レビュー
「Surface Laptop Go」の“お値段以上”の魅力と割り切り
2020年10月13日 22:00
某社のキャッチフレーズではないが、世の中には「お値段以上」のものもあれば、そうでないものもある。正確にいえば、できることは予算の範囲内には違いないのだが、「値段以上の満足度」を感じるものとそうでない製品がある、ということだ。
マイクロソフトの新ノートPC「Surface Laptop Go」は、76,800円からとコストパフォーマンスがウリの製品だ。レビュー機材から感じたのは、この「値段に見合う質」というものの評価の多面性だ。
それがどういう意味だったのか、見ていくことにしよう。
外観の満足度は「お値段以上」
「スマホだけでなくPCが必要である」ということは、ずっと以前から主張されてきた。その前の、フィーチャーフォンの時代も同じ話をしていたから、もう20年、同じ話題を繰り返していることになる。
当然、できること・快適なことが違うわけで、「仕事をしたり学んだりするには、スマホのサイズではない、個人のためのコンピュータが必要」なのは必然だ。コロナ禍になり、テレワークや遠隔授業が普通になると、それらをこなすためにはPCがあった方がいい……ということは急速に浸透したように思う。
一方、国内では「GIGAスクール構想」により、児童生徒1人1人に個人用のコンピュータを持たせる動きが(ようやくだが)本格化した。課題もあるが、それはまたの機会にしておこう。
とにかく今は、PCのニーズが高まっており、特に、低価格なものを求める声は大きい。ここでの競争は激化している。教育に関わるソフトサービスを手がける企業に聞くと、「Chromebookのニーズも上がっており、GIGAスクール構想全体では、来年にはWindows・iPad・Chromebookが1:1:1になっても不思議ではない」という。日本だけでなく世界中でこの戦いが起きているのだから、「キーボードがあって低価格で教育に向くPC」に各社が本気になるのも当然だ。
というわけで、マイクロソフトが、タブレットタイプの「Surface Go 2」に続いて提供したのが、このSurface Laptop Goになる。タブレットタイプではなく、キーボード付きの一般的なラップトップ(ノートPC)だ。
触ってわかるが、このSurface Laptop Goのコストパフォーマンスは本当にすごい。
サイズ的には12.4インチディスプレイを備えたノートPCで、Surface Laptopシリーズを少し小さくしたような感じだ。小さいといってもキーボードのタイプ感・タッチパッドの操作感は良好。特にキーボードは、メインキーのサイズがほぼ13インチクラスと変わらず、タイプ感もなかなかで、好感触だ。
各部の仕上げもいい。ボディの底面こそ樹脂になったが、全体のイメージは「アルミ削り出しのSurface Laptop」そのもの。底面やゴム足の色もイメージカラーにちゃんと合わせたものになっているのは、当たり前に見えて低価格商品では意外と難しいことだ。
個人的には、中位モデル以上に搭載されている「指紋センサー」が気に入った。電源ボタンに指紋センサーが搭載されているのは珍しいことではないが、LEDによるインジケーターとの組み合わせが上手い。指紋認証が必要な時には白く光るので、とても分かりやすい。光り方も均一できれいだ。この辺は非常に手が込んでいて「お値段以上」の満足感がある。
CPU強化で性能は満足。ファンの音が気にかかる
タブレット型のSurface Go 2は低価格ではあったが、キーボードが別売であることを考えると、そこまで安いとは言えなかった。最廉価モデルでも、キーボードカバーをつけると75,200円。今回のSuface Laptop Go 2の最廉価モデルは76,800円なので、ほとんど差がない。
その上でSurface Go 2とのSurface Laptop Goの最大の違いは「パフォーマンス」にある。
Surface Go 2はPentiumもしくはCore m3を採用しており、お世辞にも高性能とは言えなかった。どのくらいかというと、ビデオ会議などで「バーチャル背景」を実現する「Snap Camera」を使うと、それだけでCPU負荷が50%近くになるくらいだ。動画再生やウェブ閲覧、文書作成などで動作が重くなる……というわけではないが、ビデオ会議をしながらメモを取って……というような作業になると、余裕がなくなっていく。
