レビュー

Google「Pixelbook Go」の本格ノートPCに迫る実力と絶妙な物足りなさ

Pixelbook Go。購入したのはもっとも安価なモデルで、価格は649ドル

11月初旬、Googleの新型Chromebook「Pixelbook Go」を購入した。おおむね一カ月使ったのでその感想をお伝えするが、本製品は現状、日本で発売の予定がない。日本での通信に必要な「技術基準適合証明(通称・技適)」も受けていない。

そのため、ワイヤレスでのテストは、12月半ばまでにあった2回のアメリカ出張、およびシンガポール出張で行ない、日本国内ではUSBによる有線LAN接続で利用している。

日本で発売予定がない、というと興味を失う人もいそうだが、それはもったいない。この製品は「Chromebookをリードするプラットフォーマーが作った最新の製品」であり、Chromebookの今を知る上で重要な製品でもある。

シンプルな外観。使い勝手は価格以上

Chromebookは、Googleの「Chrome OS」を使ったパーソナルコンピュータ。ノート型とは限らないのだが、その大半はノート型。今回購入したPixelbook Goも、13.3インチのディスプレイを搭載したノート型だ。重量は約1kg。そこそこ軽量でしっかりしたノート型パソコン、といって過言ではない。

本体上面。13.3インチディスプレイ搭載のノート型としては標準的な大きさで、デザインはシンプル

本体底面は「ナミナミ」な加工になっていて、もちやすく、鞄の中でもどちらを持っているかがすぐにわかりやすい。

底面。「ナミナミ」の加工がしてあって、どちらの面をもったのか、鞄の中でも触感だけでわかるようになっている
インターフェースはUSB Type-Cが基本。左右に一つずつあり、どちらからも充電できる。本体左側には3.5mmのヘッドホン端子もある

キーボードも想像以上に打ちやすく、使いやすい。タッチパッドの精度は正直、そんなに良くはない。筆者は普段MacBook AirやSurface Laptopといった「タッチパッドの精度が特にいい」製品を愛用しているので、見る目がかなりシビアではある。一般的なWindowsのノートPCと比較すると「悪くはない」くらいだ。

画面はタッチパネルにもなっていて、こちらの精度・感度は悪くない。ただ、タッチパッド搭載ではあるもののあくまで「ノート型」で、ディスプレイが360度回るようにはなっていないので、タッチパネルは付加的な使い方になる。

なお、前出のように、Pixelbook Goは現状日本で発売予定がなく、本製品もアメリカ市場向けのものなので、キー配列は「アメリカ英語」である。

Chromebookとはなにか

Chromebookの最大の特徴は、OSが「Chrome OS」である、ということだ。Chrome OSはウェブブラウザーであるChromeを軸にしたOSで、そこにファイル管理やノートPCとしての機器管理の機能を搭載したもの、といっていい。各種サービスとしてGoogleの「Gmail」や「Google カレンダー」、「Google ドキュメント」などを使うことを前提しており、Googleのサービスと密結合したOS、といっていい。

日本ではあまりメジャーではないが、アメリカなどでは教育市場向けの低価格PCとして認知され、広く使われている。学校にGoogleのクラウドであるG Suiteの教育版が導入され、そちらから児童・生徒のChromebookとそのアカウントを一括管理できるのが評価されている。

Googleは「Pixelbook」ブランドで自社のChromebookを販売してきたが、ここまで、それがヒットしたか、というとそうでもない。

なぜなら、過去のPixelbookは高かったからだ。Chromebookは200ドルから300ドルまでの製品が多い一方で、Pixelbookは1,000ドルした。ペンが使えてディスプレイを360度回してタブレットにもなること、パフォーマンスが高かったことが利点だったのだが、そこまで高価なら、普通にWindowsやmacOSで動作するパソコンを買った方が満足度は高い。Chromebookを求めている層とは大きく乖離していた。

それを(多少)是正したのが、10月に発売された「Pixelbook Go」。今回購入したのは最廉価モデルで、価格は税抜で649ドル(約71,000円)、カリフォルニア州の消費税込みで8万円くらいだ。他のChromebookよりはまだまだ高いが、モノとしての品質も良く、「納得できる」レベルになっている。

CPUはインテルのCore m3。メモリーは8GBで、ストレージは64GBである。Windowsとして見れば「ストレージは少なすぎるが、それ以外は最低限をクリアー」という感じだろうか。ただしOSが違うから、Windowsと同列で比較できない。Chromebookとしては「高め」のスペックである。

