小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第23回

人に会えない。「刺激レス」という大問題

東京から離れて…… ストレスと向き合う

最近体調が悪いというわけではないのだが、仕事の効率が落ちているのを感じるようになった。これまであまり深刻に気にしないようにしてきたのだが、やはりきちんと向き合わなければならない時が来たようだ。

一言で言えば、「刺激レス」とでも言おうか。

故郷の宮崎に転居するまでは、文化的にも経済的にも中心地である首都圏で、日本で得られる最高の刺激の中に居た事になる。一方で地方にいても、iPhone発売における銀座Apple Storeの盛況ぶりや、ハロウィンにおける渋谷のバカ騒ぎは、ネットやテレビといったメディアを通じ、「情報」という形でリアルタイムにもたらされる。

混雑が嫌いなので、首都圏住みの頃もわざわざそうした喧噪を見に行くことはなかった。だが行こうと思えばいつでも行ける距離感によって、情報の温度が上がる。自分もその一員である感覚が得られていた。

地方にいても、飛行機に乗れば1時間半で羽田だ。物理的に行けない場所ではない。

だが相当思い切らなければ行けないのも事実だ。そうなると、情報に対する温度が下がる。

今回そんな思いを改めて実感したのが、iPhone 12シリーズの発売だった。職業柄、日本で一番売れるスマートフォンへの感心は当然高くなければならないのだが、予約した! 開封の儀! といった情報を見ても、流れに乗れていない自分がいる。みんなが追い越し車線を颯爽と飛ばしている中、1人で左車線を制限速度で走っているような気持ちになってしまう。

何かの機会に同業者と会えるのは、予想外に重要なのだと思う。コロナ以前の話だが、首都圏にいる頃はメーカーの発表会や新製品説明会などで、ライター仲間や編集者と顔を合わせる機会が多かった。

そこで自分のカバー範囲以外の情報を手に入れたり、新しい仕事のチャンスを拾ったりと、なにかしら得るものがあった。いや、そんな損得勘定だけでなく、単に共通の話題で雑談したり、飲みに誘われたりするだけで、かなりの気晴らしになっていた。

だがそれも、機会を失ってはじめて気づく事である。

現在筆者の周りは、同業者がゼロなのに加え、マンション住まいでは近所付き合いもない。さらに言えば、学校行事もほとんどが保護者の参観が不可なので、保護者同士で仲良くなる機会もない。他者との付き合いは、時には煩わしいと感じることもあるが、まったくなしだと気分が変わらず、息が詰まる。

おそらく首都圏に住むサラリーマンで、もう数カ月リモートワークを強いられている方にとっては、このあたりはとっくに通ってきた道だろう。だが東京の仕事を連れて帰った地方移住者にとっては、コロナとは関係なく、いつかはこうした孤立感と向き合わざるを得なくなる。

「家で仕事が好き」だけど刺激を求めて外に出る

元々筆者は、家で仕事をするのが好きなタイプである。発表会のはしごなど外出の用事が重なった場合はモバイルで仕事することもあったが、家じゃないと身が入らないのだ。

だが今は家にいるから煮詰まるので、仕事を外に持ち出してみることにした。

まずは近くのTully's(タリーズコーヒー)に出かけてみた。入り口付近の籐製の椅子に陣取ってはみたものの、周囲に仕事している人がゼロなので、どうにもやりにくい。東京ではStarbucksやタリーズで仕事をするのも珍しくないが、地方では周りは休憩している人ばかりなので、そこでカチャカチャ仕事するのはどうにも場違いな気がして、小一時間で退散することとなった。単に家から近いからという理由で選んだのがダメだったようだ。

街中なら少しは違うだろうということで、今度は繁華街にあるコワーキングスペースに出かけていった。車で15分ぐらいの距離である。細い路地を入ったところにある飲食店の2階3階がオフィス仕様になっており、1階の飲食店でドリンク1杯買うと2時間まで無料で利用できる。とはいえ、誰かスタッフが常駐して時間を計ったりしているわけではないので、事実上は使い放題というユルさである。

繁華街にあるコワーキングスペース

椅子が硬いのが難点だが、周りの人がちゃんと仕事しているので、つられて仕事に集中できるのは大きかった。数時間で勝負できる仕事なら、こういうところに出かけるのもアリだろう。駐車場代と合わせると、利用料は1回1,000円といったところである。

コワーキングスペースこんな感じだったよ、と妻に話したところ、天気がいいなら屋外で仕事したらいいんじゃないの、と言われ、近所のショッピングモールにある穴場を紹介してもらった。なんと2階のフードコートの外にあるテラス席だ。

なぜかいつ行っても誰もいないんだそうである。敷地が広大なので、このスペースの存在に気がついていない人も多いのだろう。

こんなに広い空間がほとんど知られていない

ミスドでドーナッツを買って陣取ったのだが、2時間ぐらい経っても誰もやってこない。宮崎は陽が出ればまだまだ屋外でも十分OKなので、開放感もあり、快適だった。

孤独が問題なら人が大勢いる場所がいいのかと思ったのだが、仕事に対して気持ちが入るかどうかは、そういう事とは関係ないようだ。むしろ多すぎない適度な刺激があり、ちょっと仕事に飽きたときにすぐリフレッシュできる環境であることが重要なのかもしれない。

もう一つ、まったく別の観点から仕事が捗る穴場を見つけた。

これは特に夜がお勧めなのだが、駐車場に駐めた車の中である。そこそこ椅子がいいのに加え、一人しかしない閉鎖空間、オーディオ環境も充実ということで、落ち着いて考え事もできる。

これから寒くなるのが不安要素ではあるが、ヒーターベストなどを着込めばエンジンをかけなくても、11月半ばぐらいまでは行けるのではないだろうか。このへんは寒さが厳しくない、宮崎ならではの特典だろう。

新しい生活様式の中で、閉塞感や孤立感を感じている人は少なくないはずだ。都会と地方では事情が違うものの、人と会えないストレスは同じはずである。環境を変えるだけでもある程度は解決できることはわかったが、それは本来の問題解決ではなく、代替行為によって目をそらしただけである。

コロナ禍以降、顔を合わせ集まることは、「避けるべきこと」とされてきた。そんな中、リスクを承知で「集まる」ことを選ぶ人たちもいるわけだが、今後は無条件にそれが誤りであるとも言えなくなっていくのではないだろうか。孤独・孤立によるストレスの解消は、人と会うしかないのである。

こんな時だからこそ、相手の気持ちや事情を思いやる姿勢は失わないように気をつけていきたいところだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。