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らくらくホンは人に寄り添う「やさしいテクノロジー」【Watch+】
2025年6月21日 09:00
先日、FCNTが6年ぶりとなる「らくらくホン F-41F」を発表しました。スマートフォンが普及して久しい今、なぜ“シニア向け”のガラケーが提供されているのでしょうか。
私の祖父は、長年使っていたガラケーからスマートフォンへ移行しました。機種は「らくらくスマートフォン」ではなく「Google Pixel」。シニアに最適化されたUIをしていないため、操作に苦労していた姿をよく覚えています。「電話はどうやってかけるのか」「SMSをどう送るのか」「文字を消すにはどうしたらいいか」と何度も聞かれ、そのたびに時間をかけてゆっくりと教えていました。ついには自治体が運営しているスマホ教室に通うようになりました。学びながらも、写真の共有や孫とのビデオ通話を楽しむようになった祖父の姿には、デジタルの壁を超える喜びがありました。
デジタルデバイドを解消する「入り口のやさしさ」
祖父の体験が示すように、スマートフォンの便利さは計り知れません。しかし、その多機能性ゆえに、初めて触れる人にとってはハードルが高いのも事実です。特に高齢者にとって、複雑なインターフェースや小さな文字、聞き取りにくい音声は、利用への抵抗感を高める要因となりかねません。実際、ニュースやキャンペーンの通知一つですら混乱の元となります。
その点、「らくらくホン」はそうした不安や複雑さから距離を置いた設計が特徴です。変わらない操作性と“安心して使える”ことを重視していると言います。複雑さを取り除き「安心」に主眼を置いて設計されているため、「革新的」よりも「順当進化」という言葉がしっくりきます。ボタンの印字は視認しやすい5mmとし、ボタンも押しやすく、少しだけキーが膨らんでいるのが分かります。これも視認性を高める工夫です。また、高齢者の聴力に配慮したスピーカー・マイク設計や自動音質調整機能は、コミュニケーションの障壁を低くしているそうです。
テクノロジーが“人を置き去りにしない”ために
FCNTでは、「やさしいテクノロジーで誰一人取り残さない」をミッションに掲げています。デジタル技術が社会の隅々まで浸透し、行政手続きや健康管理、そして家族や友人とのコミュニケーションまで、スマホで完結する場面が増えています。こうしたなかで、高齢者がデジタルデバイスを使いこなせないことは、“情報からの孤立”という深刻な問題につながりかねません。「らくらくホン」のような端末は、誰もがデジタル社会にアクセスできる「入り口のやさしさ」を提供しています。行政手続きのような難しいことはできませんが、操作性をシンプルに絞り込み、利用者の視点に立って工夫を凝らした設計は、デジタルデバイド解消にとって大事なことです。
開発者によると、スマートフォンの開発が主流となっている現代において、「らくらくホン」はテンキーや折りたたみのヒンジ構造、脱着式の電池など、部品点数が多く構造も複雑な製品とのこと。昔のようにこのタイプの携帯電話を開発・製造できる企業は年々減少しており、長期供給を見据えた部品の置き換えや安定した調達体制の確保が課題だと言います。
それでもなお、「らくらくホン」の開発を継続する理由は、「スマートフォンでは使いこなせない」「この形でなければ困る」といった、利用者の切実な声に応えるためです。「らくらくホン」には、見やすい文字表示や聞き取りやすい音、押し間違いを防ぐキーの形状など、利用者の視点に立った工夫が数多く盛り込まれています。ただ形を残すだけでなく、“使い続けられる”ことを大切にした設計思想が息づいていると感じました。



