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皇室の国宝も展示「皇居三の丸尚蔵館」開館 伊藤若冲《動植綵絵》など

一部をリニューアルオープンした皇居三の丸尚蔵館

皇室に受け継がれてきた品々……つまりは「御物(ぎょぶつ)」を収蔵する博物館・美術館が、11月3日に「皇居三の丸尚蔵館」として、一部がリニューアルオープンした。

同館は、旧江戸城の大手門を入ってすぐの三の丸、皇居東御苑内に、1993年に開館。近年、リニューアル工事を進めていたが、開館30周年の今年、その一部を開館した。なお、全館の開館は2026年を予定している。

皇居三の丸尚蔵館は、旧江戸城の大手門を入ってすぐの場所にある
荷物チェックを受けたあとに、大手門の高麗門と渡櫓門を抜けると、すぐに皇居三の丸尚蔵館が見えてくる(写真は渡櫓門)

開館を記念して、2024年6月23日までの会期で、「皇室のみやび-受け継ぐ美-」が開催されている。同展は、約8カ月を4期に分けて、同館が所蔵する貴重な品々が展示される。

今回は、12月24日までの第1期「三の丸尚蔵館の国宝」の様子をレポートする。

概要

皇居三の丸尚蔵館 開館記念展「皇室のみやび-受け継ぐ美-」(第1期:「三の丸尚蔵館の国宝」)

会期:2023年11月3日(金)〜2024年6月23日(日)(第1期は12月4日まで)
会場:皇居三の丸尚蔵館 展示室2
入場料:一般 1,000円、大学生 500円

※会期中、一部作品の展示替えが行なわれる
※出品作品は全て国(皇居三の丸尚蔵館収蔵)の作品

なお日時指定予約制のため、あらかじめネットにてチケットを購入しておく必要がある。同館でのチケット販売は行なわないため、注意が必要。

また個人利用に限って、撮影できる作品がある。

作品の解説パネルに、カメラマークがあるものに関しては、撮影が可能
フラッシュや動画、自撮り棒を使った撮影は禁止

伊藤若冲《動植綵絵》4幅を含む国宝5点を展示

今展で展示されるのは、国宝5点のみ。そう言われると「それだけ?」と思われるかもしれない。だが侮るなかれ、伊藤若冲の《動植綵絵(どうしょくさいえ)》4幅を筆頭に、《蒙古襲来絵詞》や高階隆兼の《春日権現験記絵》、小野道風の《屏風土代(どだい)》、《藤折枝蒔絵箱》というラインナップだ。

今回、公開された展示室2の入り口

展示室に入ってまず目に飛び込んで来たのが、展示室入り口の正面に架けられている、伊藤若冲の《動植綵絵》だ。タイトルが意味するのは、「動植物を描いた彩色の絵」ということ。

伊藤若冲が描いた国宝《動植綵絵》のうち、左から「秋塘群雀図」、「老松白鳳図」、「南天雄鶏図」、「菊花流水図」。展示期間は、いずれも11月3日〜11月26日

伊藤若冲は江戸時代中期、18世紀の絵師。40歳頃から約10年をかけて、花鳥を中心に魚貝に至るまでを30幅を書き上げ、京都の相国寺に寄進。そんな全30幅の《動植綵絵》は、伊藤若冲の最高傑作とも言われる逸品。今回は、その中で4幅が展示されている。

同館の学芸員に話を聞くと、秋という季節や、おめでたい柄などを考慮して、今回の4幅に絞り込んだという。なお、今展では全30幅のうち12幅を、第1期(前期と後期で展示替え)と第4期に分けて展示する。

《動植綵絵》の展示予定
・第1期「三の丸尚蔵館の国宝」 前期:11月3日〜11月26日
《動植綵絵》のうち「秋塘群雀図」、「老松白鳳図」、「南天雄鶏図」、「菊花流水図」
・第1期「三の丸尚蔵館の国宝」 後期:11月28日〜12月24日
同「梅花群鶴図」、「棕櫚雄鶏図」、「貝甲図」、「紅葉小禽図」
・第4期「三の丸尚蔵館の名品」 2024年5月21日〜6月23日
同「老松孔雀図」、「芙蓉双鶏図」、「諸魚図」、「蓮池遊魚図」

展示室2の展示風景

誰もが知る? 《蒙古襲来絵詞》も展示

やはり伊藤若冲の《動植綵絵》に注目が集まりそうだが、そのほかにも《蒙古襲来絵詞》や、高階隆兼の《春日権現験記絵》も、じっくりと見ておきたい。

《蒙古襲来絵詞》は、いわゆる元寇を、同時代の鎌倉時代に描いた絵巻。なかでも今回展示される《後巻》には、弘安4年(1281)の2度目の来襲が記されている。

展示の前期では、博多湾沿いに築かれた生(いき)の松原の石築地(石垣)の前を出陣する、主人公の竹崎季長らの一団が見られる。赤い鎧(赤糸縅)で騎馬で進む竹崎季長と、その前を進む鎖のついた長い柄の熊手を肩に担いだ兵士などが、リアルに描かれている(のちに、この熊手を敵船の側面に引っ掛けて手繰り寄せて攻め込む)。

国宝《蒙古襲来絵詞 後巻》鎌倉時代(13世紀)。展示期間は11月3日〜12月24日※巻替あり

《春日権現験記絵》は、藤原氏の氏神である春日権現の様々な霊験を、全20巻で記録した絵巻。鎌倉時代の1309年頃に、宮廷で使う屏風や障子などの絵画制作を担う絵所預(えどころあずかり)の最高責任者である、高階隆兼が絵を担当した。本格的な大和絵技法による精緻な描写が見どころ。

さらに、《春日権現験記絵》を納めていた箱、国宝《藤折枝蒔絵箱》も展示されている。

国宝《春日権現験記絵 巻十二》は、鎌倉時代の延慶2年(1309)頃、高階隆兼によって描かれた。展示期間は11月3日~11月26日

三蹟・小野道風の国宝《屏風土代》の見どころはどこ?

