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大阪駅に「うめきたエリア」開業。新地下ホームと顔認証改札を見てきた

3月18日のダイヤ改正で大阪駅に「うめきたエリア」が新規開業する。おおさか東線に接続する地下列車ホームが新設され、大阪環状線を経由して関西国際空港方面に抜けることが可能になる。

JR西日本は16日、報道関係者を対象にした説明会を開催した。「うめきたエリア」にはさまざまな最新の試みが取り入れられており、同社によれば「イノベーションの実験場」と位置付けられている。商用向けとしては鉄道改札では初となる顔認証ゲートも設置されたほか、モバイルアプリと連動した案内サイネージなど野心的な試みも多く、非常に興味深いものになっている。

大阪駅の既存施設とは西口地下通路を介して接続

うめきたエリアはまだ工事中の段階であり、3月18日時点では駅に入るための入口のみしか設置されていない。

駅ビルが開業し、周辺がある程度整備される2025年までの間は段階的に進入可能エリアが増える形となり、当面の間は地下ホームは、新設される大阪駅西口を経由してアクセスすることになる。

大阪駅の新エリアは「うめきた」と呼ばれる大阪駅北西の新開発ヤードの地下に位置する
現在はまだ工事中だが、2025年の大阪・関西万博までに駅ビルを含む周辺エリアの整備が行なわれる
周辺の構造物がまだできていないため、駅の出入り口のみが先に完成している状態
現在は大阪駅から横断歩道を渡ってうめきたの工事エリアに入る必要があるが、将来的に道路をまたぐペデストリアンデッキが整備され、現在は空中に浮いているように見えるエレベータへと接続される
2期工事が完了した後の2027年のうめきたエリアの完成予想図
現在、駅の出入り口とエレベータのみが見えるうめきたエリアの南東部分の拡大図

大阪駅西口は既存ホームを西側に拡張する形で設置され、1階のコンコースからさらに地下へと潜って連絡通路を経由することで、おおさか東線に接続する21-24番ホームへとアクセスする形となる。待合所となる付近には大阪市内の橋をイメージした意匠が凝らされており、5代目となる大阪駅舎の新設出口を彩ることになる。

新設される大阪駅西口改札。ここから地下を経由してうめきたエリアにある21-24番線へと移動する
既存ホームは西側に延長され、うめきたエリアへの抜け道となる西口改札方面につながるようになる
駅構造図。既存ホームから西口改札方面の1階にいったん降りた後、うめきたエリアへつながる地下通路へと降りていく形になる
西口改札付近の待合所の柱は大阪の意匠を凝らしたそれぞれ別のデザインとなっている
デザインのモチーフは水運都市大阪に数多ある橋をイメージしたもの
既存ホームとうめきたエリアを接続する地下コンコース

サイネージと案内の充実した“うめきた”のコンコース

おおさか東線に接続する21-24番ホームは、うめきたエリアのコンコースを1階分降りた場所にある。

2面4線の島式ホームの構造だが、JR西日本が「下り」と呼ぶ、おおさか東線から大阪環状線を経由して関西空港や和歌山エリアに抜ける特急列車が通る専用ホームとなり、このホームのみホームドアが設置される。

ホームドアにはサイネージが据え付けられ、普段はさまざまなデザインパターンが表示され、列車が到着すると関連する案内が表示される「情報掲示板」となる。

おおさか東線に接続するうめきたエリアの21-24番ホーム
21番ホームは「下り」と呼ばれるおおさか東線から環状線を抜けて関西空港や和歌山、白浜方面へ抜ける特急専用ホーム。この番線のみホームドアが設置されており、サイネージで到着電車情報などが表示される
22-24番線についてはホームドアのない構造
うめきたエリア設置のホームはおおさか東線に接続することもあり、大阪環状線のラインカラーである赤のストライプをあしらえつつ、おおさか東線と環状線の2つの駅番号が付与されている

またコンコースにある各番線へと降りる階段手間のサイネージは時間で表示内容が変化するものとなっており、最新の列車情報を把握したり、さらに細かい案内を得られたりと、サイネージの特徴を活かしたものといえる。

ホームへの階段付近のサイネージは列車の到着状況などにより表示が時間で変化する

ナビゲーションの充実したうめきたエリアだが、特に目を惹いたのがJR西日本のMaaSアプリである「WESTER」を使ったパーソナルナビゲーションだ。

こうしたアプリのナビは、アプリを常に表示した状態で案内に沿って移動するパターンが多いが、うめきたのケースではスマートフォンの画面を見ることなく、個人を識別するマークが駅据え付けのサイネージに表示されるようになっており、そのマークを目印に移動する非常にスマートなものだ。

