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リテールテックJAPANにみる「セルフレジ」の変化 防犯や新AIカートなど

2月28日から3月3日までの4日間で開催された、第39回流通情報システム総合展「リテールテックJAPAN 2023」。来場者数は77,160人と昨年から27,000以上増加。会場では来場者のマスクの着用や、検温、消毒が求められたものの、全体的にはコロナ禍以前の賑わいが戻ってきた印象だ。

本稿では、リテールテックJAPAN 2023会場ブースで展示されていた製品やソリューションのうち、無人店舗やセルフ決済レジなど、決済関連分野で目に付いたものを紹介する。

東芝TECは新型AIカートやRFIDウォークスルーゲート

東芝TECブースでは、AIカート新モデルや、画像認識機能を利用したセルフレジの不正検知システム、電波を遮断する特殊なガラスを利用したRFIDウォークスルーゲートなどを参考展示した。

東芝TECのAIカート新モデル

AIカート新モデルは、商品の読み取りなどの機能には従来のAIカートと大きな違いはないものの、カート下部に電極を備え、充電ポートを介して最大10台程度のカートを連結しバッテリーを充電できる点が大きな特徴。従来のAIカートは、店員が毎日バッテリーを外して充電する必要があり、その手間が課題となっていた。それに対し新しいAIカートは、充電ポートでカートを連結させるだけでバッテリーの充電が可能なため、手間を大幅に低減できるという。

カート下部に電極が用意され、充電ポートを介してバッテリーの充電が可脳
充電ポート。スーパー店頭などのカート収納スペースに設置して運用することを想定
1つの充電ポートで最大10台程度のカートを連結して充電が可能
従来のカートより省スペースで運用可能な点も特徴

画像認識が可能なスキャナーとハンドスキャナーの2種類のスキャナーを搭載する点も特徴のひとつ。画像認識可能なスキャナーでは割引シールの認識も可能で、より便利に利用できるという。この他、重量センサーを利用した防犯システムも搭載されるそうだ。既にいくつかの店舗で実証実験を行なっており、2024年春頃の発売を目指して開発を進めるとのこと。

カート手前の画像認識可能なスキャナーとハンドスキャナーを同時搭載

商品のバーコードを読み取るだけでなく、パッケージを画像認識によって読み取って商品を特定できるスキャナーも展示。通常のバーコードスキャナーと異なり、いちいちバーコードを探して商品をかざす必要がなくなるため、手軽に利用できるのはもちろん、セルフレジなどの滞留時間を低減できるという。

野菜や生鮮食品など画像認識で商品を特定できなかった場合は、複数の候補から選択することになるが、画像認識での読み取り精度は95%ほどとのこと。多くの場合は正確に商品を読み取れるそうだ。こちらは、2024年度中の商品化を目指している。

パッケージを画像認識で読み取って商品を特定できるスキャナー。AIカートやセルフレジへの搭載を想定
このように、バーコードが印刷されない面をかざしても商品を読み取れる

RFIDウォークスルーゲートは、ガラスを採用している点が大きな特徴。アパレル店舗などでRFIDを利用し商品のチェックを短時間で行なえるシステムはすでに存在するが、そのシステムを進化させ、商品を入れたカートを押してゲートを通過するだけで商品を読み取ることが可能となっている。

参考展示された、特殊なガラスを利用したRFIDウォークスルーゲート

ゲートに利用されているガラスは、ガラスメーカーのAGCと協力し、RFIDの電波を外に漏らさない特殊なガラスを利用。それによって、ゲート内部を通過するRFIDのみを正確に読み取れるとのこと。同時に、透明なガラスを使っているために圧迫感がなく、不正を防止できる効果もあるという。

RFIDを取り付けた商品をカートに入れ、ゲートを通過するだけで商品を読み取れる
AGCと協力し、RFIDの電波を外に漏らさない特殊なガラスを利用して実現

また展示では、決済システムとも連携し、ゲートを通過するだけで商品のチェックから決済まで行なえるようになっていた。具体的な商品化のスケジュールは決めていないそうだが、RFIDさえ利用できれば応用範囲は広く、様々な業種の要望に応えるように開発を進めていきたいとのこと。

酒類の年齢確認を顔認証に。NECブース

NECは、顔認証で年齢確認を行なうことで、酒類の購入時に年齢確認が必須な商品をセルフレジで販売できるソリューションを展示した。

顔認証で年齢確認を行なうセルフレジ酒類販売ソリューション

酒類を販売する場合には、これまでは店員が客の年齢確認を行なう必要があった。そのためセルフレジでは酒類の販売が難しく、カメラを利用して遠隔でオペレータが客の年齢を確認したり、店員が手薄となる深夜の時間帯などは酒類の販売を休止する、という対応が一般的だった。

それに対しNECが展示したシステムでは、顔認証に必要な情報を格納したQRコードを印刷した購入許可証をあらかじめ発行し、酒類の購入時にセルフレジで購入許可証のQRコードを読み取らせるとともにカメラで顔認証を行なうことで年齢確認し、セルフレジで24時間の酒類の販売を可能にするという。

