中小店舗のキャッシュレス対応

第11回

キャッシュレスついに4割も厳しい手数料負担&AirペイのNFC Pay対応をあれこれ聞く

前回は、筆者の家族が経営する店、紀の善で、新型コロナウイルス感染拡大以降キャッシュレス決済がどう推移したのかを紹介しました。その中でAirペイでのNFC Pay対応を要望していましたが、その後Airペイが今年秋にNFC Payに対応することを発表しました。その件についてAirレジ・Airペイを運営するリクルートに話を聞きましたので、今回はその模様を紹介します。

あわせて、緊急事態宣言が解除されてからの店でのお客様の動向についても紹介したいと思います。

Airペイでは“3面待ち”でのNFC Pay対応を実現、Apple Payにもフル対応

6月18日、リクルートはAirペイが2020年秋よりクレジットカードのタッチ決済(NFC Pay)に対応すると発表しました。前回の記事が掲載されて2週間ほど経過した、まさにドンピシャなタイミングでの発表ということと、ついにNFC Payが利用可能になるということで、個人的にかなり嬉しい発表でした。

そこで今回、なぜこのタイミングでNFC Payへのタイミングを発表したのか、リクルートでAirペイを担当している、SaaS領域 決済プロダクトマネジメントユニット ユニット長 『Airペイ』サービス責任者の塩原一慶氏に話をお伺いしました。

AirペイでのNFC Pay対応について話を聞いた、リクルート SaaS領域 決済プロダクトマネジメントユニット ユニット長 『Airペイ』サービス責任者の塩原一慶氏(リクルート提供)

まずはじめに、なぜこのタイミングでの発表になったのでしょうか?

塩原氏によると、AirペイでのNFC Pay対応については、2年ほどの時間をかけて検討と開発を進めてきたそうです。もともとは、今年開催される予定だった東京オリンピック・パラリンピックも見据えつつ開発を進めてきたので、対応を急遽早めたわけではないとのことでした。

ただ、新型コロナウイルス感染拡大によって非接触決済のニーズが高まり、NFC Payをはじめとする非接触決済についての問い合わせが多く寄せられていたそうで、開始時期は2020年の秋と少し先ではあるものの、まずは安心してもらう意味もあって、このタイミングで対応を発表したそうです。

では、どのようにNFC Pay対応を実現するのか。Airペイでは日頃より、利用者に時間や手間、コストを極力かけないという考えで様々な機能を実装しているそうで、今回のNFC Pay対応でも同様の考えで開発を進めていると塩原氏は説明しました。

そのため、決済端末は現在利用されているものをそのまま利用します。その上で、Airペイアプリと決済端末のファームウェアそれぞれをアップデートすることでNFC Payへの対応を実現することになるそうです。アプリとファームウェアのアップデートは伴いますが、ほぼ最低限の作業だけでNFC Payへの対応が実現できるわけですから、すでにAirペイを導入している事業者にとって非常にありがたい対応と言えます。

また、実際のオペ-レーションも利便性を最大限考慮したものとなっているそうです。現在、Airペイでクレジットカード決済を行なう場合は、決済方法として「クレジットカード」を選択しますが、NFC Payが利用可能になってもその手順は変わりません。決済方法として「クレジットカード」を選択すると、決済端末はIC、磁気ストライプ、NFCの全てを同時待受、つまり“3面待ち”になるそうです。これも利用者に面倒や不便を強いないという考えのもと実現したそうです。

NFC Payに対応しても、決済手順がNFC Payだけ別扱いになると面倒と考えていましたが、そうではないということでこの点も大歓迎です。

AirペイでのNFC Pay対応は、いわゆる3面待ちを実現するため、決済時には決済手段から「クレジットカード」を選択するだけでいいという
このようにクレジットカード決済時にはIC、磁気、NFCの全てを待受するので、決済時の手間が増えないのは嬉しい(イメージ画像、リクルート提供)

それだけではありません。Apple Payについてもしっかりとした対応を実現するとのことです。

もともとAirペイはApple Payに対応していて、支払い手段として「Apple Pay」も用意されています。ただ、対応しているのは交通系電子マネー、iD、QUICPayのみで、NFC Payには非対応ということで、海外のお客様がApple Payを使いたい場合に混乱する可能性があることを考慮して、紀の善ではApple Payへの対応はうたわず、アクセプタンスマークもApple Payマークは外していました。

しかしAirペイでのNFC Pay対応後は、支払い手段に「Apple Pay」を選択するだけで、交通系電子マネー、iD、QUICPay、NFC Payの全てが同時待受になるとのこと。これなら心配なくApple Payも対応できそうです。