この他にも4KディスプレイとCore i5を搭載した上位モデルがあるが、こちらは1,399ドルとさらに高い。

Androidスマホ連動+Androidアプリが今時のChromebookのポイント

では使い勝手はどうか? その辺は、Chrome OSの特徴と不可分だ。

Chrome OSでは、WindowsやmacOSのアプリを使うことはできない。Chromeを介してウェブアプリを使うか、Androidアプリを使う。

初期のChrome OSは本当にウェブアプリだけが動くOSだったが、2016年にAndroidアプリを動かすためのレイヤーが追加され、両方が利用可能になった。

セットアップの簡便さでは、PCよりも上といっていい。

普段使っているGoogleのアカウントを入力すると、起動した瞬間から「日本語」で立ち上がった。てっきり言語の切り替えなどがあると思っていたので意外だった。おそらく、ずいぶん昔に別のChromebookを日本語で使ったことがあったので、その設定が読み込まれたのではないか、と思う。ソフトのインストールもないので、PCなどを使い始める時にお馴染みの「大量のダウンロード待ち」はない。ただ、Chrome OSのアップデートを待っただけだ。

Googleアカウント連動ゆえの、このシンプルさは特筆に値する。

セットアップ終了直後の写真。アメリカ向けの商品を買ったのに、日本語で起動した

起動などはとにかく速い。CPUパフォーマンスから考えると驚くほどだ。GmailやGoogle カレンダーなどのサービスにはChromeからウェブアプリを使う。使い勝手はPCのそれとまったく同じ、といっても過言ではない。文字表示も、ディスプレイパネルが1,920×1,080ドットなので「精細」とまでは言わないが、フォント表示(フォントレンダリング)品質が良いのでかなり読みやすい。個人的には、解像度の低いディスプレイでWindowsを使うよりも好ましい。

Pixelbook Goの起動後の画面。解像度は1,920×1,080ドット。一般的なPCと同じだが、フォントレンダリング品質は良い
設定画面。ブラウザーであるChromeと共通する部分も多く、Chromeを使っている人にはお馴染みの広告も。Wi-Fiなどの設定もここから

ウェブを使う時の快適さは、ほんとうにPCと大差ない。Core m3のデバイスだと思うと、同じWindows PCよりも優位だと感じる。普段PCでもChromeを使っているが、プラグイン類もほぼそのまま使えている。

ブラウザーの表示品質は良好。ウェブを見るだけなら、PCなどとの差は「まったくない」といっていいし、むしろ文字の読みやすさは上質だと感じる

ウェブを見る、Gmailを使う、Google ドキュメントを使う、という範囲でいえば、PCとまったく遜色なく利用できる。SpotifyやApple Musicといったストリーミング・サービスからの音楽再生や映像配信もChrome経由で使える。

通知領域の表示などもちゃんと行なわれるので、予想以上に「これでいい」感が高い。

通知領域にはちゃんとウェブアプリからのプッシュ通知が表示される。YouTubeだとちゃんと楽曲サムネイルが出ているあたり、芸が細かい

その上で、足りないアプリはAndroidで補う。筆者の場合、アドビの「Lightroom CC」がそれにあたる。ゲームや動画配信なども、ウェブよりもAndroidアプリの方がいい場合もある。そうしていくと、わりといろんなことが「Pixelbook Goだけでもできる」ことに気付く。

筆者が仕事する上で欠かせない、Adobeの「Lightroom」をつかってみた。Android版がなんの不都合もなく使える
Androidアプリをウインドウ化して使うこともできる。ブラウザーと併用すると、かなりPCに近い使い勝手に

バッテリー動作時間も長い。使用環境の問題もあり、バッテリーが切れるまで動作させるテストは出来ていないが、カタログでは12時間動作することになっている。つかってみた印象では、この時間を大幅に下回ることはなさそうだ。

充電はUSB Type-Cコネクターから行なう。付属のACアダプターは45Wのものだったが、市販のUSB PD対応アダプターで問題なく充電できたし、モバイルバッテリーからの給電でも動作した。

面白いのは、GoogleのスマホであるPixelとの相性がとてもいい、ということ。

セットアップの段階でAndroidスマホとして紐付けておくと、電話やメッセージの着信も確認できる。特にいいと思ったのは、使えるWi-Fiがない場所で開くと、Pixel 4を見つけて「テザリングを開始しますか?」と聞いてくることだ。ワンクリックですぐに通信可能な状態になる。