このシステムの大きな特徴となるのが、顔認証に必要な情報を購入許可証のQRコードに格納しているという点だ。ネットワークやデータベース、顔認証用サーバーなどを用意することなく顔認証による年齢確認が行なえるため、簡単かつ低コストで導入できるという。

QRコードを印刷した購入許可証をあらかじめ発行し、酒類の購入時に利用。このQRコードに顔認証用の情報を格納しているため、ネットワークやデータベース、サーバーなど不要で実現できる点が特徴

この他には、昨年も展示していた、虹彩認証と顔認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証決済システムも展示。昨年展示されたものと比べると機材を小型化するとともに、虹彩認証と顔認証それぞれで利用するライトを設置し、明るい場所から暗い場所まで認証精度が高められているという。

虹彩認証と顔認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証決済システム。昨年展示されていたシステムより小型化され、認証精度も高められている

スマホを決済端末にするTap to Phone

三井住友カードの決済プラットフォーム「stera」ブースでは、スマートフォンを決済端末として利用する「Tap to Phone」ソリューションと、Tap to Phone向けスマートフォンを展示した。

steraブースに展示された、steraの「Tap to Phone」ソリューション向けスマートフォン。マレーシアのSoft Spaceが開発

steraのTap to Phoneソリューションは、既存のスマートフォンやタブレットを決済端末として活用するというもの。専用の決済アプリを利用し、スマートフォンやタブレットのNFC/FeliCa機能でカードを読み取り、決済を行なう。レシートなどは決済時に登録した電話番号またはメールアドレス宛に電子レシートが送付されることになる。

このTap to Phoneソリューションの提供については、まだ具体的な時期など決まっていないとのこと。ただ、ベースとなるシステムはバスなどの公共交通機関で利用されている「stera transit」とほぼ同等で、技術的な部分はすでに整っているそうだ。そのため、そう遠くない時期に提供開始になると予想される。

また、同時に展示されていたTap to Phone向けスマートフォンは、マレーシアのTap to Phoneソリューションベンダーである「Soft Space」が開発したもの。既存のスマートフォンをベースに、NFCアンテナをスマートフォンのディスプレイ側に搭載している点が大きな特徴となっている。

Tap to Phoneでは、決済アプリを利用して、一般的なスマートフォンでクレジットカードや電子マネーのキャッシュレス決済が行なえる
展示されたTap to Phone向けスマートフォンは、ディスプレイ側にNFCアンテナを搭載し、画面側にカードをタップして決済できる

通常Tap to Phoneを実現する場合、市販のスマートフォンと専用の決済アプリを利用するが、利用するスマホによってNFCアンテナの搭載位置が異なっており、タップする場所がわかりづらかったり、カードをうまく読み取れないといったトラブルが発生する場合がある。

しかしSoft Spaceが開発したスマートフォンは、ディスプレイ側にNFCアンテナを搭載。これによって、決済時にカードなどをタップする場所をディスプレイに表示でき、迷わず決済できるようになっている。

展示ではクレジットカードのタッチ決済のみデモが行なわれていたが、FeliCaもサポートし、FeliCaベースのICカード各種電子マネーにも対応するという。具体的な発売時期や提供方法などもまだ決まっていないそうだが、価格は日本で販売されている格安Androidスマートフォンとほぼ同等になるだろう、とのことだ。

決済時には、画面上に示される部分にカードをタップすれば良く、迷わず決済できる
レシートは、登録した電話番号またはメールアドレス宛に電子レシートが送付される

セキュアはAiFi無人店舗ソリューション

セキュリティベンダーのセキュアは、米国スタートアップ「AiFi」と業務提携し、無人店舗ソリューションを展開していく計画で、リテールテックのブースでそのデモを展示した。

セキュアブースでは、米国スタートアップ「AiFi」との業務提携による無人店舗ソリューションを展示

AiFiの無人店舗ソリューションは、AIセンサー搭載のカメラのみを利用し、画像解析で買い物客や買い物客が手に取った商品を特定し、決済までを完了させるというもの。一般的な無人店舗のように重量センサーなどを搭載した商品棚を用意する必要がなく、安価に実現できる点を大きな特徴としている。実際にブースで展示されていたデモも、上部にカメラを設置するだけで、商品棚も既存の適当な棚を持ってきて実現していた。

セキュアは、今回の無人店舗ソリューションの実現に向け、AiFiと提携するとともに、NVIDIAとレノボとも提携。NVIDIAは画像解析に必要なAIテクノロジーの提供と技術支援を、レノボは解析サーバーの提供と技術支援を行なう。特にNVIDIAのAIテクノロジーは、高度な画像解析を実現する上で不可欠なものだそうだ。