ここまで紹介した《動植綵絵》や《蒙古襲来絵詞》、《春日権現験記絵》などは、絵が描かれているため、美術などに特段の興味がなくても興味深く見ていけるのではないだろうか。だが国宝《屏風土代(びょうぶどだい)》は、文字が記されているだけという印象。書について知らない筆者は、鑑賞するのが難しい。

そこで同館の主任研究官、高梨真行さんに、その見どころを教えてもらった。

まず《屏風土代(びょうぶどだい)》って何? ということになるが、これは屏風に貼る色紙に記す漢詩を、下書き(土代)したもの。下書きとはいえ、書いたのが平安時代中期の三蹟の一人である小野道風(みちかぜ)ということで、とても貴重なのだ。

「書が得意な人っていうのは、いろんな書き方ができるんです。例えば今展示されているのを見るだけでも、最初の方と中間の方では、書きぶりが変わってくる。最初は、わりあいと楷書に近い書き方をしていますが、先へ進むとけっこう崩した行書に近づいています。そうしたバリエーションが見られるんです」

当時の貴族は、きれいに文字を書ける人が多かったが、その中でも様々なバリエーションで文字を書けるというのが、能書家と言われる人たちの条件の一つだとする。また今作品は下書きだ。「本番の清書では、どんな風に書くべきか」と、小野道風が考えながら書いている様子がうかがえるという。

「漢字は、我が国固有の文字ではなくて、中国から輸入された字ですよね。輸入された当初の漢字は、中国風の書き方をしました。それが、我が国の中で漢字を使用する人口が増えてきて、公文書なども全て漢字で書くようになっていく。すると次第に、日本人としての漢字の書き方へと変わっていくんです」

そうした日本の漢字の書き方を「和様(わよう)」と呼ぶそう。そして、和様の原形を作ったのが、小野道風なのだと高梨さんは語る。

「その小野道風を受けて、藤原佐理(すけまさ)、藤原行成(ゆきなり)、この『三蹟(さんせき)』と呼ばれるようになる3人が、日本人としての漢字の書き様のベースを形成していきます。だから、俗っぽい言葉でいうと、我々日本人がいう『きれいな字』のベースを作った人が、小野道風と言えると思います」

高梨さんの話を聞いてから、改めて《屏風土代》の前に立ち、小野道風の文字を見てみた。先ほどまでは単に漢字がぐにゃぐにゃと記されているだけだったものが、とても身近なものに感じられるから不思議だ。

国宝《屏風土代(びょうぶどだい)》

なお今回の展示品は、いずれも国宝に指定されているが、これは2021年に指定されたもの。指定されたのが意外に最近と思ってしまうが、近年になって評価が高まったわけではなく、これまでは天皇や皇族が所有する御物は、文化財の指定から外れていたのだ(奈良の正倉院は例外)。その方針が転換され、国宝や文化財に指定されるようになったのは、皇室に受け継がれた貴重な美術品類の発信を充実させるため。また貴重な収蔵品の価値を国民に分かりやすく示すためだとしている。

同じ趣旨で、従来の狭くて知る人ぞ知る存在だった三の丸尚蔵館は、現在進行中のリニューアルにより、展示・収蔵スペースが大幅に拡充されることになったし、休館日も月曜日のみとなった(臨時休館あり)。

また、新たに重要文化財や国宝に指定される、同館所蔵品もあると思われる。そうした意味でも、今後は、これまで以上に身近な博物館・美術館になっていくはずだ。

天皇皇后の御即位5年・御成婚30年の記念展が同時開催

展示室1では、天皇皇后の御即位5年・御成婚30年記念として「令和の御代を迎えて―天皇皇后両陛下が歩まれた30年」が、11月3日(金)〜12月24日(日)の会期で同時開催される。

こちらは両陛下がともに歩まれてきた30年の軌跡を、両陛下ゆかりのお品とともに紹介する展覧会。ご結婚の儀式のご装束やドレスをはじめ、御即位の儀式で用いられたご装束や調度の品などの展示で、両陛下ゆかりの品々が、日本の伝統文化の継承に深く関わるものであることが分かる。

チケットは「皇室のみやび」展と共通で、オンラインでの日時指定予約が必要。

なお、こちらの展示室1での撮影は禁止されている。

展示室1の全景
「結婚の儀」天皇陛下ご装束 束帯 黄丹袍と、皇后陛下ご装束 五衣・唐衣・裳。いずれも宮内庁所管。展示期間は、11月3日〜11月26日
「即位礼正殿の儀」天皇陛下 御装束 黄櫨染御袍(冬の御料)と、皇后陛下 御五衣・御唐衣・御裳
「即位礼正殿の儀」で、宮殿中庭に配置された萬歳旛と菊花章大錦旛(赤・白)。萬歳旛については当時の安倍晋三内閣総理大臣が揮毫した「萬歳」の文字を金糸で刺繍。展示期間は、萬歳旛が全期間で、菊花章大錦旛が11月3日〜11月26日

ご装束はもちろんだが、他にも天皇陛下が幼少時に使用されたヴァイオリンや、フルート、国会の臨時会を召集する詔書なども展示されている。こういうものは、博物館に展示されて公開されるものと思っていなかったので、展示を見て驚いた。

また登山をされることは知られているが、山岳雑誌に寄稿されていたことは知らなかった。そうした雑誌も展示されていて、登山歴を記した記事が読めて興味深い。

天皇陛下が寄稿された「山と溪谷」などが展示されている