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“原価ゼロ”の衛星データをマネタイズする「Tellus Ver.3.0」

さくらインターネットは、クラウド上で衛星データの分析ができる衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」のVer.3.0を10月26日から提供開始した。経済産業省事業として同社が開発・運用するもの。

新機能として「Tellus Satellite Data Traveler」を実装。衛星データの売買を可能とするもので、衛星のセンサー、時刻、AOI(関心領域:Area of Interest)などを指定して購入できる。任意の環境に購入した衛星データの保存も可能。データの解析にはTellusのクラウド環境を利用でき、アプリケーション開発者などが解析用のソフトをインストールすることなく解析が行なえる。APIの提供も行なう。データの販売価格は数万円から数十万円。

衛星データを販売する企業(衛星データプロバイダ)は、日本スペースイメージング(JSI)、日本地球観測衛星サービス(JEOSS)、パスコの3社。各社が保有する光学・レーダーなどさまざまなセンサーを搭載した衛星のデータを利用できる。

JSI

JSIでは、高分解能光学衛星「Maxar」による画像提供を開始。来年度には小型多頻度SAR衛星「Capella」、小型多頻度光学衛星「BlackSky」による画像データの提供を開始する予定。蓄積された既存データだけでなく、リクエストにより定点観測なども提供予定。

Maxarは、商用として世界最高の分解能30cmクラスを実現。4機体制でほぼ毎日撮影が可能。2000年から撮影を開始した膨大なアーカイブ画像を利用できる。

新国立競技場ができるまでの時系列写真
Capellaによる浸水区域解析
BlackSkyによるAI自動地物抽出。飛行場にある航空機の種類や数などを自動で抽出できる

JEOSS

JEOSSは、日本初の商用SAR衛星オペレータとし、2018年9月からNECが保有するSAR(合成開口レーダー)搭載のASNARO-2衛星による商業販売を開始している。全球を自在に撮影可能で、自然災害等の緊急撮影にも対応が可能。NECのAI画像分析技術を使った分析レポートなども提供できる。

国内7都市(札幌、富山、名古屋、宇部、熊本、中津、鹿児島)を定期撮像した画像も提供し、対象地域は今後も拡大予定。大都市の市街地における都市計画やインフラモニタ、中規模都市での市街地及び周辺(港湾、農地、山林)の土地利用状況や、防災などへの活用を想定している。

パスコ

パスコは、JAXAのSAR衛星「だいち2号(ALOS-2)」や、今後打ち上げ予定の光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」、NECの光学衛星「ASNARO-1」やAirbusの光学衛星「Pleiades」「SPOT6&7」など多数の衛星を扱う。

SAR衛星では主に地盤沈下や山間部の地盤変動監視、地下工事や埋立地の変動監視などを行ない、光学衛星では、AIを活用した森林変化情報提供サービス、画像解析による沿岸部の「藻場」観測、建物の変化をAIで自動的に判別する家屋異動判読サービスなどを行なっている。

衛星業界をマネタイズ

さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏は記者会見で、「日本は長年、物づくりが中心であり、国からの受託事業も『物を作って納める』ことが当たり前だった。しかし、今回の事業では物を納めることがゴールではなく、サービスとして継続する。こういう事業は珍しい」と説明。

国の事業でアプリを開発した例は今までもあるが、あまり使われないことも多い。田中氏は、「国が開発を委託するアプリなどは、仕様書を元に3~5年をかけてゆっくり制作され、いざ公開となった時には時代遅れになっているものが多い。その後アップデートもされないため、使い勝手が悪くなってしまう」と指摘。「今時のアプリは常に更新されるのが当たり前。5年もたったら陳腐化してしまう。常にアップデートを続けることが必要」だが、納品したら終わり、という文化が根強いという。実は、自社内でも同様の意識が根強く、経営陣の意識改革も行なったそうだ。

衛星データを直接エンドユーザーが利用するというケースは考えにくいが、それでは衛星業界のマネタイズは進まない。田中氏は、「いままで100人しか使わなかったデータも、アプリに実装して1,000万人のユーザーが使えるようになれば、マーケットは広がる」とし、今回のサービスでアプリ開発者がデータを利用しやすいよう支援し、間接的にエンドユーザーも増やすことで衛星業界をマネタイズするのが狙いだという。「データの販売自体は原価費用がゼロに近い。原価費用ゼロをマネタイズするのがネット業界で、これを衛星業界でもやりたい」(田中氏)。

宇宙産業に関わる人の数は1万人程度と言われるが、Tellusの利用者は既に24,000人を超え、既に専門家だけのものではなくなっている。今後も多くのアプリ開発者、エンドユーザーを巻き込みながら、新たな衛星データの利活用方法なども模索していきたいという。