鈴木淳也のPay Attention

第13回

日本にAmazon Go的店舗の足音。国内最新トレンドを知る

NTTデータの「レジ無しデジタル店舗出店サービス」の実験店舗

先日、NTTデータは「レジ無しデジタル店舗出店サービス」という店舗システムを発表し、同社が六本木に持つデザインスタジオ内に設置した実験店舗を報道陣に公開した。実際の店舗の様子を画像や動画で紹介したレポートも掲載されている。

2017年に設立されたばかりの中国のスタートアップ企業CloudPickとの提携で実現したもので、すでに国内流通各社からの引き合いもあり、早ければ2019年度内にもリアル小売との提携し、商用展開を想定した実験店舗が国内に出現するという。今回はこの動きの速い分野での最新トレンドをまとめてみた。

レジなし店舗の仕組みをパッケージ化する

昨今のカメラと画像認識技術を組み合わせた「レジなし店舗」の走りは、2017年にユーザー限定でベータテストを実施し、2018年1月に一般ユーザー向けにサービスを開放して正式オープンとなった「Amazon Go」なのは間違いないだろう。

Amazon Goでは詳細は未公表なものの、カメラを含む複数のセンサーを組み合わせて行動追跡を行なうセンサーフュージョンの仕組みを採用している。本誌でもAmazon Goについては何度か触れているので詳細の説明は割愛するが、その特徴は「画像認識のみで本人行動を追跡」「進化するシステム」の2点にあると筆者は考える。

行動パターンと商品画像(+α)の認識のみで処理が進むため、RFIDタグのような追加要素が必要なく、タグそのものに加えて商品に貼り付けるコストが省略できるのは1つのメリットだ。また最近でこそ差異を感じなくなったが、2018年のAmazon Goサービス開始当初には退店後のバーチャルカート処理完了で買い物内容が表示されるまで最大30分近い時間を要していたものが、1年後には2-3分程度まで短縮されている。これも日々利用客のデータを分析するなかで最適化が進んだ結果なのだと考える。

Amazon Goの登場以降、同じような仕組みで小売店舗のレジ処理を自動化する試みがさまざまなスタートアップ企業によって続けられている。毎年1月に米ニューヨークで開催されるNRF(全米小売協会)の「NRF 2019 Retail’s Big Show」では、コンセプトや技術展示、実際のビジネスモデルまで踏み込んだものまで、さまざまなサービスが展示されていた。

各社共通で指摘していた意見の1つは、Amazon Goでは1つの店舗だけで大量のセンサーが搭載されており、非常に高コスト傾向にあるということだ。

そのため、1店舗でカメラが10数台前後など比較的最低限の設備だけで実現することを目指しているという。ただ、この方向性においては「カメラの台数を減らすと認識精度が落ちる」「ライティングの関係で商品の画像認識に失敗することがある」という問題も聞かれた。また、カメラを増やすことで今度は「大量の画像処理が必要になる」という問題が出るようになった。

画像のリアルタイム認識では大量のデータが転送されるため、画像認識システムはクラウド上ではなくローカルにサーバーを置いて行なう方式が中心のようだ。Amazon Goは詳細を公開しておらず、どのようなシステム構成を採用しているかは不明だが、NRFを含む数々の技術デモや実際の営業店舗では、クラウドではなくローカルでの処理を実施している。

NRF 2019でのAWMのSmart Shelfのデモ。来店者の行動に合わせて表示が変化するスマート商品棚を展開する同社だが、その技術を応用してAmazon Go型店舗の技術デモを披露している
NRF 2019での東芝の無人店舗デモ。2つのカメラで商品棚と人の動きを同時に追跡する

これはNTTデータの「レジ無しデジタル店舗出店サービス」でも例外ではなく、40-50台のカメラに対し、目視できる範囲で3台のサーバーが配置され、ローカルで画像認識処理を行なっている。通常の棚とハンガー式の棚の両方には重量センサーが搭載され、利用者が商品を取ったかどうかを認識しつつ、天井の180度監視カメラで行動追跡を行ない、棚直上のカメラで商品画像を認識することで、この3つのセンサー情報をうまく組み合わせてレジなし店舗の仕組みを実現しているようだ。

今回はオフィスビルの空きスペースに無理矢理設置された店舗のため通常より天井高が低く、カメラを余分に配置する必要があったというが、処理する画像データが少なければ少ないほどサーバー台数は少なめで済むだろう。現在は利用者の買い物状況のレポートや決済リクエストがあった際の処理でしかクラウド側にアクセスが発生しないとのことで、一般家庭に入っているレベルのブロードバンド回線があれば十分だという。

NTTデータのレジなし店舗の内部。天井に2種類のカメラがあることがわかる
天井の梁の部分にサーバが乗っているのが確認できる。これが30m@em|sp|2@@のスペースに目視で3台確認できた

つまり、店舗設営の際の調整や商品登録などの手間こそあるものの、この「レジ無しデジタル店舗出店サービス」というのは店舗システムそれ自体がほぼ完成されたパッケージとなっており、必要なセンサー群とサーバさえ設置すればすぐにでも利用できる仕組みだ。

クラウド通信が必要なのは行動データの記録と決済のためだけで、比較的閉じた環境になっている。“レジなし店舗”という“ガワ”を購入してきて、最低限のネットワーク回線を用意して商品を並べれば、Amazon Goのような店舗が構築できると考えればいいだろう。

