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ピカソってキュビスムって何が良いの? 「キュビスム展」国立西洋美術館

上野の国立西洋美術館

東京・上野の国立西洋美術館で、2024年1月28日までの会期で、「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展−美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ(以下:キュビスム展)」が開催されている。

キュビスムといえば、画家のパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックを挙げる人は多いだろう。この2人が、20世紀初頭に模索したのがキュビスムの始まりと言われている。だが「キュビスムと呼ばれる作品には何が描かれ、何が良くて、なぜ高く評価されているのか全く分からない」という人も少なくないはず。そして何が描かれているのかを解説してもらっても、やっぱり何が描かれているのか分からず、「現代美術とは難しいものだ」と結論づけてしまう人も多いはず。

今回はそんなキュビスムをメインタイトルにした展覧会。「わけの分からない絵が並んでいる」イメージする人も多いかもしれない。だが、そんなイメージを翻すのが今回のキュビスム展であり、そうしたイメージを抱いている人にこそ足を運んでもらいたい展覧会だ。

【展示会概要】
会場:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
会期:2023年10月3日~2024年1月28日
料金:一般:2,200円、大学生:1,400円、高校生:1,000円、中学生以下無料
※京都市京セラ美術館に2024年3月20日~7月7日に巡回

なお以下は、主催者の撮影許可を得たうえで掲載している。来場客による撮影が可能な作品は多数ある。詳細は会場で確認してほしい。

ポンピドゥーセンター所蔵の、マリー・ローランサンが1909年に描いた《アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)》

今まで知らなかったキュビスム作品が展示

なぜキュビスムの良さが分からない人にこそ見てもらいたいかと言えば、展示作品がパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックの、誰もが見たことのある作品だけではないからだ。

開催に先立つ報道陣向け内覧会にて、同館の特定研究員である久保田有寿さんは、「これだけ包括的に、そして時系列に沿ってキュビスムの全貌を紹介できる展覧会は、今回が日本で初めてと言っていい」と語っている。

その言葉通り、今回は「キュビスムの歴史の教科書」と言えるような展示構成。ピカソ12点とブラック15点を含む主要作家約40人、約140点(うち50点以上が日本初出品)の作品が、14の章立てで、物語を読んでいくように見ていける。

まずポール・セザンヌやポール・ゴーガン、アンリ・ルソーなど、キュビスムという芸術運動のきっかけとなった1章の「キュビスム以前 その源泉」から始まり、3章ではジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソの初期キュビスム作品が展開されていく。

展示風景
展示風景

ジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソが実験的にキュビスムを志した初期の作品は、後年のように癖が強くないこともあり、誰でも良さが分かりやすい。

同展の音声ガイドで、山田五郎さんが「キュビスムは1910年代を生きた世界中の芸術家が一度は罹った、麻疹(はしか)のようなもの」と解説するが、その罹り具合やこじらせ方が、まだ弱いのだ。

そして、それぞれがキュビスムを試行錯誤していたジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソが意気投合し、さらに実験を重ねていった1909年〜1914年の作品が、4章「ブラックとピカソ ザイルで結ばれた二人」で見られる。

正直に言うと筆者は、キュビスムというかピカソを苦手とする一人だ。だが、この4章で「え? ピカソやブラックって、こんな絵を描いていたの? すごく良いじゃん」と、グググゥっと興味を惹きつけられた。パブロ・ピカソの作品は会場で見てもらいたいが、ジョルジュ・ブラックの作品も、訳の分からなさは出てきているものの、俗な言い方をすればオシャレだ。

展示風景

そして興味を抱いた後に、7章の展示室へ移ると、ドーン! と目に飛び込んでくるのが、1910〜1912年にロベール・ドローネーが描いた、カラフルな作品《パリ市》だ。それまで落ち着いた色合いの作品が続いていたこともあり、この鮮やかさと、その大きさに圧倒される。

描いた絵を切って、切り絵のように貼っていったような、または教会にはめ込まれたステンドグラスのようでもあるが、絵の中央には古典的な三美神を思わせる裸婦が立ち、左右にはパリの街とエッフェル塔が描かれている。

手前がロベール・ドローネー《パリ市》1910〜12年/ポンピドゥーセンター所蔵

1910年代のパリの躍動感が感じられる美術展

その後も、パリに集まった様々な画家や彫刻家たちの作品が展開されていく。こんなに幅広い人たちが、キュビスムというムーブメントに参加していたのかと、改めて知ったし、思わず立ち止まって見ていたくなる作品がいくつも展示されていた。

中でもフランティシェク・クプカが1910年〜1911年に描いた《色面の構成》は、キュビスムらしい難解なタイトルだが、絵自体は、黒髪の黒いドレスを着た細身の女性が、オレンジと緑の色相で描かれているシンプルなもの。実物をじっくりと見られて良かったと感じた。

展示風景
展示風景

今回の展覧会を振り返ると、パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラック、マルク・シャガールなどの作品は、もちろんハイライトの1つだ。これらの作品の前では、やはり誰もが足を止めるだろう。

だが、より魅力に感じたのが、何度か記した通り、様々な作家による多彩なキュビスム作品が展示されていること。フランスのパリに集まった芸術家たちが「今までにない新しい絵を描きたい」とか「こういう絵が描きたいんだ!」という、当時のパリの躍動感や空気感を感じられる展示会だ。

そして個人的には、苦手だったパブロ・ピカソの呪縛から解かれて「キュビスムっていいな」と思えたことが、一番の収穫だった。そんな風に、おそらく多くの人が、自分の感性にもフィットするキュビスム作品があることに安堵するはず。そして、キュビスムがググッと身近なものにも感じられるはずだ。

展示風景
展示風景