トピック

+メッセージは始まったのか? 本人確認とシンプルの強みと課題

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという携帯大手3社が提供するメッセージサービス「+メッセージ」。じわじわと利用者も増えているほか、対応サービスも拡大し、従来のNTTドコモ(ahamo含む)・au(povo含む)・ソフトバンクの加入者に加え、9月以降それぞれのサブブランドや各社の回線を利用しているMVNOなどに順次対応を拡大している。

メッセージサービスといえば、日本には8,600万以上のアクティブユーザーを抱える「LINE」が存在する。その中で、+メッセージはどのような展開を想定しているのだろうか? 現在の状況について3社に聞いた。

話を聞いたのはNTTドコモ スマートライフ推進部コミュニケーションサービス担当担当課長の中島裕昭氏、同担当課長の片桐智子氏、KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部サービス開発3部サービスIGグループリーダーの小頭秀行氏、ソフトバンク サービス企画本部サービス企画統括部サービス企画部企画3課の田中栄子氏、藤田直樹氏。

KDDI小頭氏(左下)、NTTドコモ 中島氏(中央上) ドコモ片桐氏(中央下)、ソフトバンク田中氏(右上)、ソフトバンク 藤田氏(右下)

順調な+メッセージ、若年層の利用拡大を目指す

+メッセージは2018年5月に提供を開始。今年7月には利用者数が2,500万を突破し、「順調に伸びている」とドコモの中島氏。3,000万も見えてきており、「利用者の伸びは大きく変動することなく、徐々に増えてきている」(中島氏)という。

アクティブなユーザーも順調に拡大。Android端末だと既存のSMSを置き換えらる形なので、+メッセージと意識しないで使っているユーザーも多いだろう。ただ、ソフトバンクの藤田氏は「スタンプ機能を追加したことで、スタンプを使ったコミニュケーションは増えている」と話し、利用率自体も上がっていると説明。

実際、1日あたり、1カ月あたりの送受信回数はSMS単体の頃に比べて増加しており、チャット風のUIやスタンプ、グループメッセージといった機能が有利に働き、SMSより利用頻度が上がっている、と分析している。

ユーザーとしては、やはりプリインストールされているキャリアのAndroidスマートフォンの利用者が多いが、例えばソフトバンクではiPhoneのプロファイル設定時にショートカットアイコンを設置してアプリをインストールしてもらおうとしているそうだ。

こうした利用者は、「電話番号でメッセージが送れる便利さを感じて利用している人」(中島氏)が一定数いるほか、従来のSMSとは異なり画像・動画のようなリッチコンテンツが送受信できる点もメリットになっているという。

「良くも悪くもメッセージだけなのでシンプルなサービス」(KDDI・小頭氏)である+メッセージは、電話番号だけで送れるという、シンプルな使い勝手が利用に繋がっているようだ。

ただ、利用者は「若年層より上の年代が多い」(KDDI・小頭氏)。SNS中心の若年層に対する訴求はさらに必要で、「若い人に使ってもらえる工夫が必要」(同)との認識を示す。各社はオンライン専用プランのahamoなどを開始しており、若者が契約する可能性も高い。中島氏は、現時点でahamoユーザーで+メッセージ利用者が特に増えているということはないとしており、「ahamoと+メッセージを一緒に訴求していきたい」という考え。

小頭氏は、オンライン専用ブランドのpovoをデジタルネイティブ向けに設計し、いち早く+メッセージに対応したと指摘。UQやMVNO向けにもすでにサービスを提供しており、「より幅広い人に利用してもらうために開放した」(小頭氏)。

藤田氏も利用者は20代より上の世代が多く、今後はサブブランド向けにも提供を拡大していきたい考えで、若年層を「どんどん狙っていきたい」と意気込む。

約2年のサービス提供の中で、想定外だったこととして小頭氏は「MVNOやサブブランドでも使いたいという声を多くもらった」という点だという。もともと「いつかは提供したい」と考えていたそうだが、市場の声が大きく、今年になって順次開放していったという。

「+メッセージ」が携帯3社の全ブランドとMVNOに拡大。UQ・ワイモバも

本人確認済みの安心感

サービス開始以来、シンプルさに加えてスタンプが全て無料で提供されている点も好評で、さらに3キャリアが提供するという点の安心感も利用に繋がっている、と小頭氏。サービス開始2年で「手応えを感じている」(小頭氏)という。

+メッセージでは、公式アカウントがメッセージを配信するサービスも提供しているが、「利用拡充はまだこれから」(同)。これも「キャリアの審査があるため、安心安全に利用してもらえる」という点をメリットとして挙げる。

+メッセージはシンプルな点が特徴だが、例えばLINEは同じメッセージサービスといっても様々なサービスが統合されている。どちらがいいかは目的次第だが、+メッセージは「電話番号を使ったメッセージングの進化版。その良さを生かした形でメッセージだけにしている」と小頭氏。

それに加えて、+メッセージの重要なポイントは「厳密な本人確認を経たSIMがあって初めて提供されるサービス。安心安全を価値として提供できる」(小頭氏)点だ。携帯電話不正利用防止法にもとづいて本人確認が行なわれているメッセージサービスには一定の価値があるだろう。

こうした点からも、安心安全、本人確認を念頭に置いてサービスを拡充していきたい考えを小頭氏は示す。

サービス拡充の一環としてはMVNOやサブブランドでの提供が始まっているが、第4のキャリアである楽天モバイルとは接続していない。楽天モバイルは、独自にRakuten Linkアプリを提供し、メッセージサービスを用意しているが、+メッセージとの相互接続はできていない。