このApple Payへの対応がかなり大変だったと塩原氏はふり返っていましたが、妥協なく対応を実現するという点はとてもありがたく感じます。

ちなみに、NFC Payでは一定金額までは暗証番号の入力やサインを行なわず決済できますが、AirペイでのNFC Pay対応ではその上限が1万円となるそうです。決済金額が1万1円以上になるとサインが必要になる(暗証番号の入力にはならない)とのことでした。紀の善では決済金額が1万円未満のお客様が多いので、NFC Payでの支払いの場合、多くのお客様がサインレスで決済できることになるでしょう。これによって、お客様の利便性が高まるのはもちろん、店員の省力化にもつながるはずです。

また、塩原氏によると、対応時期を「今年秋」と発表はしたものの、可能な限り前倒しで実現できるように作業を進めているとのこと。決済に関わることなので事故が起こらないよう念には念を入れて検証を重ねる必要があるとは思いますが、前倒しでの実現を大いに期待したいと思います。

緊急事態宣言解除後は客足が戻るも厳しい状況は変わらず

さて、ここからは話題を変えて、店の状況について紹介します。

前々回に紹介したように、店では3月いっぱいはほぼ通常通りの営業でしたが、緊急事態宣言が発令された4月7日以降は営業時間の短縮と定休日の追加、2階のイートインスペースの閉鎖といった対応を行ないました。そして、5月25日に緊急事態宣言が全面解除となったことを受けて、6月からは通常の営業時間と定休日に戻すとともに、2階のイートインスペースも再開することとなりました。もちろん、完全復活というわけにはいかず、イートインスペースでは利用できるテーブル席の数を減らしたり、換気に気を配るなど、3密対策を行なったうえでの営業となっています。

6月からは通常の営業時間と定休日に戻し、2階のイートインスペースも再開。ただしイートインスペースはテーブルを間引いて営業している

では、実際のお客様の状況はどう変わったかのでしょうか。下に示したグラフは、売上の前年同月比をグラフにしたものです。2月はほぼ前年と同じで、3月、4月と大きく売上が低下したのは前々回紹介したとおりです。その後、5月は緊急事態宣言が続いている中でしたので、4月同様に非常に低い水準でした。4月と比べるとわずかに持ち直しているようにも見えますが、それでも前年比38%ですから危機的状況だったことに変わりはありません。

そして、緊急事態宣言が前面解除となって、ほぼ通常営業へと戻した6月は、前年比69%とかなりお客様が増えました。緊急事態宣言が解除となって以降は、店のある神楽坂にも多くのお客様が来られるようになっていて、それに比例するように店へのお客様も増えた形です。まだまだ厳しい状況が続いているのは間違いありませんが、それでも店に足を運んでくださるお客様が増えたことは、とてもありがたく感じています。

売上前年同月比の推移

売上減の中でキャッシュレス比率が伸びたことで、手数料負担が問題に

続いてキャッシュレス比率の動向です。前々回紹介したように、コロナの影響が出始めた2月以降、キャッシュレス比率が伸びていましたが、下のグラフに示したように6月は40.1%とついに40%を突破しました。政府は2025年にキャッシュレス比率を40%にするという目標を掲げていますが、店では一足早くその目標値に到達した形です。

キャッシュレス比率の推移

とはいえ、これは手放しで喜べないのも事実です。2019年10月に始まったキャッシュレス・消費者還元事業では、キャッシュレス決済に対して5%のポイント還元が行われるだけでなく、店側にもキャッシュレス決済手数料の約1/3が補助されました。そのため、店で利用しているキャッシュレス決済では決済手数料が実質2.16%となっていました。

しかしキャッシュレス・消費者還元事業が終了した7月以降は、手数料の補助がなくなりますので、手数料は3.24%または3.74%へと戻ります。売上が大幅に減っている中でキャッシュレス比率が伸びるとともに、手数料が元に戻るということで、手数料負担がこれまで以上に重くのしかかってくることになります。

また、新たなキャッシュレス還元制度として9月からマイナポイントが始まります。これは、利用者への還元はありますが、事業者への還元はありません。つまり、店にとってはキャッシュレス比率がさらに増え、手数料の負担増になる可能性が高いのです。

キャッシュレス決済の手数料については政府や業界も問題意識を持っているようで、キャッシュレス手数料の公開を義務化したり、一部ではキャッシュレス決済に関わるシステム利用料などを見なおす動きも見られます。ただ店側としては、売上が大きく落ちている中でのキャッシュレス比率の増大による手数料負担増は、現在進行形での切実な問題です。おそらく、実際に手数料が見なおされるには年単位の時間がかかるでしょう。はっきり言ってそれでは遅すぎです。平常時ならともかく、新型コロナウイルスの影響で今のような状況になっていることを考えると、手数料の問題についてスピード感を持って取り組んでもらいたいと思います。

平澤 寿康