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あえて「免許必須」ドコモの新型電動モビリティに乗ってみた

ドコモ・バイクシェアの新型電動モビリティ

東京都内の「ちよくる」など、全国各地でシェアサイクルを提供するドコモ・バイクシェアは、広島県広島市で新型電動モビリティの提供を実証実験として開始しました。

新型電動モビリティは特定小型原動機付自転車(特定原付)に該当し、着座姿勢で漕がずに走行できる。ドコモ・バイクシェアの車両は、「YADEA」ブランドで特定小型原動機付自転車などを製造・販売するハセガワモビリティと共同開発。25年2月の発表時には、歩道走行できないような仕様などが大きな話題を呼びました。

発表時はどこでスタートするのかは検討中とされていましたが、今回4月に初めて広島市に投入されました。実際に広島市の街中で新型電動モビリティを乗ってみたので、感想を中心にお届けします。

広島市で始まった実証実験

まずは、広島市の実証実験についてご紹介します。ドコモ・バイクシェアの新型電動モビリティを使った実証実験は2025年4月8日から9月30日まで、期間中の利用料金は1分15円。

設置台数は、スタート時点で100台の車両が35カ所のポートに設置されています。ポートは、既に電動アシスト自転車として展開している「ぴーすくる」のポートを共有して使用します。

広島市のシェアサイクル「ぴーすくる」のポートを共有する

新型電動モビリティを利用するには、既存のバイク・シェア用のアプリとは別に提供される専用アプリと会員登録、および支払い情報の登録が必要です。このほか、運転免許証の登録と交通ルールテストに回答して正解する必要があります。

利用には運転免許証登録、交通ルールテストの全問正解が必須

交通ルールテストは、新型電動モビリティは歩道走行禁止であるなど比較的簡単なものから、特定原付が走行できる道路上の車線に関する問題や、信号機のある交差点では"必ず"二段階右折が必要になるかなど、やや難易度が高めの問題もあります。

ドコモ・バイクシェアの武岡社長は、同社の従業員であっても「初回で満点合格する人がほぼいない」と、紹介するなど、交通ルールを問うテストとしてしっかりと機能しているようです。ちなみに、筆者も自動二輪の運転免許証を持っていますが、交通ルールテストを1発クリアすることはできませんでした。

今回ドコモ・バイクシェアが実証実験に用いる車両は、2023年7月の道路交通法改正で新設された「特定小型原動機付自転車」に分類され、法律上は16歳以上であれば運転免許証が不要で運転できます。また、ヘルメット着用については自転車と同じく努力義務とされています。

しかしながら、ドコモ・バイクシェアでは実証実験中であってもサービス利用には運転免許証の登録を求めています。これは、先にご紹介した交通ルールテストへの合格とあわせて、道路交通における基本的なルールを理解しているかを確認することが目的です。ただし、車両の運転技術そのものが求められているわけではありませんので、免許の種類(普通自動車/原付/小型特殊など)は問われません。

「ぴーすくる」にも投入される電動アシスト自転車があくまでも「自転車」に分類されるのに対して、新型電動モビリティは特定小型原付に分類されます。

ひょっとすると、自転車駐輪場としての利用は認めても、特定小型原付の駐車についてはご遠慮頂きたい……という流れが自治体・行政サイドとしてあるのでは? とも考えましたが、広島市の実証実験では市役所や県庁など自治体の公用地にも新型電動モビリティを駐車可能としているため、この点は問題ないようです。

京都駅八条口の駐輪場、特定小型原動機付自転車の駐車は禁止されていた(2023年11月時点)

実証実験におけるポートマップを見るとわかる通り、新型電動モビリティをレンタル・返却できるポートは、広島駅周辺や市内中心部に多く設定されています。また、中心部から少々離れた広島港でも新型電動モビリティをレンタル・返却できます。

新型電動モビリティをレンタル・返却できるポート

広島市内を新型電動モビリティで走行してみた

広島市内で新型電動モビリティに乗っていて、「この場合はどうしたらいいんだろう?」と迷ったケースをご紹介すると、県庁近くの鯉城通りには「自転車の走行禁止(歩道を除く)」を示す標識が設置されていました。

都内ではトンネルや陸橋などに設置されることが多い標識ですが、23年7月の道路交通法の改正によって、この標識は現在「特定小型原動機付自転車・自転車通行止め」となっています。

広島市の鯉城通り、自転車の車道走行が禁止されていた
新宿御苑トンネル(国道20号)、原付・自転車・歩行者は通行禁止になっている

自転車が通行止めとなる道路でも、歩道を通行するための特例モード(時速6km以下)を搭載する特例特定小型原付や自転車(電動アシストを含む)については歩道を徐行して走行ができますが、ドコモ・バイクシェアの新型電動モビリティは、歩道走行ができるモードが搭載されていません。このため、車道が走行できない場合には車両を降りて手押しで走行する必要があります。

新型電動モビリティは歩道走行ができない車両仕様

実は筆者は、道路交通法上の歩行者として扱われる条件として「動力をオフにすること」(エンジンを切ること)が必要と認識していました。ところが、ドコモ・バイクシェアの新型電動モビリティには、ユーザーが自発的に「動力をオフにする」機能は搭載されていません。車両を降りて手押ししている状態であっても、ハンドル左右に備えられる最高速度表示灯(緑色のランプ)は点灯したままです。