事前にWESTERアプリで目的地を入力し、最寄り駅で降りた段階でアプリを確認すると個人識別マークが表示されるので、以後はスマートフォンを見ずともサイネージの案内だけで移動できる。

利用者が複数人いても画面に複数マークが表示されるようになっており、仮に同時使用人数が多くて画面からはみ出してしまっても、スクロール処理などで少し待機すればマークを確認できるようになっているという。

WESTERアプリを使ったパーソナルナビゲーションの解説動画。まず行き先をアプリで検索しておく
目的の駅に着いたらWESTERアプリを起動
アプリには個人を識別するためのマークが表示される。これを確認したらスマートフォンはしまってもかまわない
案内のサイネージに近付くことで個人を識別するマークが表示されるので、それに沿って移動する
案内サインに近付くたびに音や振動で通知されるため、マークを見逃しにくいようになっている

目の不自由な方向けの案内も用意されている。最近は点字ブロックにQRコードが印字されるケースが増えているが、うめきたエリアの案内の場合もアプリを使った音声ガイド方式を採用しており、行き先を指示しつつ、点字ブロックのQRコードを読むことで音声で移動距離や向きが指示される。

分岐点などで間違えて移動してしまった場合でも、戻る方向と距離を含めた指示が追加で出るので、ナビゲーション自体は継続して利用できる。

QRコードを使った視覚に不自由な方を案内する仕組み。点字ブロックで停止を示すブロックにはQRコードが記載されており、これをアプリで読み込むことでナビゲーションが起動される
アプリは音声ガイド方式になっており、目的地を入力するとナビゲーションが始まる
トイレまで誘導したところ。分岐がある場所など、移動を間違えた場合は警告が行なわれ、実際に順路に戻るための指示が出てくる
新設のIoTトイレ。LIXILのソリューションを利用しており、空き状況や使用状況の監視が可能。運営側視点では清掃の目安などをはかりやすい
案内キオスク端末は3Dタッチパネル。写真では分かりにくいが、ボタンが空中に浮いている状態に見える
「みどりの券売機プラス」。通常の有人窓口に代わり、オペレータがリモートで対応できる券売機となっている

顔認証ゲートの実証実験は誰でも参加可能

最後は噂の顔認証ゲートだ。パナソニックの顔認証技術を採用したゲートの外観はかなり近未来的なデザインとなっており、双方向に対面通行が可能となっている。

顔認証ゲート。同時での対面通行が可能

2人同時に入っても問題なく処理できる。大阪エリアでは大阪メトロが実験を行なっており、実際に全駅展開を目指した動きを始めているが、すぐに誰でも利用可能という点ではJR西日本が初と思われる。

参加する条件は「大阪と新大阪の間の定期を持っていること」のみで、WESTERアプリを経由して誰でも応募でき、アプリで撮影した写真を送信しておくことで利用可能になる。特に募集期間の制限は設けていないようで、同区間の1カ月間定期代で5,000円近い出費は必要だが、興味ある方は試してみるといいだろう。

ゲートの内部。筆者の身長(189cm)でもまったく問題なく通過できる高さがある

顔認証ゲートはこの大阪駅のうめきたエリアと新大阪駅の2カ所にしか設置されないため、顔認証で通過できるのはこの2つの駅間のみということになる。

ただ、参加条件に「定期券を持っている」が含まれるため、もし顔認証ゲートを通過して駅に入場し、このゲートのない他の駅で出場する場合には、その旨を駅員に伝えて定期券で精算する。また顔認証ゲートでICカードのタッチも可能なため、出入場記録や、出場時の差額の精算も可能だ。定期券前提のオペレーションになっているのは、こうした部分の例外対応を簡素化するのが狙いだと思われる。

顔認証ゲートを1人が通過中の状態
顔認証ゲートを2人が対面交差で通過中の状態
顔認証ゲートを顔を隠して通過しようとすると警告音が鳴る

このほか、うめきたの駅コンコースにはインタラクティブウォールが存在する。ユーザーが可能な操作はアクエリウムの水槽の内容を切り替えるくらいだが、水都大阪をイメージしたさまざまな演出を楽しむことができる。

コンコースはインタラクティブ空間として、ユーザーのアクションに対してある程度反応する投影スクリーンとなっている

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)