セットアップ中には、Androidスマホとの連携の指示も。出張に持っていっていたPixel 4 XLと連携させてみた

正直、Chromebookのようなデバイスには標準で通信機能(WAN)が必要だと思うし、「高級機」にあたるPixelbook Goにはあってしかるべき、と思う。現状のPixelbook GoにはLTEでの接続機能がない。SIMカードは刺さらないし、eSIMもない。価格を下げるためだと思うが、それをこういう方法でカバーするのは好ましい。

要は、アップルがiPhoneとMacBookの間でやっていることと同じことを実装しているのだが、こういうことが出来るのが「プラットフォーマーならではの一貫性」とも言える。

なお、国内ではUSBのイーサネットアダプターをつないで使ってみたが、特に問題はない。ただ、ノートPCタイプのデバイスを有線で使うのはやはりもどかしい。国内でも発売される、もしくは「技適」表示をしてもらいたい、とは思う。

アプリ情報や価格の課題は残るが日本での製品投入を期待

最新のChromebookであるPixelbook Goは、「大抵のことはできる」のは事実なのだが、なんとも「これでは不満も残るな」と思うのも、率直な気持ちである。

まず、Androidアプリの動作がまだ怪しい。すべてのアプリが使えるわけではないし、Core M3ベースのPixelbook Goではちょっと動作が重く感じるものもある。機能としてはAndroidアプリの方が上だが、動作の快適さを考えるとウェブ版を使いたい……というサービスが意外と多くなってくる。

面倒なのは、ChromebookにおけるAndroidアプリの動作についての情報があまりないこと。これは、日本での利用者の少なさが理由だろう。

ウェブ上から連携する場合などには、Androidアプリが入っていると、そちらが優先的に呼び出される。このため、「インストールはしたが頻繁にはつかいたくない」場合であっても、結局Androidアプリが呼び出されてしまう。ウェブアプリの方がPixelbook Goでは快適なので、アプリは「本当にアプリでしか使えず、アプリを中心に使いたい場合」のみインストールした方がいい。

例えばMicrosoft Wordは、Android版を無理に使うよりもウェブブラウザー版でしのいだり、Google Docsを併用したりする方が満足度は高い。

ファイルはローカルストレージでもクラウドストレージでも扱えるが、やはり後者が中心となる。今回は購入したデバイスのストレージが64GBと少ないので、特にそうだ。ウェブアプリの場合、サービスにストレージが紐付いている場合が多く、サービスからサービスへとデータを移動するのがちょっと面倒なことが多い。GoogleのサービスならGoogle Driveなのでシンプルなのだけれど。ローカルストレージとの連携はGoogle Driveが中心で、Dropboxなどを使う方法もあるが、Google Driveの方が使いやすい。

この辺は、iPadをPC的に使う場合に似ている。「できなくはない」し「わかってしまえば問題ない」レベルなのだが、PCと同じ、というわけではない。

一方で、iPadにはiPad独自の魅力的なアプリが多いのだけれど、Chrome OSだとウェブアプリになり、魅力の点で一歩劣る。

プロダクティビティ系アプリの出来では、AndroidはiPadに劣る部分があり、足りないアプリもある。さらに、Pixelbook Go上では、Androidアプリの動作が怪しいので、「iPadの方がいいな」と思う部分も多数あった。筆者にとっては、画面解像度が低めで、文字の美しさが劣るのも気になった。

それでもPixelbook Goの美点があるとすれば、良いキーボードがついたクラムシェル型ノートPCである、という点だろうか。やはりこの形は使いやすい。

そうすると気になるのは、日本円にして8万円近い価格だ。この価格ならWindows PCもiPadもライバルになる。せめて5~6万円ならば、と思う。

管理がシンプルで、リセットも容易。セットアップにかかる時間も短く、故障は怖くない。Chromebookのメリットはあり、Windows PCに比べると、そこが美点でもある。だが、それもまたiPadと似た特質を備えている。

使えるアプリの方向性はまったく違うため単純比較は難しいが、結局、「Windowsでない低価格モバイル」として見ると、iPad対Chromebook、という図式があるのは間違いない。

日本でもキーボードを重視してChromebookを選ぶ、という人はいそうで、Pixelbook Goはそんな人にお勧めなのだが、結局最終的には、価格の高さが問題になってくる。

さて、Googleは日本で販売するつもりがあるのだろうか? 今のところ公式には「ノーコメント」だ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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