小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第2回

埼玉→宮崎 年度末引っ越し大作戦

あらすじ

首都圏での37年の生活を終え、故郷宮崎へ帰ることを決めた小寺信良氏(詳しくは第1回)。「いざ宮崎」の前に、立ちはだかるのはいわゆる“引っ越し難民”問題。想定の倍の見積もりを見た小寺氏がとった行動とは……

予想外の金額

3月末というのは、移動の季節である。社会人でも移動がそこそこあるのに加え、高校を卒業した子供たちが進学のために大量に移動するのもこのタイミングだ。したがってこの時期、引っ越し業者の争奪戦が起こる。

もちろん業者もこの時期には繁忙期ゆえに、料金も値上げする。筆者の友人は3月29日に都内移動、2トン車1台ぶんの引っ越しで、21万円の見積もりであったという。埼玉から宮崎までとなれば、いくらになることやら。

繁忙期は3月20日以降という情報を聴いて、2月のうちに3月17日あたりで単身者向けの引っ越しプランで数社に見積もりを取ったところ、ほとんどの業者は訪問見積もりでなければ金額が出せないという。ある業者はWEBで見積もりが取れるので試してみたところ、単身赴任程度の荷物量で19万円という見積もりが出た。

娘の着替え文房具その他と、最低限暮らせる程度の食器とモバイル仕事ができる程度の機器、あとは現地調達のつもりで荷物を減らしたので、7万円ぐらいで行けると思っていたら、2倍どころではない金額になりそうだ。

例年このシーズンの引っ越し料金の高さは話題になるところだが、今年は特に以下の2つの問題で、運送業者のキャパシティが不足すると予想されるという。1つは、宅配大手のヤマトが、今年1月に出された業務改善命令を受けた改善措置のため、引っ越しサービスの受注をすべて停止している事だ。

2つめは、レオパレス21の施工不良問題により、他者管理物件まで含め1万4,000人を超える入居者が3月末までの引っ越しを余儀なくされている事だ。ちょうど年度末にこの2つの問題が重なったことで、今年は例年以上に過酷な引っ越しが予想された。

そこで方針をガラッと変更した。どのみち最小限の荷物を送るだけなので、ダンボールに梱包し、普通の宅配便で送るという作戦に出た。宅配業者は色々あるが、普段使っていて事業所が近くにあるクロネコヤマトに絞って、この方法を検討してみることにした。

混沌のクロネコメンバー割BIG

クロネコヤマトでは、専用プリペイドカードで支払いをすると10%OFFとなる、「クロネコメンバー割」という制度がある。普段から宅急便利用が多い筆者はかねてよりメンバー割を利用してきたが、調べてみるとさらに割引が大きい「クロネコメンバー割BIG」という支払い方法があることがわかった。クロネコメンバー割が最低チャージ料金5,000円からなのに対し、クロネコメンバー割BIGでは最低チャージ料金が50,000円だ。その代わり割引率が15%になる。

さらに複数の荷物をまとめておくる「複数口」という方法を使えば、1個につき100円引きとなる「複数口減額制度」も使える事がわかった。まだこの段階では具体的に引っ越し準備は始めていなかったが、ダンボール箱30個ぐらいのつもりで計算してみると、だいたい50,000円以内で送れるはずだ。それなら最低50,000円のチャージが必要なクロネコメンバー割BIGを使っても、割に合う。

上がクロネコメンバー割BIGカード。若干色が違う

調べてみると、クロネコメンバー割BIGは、通常のクロネコメンバー割とは別のプリペイドカードが必要なようだ。そこでコールセンターに問い合わせてみたのだが、あまり利用者がいないのか、案内が非常に混乱した。

最初に出たオペレータが言うには、クロネコメンバー割とクロネコメンバー割BIGは同時には持てないので、いったんクロネコメンバー割にチャージされている金額を全部使い切って、クロネコメンバーズを解約し、その後改めてクロネコメンバー割BIGカードを取得するためのメンバーズ加入手続きになる、という事だった。