ビジネスモデルを選ぶ「レジなし店舗」

NTTデータの説明によれば、CloudPickは今回のような提携による他社への技術提供以外にも、自身の小売店舗を中国内ですでに30-40程度展開しており、その実績はすでに証明されているという。

ただ、Amazon Go的な仕組みを実現した店舗は世界的にみて現状で恐ろしく少なく、多数の関連スタートアップ企業が集まる米サンフランシスコにおいてもZippinの実験店舗が1つのみで、日米ともに小売各社で実証実験こそ行われているものの、商用展開されているケースはいまだ見ない。

実店舗は中国に偏っており、CloudPickのほか、AlibabaやJD.comの展開している自販機など、主要都市を中心に比較的容易に見つけることができる。

上海虹橋空港にある云拿无人便利店(LePick)。CloudPickの技術で運営されるレジなしコンビニだ
上海市内にある無人運営コンビニのjian24
米サンフランシスコにあるZippinというスタートアップが運営するコンビニ
Zippinは実証実験というが、アプリをインストールしてクレカを登録すれば普通に買い物ができる

なぜ中国とそれ以外で温度差があるのかという点だが、おそらくビジネスモデルに起因すると筆者は考える。

中国では最先端技術に関する投資が盛んであり、ある程度採算性を度外視してもトライ&エラー方式で店舗展開を行なう傾向があるのではないかと推測する。実際、一時期もてはやされていた完全無人運営コンビニのBingoBoxは出現から1年程度で一気にその数を減らしており、採算性の面でそもそもビジネスが成り立たないことを証明している。

CloudPickも自社運営店舗で利益を出すのが目的というよりも、B2B2Cの形で今回のNTTデータのように世界中のパートナーやクライアント企業を見つけて技術やシステムを提供し、B2B2Cのモデルで稼ぐことを主眼にしているからこそ、ビジネスとして成り立っているのだろう。日米での展開が遅い理由は「実際に商用展開にあたって小売各社のサービスにどのように組み込めるか」「採算性の問題は大丈夫か」「犯罪やセキュリティ面での課題はないのか」という部分の検証に時間を取られていることにある。

NRF 2019でのIntelブース。CloudPickのレジなし店舗技術のデモンストレーションが行われているほか、JD.comの画像認識自販機も紹介されている

実際のところ、まだ投資の初期段階にあるAmazon Goが採算ラインに乗っているかは微妙なラインだが、資金面などであまり冒険のできない小売各社はこの仕組みでいかにビジネスを上手く進めるかを考えなければいけない。この手の仕組みはとかく「人件費削減」などの話に傾きがちだが、実際には商品補充などの業務があったり、セキュリティ上の理由から単純に無人化はできない。ローソンの深夜無人店舗がそうであるように、ワンオペでも顧客がストレスなく買い物ができる仕組みであるべきだ。

NTTデータによれば、今回の仕組みでは多様な会社からの引き合いがあるというが、当初はレジなしのメリットを活かして回転率の高いコンビニやドラッグストア、スーパーなどのほか、特定のオフィスやビル内でのみ運営される店舗がその候補に入ると考える。前者は回転率が高くなるほど売上が増える可能性があるわけで、通常のコンビニに比べてもメリットを享受しやすくなる。後者については、ある一定以上のセキュリティが確保されたエリアで、レジ業務だけに人は割けないが購買の仕組みを提供する場合に効力を発揮する。例えばホテルで24時間運営のコンビニを無人化したり、病院などで主に従業員を対象にした売店といった用途だ。

逆に向かない業態としては、医薬品や酒、たばこ、金券に近い商品など、免許が必要だったり、対人販売が前提の商品を主に扱うケースだ。Amazon Goでは種類販売のために専任の従業員がつねに待機しているが、レジなしで販売できる商品とそうでない商品が混在するのは運営上効率が悪い。

例えばコンビニに導入するとしても、酒とたばこを含めてすべての商品を扱える通常の買い物エリアとは別に、素早くお弁当や飲料だけを購入したい利用者のためにレジなしエリアを用意したりといった区分けが重要だ。ただ、お弁当のような品物ごとに盛り付けが若干異なる商品は画像認識とは相性が悪く、通常のパッケージ商品と比べてどこまで画像認識だけで通用するかは今後の検証しだいだろう。

NTTデータのレジなし店舗の入店に使うQRコードを表示させたところ。アプリ自体はそれほど重要ではないという

なおNTTデータでは、入退店の仕組みとして現状の「モバイルアプリ+QRコード」にはこだわっておらず、商用展開にあたって小売各社の独自アプリに組み込んだり、あるいはハウスカードのようなものと組み合わせたりなど、さまざまな可能性を模索しているという。

ここで最も重要なのは、○○Payのような単純な決済アプリとは異なり、入店のタイミングで来場者ごとにユニークIDが割り振られ、棚から商品と取ったり戻りしたりといった行為のほか、移動軌跡から店舗の利用傾向を把握できる。従来以上の情報を取得可能なので、これをクーポンのプッシュ配信やレコメンデーションに活用したりと、マーケティング方面での効果が期待される。まずは2019年度内に1つでも事例を公開できればとのことで、今後半年の動きが楽しみだ。

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)