鈴木淳也のPay Attention

第167回

無人レジ店舗の最新トレンドをニューヨークのNRFで見た

マディソンスクエアの眺望。広場の南には世界でも著名な三角高層ビルの「Flatiron Building」がある

全米小売協会(NRF:National Retail Federation)の年次開催展示会「NRF Retail's Big Show(NRF)」が1月15日から17日までの3日間にわたって米ニューヨーク市内のJavits Centerで開催された。2021年はコロナ禍突入によりオンラインのみでの開催、2022年はリアル展示に回帰したものの、同地域でのオミクロン株の急拡大により大手を中心に出展中止や参加取り止めが相次ぎ、一説によれば最後のリアル開催だった2020年の半分から3分の1程度の規模まで縮小したといわれる。

だが今年、NRFは復活した。Javits Centerで長らく工事が行なわれていた北側エリアの拡張が完了し、会議室を含む巨大ホールが出現し、2018年以来拡張工事のために縮小開催されていたカンファレンスのホール移設が行なわれたため、実施面積は過去のNRFでも最大規模となった。また来場者についても2020年を上回る数字に達したことが報告されており、リアル展示会としてのNRFはほぼ完全に復活したことになる。一部はコロナ禍で撤退したままのものの、去年参加キャンセルを発表した展示社も戻ってきており、かつての賑わいを取り戻しつつある。

新設された北側エリアのホールからJavits Center中央部を望む。2日目は特に人が多かった印象で、カンファレンス会場や展示会場では人が溢れていた

筆者にとっても3年ぶりのリアル参加となるNRFだが、一方で今回の参加者ら何人かと話していたのだが、「今年のNRFのテーマは?」と問われるとなかなか答えに窮する。

10年弱にわたってNRFの変革を見てきたが、シンプルに商材を並べてバイヤーと交渉する場というよりも、顧客の課題解決ということでソリューションやソフトウェア寄りの話題が増えてきた印象があり、今回もまたその延長線上にあると考える。

NRFで見かけたテーマは複数あり、本連載でピックアップしていく予定だが、今回は「無人決済店舗」に着目したい。Amazon Goが登場した直後の2019年、NRFではこれをテーマにした展示が大量に出現し、主催者側でもプッシュしていた経緯がある。4年の月日を経て、いま現状はどうなっているのだろうか。

デモンストレーションから実店舗販売へ

NRFのバッジ受け取りのためにJavits Centerの登録カウンターに入ってまず目につくのが「Just Walk Out」(商品を取って出るだけの体験)の店舗だ。いわゆる「Amazon Go」をNRF向けに特別に“キッティング”した出張店舗で、中のドリンクやスナックを実際に手に取って購入できる。

通常、こうした展示会での「レジなし店舗」はあくまでデモンストレーションの扱いであり、入場しても商品は戻す必要があったり、特に課金することなくそのままお土産として持ち帰ることを可能にしていたりしたが、このJust Walk Outは普通に店舗として営業している。位置的にNRFの登録者でなくても利用できる状態になっているが、今回の同店舗の入場ゲートはNRF用の特別製で、基本的にクレジットカードをリーダーに挿入したときのみ利用できる。現在のAmazon GoやFresh店舗では「手のひら」の生体情報の入力や電話番号の入力が必要なため、あくまで店舗体験に特化した形だが、4年前に同様にフィーチャーされていた「AiFi」の店舗が購入の流れを体験するだけのデモンストレーションのみだったことを考えれば、ようやく仕組みとして根付いてきたといえるかもしれない。

NRFのレジストレーションカウンター付近に設置されているJust Walk Outの店舗
入場ゲートはAmazon Oneではなく、クレジットカードを挿入したときのみ利用が可能なNRF特別仕様となっている。Apple Payなどは不可

そんなAmazonだが、AWSのブースでJust Walk Outを「Dash Cart」とともに紹介しており、リテール向けのクラウドサービスの一環として、リアル店舗での問題解決に向けた提案を行なっている形だ。

筆者が把握する限り、Just Walk Outの展示会への出展は2022年10月のMoney20/20に続いて2回目となるが、説明によれば「Money20/20と同様のものを持ってきている」という。この展示を行なっているのはAWSでも生体認証を司る「Amazon One」の担当部署で、実際にJust Walk Outの横ではAmazon Oneの新型デバイスのお披露目も行なわれていたが、Just Walk Outの展示部分については棚の重量センサーのない「簡易版」は今回は用意されておらず、「あくまでブース展示の1つ」という扱いに留まっている。

いずれにせよ、世界最大規模の小売展示会にJust Walk Outという同様の仕組みと走りとなったシステムをAmazonが持ち込んできたこと自体に意味があると考えるべきだろう。

AWSブースにおけるJust Walk Outの展示。写真右側ではAmazon One、左奥ではDash Cartの展示が行なわれている
センサー部が改良された第2世代のAmazon Oneの展示。前世代と違ってカメラモジュールが視認できるようになり、読み取り精度も向上しているとのこと

日本でもお馴染みの技術が展示会場に

Just Walk Outそのものはまだ日本上陸していないが、そのフォロワーとも呼べる技術はすでに国内展開を開始しており、世界でのそれ以外の地域での事例を掲げつつ今回のNRFでも出展を行なっている。

日本国内で最も店舗展開が進んでいるのはファミリーマートと組んだTOUCH TO GO(TTG)だが、コンビニ業態ではライバルにあたるローソンと組んで「Lawson Go」を展開するZippinは、富士通ブースの中で同技術を紹介している。