そこで別の案件で送る必要があった荷物の際にクロネコメンバー割のチャージ金額を全部使い、残高をゼロにした上でコールセンターに再び連絡。すると2人目のオペレータが言うには、1つのクロネコメンバーズのアカウントに対して、2枚のプリペイドカードが登録できると。したがって1つのアカウントでクロネコメンバー割と、クロネコメンバー割BIGの2枚のカードが持てるという。ただし即日発行するには、ヤマト運輸直営店にカードの在庫があれば、という事であった。

なーんだ、というわけで近くの直営店に電話し、カードの在庫があることを確認。手続きに赴くと、さらにドンデン返しが待っていた。たしかに仕組み上は1つのアカウントに対して2枚のカードが持てるが、直営店に置かれているタブレット端末「ネコピット」には、すでにあるアカウントに追加してもう1枚カードを発行するメニューがないというのだ。

じゃあどうするんだ、となったわけだが、新規加入なら即時発行でカードが作れるという事だったので、妻の名義でクロネコメンバー割BIGを登録、即時発行となった。現代のようにサービスが複雑になると、そもそも電話対応では埒があかない事が多くなっているのかもしれない。やはり対面の現場で話を進めるのが手っ取り早い。

引っ越し費用5万円を目指す

クロネコメンバー割BIGのカードも作り、5万円をチャージして、3月17日あたりにダンボールを30個ぐらい出したい、とリクエストしたところ、ドライバーから難色を示された。相談したのは3月8日だったが、いっぺんに30個は集荷できないという。それなら1週間かけて小出しに5個ぐらい出すのではどうか、と提案したところ、それぐらいなら普通なので大丈夫との事であった。

こちらとしても、いっぺんに荷造りしなくても済むので都合がいい。複数口は1度に最大5個まで送れるので、3月11日から15日にかけて毎日5個ずつ、加えて宅急便では送れないサイズの40インチテレビとロードバイクのフレーム部を「ヤマト便」というサービスを使って2個、合計27個出した。週明けに追加で7個出し、合計34個となった。

届け日はすべて同じでいいという。届ける側の事業所は大変だと思うが、あらかじめ荷物が届いている分には問題ないらしい。金額は、しめて54,200円となった。19万円が5万円台まで圧縮、さらに希望日にちゃんと届くわけだから、大したものである。

ニンゲンの移動日は、3月19日であった。宮崎空港には2017年からLCCであるジェットスターが就航したため、荷物が少なければ座席指定などを含めても1人7,000円程度で移動できる。今回は預け荷物の重量を増やしたこともあり、1人10,000円越えとなったが、それでも一般の航空会社を利用するより安い。

宮崎県で最も地価の高い橘通3丁目交差点

転居先のアパートで待機していると、夜7時ぐらいに電話があり、今から行くと。待っていると15分ほどで荷物が到着した。2人がかりで前週に出した27個がドカドカと搬入された。翌日には追加の7個も到着した。

荷物到着の翌日。お気に入りの椅子も分解してダンボールで運んだ

実家には、以前両親が使っていた家電製品や机、椅子などが余っているという事だったので、レンタカーで2トン車を借り、自分たちで運搬した。新居と実家は、車で5分の距離である。2回の運搬で必要なものはだいたい揃った。

実家に余っていた椅子、テーブル、布団類をレンタカーで運搬

今回の引っ越しは、ダンボールに入らない大物は全部置いてきたので、宅急便だけで可能だった。特に難易度が高かったのが、分解しても小さくならない40インチのテレビだった。これは幸いにして43インチのテレビを購入したばかりの友人から空き箱を譲って貰ったので、ぴったりの箱に入れて運ぶ事ができたのは幸いであった。内部の梱包材もそのまま使えた。

新居初の夕飯は、地元の刺身とワイン。食器類がなく、まだ紙皿だ

実は引っ越しをするのは10年ぶりなのだが、今回の経験で引っ越しのスキルはだいぶ上がったような気がする。これだけ長距離の引っ越しになると、大きな家具類は売り払って、転居先で必要になったときに新しいものを買ったほうが、トータルの引っ越し費用は圧縮できる。混乱の3月期に、これだけ安価に引っ越しができたのは、貴重な経験だと思う。皆さんにも何かの参考になれば幸いである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。