しかし、Suface Laptop GoはCPUが「第10世代 Intel Core i5-1035G1」になった。Core i5になった分、パフォーマンスは上がっており、Snap Camera利用時の負荷も30%前後になので、だいぶ普通になった……といっていい。ベンチマークソフトの「Geekbench 5」によれば、シングルコアで「1170」、マルチコアで「3309」だった。これは、MacBook Airの低価格モデルに近い性能で、性能面でのコスパも十分だ。
一方、高性能になったぶん気になったのが「ファンの音」だ。特に「最も高いパフォーマンス」設定にして使うと、少し負荷が上がるだけでファン音が急に大きくなる。ファンレスのSurface Go 2とは大きく違うところだ。このファンは「値段なり」の厳しさを感じる。
解像度が低いのに狭く感じない
もう一つ、ちょっと「価格による割り切り」を感じるのがディスプレイだ。
ディスプレイパネルは「1,536×1,024ドット(148PPI)」と、他であまり見たことのないものになっている。縦横比3:2にこだわりつつ、低コストな解像度の低いパネルを選ぶとこうなった、というところだろうか。
縦横ともに、標準的な1,920×1,080ドットのディスプレイより狭いことになるのだが、意外と「狭苦しさ」は感じない。3:2という縦横比で、ウェブなどが使いやすいからだろうか。
ただ、やはり「ドット感」は否めない。文字などで解像度が不足しているように感じるのだ。これは、筆者が普段、SurfaceやMacといった、解像度が高めのデバイスを使っているから、特に感じるのかもしれない。デザインがSurface Laptopそのものであるだけに、ちょっと世知辛さを感じる。
ここを考えると、「CPUファンのうるささ」「ディスプレイ解像度」あたりが「値段なり」の部分であり、それ以外が「値段以上」とも言える。やはり「万事価格以上」とはいかないものだ。
[A]と[あ]に潜むマイクロソフトの決断
もう一つ、買う上で注意すべき部分がある。それは「漢字変換用キー」の変化だ。
一般的な日本語キーボードの場合、スペースの両隣は「無変換」と「変換」。だが、Surface Laptop Goでは[A]と[あ]になった。[A]は日本語入力オフ、[あ]が日本語入力オンを指す。
要は「Macと同じ」になったのだ。
Macはスペースの隣が「英数」「かな」で、それぞれIMEのオフとオンになっている。確かに操作を教える上ではこちらの方がシンプルで、最近のIMEでは、「無変換」と「変換」をIMEのオフとオンにする設定がある。筆者もWindowsではそういう設定で使っている。
そんな関係もあって、最初は「無変換」「変換」の印刷変えかと思った。
だが、そうではなかった。 [A]は「22(0x16)」、[あ]が「26(0x1A)」のキーコードが割り当てられており、「無変換」「変換」とも異なる。マイクロソフトによるWindowsに関する最新の開発者向け情報では、当該仮想キーコードの定義は「IME On」「IME Off」になっている。これに従って実装されたのが[A][あ]キー……ということのようだ。
キーコード自体が違うので、標準搭載のMS-IME以外ではけっこう問題が大きい。
試してみたが、ATOKを入れても両キーは標準設定では働かず、設定変更によって[A][あ]を有効にできない。別途キー入れ換えソフトなどを使い、無理矢理割り当ててやる必要がある。
これはなかなかに強引なやり方だ。マイクロソフトは「他機種に広げるかは反響次第」としているが、今後のSurfaceでこの設定が使われる可能性は高い、と筆者は予想している。
現在はIMEを入れ替えるのも少数派となっており、現実的に、Surface Laptop Goがターゲットとする教育用途などのユーザーはそういうことをしないだろう。とはいえ、混乱を防ぐためにも、マイクロソフトには技術情報をちゃんと周知し、各社と連携をとって進めてもらいたいと思う。