Zippinと富士通は日本国内での展開にあたり独占契約を結んだことを発表しているが、現在ではこの提携はさらに拡張されており、米国内など国外での展開においても富士通が各種支援を行なう形になっている。今回のNRF展示はそれを示すものであり、TTGが日本国内展開にあたって東芝テックとの提携を発表したのと同様、スタートアップ企業であるZippinの穴を埋める存在として機能しているといえる。

富士通ブースにおけるZippinの展示。やはり人が多くて写真を撮れる瞬間を待つのに時間がかかった
個人的な注目としては棚センサーを組み込みにくいホットスナックの取り扱いを始めている点が挙げられる

次のシステムも「カメラ+棚の重量センサー」の組み合わせだが、ドイツのGK Softwareのブースでは日立製作所とイスラエルのShekelがパートナー企業として紹介されている。以前に紹介したオフィスグリコを無人決済店舗にした「CO-URIBA」の座組と一緒だ。CO-URIBA自体は日立(LGデータストレージ)のLiDARとShekelの重量センサーを搭載した棚を用いて人流解析やエンターテインメント性に着目した仕組みだが、こちらは無人決済店舗運営に特化している。

同様の仕組みはShekel自身がイスラエル国内に展開しているほか、最近ではベルギーのブリュッセル空港にも導入されており、少しずつ展開が進んでいる。

ドイツのGK Softwareは日立とShekelをパートナーにしたシステム展示を行なっている

3つめはカインズで「Mobile Store」のベースを提供している「AiFi」だ。AiFiは2019年のNRFでは最もフィーチャーされた技術だったが、米国内ではスタジアムなどでの導入実績はあるものの、やや苦戦している印象がある。だが、例えばポーランドでは現地のスーパーマーケットチェーンZabkaとの提携で2021年9月から「Nano」と呼ばれる無人レジ店舗の展開を開始しており、わずか1年程度で同国内での50店舗以上のNano展開を実現している。

今回のNRFではMicrosoftブースに出展しており、潜在的なパートナー獲得に向けたデモンストレーションを行なっている。NRFにおけるMicrosoftブースは正面入り口の一番目立つ場所にあることもあり、来場者が極めて多い。2019年に引き続き、NRFでの強力なアピールを実現したといえるだろう。

MicrosoftブースにおけるAiFiの展示。おそらく最大の成功例であるZabka Nanoを前面に出している
入り口の様子。「24/7」を強調して年中無休をアピールするのは、労働規制に厳しい欧州ならではの特徴かもしれない
店舗内のカメラ。写真の店舗サイズで20台設置されているという
AiFiではカメラのみですべての行動を追跡するので、棚自体は特にセンサーは設置されておらず、この点がコスト削減ポイントの1つとなる

チェックアウトを簡略化するAIレジも健在

画像認識を使った自動チェックアウトや「Fraud Protection」と呼ばれる機会損失防止ソリューションはここ10年ほどの小売業界におけるAI活用の主要な事例だが、Amazon Go的な仕組みが実用化する一方で、画像認識を用いた会計システム、いわゆる「AIレジ」はなかなか普及の目処が立っていないと筆者は考えている。

理由の1つは精度の問題だと考えるが、従来ながらのバーコードを読み取るセルフチェックアウトを置き換えるほどの利便性が得られていないのが実情だろう。だがNRFにおいても、筆者が参加するようになった10年近く前から展示は存在しており、それは今年のNRFにおいても同様だ。

NRFではInnovation Labというコーナーが設置されており、特に注目に値する技術を持つスタートアップ企業を主催者がピックアップして紹介している。今年のInnovation Labでも2つのベンダーがAIレジの展示を行なっていた。1つは米テキサスを拠点にするDigit7で、画像認識によるセルフレジのほか、棚に設置する重量センサーを用いた「無人レジ店舗」のソリューションを紹介している。もう1つはイスラエルのSupersmartで、こちらも画像認識を用いた高速処理のAIレジを展示している。

Digit7のAIレジ。特定の技術に特化というわけではなく、店舗支援ソリューション全体がビジネスになっているようだ
同じくDigit7の重量センサー。棚に設置してAmazon Goなどのように無人レジ店舗に活用する
SupersmartのAIレジ。Nayaxの決済端末まで含めて展示を行なっている

POSを大規模展開するベンダーでもAIレジの展示は見られた。この分野にはかなり初期から手を付けていた東芝では、画像認識を用いた比較的完成度の高いレジを展示している。形状に特に縛りはないようで、同時認識アイテム数を増やすために重量センサーを拡大したり、顔認識用のフロントカメラを不要であれば外したりと、むしろソフトウェア処理の部分が重要で、必要に応じたカスタマイズが可能な点をアピールしている。そしてやはり同分野に東芝同様に早くから取り組んでいたのはNCRで、画像認識技術を用いたAIレジを紹介していた。東芝とNCRのデバイスに共通するのは比較的大きなライトが広範囲に対象アイテムを照らす仕組みになっている点で、ライティングいかんで認識精度が大きく変化することを過去の実例から両社がよく理解していることを物語っている。

東芝ブースでのAIレジのデモ。技術デモということで実店舗展開は行われていないが、機器のカスタマイズの自由度を特徴に挙げている
NCRでのAIレジのデモ。外見が特徴的なのはライティングのための巨大な“傘”の存在

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)