鈴木淳也のPay Attention
第87回
「非接触」と「ロボット」で攻める2021年のリテールテック
2021年3月12日 08:20
日経メッセが主催する「リテールテックJAPAN 2021」が、3月9日から12日までの4日間の日程で東京ビッグサイトにおいて開催されている。昨年は新型コロナウイルスの脅威拡大に合わせて急遽開催が取り止められたが、今年はオンラインとオフラインの併催の形で無事イベントにこぎつけた。
とはいえ、展示会場は従来までの東館3ホール分を使っていた頃に比べれば、感染症対策でブース配置に“ゆとり”を持たせたり、急遽出展を取り止める企業もあった関係で、半分以下の規模にまで縮小しており、従来常連だった企業のリアル出展もみられない(東芝テックや富士通など)。昨今のカンファレンスや展示会がほとんどオンラインにシフトした現状を考えれば、一部であれオフライン開催が実現できた点は関係者の努力に感謝の念を申し上げたい。
規模は大幅に縮小したリテールテックだが、こうした世相も反映して「非接触」という部分での店時が目立ったほか、昨今の人手不足や効率化に向けた動きとしての「自動化」や「ロボット対応」などが見受けられた。今回はこのあたりを中心にピックアップして紹介したい。
ロボットとAIが実現するもの
今回注目ポイントの1つは野村総合研究所(NRI)のブースで紹介されていた「24時間営業を支援するロボット」だ。同社はコンサルティングやSIが業務の中心であり、ロボット工学にタッチするような業態ではないが、ビジネスアイデアや制御プラットフォームの観点から小売店を支援することを目的として今回の展示を行なっている。
仕組み自体はシンプルで、ほしい商品をメニューから選択して指示を出すと、あとはアーム付きのロボットが店内を巡回して選択した商品を順番にピックアップし、最後に手前のボックスに集めた商品を出力するというもの。特徴としてはアームのピックアップ部分がマニピュレータ型ではなく真空状態で対象を吸引する吸盤型であることと、今回の仮設店舗では誘導用のガイドラインが引かれており、ロボットはそのルートを巡回するだけである点が挙げられる。
前者は複数の商品タイプに対応するためには吸引タイプが適していたという理由であり、既存の店舗設備に変更点をほとんど加えることなしにロボットを配置してこの仕組みを実装することが目的になっている。
NRIによれば、毎年労働人口が5万人ペースで減少を続けているなか、コロナの影響がある程度沈静化した2-3年後に人手不足がより深刻化し、営業時間と売上の兼ね合いでどうバランスを取るかが経営者の課題になるという。
人員確保の難しい深夜時間帯に店を閉めるのも選択肢の1つだが、あえて無人店舗化して巡回ロボットに買い物を任せることで売上の積み上げに結びつけることが可能になるのではという提案だ。
想定される運用としては、ロボットが活動する時間帯に店そのものを閉めてしまい、同時間帯の買い物はスマートフォンなどのデバイスや店頭のKIOSK端末などを利用してオーダーを受け、注文者が後ほど受け取れるように個別のピックアップ用ロッカーのボックスに商品をまとめて入れておく流れだ。決済そのものはオンライン上で完結できるし、アルコールなど深夜帯での購入比率が高い商品も端末経由で年齢確認を行なうことで対応できるとしている。
コンビニやドラッグストアなどからの問い合わせがあるというが、販売商品に制限のあるドラッグストアの無人運営も想定されている。「調剤薬局は難しいが、対面販売が必須の第1類医薬品などについてもオンライン対話ツールなどを組み合わせて将来的に提供ができないか」と、取り扱い品目も含めて検討中というのがNRIでの見解だ。
なお、前述のようにNRIがロボットを提供するというよりは、どこからロボットをリース提供できるような事業者と組みつつ、同社ではコンサルティングやプラットフォーム提供の形で関わっていく形態を想定している。
ロボットとは異なるが、無人運営を可能にする技術としては、各種センサーを用いて来店者の挙動を追跡し、退店時にピックアップした商品で自動的に決済を行なう「レジレス」店舗も話題になっている。Amazon Goを皮切りに、日本国内では中国Cloudpickと業務提携を行なったNTTデータが、国内に実験店舗を立ち上げたり、JR東日本スタートアップから始まったTOUCH TO GOの店舗が高輪ゲートウェイに登場したり、あるいはローソンが富士通と米Zippinとの技術提携でコンビニ店舗をレジレス化したりと、国内でも立ち上げが相次いでいる。
特に中国でのブームの火付け役となったCloudpickだが、同社は2020年秋に日本法人のCloudpick Japanを設立し、NTTデータなどのパートナー以外にも、自社で独自の展開も行なっている。
同社副社長兼COOの秦昊氏によれば、Cloudpickは各国で同じような法人や事業所が次々と立ち上がっているが、対応しきれないほど問い合わせが殺到している状況だという。「個別の案件については回答できないが、もう間もなく導入事例が報告できると考えている」(秦氏)とのことで、日本進出から2年弱、現地法人立ち上げから半年ほどで日本での最初の成果が明らかになる見通しだ。
この期間にも改良が進み「AI精度の向上、カメラの台数削減、ハードウェアの低廉化を実現しつつ、棚のカスタマイズが容易になるなど、使い勝手が向上している」と同氏は説明しており、2021年の展開が非常に楽しみとなっている。
興味深いのは、こうしたロボットやAIを用いた店舗運営効率化ソリューションが割と同時期に多方面から投入されている点だ。リテールテックとは直接関係ないものの、会期中の3月10日にはJR海浜幕張駅構内にある「そばいち」の店舗内で麺茹でのロボットが導入され、正式オープンしている。
