか、調査を続けてきた。

昨年11月30日の施行規則改正にともなって具体的な検討を開始。2019年4月23日に提供開始されたのが「アプリでかんたん本人確認」だ。

「早い段階でチャレンジしたかった」と話すのはメルペイのプロダクトマネージャーであるラートサムルアイパン・カンウィパー氏。その結果、いち早くeKYC対応を果たしたことになる。早期に導入してユーザーの利便性を高めるだけでなく、安心安全のeKYCを実現することにも注力したという。

メルペイ クレジットデザインの石川佑樹氏(左)とプロダクトマネージャーであるラートサムルアイパン・カンウィパー氏(右)

「アプリでかんたん本人確認」の場合、スマートフォンのカメラで利用者の顔と本人確認書類を同時に撮影し、画面の指示に従って動きを加えることで、本人が撮影していることを担保している。まばたきする、顔を傾けるなど、表現も工夫し、ストレスなく撮影できるようにUXを工夫したのだという。

メルペイ「アプリでかんたん本人確認」の撮影方法の紹介

メルペイが注力したのは、「ユーザー体験のよさ」(カンウィパー氏)という点だ。最大限の顧客体験を実現しつつ、分かりやすく、なおかつ不正ができないという点も必要で、そうした点にさまざまな部署と連携しながら作り上げてきたそうだ。

本人確認書類と本人をカメラで同時に撮影することで、本人が撮影していることを担保

対応するのは運転免許証と在留カード。マイナンバーカードやパスポートには対応していないが、まずは利用者が多いカード型から対応を開始したそうだ。今後他の本人確認書類にも対応していく考え。

ただし、UXについては「改善の余地はまだある」と話すのはメルペイ クレジットデザインの石川佑樹氏。実装されたばかりのアプリでかんたん本人確認の仕組みも、利用者の反応などを見ながら改善していくという。

それでも、このeKYCの導入で利用者の反応は良好のようだ。

本人確認自体は銀行口座への接続をすることで代用できる(銀行口座開設で本人確認がされている)ため、銀行口座を持っていてメルペイと連携させれば、新たに行なう必要はない。それでも、銀行口座を接続することに抵抗のある人もいるため、eKYCで本人確認する人はそれなりの割合でいるそうだ。

具体的な人数はメルペイも明らかにしていないが、LINE Payではキャンペーンの影響もあって利用者が殺到して一時確認を停止するほどだった。

eKYCのメリットは、利便性と手軽さを両立できることだ。

事業者側にとってはアプリの開発、システム構築、なりすましなどを防ぐ対策など、さまざまな準備は必要となる。利用者側も、単に写真を撮って送ればいいというものではなく、本人確認書類がきちんと判別でき、本人がなりすましでないことを明確に示せるように撮影しなければならず、多少の手間はかかる。

それでも、今までクレジットカードを持たず、銀行接続も手間などの問題で避けていた人が、eKYCで気軽に本人確認できるようになれば、利用者の拡大に繋がる。eKYCを選ぶ人は、メルペイを使いたいが他の手段を選びたくなかった人も多く、比較的利用意向が強いことから、「(メルペイ利用の)単価、頻度などの数値が想定以上」(石川氏)だという。

eKYCはメルペイとLINE Payの導入で話題となったが、金融機関をはじめさまざまな業種で利用できる本人確認手段だ。メルペイでも、2017年6月から提供してきた「メルカリ月イチ払い」をリニューアルし、eKYCに合わせて「メルペイあと払い」を開始している。

メルペイあと払い

eKYCの本人確認を組み合わせることで、銀行接続やクレジットカード登録をしなくても、利用者によってそれぞれ個別の与信枠で「あと払い」機能を提供できるようになった。メルペイでも利用できるため、翌月にまとめて支払えるほか、残高をチャージすることなく、与信枠まで店頭などでの支払いにも使える点がメリットだ。

こうした機能もあって、都度チャージが必要な銀行・クレジットカードの代わりにあと払いを使う人も予想以上に多いという。14日からスタートした「半額相当還元キャンペーン」は、この「あと払い」が対象。メルペイでも新たな支払手段として積極的に推していくようだ。

LINEでも今後の金融サービスなどでeKYCを活用するとしている。スピーディに気軽に利用できる本人確認手段として、eKYCはさらに広まっていきそうだ。