これは道交法上で歩行者として扱われる条件を満たさないのでは?という不安があり、会見場に居たドコモ・バイクシェアの関係者に率直に疑問をぶつけてみましたが、これについては「問題ない」旨の返答がありました。そこで改めて道路交通法を確認してみると、車両や原動機付自転車が歩行者として取扱される条件に「押して歩くこと」は記載されているものの、「動力(エンジン)をオフにすること」は記載されていません。

車両に動力をオフにする機能が備えられていれば、動力をオフにした方が"より安全"なのは確かですが、動力をオフにしていないからと言って、それを理由に歩行者として「扱われない」という明確な記載は見つかりませんでした。先の「問題ない」という発言は、これを根拠としているのでしょう。

道路交通法で、オートバイや原付バイクなどが「歩行者」として扱われる条件は以下のように記載されています。

(道路交通法第二条3の二)引用
次条の大型自動二輪車又は普通自動二輪車、二輪の原動機付自転車、二輪又は三輪の自転車その他車体の大きさ及び構造が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当する車両(これらの車両で側車付きのもの及び他の車両を牽けん引しているものを除く。)を押して歩いている者

新型電動モビリティは「漕がずに運転できる」点が最大の特長で、ドコモ・バイクシェアの武岡社長は「電動アシスト自転車に初めて乗った時の感動を、もういちどこの車両で体験してほしい」と、新型電動モビリティの快適性をアピールしています。実際に走行してみると、漕がずに進めるモビリティは、確かに電動アシスト自転車を含む自転車とは違った走行が体験できます。

新型電動モビリティの出発式。ドコモ・バイクシェア武岡社長とゲストの「かが屋」さんが出演

一方で、都市部の走行空間という意味では、新型電動モビリティに適した道路が整備されているとは言えません。自動車と同じように車道を走行する必要がある新型電動モビリティですが、自転車と異なり基本的に(押し歩きを除いて)歩道に逃げられません。

この点は広島市に限った問題ではりませんし、自転車や他の特定小型原付を巡る環境とも基本的に変わりません。自転車や新型電動モビリティなど、自動車よりも大幅に遅い速度で車道を通行する車両にとって走行しやすい道路環境が整備されていないことは、引き続き大きな課題と言えるでしょう。

少しずつ増えてきた自転車専用通行帯、特定小型原付も走行できる

また、新型電動モビリティは「漕がずに走行できる」という点で非常に手軽ですが、電動アシスト付きの自転車と比べて走行中の平均速度が格段に速い。というわけではありませんでした。広島市中心部から広島港駅まで約5.7kmの距離を新型電動モビリティで移動すると、所要時間は32分と表示されました。この区間の移動速度は時速約11kmと計算されます。

市内中心部での移動と比べてこの区間は信号もそれほど多くはなく、新型電動モビリティにとって走りやすい環境が揃っていたとも言えますが、道中の宇品橋を走行中には、スポーツタイプの電動アシスト自転車に乗った男性に先を越されてしまいました。

後日、都内の道路を筆者の電動アシスト自転車(ママチャリタイプ)がどのぐらいの速度で走行するのかを確認してみると、天候や走行する距離によって変動しますがおおむね時速約13~15km前後でした。また、都内と比べて交通量と信号による停止が少ない区間として、宮崎市内から新富町方面へ約23kmの距離をドコモ・バイクシェアのシェアサイクル(シティタイプ)で普段よりも速めに走行した際の所要時間は約1時間30分、平均速度が約15kmとなっていました。

これらの速度を見ると、筆者が電動アシスト自転車で車道を走行して移動すると、平均的には新型電動モビリティよりも速い速度で移動をしているようです。

念のためつけくわえておきますと、筆者が自転車で走る速度は特別速いわけではありません。そもそも車道を走る自転車が歩道と比べると少ないこともあってサンプル数が多くありませんが、他の自転車を追い抜くよりも、ロードバイクなど本格的な自転車に乗っている方に抜かれる方が多い印象です。

電動アシスト自転車で都内の車道を走行した際の記録(Garminのスマートウォッチで計測)

正直、電動アシスト自転車の方が速いかも……。という結果ではあるのですが、これを理由に新型電動モビリティが存在価値がないものとは全く思いません。当然ながら自転車を何時間も漕いでいるのは疲れますし、一定以上の距離(例えば10km以上)を移動しようと思わない方も多いでしょう。特定小型原付は、身体運動をほとんど必要とせずに移動ができますので、移動距離に対する体力的な疲れは、電動アシスト自転車に比べて格段に小さいです。

一方で、残念ながらLUUPなどの特例特定原付で交通ルールが守られていない。という報告がSNSでも多くされており、実際に車道モードのまま歩道を走行する電動キックボードを目にする機会は多く、都市部の交通への悪影響は見過ごせないと感じています。

ですが、こうした車両が通行区分を違反する根本的な原因は自転車専用通行帯が整備された道路が少なかったり、整備されていても実際には路上駐車する車で塞がれているなど、そもそも自転車や特定小型原付などの「歩行者よりは速く、自動車よりは遅い車両」が走行しやすい環境が整備されていないことが最大の理由でしょう。

自転車専用通行帯を拡大するなどのハードウェア的な整備と、専用通行帯に駐車している自動車に対して公的機関による移動の声かけや取締りなど、ソフトウェア・運用的な面での整備が進めば、電動キックボードなどの特例特定原付や自転車のドライバーに限らず、歩行者や自動車など全ての道路利用者にとって安心安全な道路環境となりそうです。

島田 純