「国内外から多くの関係者が集まり、ハイテク企業も集積される土地柄」と“客寄せ”的な狙いも包み隠さず関係者らは導入の狙いについて説明するが、同時に「短期間で人の入れ替わりが発生するアルバイトの業態では“茹でむら”も発生してクレームがあり、その点で1時間あたり150食の提供が可能なロボットであれば茹で作業をピークタイムにすべて任せることができ、かつアーム式なので導入やメンテが容易」とそのメリットを強調する。
月間の利用費は海浜幕張のケース(アーム×2本)で25万円と、パートタイムを2名雇う程度のコストとなっているが、コストとメリットを両天秤にかけたうえで導入に踏み切るほどに、これまで人手が中心だった業態にもロボットが進出し始めている。
「AI+ロボット」という観点でいえば、「Cuebus(キューバス)」という企業の展示していたリニアモーターで動作する自走式ロボットの倉庫ソリューションが興味深い。2020年に起きた一大トレンドが「オンラインコマースの興隆」だが、これを支える物流やフルフィルメントセンター(FC)の技術革新もまた重要となる。古くはAmazon Roboticsが同社FCに導入されて現役で活躍していることが知られているが、同種のロボットは複数のロボットメーカーが多数のメーカーや物流企業の倉庫に向けてソリューションを展開しており、日々改良が続いている。
Cuebusでは自身のソリューションを「自動倉庫」と呼んでいるが、ユニットあたり40kgの重量の荷物を運搬できるリニアモーター制御のロボットがガイドに沿って自走し、平面だけでなく立体方向にも積み上がる形で倉庫を構成する。
個々のロボットはAIで互いの動作がバッティングしないよう最適な形で交通整理が行なわれ、ガイド経由で提供される電力でバッテリなしで動作を続ける。ガイドは専用タイルを敷き詰めるだけのシンプルなもので、タイルの交換や継ぎ足しですぐに倉庫のメインテナンスや拡張が可能だ。
コロナ禍における非接触ソリューション
今年のリテールテックのもう1つのテーマである「非接触」については、「キャッシュレス決済」というよりも「日々のオペレーションでいかに人同士の接触を最低限で済ませるか」という内容になっている。
例えば、モバイルオーダーやピックアップサービスなど、利用者が自身の端末でメニューや注文を行ない、店員との接触は「受け取り時のみ」といった具合に必要最低限に抑え込む仕組みだ。
通常であれば予約番号などを伝えて店頭で受け取るのだろうが、寺岡精工のブースでは「ピックアップドア」の名称で専用ロッカーを用意し、暗証番号の入力やスマーフォトンのアプリなどと連動させることでロッカー個々の扉の解錠が可能にさせることで、「店頭に顔は出すものの、店員との直接接触はない」というピックアップ方式を推進している。
以前に寺岡精工を取材した際にこのソリューションの存在は説明されていたが、そのときは導入先企業の兼ね合いもあって紹介NGだった。今回、KFCの導入事例を含めて店頭ではアピールされており、取り組みが着実に広がっているという印象だ。
「非接触」の文脈では、このほかにも「決済」や「タッチパネル(もしくは物理ボタン)」での工夫も行なわれている。長年にわたって顔認証や画像認識関連の展示を行なっているNECでは、まず物理的な非接触の部分で「“タッチレス”なタッチパネル」製品を紹介している。本来であれば通常の“タッチ”操作も可能なタッチパネル上に“タッチレス”なセンサー機構を追加することで、直接画面に触れなくても指を近付けるだけで“タッチ”と同等の操作が行なえるというもの。
似たような機構はくら寿司などでも導入されているが、引き合いや相談件数は多いようで、先行導入事例として「病院の受付KIOSK」が現在交渉段階にあると説明している。
生体認証方面では顔認証と虹彩認証を組み合わせた事例が参考出展されており、特にマルチモーダル認証での精度向上を狙っているとNEC側では説明する。
例えば、仮に顔認証による決済のエラー率が0.04%程度だとして、対象となるユーザーを拡大して決済件数が何百万件以上にも膨れあがると、1,000件近いエラーが発生する可能性が出てくる。つまり、認証する要素を増やすことで、このエラー率をさらに押し下げて実用に耐える仕組みとすることが狙いとなる。
NECが強みをもつ画像認識では、この仕組みを使った“レジ”のデモも行なわれていた。パン屋での画像認識レジの導入事例は有名だが、以前と比較しての特徴として「学習作業が非常にシンプル化されたこと」を挙げている。
従来であれば商品1点を登録するのに複数の角度からそれぞれ何点もの撮影を行なって何十枚もの写真を用意する必要があったのが、現在では数点ほどで済むと同社では説明する。まだ実証実験レベルではあるものの、ある食堂に導入されたケースでは、トレーに並べた商品を画像認識で自動登録し、まとめて会計が可能な仕組みを構築したという。
昼のラッシュ時の食堂は熟練のレジ係員が素早く商品を認識してレジへの登録作業を行なっていたりしたが、これもまた“ロボット”で代用が可能になりつつあるということだ。
このほか、「非接触」という部分では3D映像にタッチパネルを浮き上がらせ、それを利用者があたかも映像に触ったかのように“タッチ”することで操作を行なう「3Dタッチパネル」の仕組みも複数展示されている。
「ASKA3D」の技術を提供するアスカネットのブースでは複数のベンダーが自身のソリューションを紹介しており、実導入例も含めてデモンストレーションを行っている。前出の「“タッチレス”なタッチパネル」に比べて“幾分か”未来的な感じがするが、問い合わせ件数も含め注目度は高いようだ。