石野純也のモバイル通信SE
第87回
センチメートル波がほしいソフトバンク 6Gに向けた有効性をアピール
2025年11月26日 08:20
4Gより高い周波数帯のSub 6が整備され、特に都市部では5Gならではの高速エリアが広がっているが、6G時代に入る2030年代には、それでもキャパシティが不足する状況が見え始めている。
前回の連載で取り上げたように、KDDIはこの対策の一環として帯域幅の広いミリ波に着目。中継器を使うなどして、エリアを広げようとしている。帯域不足の悩みを抱えるのは、ソフトバンクも同じだ。
29年、30年には5Gネットワーク飽和 ソフトバンクの対策
ソフトバンクが11月19日に開催したイベントで講演したノキアソリューションズ&ネットワークスの執行役員 ストラテジー&テクノロジー 技術戦略本部長 高岡晴生氏は「29年、30年あたりで完全にネットワークが飽和状態になり、5Gのネットワークでは収容ができなくなる。(ノキアでは)新しい周波数の獲得が必須になるとみている」と語る。
ノキアのトラフィック予想では、30年代に5Gのキャパシティが不足し始めるという
こうした中、ソフトバンクは6Gで利用する周波数帯として、センチメートル波とも呼ばれる7GHzを取り上げ、その携帯電話への割り当てを要望している。6Gでは、ミリ波よりもさらに高いサブテラヘルツ波やテラヘルツ波を活用する方針もあり、ソフトバンク自身も無線の実証実験を進めているが、やはりその周波数上、非常に直進性が高く、基地局として実装するハードルが上がる。
ソフトバンク先端技術研究所 先端無線統括部 6G準備室 室長の矢吹歩氏は、「サブテラヘルツ波は周波数が高すぎるというところや、デバイスが成熟してこないところがあり、世界的には『FR3』と呼ばれるセンチメートル波が注目されている」と語る。7GHz帯は、現行のSub 6である3.7GHz帯や4.5GHzに比較的近く、キャリアが5Gで培ってきたノウハウを生かしやすい。
「周波数がSub 6に近いことで、これまでの5Gと同等に使えるのではないか」と期待されているというわけだ。
また、「ミッドバンドの中で連続した広い周波数が取れる」(矢吹氏)のも、この周波数帯の魅力だ。5Gで定義されている6.4GHz帯から7.1GHz帯と連続して、合計2GHz幅もの帯域を確保できるため、キャパシティは十分。現行のミリ波並みとまではいかないものの、割り当て方によっては近いレベルにすることは可能だ。
ただ、低い周波数帯と言っても、それはあくまでサブテラヘルツ波などと比べた時の話。ケタは同じでも、現行のSub 6で使われている3.7GHz帯や4.5GHz帯より数値は高い。そのため、「7GHz帯と3.5GHz帯の見通しでの伝搬損失を計算すると、大体6dBの差が出てくる」(矢吹氏)という。やはり、周波数が高いぶん、遠くまで届きにくくなる特性がある。
一方で、3.5GHzとの比較だと7GHz帯はちょうど周波数が2倍になるため、「アンテナサイズは半分にできる。面積を同じにすれば、アンテナ素子が縦横それぞれ2倍になるので、4倍を収容できる」メリットがある。Massive MIMOのアンテナ素子を増やし、「アンテナ利得を上げることで、見通しの伝搬での損失を補完できる」というのがソフトバンクの見立てだ。
6Gに向けた有効性を確認
イベントでは、その検証結果も報告された。検証は銀座(東京・中央区)に設置した基地局で実施。車載の端末を走らせ、見通しと見通し外、それぞれの電界強度やスループットなどを測定している。結果として、見通しだと伝搬損失が非常に少なく、3.5GHz帯との差は「1dBぐらいしか差がなかった」という。
ソフトバンクは仮説として、「銀座のような環境だとビルに電波が反射しながら、なかなか外にエネルギーが漏れていかないため、思っていたよりも減衰が少なかった」としている。一方で、見通し外だと電波の減衰が大きく、「大体シミュレーション結果と一致している」という。
とは言え、電波が飛ばないぶん、基地局同士の干渉が少なくなり、通信品質は向上した。品質がよく、MIMOがしっかり機能するエリアも、23.5%存在したという。実際、試験エリアで車に同乗し、電波状況を見てみたが、きちんと通信が継続しており、スループットも100MHz幅で200Mbpsほど出ていた。7GHz帯は「マクロ置局でもかなり有効に使えるため、今後、6Gを早期展開し、効率的に使う上で重要な周波数になる」というのがソフトバンクの見立てだ。
“人気”の周波数の通信利用を総務省にアピール
一方、日本では「FPU(テレビ中継用無線装置)で使っていたり、Wi-Fiに割り当てようとする動きもあったりで、一筋縄ではいかない」(ノキア 高岡氏)というのが現実だ。また、7.1GHz帯より上は、衛星通信でも活用されている。
今回開催されたイベントには、ドコモ、KDDI、楽天モバイルといった競合他社や総務省からも関係者が招かれていたが、これは「こういう周波数を通信業界に使わせていただきたいということを、総務省にぶつける場」(ソフトバンク先端技術研究所 所長 湧川隆次氏)という意味合いもあるという。
ソフトバンクでは、無線機にAIを組み込んだ「AITRAS」の商用化を目指しているが、これを使えば、他の無線システムとの周波数共用も容易になるという。湧川氏は、FPUを念頭に置いた話として、「放送は中継網なので一時的に使うだけ、使われない時には6Gでということができる。テレコムのAIとして用意したものを使い、RAN(無線アクセスネットワーク)を制御し、干渉を抑制する。そんな世界観も作っていける」と自信をのぞかせた。
欧州では、この周波数帯を6Gに活用する方向で議論が進んでおり、「ドイツがこの周波数帯をフルにIMT(携帯電話用)に割り当てることを決定している」(ノキア ストラテジー&テクノロジー事業部 バイスプレジデント&CTO アリ・キナスラティ氏)という。
比較的周波数が低く、6Gの早期展開に向けて重要性の高い周波数なだけに、今後、業界をあげた割り当てへのプレッシャーが強くなっていきそうだ。














