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電動キックボードが免許不要に。7月から何が変わるのか?

開発中のLUUP電動キックボード

2023年7月1日、改正道路交通法が施行される。大きな改正ポイントは電動キックボードに関するもので、電動キックボードに「特定小型原動機付自転車」という専用の区分が新たに設けられる。

現状の電動キックボードは、販売店などで入手する購入型と、事業者が電動キックボードを一定時間レンタル(シェア)提供するサービス型の2種類が存在し、後者のサービス型については商用化前の実証実験として運用が行なわれている。

そしてこの法改正を受けて、これまで実証実験扱いだった電動キックボードのシェアリングサービスがいよいよ「商用サービス」として開始される。また今回の法改正では、電動キックボードが免許不要で利用できるようになる、歩道を走行できるといった大幅な変更がなされることもあり、大きな注目を集めている。

7月からの法改正の内容を整理しつつ、電動キックボードシェアサービスが今後どうなるのか? 電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアサービス「LUUP」を展開するLuup代表取締役兼CEOの岡井大輝氏に話を聞いた。

Luup 岡井大輝CEO

電動キックボード 原付→専用区分に。16歳以上は免許不要

はじめに一般的に「原付」と呼ばれる「原動機付き自転車」と、Luupの電動キックボードなど特例として認められている「小型特殊自転車」、そして7月に新設される「特定小型原動機付自転車」の違いを確認しておこう。

6月までの現行法では、電動キックボードは「原付」と同じ扱いになり、運転免許やヘルメット、ナンバープレートなど原付と同じ基準になる。

一方、産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」として認定されたLuupのような事業者は、現状電動キックボードをレンタル提供するサービスを「実証実験」として提供しており、原付とは異なる「小型特殊自転車」区分で電動キックボードを利用している。原付同様に免許は必要だが、ヘルメットが任意となるほか、車道だけでなく自転車道なども走行できる。一方、最高速度については一般的な自転車よりも遅い15kmに制限されるというのが大きな違いだ。

LUUPで利用されている電動キックボードと電動アシスト自転車。現在はバックミラーなどもついている

これに対して、7月から始まる「特定小型原動機付自転車」は、原付とは異なる区分として新たに施行されるもので、特定の事業者のみの特例措置ではなく、基準を満たしていれば購入やレンタルを問わず対象となる。用語が難しいが、ざっくり整理すると7月以降は「原付」「電動キックボード(特定小型原動機付自転車)」という2つの区分になる、ということだ。

この「特定小型原動機付自転車」の大きな特徴は、16歳以上であれば免許不要で利用できるようになること。また、特例制度の時は15kmに制限されていた速度が20kmまで高速化される。利用者にもよるが、時速20kmという速度は「ママチャリ」と呼ばれるようなシティサイクルタイプの自転車よりは速く、クロスバイクよりは遅い、くらいの速度だ。

走行場所は自転車の走行可能な場所に加えて、時速6km以下であれば歩道も走行できる。ただし、歩道で速度を出しすぎていないかをわかりやすくするため、最高速度表示灯が必須の条件となった。また、右折方法は特例制度の場合は自動車と同じ小回り右折だが、7月からは原付と同じ2段階右折になる。

ヘルメットについては特例制度で任意とされていたが、7月からは努力義務となった。ただし、2023年4月からは自転車でもヘルメットの着用が努力義務化されており、電動キックボートが厳しくなったというよりも、自転車と同等になったと理解するのがいいだろう。

「安全な乗り物」を政府に働きかけ

今回の法改正についてLuupの岡井氏は「日本の電動キックボードが特殊な状況にある」と指摘。現行法ではキックボードが原付とされているため、電動キックボードで最高30kmものスピードを出すことができるが、岡井氏によれば30kmも出せるのは諸外国と比べても日本だけだという。

また、キックボードを原付として扱うことで、安全基準を満たしていない違反機体のような電動キックボードが店頭で販売されているような状況も問題視してきたという。

こうした状況を改善するため、Luupでは政府に対し、「電動キックボードのような新しい乗り物をすべて認めないのか、それとも有用性が見られて一定の安全性が担保できるのであれば、しっかりした正しいルールを明示してほしい」という要望を出すとともに、政府が具体的に検討するためにさまざまなデータも積極的に提出。業界団体の「マイクロモビリティ推進協議会」としても意見を提出するなど、政府への働きかけを行なってきた。

一方で今回の法改正についてデータや要望は提出していたものの、Luupや協議会として法改正の具体的な内容に関わってはいない。今回の法改正の内容を決定したのはあくまで政府であり、Luupや協議会は検討のためのデータを提出した立場、とのことだ。

7月から新基準に適合した新機材を導入。自転車とは“距離”で棲み分け

7月の法改正に合わせて、Luupでは新たな保安基準に準拠した新機種を投入すると共に、これまで実証実験で利用していたキックボードは全数をリプレイスし、保安基準を満たすようなカスタマイズを実施する。

ただし、Luupでは東京・大阪・横浜・京都・仙台ですでにサービス展開しており、東京で1,780ポート以上、大阪で520ポート以上と大量の機体を実際に運用している。そのため、実証実験で使っていた機種の利用は2024年12月までの猶予期間が設けられており、旧機種は7月以降徐々に入れ替えていく。最高速度表示灯が搭載されていないキックボードもしばらくの間は利用できる。

