石野純也のモバイル通信SE
第51回
「Googleメッセージ」採用したKDDIの決断 RCSとアップルの影、LINE問題
2024年5月22日 08:20
グーグルは、5月15日(現地時間)にAndroidの新展開として、日本で「Googleメッセージ」の展開を拡大していくことを発表した。このアナウンスに合わせ、KDDIは同社が販売する端末にプリインストールアプリとして、Googleメッセージを追加してく方針を明かした。
Googleメッセージは、SMS/MMSに加え、RCS(Rich Communication Servies)の仕組みでコミュニケーションが取れるアプリ。日本でも、Pixelなどに標準搭載されているほか、Android端末にはダウンロードが可能だ。
世界各国でメッセージ標準を狙う「RCS」とその現状
RCSとは、世界各国の携帯電話キャリアからなるGSMAが標準を定めた仕組みで、SMSやMMSの発展形とも言われるサービス。日本では、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社がこの規格を用いて「+メッセージ」を展開しており、2月にはユーザー数が4,000万を突破した。+メッセージはそれぞれの回線を使うMVNOにも提供されている。
日本では“打倒LINE”と評されることもあったが、世界各国でも状況は近い。「WhatsApp」や「KakaoTalk」など、台頭するメッセンジャーサービスに奪われてしまったSMS/MMSのトラフィックを、キャリア各社が取り返したい狙いがあった。
一方で、GSMAで“成功事例”と見られていた日本の+メッセージも、RCSで相互接続できているのは国内3キャリアにとどまっている。
そのため、海外でRCSを使うユーザーとはメッセージの送受信ができず、SMSかMMSでのやり取りになっていた。
また、日本国内でも楽天モバイルはRCSを採用した「Rakuten Link」を導入している一方で、+メッセージとは相互接続していない。そのため、3キャリアから楽天モバイルの回線にメッセージを送信する場合や、その逆の場合は、SMSが使われている。
SMSやMMSの発展形ではあるものの、これらのサービスに比べると、相互接続が進んでいなかった現状がある。
iPhoneという障壁
また、Androidの場合はキャリアの仕様に基づき、SMS/MMSのアプリを+メッセージに統一できたが、iOSはその枠外にあった。iPhoneではアップル独自のiMessageでApple IDを持つユーザーとメッセージのやり取りができ、Androidや他の端末とやり取りする際には、SMS/MMSに自動で切り替わる仕組みが取られている。
iOSにも+メッセージはサードパーティアプリとしてインストールできるが、やり取りできるのは+メッセージ同士だけにとどまっている。
SMS/MMSとRCSがシームレスなAndroidの+メッセージアプリとは異なり、SMSやMMSとのシームレスな統合はできていない。
元々はキャリアの回線に依存していたSMSやMMSだが、その上位サービスであるRCSは、キャリアやプラットフォームによって対応がバラバラになっていたというわけだ。
RCSを独自に拡張してきた「Googleメッセージ」
RCSは、IMS(IP Multimedia Subsystem)と呼ばれるキャリアの設備で制御を行なう仕組みとして誕生しており、+メッセージも電話番号との紐づけや、相互接続にはIMSを活用している。
一方で、グーグルは'15年にRCSの開発を行なってきたJibe Mobileを買収。RCSの標準化にも関与しつつ、IMS相当の機能をクラウド上に持たせる形でAndroidのメッセージアプリをRCSに対応させた。'19年には、米国などでキャリアを介さない形でRCSを開始。'20年には、それをグローバルに拡大した。
世界的に見ると、グーグルにRCSサービスをお任せしてしまっているキャリアは多い。グーグルが先行してサービスを開始した米国はその一例。'23年には、英Vodafoneグループも、欧州各国で自社のRCSサービスを終了し、Googleメッセージに移行している。
また、国によってはキャリア間の相互接続もできていない。先に挙げたように、GSMAでは、(すごく順調とはいえない)日本の+メッセージが“成功事例”として挙げられていたほどだ。そうであれば、日本以外の国でもグーグルのサービスに頼ろうという判断が働いたとしても不思議ではない。
KDDIの決断とアップルの影。日本の「LINE問題」
今回、KDDIが端末にプリインストールしていくのは、この「Googleメッセージ」だ。
現状では、Pixelシリーズに搭載されているが、その他Androidでは+メッセージが標準で、ユーザーはGoogle Playストアからダウンロードしなければ、これらの機能は利用できなかった。
ただし、KDDIが+メッセージを終了するわけではなく、あくまで“追加”とアナウンスしている点には留意が必要になる。これは、auやUQ mobileの端末には、Googleメッセージと+メッセージが併存することを意味している。
例えば、Googleメッセージを標準のメッセージアプリにした場合でも、+メッセージでRCSのメッセージはやり取りできる。SMS/MMSはGoogleメッセージ経由になる一方で、グーグルとキャリア、それぞれのRCSはそのまま利用可能だ。
そのため、Googleメッセージの採用が、すなわち+メッセージの終了に直結するわけではない。+メッセージはAndroidベースのフィーチャーフォンにも採用されているため、こうしたサービスは継続するものと見られる。
では、なぜKDDIがGoogleメッセージを新たに自社の端末に採用するのか?
KDDIは「グローバル標準」であることを理由に挙げているが、裏には、アップルのRCS対応があると見ていいだろう。アップルは、'24年内にiOSなどにRCSを導入することを表明しており、グーグルのGoogleメッセージとも相互接続する可能性が高い。
Google I/Oで取材した同社のメッセージサービスを担当するAndroid and Business Communications Directorのヤン・イェンドレヨヴィッチ氏は、グーグルとアップルのRCSが「相互運用可能になることを確信している」と語る。
OSを提供する2大プラットフォームがRCSでつながれば、Googleメッセージの存在意義が高まることは間違いないだろう。半ばAndroid専用かつ3キャリアのユーザー同士に限られていた+メッセージより、プラットフォームをまたぎやすいGoogleメッセージの方が利便性も上がるはずだ。
とは言え、購入した端末に2つのRCSアプリが載ってしまうのは、ユーザーにとって非常に分かりづらいことも事実。ドコモやソフトバンクはもちろん、Rakuten Linkを標準にしている楽天モバイルがGoogleメッセージにどう対応していくかも不透明だ。現状でも一応はユーザー自身でインストールできるが、その存在を知っている向きも少ないだろう。
大手3キャリア共通のRCS導入が早く、それなりに普及してしまっているぶん、Googleメッセージの普及には他国よりやや時間がかかる可能性がありそうだ。
とは言え、経済安全保障の観点では、RCSをGoogleメッセージに一本化してしまうのはリスクも伴う。その意味では、+メッセージとの併存が当面は正しい対応なのかもしれない。また、+メッセージを拡張し、GoogleメッセージやRCSに対応したiOSのメッセージと相互に接続するといった手もありうる。
LINEの情報漏洩に端を発し、その資本関係が問題視されている中、RCSまでグーグル頼りでいいのかは、本来もっと議論されてしかるべきことのような気もした。