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テレビ事業は“聖域”か パナソニックに“必要なもの”としてのテレビ
2025年5月22日 08:20
今年2月、「パナソニックグループが、テレビ事業を売却する」という報道が駆け巡った。パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOが、「テレビ事業を売却する覚悟はある」と発言したのが発端だ。
だが、楠見グループCEOは、2025年5月9日のグループ経営改革説明会で、「スマートライフ領域において、テレビという商材は重要であり、パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」と語り、テレビ事業の継続に向けた意思を示してみせた。
パソナニックグループは、今後、テレビ事業をどうするのか? 楠見グループCEOを直撃した。
2月と5月の発言の“違い”はどこにあるのか
パナソニックグループのテレビ事業売却の話題は、2月4日に発表したグループ経営改革説明会のなかで、パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOが、テレビ事業が課題事業のひとつであることを明示するとともに、テレビ事業を含むこれらの事業について、「商品や地域からの撤退、ベストオーナーへの事業承継を含む抜本的な対策を講じ、2026年度末までには課題事業を一掃する」と発言。さらに、「テレビ事業を売却する覚悟はある」とコメントしたことで、メディアが相次ぎ報道したことで広がった。
つまり、「テレビ事業を売却する覚悟はある」という言葉が、テレビ事業売却を検討しているという経営トップの姿勢として捉えられたのである。
また、あわせて「私自身、テレビ事業に携わってきた経緯があり、センチメンタルなところもある」と発言したことも、テレビ事業売却の決意の表れと受け止められた。
同社では発言の火消しに奔走したが、パナソニックのテレビ事業が売却されるという印象は、いまでも残っている。
だが、5月9日に行なわれたグループ経営改革の進捗説明会において、楠見グループCEOは、「スマートライフ(家電)領域において、テレビという商材は重要であり、パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」と一転して、テレビ事業を継続する姿勢を強調してみせた。
2月の発言と、5月の発言には、どんな違いがあるのか。
その点を楠見グループCEOに聞いてみた。すると、「2月の発言と、5月の発言は、考えていることはまったく変わっていない」と切り出した。
「2月の発言は、最悪の事態になったとしても、覚悟は決めながら判断をしなくてはならないという、私自身の意思を述べた」
そのときの誤解を生んだ発言については、楠見グループCEOも反省しているようだ。
では、テレビ事業に対する基本姿勢はどうなのか。
楠見グループCEOは、「テレビ事業の明確な方針は、アセットライト化するということである」と前置きし、「アセットライトにするということは、自分だけではできない。そのため、誰かに頼らなくてはならない。これまでにも、パートナーとの協業を取り入れながら、アセットライト化はしてきたが、さらなる収益改善の必要があり、パートナーとの協業を一層深化させることを含めて、様々な可能性を検討している」と語る。
その上で、「テレビという商材は重要であり、パナソニックとして、テレビ事業を続けなければならない地域がある。とくに日本、台湾、香港ではその傾向が強い。アセットライトを進め、続けることができないかといったことを考えている。一方で、グローバル全体を見たときに、今度は、どこでなにをするかというオプションでやり方を考えていく。継続するべきものと、継続しないものを取捨選択しながら、オペレーションのなかで、なにをやるか、なにをならないかを決めていく。そこを考えている」とする。
テレビ事業は“見直す”が「必要性」も強調
5月の説明会では、課題事業とは別に、赤字事業という言葉が新たに使われた。
ここでいう「事業」という2つの言葉は、同じ粒度で捉えてはいけないことに注意したい。
パナソニックグループでは、成長が見通せず、ROIC(投資資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回る事業を「課題事業」と定義しており、現時点では、産業デバイス事業、メカトロニクス事業、キッチンアプライアンス事業、テレビ事業の4つの事業が、それに該当している。
一方で、赤字事業とは、さらに細かい粒度での事業での話であり、商品や地域など、より細分化した事業単位での赤字事業を指している。
楠見グループCEOは、「パナソニックグループでは、事業部未満の粒度で収支を見ることができるようになっている。たとえば、商品ごとの収支、地域ごとの収支、工場ごとの収支といった見方が可能になっている。その粒度で見れば、課題事業のなかだけに赤字事業があるのではなく、高収益事業のなかにも赤字事業が存在している場合がある」と説明。「事業部の括りのなかでは、ROICがWACCを上回ることが事業継続の前提となるが、商品単位、工場単位などの、さらに細かい単位でも赤字事業を無くしていくことになる。高収益事業においても赤字事業があれば、それを無くしていくための取り組みを行なっていく」とする。
ただし、赤字事業でも例外がある。
「投資段階であり、数年後に収益化するものは、対象から外れることになる。たとえば、車載用蓄電池の生産を行なう米カンザス工場は、稼働前であり、いまは大赤字だが、稼働したら利益が出る。こうしたものは除いて考えていくことになる」
この基本姿勢に則って、テレビ事業を考えれば、テレビ事業全体が課題事業から脱却するために、日本、台湾、香港などはアセットライト化を進める一方で、海外の特定地域ではテレビが赤字事業であったり、今後の成長性が見込めなかったり、テレビという商材がなくても、スマートライフビジネスに影響がない地域であるということが判断されれば、そこは撤退も視野に入れていると考えていいだろう。
なお、5月の説明会では、パナソニックホールディングス 執行役員 グループCFOの和仁古 明氏が、「テレビ事業の収益性は厳しいままだが、大きな改善が見られている」とコメントしている。
「これからも、パナソニックブランドのテレビは、継続するのか」――。楠見グループCEOにストレートに聞いてみた。
「日本でも、台湾でも、パナソニックの専門店からパナソニックのテレビが無くなるということになれば、大打撃になる。専門店にとって必要なものは残していく」としながら、「これは、聖域に見えるかもしれないが、家電全体としての強みを維持するためのツールとしてのテレビは必要である。だからといって、ツールとしてのテレビが大赤字ではいけない。だからこそ、アセットライト化し、できることはすべてやっていく。そのためには、いままで通りのやり方ではいけないと考えている」
また、「パナソニックのテレビを使っている方々は、パナソニックからの継続的なサポートを期待している。そうした信頼のもとで家電を購入してもらっている。私は、スマートライフ領域において、パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」と述べた。
パナソニックグループでは、グループ経営改革のなかで、2028年度を目標に、スマートライフ領域の調整後営業利益率で10%以上を目指す方針を打ち出している。
実は、今回のやりとりのなかで、楠見グループCEOは、「スマートライフ領域では、2028年度にテレビ込みで10%をやっていくにはどうするかといったことを考えている」とも述べていた。
こうしてみると、日本においては、パナソニックブランドによるテレビ事業を残しながら、スマートライフ領域に取り組むのが、基本姿勢だと受け取っていいだろう。
だが、テレビ事業のアセットライト化を推進すれば、ODMからの調達や生産委託がさらに増え、基幹部品や主要ソフトウェアも、外部から調達することがますます増えそうだ。
アセットライト化は、現時点でも、かなり進展しているが、さらにアセットライト化を進めていったとき、パナソニックブランドのテレビに、パナソニックらしさや、パナソニックならではの差異化ポイントがどれだけ残せるのかは未知数だ。
これまでとは異なるテレビづくりのなかで、パナソニックは、どんなテレビを世の中に送り出し、どんなテレビ事業の姿を描いているのだろうか。答えが出るまで、もうしばらく注視する必要がありそうだ。