開発中のLUUPキックボード。歩道でのスピード出し過ぎを防ぐ「最高速度表示灯」を備えている

努力義務となっているヘルメットについても希望者にはヘルメットを渡すような取り組みも考えているが、同じヘルメットを不特定多数の人間が何十人も利用するのは衛生面での課題もあるため、どのような提供方法が最適かは現在検討中だという。

なお、Luupはキックボードだけでなく電動アシスト自転車もレンタル提供している。岡井氏によれば自転車とキックボードでは利用者のスタンスが異なり、最初は物珍しさもあってキックボードの利用が多いものの、慣れてくると自転車の利用率が上がるのだという。自転車の場合はアシスト上限が時速24kmとキックボードより早いため、数駅くらいの距離であればキックボードよりも自転車のほうが利用されているようだ。

一方、自転車は漕ぐ必要があるためスーツやスカートで運転しづらいという事情もあり、法改正の7月以降は、電動キックボードが速度向上こともあわせて短距離はキックボード、中距離から長距離は自転車という棲み分けができる、と予測している。

Luupの料金プランはこれまで基本料金50円、時間料金1分15円というシンプルな料金プランのみ。5分利用時の料金は、50円+75円(15円×5分)で125円だ。

シンプルな料金の理由は、実証実験としてデータの取得が主目的であり「サブスクなどの料金プランを導入するとヘビーユーザーの利用に偏ってしまう」との考えがあったこと、また、会社としてかけられる工数を安全対策に割くという方針があったためだという。7月以降の商用サービスでは、安全対策を最優先した上で、サブスクや観光客向けの料金プランなども検討するとした。

重要なのは「利用しない人」を含めた「ありかた」の啓発

こうしたサービスの拡充に加えて、Luupが最重要課題として取り組んでいるのは、正しい利用方法の啓発活動だ。

現在の実証実験でも利用者には電動キックボードの利用に関するテストを受ける必要があるが、このテストは問題数も少なく何度も繰り返し受けられるため簡単にテストを終えることができた。結果として利用ルールがしっかり身につかないまま電動キックボードを利用できてしまうという側面もあり、利用者からもテストの難易度を上げて欲しいという要望もあったという。

LUUPアプリで「テスト」に合格しないと利用開始できない

Luupではこうしたフィードバックを踏まえ、今後はテストの難易度を上げるとともに、商用化とともに利用対象となる外国人に向けての啓発も行なっていく方針だ。

また、これらの利用ルールはキックボードだけでなく自転車についても同様に啓発が必要という。例えば車道を逆走している自転車などは少なくない。Luupでは電動アシスト自転車のシェアサービスも展開していることから、今後はメーカー各社との協力も得た上で、テストを合格した利用者への認定を行なうことも視野に入れているという。

2022年9月には、飲酒運転でLuupの利用者が死亡するという不幸な事故も発生した。Luupでは飲酒利用に対して、特定のエリアや時間帯で警備員が声がけする施策も実施している。

飲酒運転への対策として、「飲酒運転が起きそうなエリアや時間帯で利用を停止する」という施策も行なった。これは飲酒運転自体は発生しないので、当たり前だが効果は高い。しかし、「利用ルールを正しく理解してもらう」という啓発にはつながらない。コストはかかるが、警備員による注意喚起を行なうことで、利用者だけでなく利用しない周辺地域の人にも「飲酒運転は禁止」とアピールできる。そのため、今後も特定エリアでは警備員を配置するという。

飲酒運転対策のように、利用者だけでなく利用しない人や世論にも啓発していくのが重要、というのがLuupのポリシー。警察や自治体と協力した安全講習会といった利用者以外の啓発活動も積極的に行なっていく。

正式サービス化で大幅な利用者増へ

Luupでは7月以降、大幅な利用者増を予想している。実証実験で取ったアンケートによれば、利用しなかった人の一番大きな理由は「正式に法律になっていない」ことが大きく、例えばビジネス利用の人がスーツ姿で乗車するのは抵抗があるという事情や、ルールが複雑なため利用が億劫だという感想が多かったという。

また、利用した人からは「最高速度15kmで車道を走るのが怖い」という意見が多く寄せられた。これについては、7月以降最高速度が時速20kmに引き上げられるほか、速度は下がる(時速6km)ものの歩道も走行できるようになるため、危険に感じる場所は歩道に回避するなどの運転ができるようになる。

諸外国でも電動キックボードに関する同様の法改正があった場合、法改正の日から需要が爆発的に増加したということで、Luupとしても7月以降は利用者の急増に対応すべく準備を進めている。

当面は7月に向けて対応を進めていくが、今後は啓発だけでない技術的な対策も視野にあるとのこと。岡井氏は「位置測位技術が進めば歩道か車道かも検知でき、血液や呼気などでアルコールを検知することもできるだろう」と技術の進歩に期待し、「極論すれば5年後、10年後にはIoTが搭載されていないモビリティを販売できないようになってほしい」とコメント。「IoTが搭載されていれば駅前の放置自転車も速度違反も把握できるようになる。周知徹底も重要だが、違反行為をしづらくする構造が大きな指針だと考えている」と今後の展望を語った。

甲斐祐樹

Impress Watch記者から現在はフリーライターに。Watch時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。個人ブログは「カイ士伝