鈴木淳也のPay Attention

第22回

なぜいま「セミセルフレジ」なのか。省力化と日本の事情

最近すき家の一部店舗での導入が進んでいるセミセルフレジ

先日、チェーンレストランの「すき家」で導入が始まっている自動精算機について、「飲食において、お金を受け渡すことこそ一番大事な行為のはずなのに」と導入の経緯に苦言を呈する投稿がTwitter上で話題になった。

筆者の把握する限り自動精算機を導入する飲食店の数は増えており、例えばファミリーレストランでは高級路線で知られる「ロイヤルホスト」においては店員による伝票入力後の精算処理において少なくともその一部を客に任せるという、いわゆる「セミセルフ」方式のレジを導入している。

ロイヤルホストのセミセルフレジ。ポイントとカード処理のみ店員が行なう(IC未対応のため)

実はこのセミセルフレジ、2019年に入って急速に普及を進めており、3月に東京ビッグサイトで開催された「リテールテック」の展示会でも大量の関連出展が行なわれたことを紹介した

なぜいまセルフレジ、それも商品入力ではなく精算部分のみをセルフにする「セミセルフ」なのか、その背景と狙いについてまとめる。

セミセルフレジ導入は飲食店特有の事情があった

どういうところでセミセルフレジの導入が進んでいるのか、リテールテックで紹介されていた事例を追いかけるのが分かりやすい。

同展示会のエプソンブースでは4種類の導入事例が紹介されていた。1つはパン屋での事例で、商品入力や梱包はすべて店員が行うものの、現金精算のときのみ客がセルフで処理する仕組みだ。写真の説明文を見ればわかるように、「最後まで店員が現金に触れない」ことが重要な点となる。

現金は誰がどのように扱ったかがわからないもので、衛生的には“汚い”ものだと考えていい。現金の授受を食品に直接触れている店員が行なった場合、会計と食事の用意の合間に手を洗ったり、消毒したりの作業が発生して非効率だ。ならば衛生面からも最後まで現金に触れない選択肢ということでセミセルフが登場する。

リテールテックでの事例の1つ。パン屋でのセミセルフによる精算システム

パン屋の場合は商品を持ち運ぶのは客の役目だが、飲食店の場合は店員の作業も多くセミセルフは一定の効果がある。

またセミセルフでなくても自動精算機を導入する飲食店は多い。衛生面というよりも会計ミスをなくすという側面が大きいかもしれないが、なによりレジ締め業務が効率化される点が一番の効果だと考える。

昨今、繁忙ではない時間帯の人員を減らすことが多く、冒頭にも登場したすき家では一時期「ワンオペ」という深夜時間帯に店員1人ですべてを切り盛りする業態が社会問題化された。ブラック労働というよりも、強盗のような安全保障面での問題の方が大きいと思うが、自動精算機の導入はこうした短絡的な犯罪を一定程度防ぐ効果があると考える。

またワンオペについても、今後労働人口が減少して労働単価が高くなるにつれ、「導入やむなし」というケースも増えるだろう。実際、労働者の時給が非常に高いと思われる北欧などではワンオペの飲食店やスーパーなどは珍しくなく、遠からず日本でも似たような状況が再現されると筆者は考えている。

会計の回転効率を上げるセミセルフレジ

最近セミセルフレジを導入するスーパーを見かけるが、商品入力のみを店員が行ない、精算はレジ待ち行列の先にある自動精算機コーナーで行なうという流れになっている。

このメリットは分かりやすく、商品入力と精算部分を分けることで客の滞留をなくし、会計処理のスピードアップを図れる。場合によっては自動精算機コーナーがレジ1つあたりに複数あり、同時に複数の客が精算できるようになっていたりするが、店員1人が1人の客にかかりきりになるよりも、同時に複数こなした方がレジ待ちの時間が全体で少なくなり、特に夕方などの混雑時の客のストレス軽減にもつながる。

東急ハンズのセミセルフレジの事例
こちらはドラッグストアの事例

このほか、モバイル端末で注文するモバイルオーダーの現金精算部分をセミセルフレジのPOSに組み込み、業務効率化を図りつつ、顧客の利便性向上も狙う仕組みも紹介されていた。

モバイルオーダーをPOSに組み込み、現金精算部分をセミセルフにした事例

ただ、こうしたセミセルフの導入が進んでいるのは日本特有の事情という話もある。例えば日本NCRはリテールテックで「セミセルフとしても利用できる」という触れ込みでセルフレジを紹介していたが、同社は米国の小売展示会では「時間帯によって通常の店員つきレジとセルフレジを切り替えて利用できるリバーシブルなPOSレジ」を展示していたりと、あくまでセルフレジを主体としたプッシュを行なっている。

なぜ「セミセルフレジなのか?」という疑問をぶつけたところ、「日本では客がセルフの利用に不慣れで、回転率を上げるためにも商品入力の部分は店員に任せ、精算処理だけ客に割り振りたいという要望が強い」という回答だった。ある意味でクレカのIC処理での議論に近い話ではあるが、“たられば論”でシステム面での自由度を奪ってしまっている気がしないでもない。

NRCのセルフレジ。セミセルフレジとしての組み込みも可能で、これは顧客の要望によるものだという

実際、日本のセルフレジでは左右で商品の移動を重量計測して不正を検知していたりするが、欧米やアジアなど海外のセルフレジではそうした仕組みはなく、不正検知としてはカメラで常時記録を取っていたり、あるいは最近のAIの仕組みを利用して不正な挙動を感知してアラートを出したりといった具合に、客に対して厳密な動作をあまり求めない傾向がある。

これはQRコードやバーコードを使ったスマホ(アプリ)決済の普及以降、急速にセルフレジが増えた中国でも顕著で、むしろテクノロジーは客の利便性を活かしつつその動作を補助する形で用いられている。日本ではあまり客を信用していないとも感じる。

労働人口減少が続くなかで

これはセミセルフの話ではないが、最近セルフレジ以外でも自動精算機が店舗に導入されるケースが増えている背景に、外国人労働者の増加があるという興味深い話題がある。ローソンでは大型ディスプレイを店員と客の両面に表示する新型POSへの入れ替えが今年完了したが、ここで自動精算機の一斉導入が行なわれた。セルフレジだけでなく通常のカウンター側にも設置されている点が特徴だが、同社がその狙いの1つとして挙げているのが外国人店員への対応だという。

実はローソンのPOSレジは多言語対応しており、客ではなく店員側のディスプレイが複数言語の表示に対応している。外国人店員は日本の現金の扱いに不慣れであることも多く、間違いなく素早く会計処理を行なえるようにするため、POSにソフトウェア上の工夫を加えつつ、自動精算機を組み合わせて効率を上げている。

今後労働人口減少を見据えて「夜間無人店舗」のような実験も行なっているローソンだが、特に今後外国人店員がさらに増えることも見越したうえでの仕掛けとなる。キャッシュレスが進む一方で、現金自動精算機の需要はさらに増えるという面白い現象だが、これもまた日本が抱える問題を反映した結果というわけだ。

ローソンのセルフレジにおける現金自動精算機。この自動精算機が一斉導入された背景に外国人労働者増加がある

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)