+メッセージは、国際規格であるRCS(Rich Communication Services)に準拠した形で設計されている。同様に、Rakuten LinkもRCS準拠。そのため、接続自体はできそうで、藤田氏も「技術的には繋がるはず」と話す。ただ、「楽天モバイルの考え方もあるし、タイミングもある。いずれそういう話があれば協議していきたい」という。

とはいえ、現時点で楽天モバイルと接続したいという声は「多いというわけではない」(小頭氏)。中島氏も、「MVNOで使いたいという声の方が多かった」と話す。

メリットである本人確認済みのSIMを前提とした安全性は、逆に言えばマルチデバイスでの利用が難しいということで、PC経由や複数端末での利用ができないというデメリットもある。

「今のところPCなどからの利用できるようにする予定はない」(中島氏)。

RCS自体はPCからの利用も想定された規格で、+メッセージでもPC利用ができる可能性はあるが、現状は「市場の声を聞きながら検討したい」(小頭氏)とのこと。

審査済みの公式アカウントの拡充で人と企業をつなぐ

藤田氏は、+メッセージの課題として「だいぶユーザーは増えてきたが、3キャリアの契約数からするとまだ伸び代がある。利用率、認知度をもっと上げていかなければならない」と指摘。加えて、企業アカウント数をさらに拡大させ、「企業と人」との繋がりの強化をしたいという。

この企業アカウントについて小頭氏は、「自分にとって重要なお知らせが来る」という点を重視していると話す。単に広告などを無作為に流すのではなく、「重要なお知らせが届く。欲しい情報を伝えることを目指したい」(ドコモ・片桐氏)としている。

2019年4月、+メッセージの機能拡充に関する説明会では、公式アカウントの提供が発表され、メッセージ内で予約やサポートなどが完結できるような機能が搭載された

なお、MVNOなどに開放しても、+メッセージの基本的な内容に変化はない。3キャリアが提供元となり、公式アカウントの審査などの運用も継続するという。

企業アカウントの拡大に向けて、各社は自社内での利用も進めている。KDDIは災害対策アカウントを提供してすでに登録ユーザーが300万近くに達した。ドコモも、あんしん遠隔サポートに+メッセージを活用しているほか、ahamoの契約者に重要なお知らせを+メッセージ経由で配信している。ソフトバンクは、現時点で活用例はないようだが、社内での活用もしていく考えを示している。

自社サービスのユーザーに対して+メッセージを活用する意義としては、やはり「リッチなコンテンツ」だとドコモの片桐氏は話す。画像、動画の配信も可能なので、+メッセージ内でやり取りを完結できるのがメリットだという。テキストの送受信だけではないコミニュケーションが可能であり、そうした「双方向性」が+メッセージのメリットだとしている。

+メッセージは、ビジネスモデルとしては公式アカウントからの収益を見込んでいるが、「何より目指しているのは、ユーザーに便利に使ってもらうこと」(藤田氏)であり、「ユーザーファーストで利便性を提供する」(同)ため、現時点であまり収益性は考慮していないようだ。

とはいえ、+メッセージがRCSを採用していることから、サービスの拡張性は高い。企業対個人のメッセージでも、現状のLINEのようなメッセージサービスが提供するようなサービスは構築できるし、決済サービスへの拡張も可能だ。

「(欧州の携帯業界の団体である)GSMAが発展途上国向けにRCSでの決済サービスを展開しているというのは認識しているが、金融インフラの整った(日本のような)地域では、電話番号だけで送金できるニーズが多いのか、くみ取れていない」と小頭氏。

ただ、KDDIグループのauじぶん銀行が携帯番号での送金(自行ユーザー限定)に対応しているなど、一定のニーズはありそうだ。本人確認された電話番号であるという点も、一定の信頼性の担保にもなるだろう。例えば決済アプリの送金に際してのみ、+メッセージで中継するといった手法もあるかもしれないが、「現状だとまだそこまでの考えには至っていない」と小頭氏。

そうした新たなサービスの展開より前に、現時点では+メッセージのベースであるメッセージ機能の拡充が先で、UIやUXの改善やユーザーの拡大を進めていきたい考えだ。

将来の方向性の1つとしては、RCSを採用したことによって海外事業者との相互接続も想定する。世界中のユーザー、企業ともコミニュケーションが取れるようになれば、新たなサービス展開も考えられるだろう。藤田氏も、そうしたRCSによる繋がりの拡大も考えているとしているが、現時点では具体的な動きはないそうだ。

信頼性を生かした新サービスが鍵となるか

昨今は、キャリアが提供する携帯メールの持ち運びも議論されており、キャリアを変えてもメールアドレスを変更せずに済むようにしようとしている。ただ、どちらかといえば+メッセージで十分な場合も多く、単に「携帯同士のメッセージのやり取り」であれば+メッセージの方が使い勝手がいい場合もあるだろう。

今後のキャリアメールと+メッセージの関係について、中島氏は「キャリアメールから+メッセージへの誘導は方向性としては考えられる」としつつ、現状はキャリアメールが社会インフラとして認識されている以上、両立させていく考え。+メッセージの成長次第では、そうした検討も進める方針だ。

足元では、「LINEの利用者数ほどではないし、公式アカウントも開拓しているが、先行するLINEには及んでいない」(小頭氏)としつつ、ユーザー数3,000万も見えてきたことで、着実な拡大に手応えを感じているようだ。本人確認されているという点では、デジタル庁の発足で高まるデジタル化の時流が後押しする可能性にも期待する。

+メッセージは、現状では「地味な」サービスだ。従来のSMSと同じように使っている人は多いだろう。少しずつ認知度も増えてきているようだが、ライバルとなる他社のメッセージサービスとの違いをいかに打ち出せるか。本人確認と審査という安心安全は1つのメリットだが、サービスの多様性としてはデメリットにもなりうる。

特徴を生かした新サービスをいかに打ち出せるかが、今後の課題となってきそうだ。