天井に汎用のカメラを設置するだけで無人店舗を実現できる
商品棚に重量センサーなどを取り付けル必要がなく、一般的な商品棚を利用できるため低コストで実現可能
天井のカメラで撮影した画像をAI解析し、買い物客や買い物客が手に取った商品を特定し、決済までを完了させる

セキュアはこれまで、「SECURE AI STORE LAB」という無人店舗ソリューションの実証実験を行なってきた。それに対し今回のAiFiとの提携による無人店舗ソリューションは、カメラを含めて専用のハードウェアがほとんど不要なため、より安価に無人店舗を実現できるほか、万が一将来無人店舗の展開をやめる場合でも、カメラをセキュリティ用途として流用することも可能で、リスクも軽減できるとしている。

そのため今後は、SECURE AI STORE LABの実証実験で得た知見も活かしながら、AiFiの無人店舗ソリューションを提供していきたいとのこと。

AI解析にはNVIDIAのAIテクノロジーを活用。また解析サーバーはレノボ製サーバーを利用する

日本NCRはセルフレジにアドオンできる画像認識システム

日本NCRブースでは、既存のセルフレジにアドオン設置が可能な画像認識システムを展示した。この画像認識システムにはインテルの3Dカメラ「RealSense」を3基搭載し、テーブルに置かれた商品を3Dで捉え、短時間で画像認識による商品登録を行なう。この画像認識による商品登録に加えて、従来同様のバーコードスキャンやRFIDを利用した商品登録など、複数の方式を組み合わせることによって、短時間で正確な商品登録を可能にしているという。

日本NCRが展示した、画像認識で商品を特定し読み取るシステム
セルフレジ手前のテーブルに商品を置くと、上部の3Dカメラで商品を認識して登録
インテルの3Dカメラ「RealSense」を3基搭載している

今回の展示はモックアップだったため、実際の動作を確認できなかったが、実際に稼働しているものでは、テーブルに商品を置いて1秒とかからずに商品を登録できるという。そのため、セルフレジでの商品登録にかかる時間を大幅に短縮できる。同時に、読み取り精度も高まるため、店員がセルフレジのトラブルに介在する時間も減らせ、店舗のホスピタリティ向上にも貢献できるとのこと。

また、既存のセルフレジに追加で設置し利用できるため、システム全体を刷新する必要がなく、導入コストも大幅に抑えられるとしている。

画像認識は既存のバーコードスキャンなどと組み合わせて短時間での商品登録が可能となり、セルフレジの滞留時間を大幅に低減。既存のセルフレジにアドオンする形で追加でき、導入コストも抑えられる

画像解析を利用したセルフレジの防犯システム

今回のリテールテックで特に目に付いたのが、セルフレジを対象とした防犯システムの展示だ。

セルフレジは、当初は客が商品の登録から決済まで全てを行なうフルセルフレジから導入が始まった。しかし、当初は慣れない客が多かったこともあって、滞留時間が長かったり、うまく操作できないなどのトラブルが多く、店員が商品を登録し、決済のみ客が行なうセミセルフレジが主流となった。ただ、ここ1~2年ほどは利用客が慣れてきたことなどもあり、フルセルフレジが見直されており、導入も増えているという。

それに伴い注目が集まっているのが、フルセルフレジでの防犯対策だ。以前よりフルセルフレジでは、わざと商品を登録しなかったり、値段の高い商品のバーコードに値段の安い商品のバーコードを重ねて登録するなどの万引き行為が指摘されてきた。特に海外ではこういった万引き行為が深刻な問題となっており、売上に大きな影響を及ぼしていると聞く。

そもそも一般的なフルセルフレジには防犯対策が施されている。そのひとつが重量センサーを利用したもので、商品登録前後の商品の移動を重量で判断して登録漏れを検知するようになっている。ただ、重量センサーをごまかす手段はいくらでもあり、万全な対策とは言いがたい。

そういった中、年々進化しているのが、カメラを利用した防犯システムだ。それも、単純に防犯カメラを取り付けるだけでなく、セルフレジ上部に設置したカメラの映像をリアルタイムで画像解析し、商品の動きや客の動作を検知するというものだ。そして、AI解析で商品の移動や客の動作に怪しい挙動を検知することで防犯対策に結びつけるというものが一般的な仕様となっている。

東芝TECブースでは、セルフレジ上部のカメラを利用したAI画像解析による防犯システムを展示
商品の移動や客の動作を画像解析し、怪しい動きを検出
怪しい動きを検出したらアラートを表示する

どのように怪しい挙動を検知するのか、細かな仕様については防犯対策上公開していない場合が多い。不正を働こうとすると動作がぎこちなくなるため、通常とは異なる微妙な動作の違いを検知して判断する場合が多いようだ。また、AIで怪しい挙動を検出しても、それが本当に不正を働こうとしているのかどうかの判断は難しい。そのため怪しい挙動を検出したら店員にアラートを送り、店員が客に「登録忘れの商品はありませんか」というような声がけを行なうことで対処することになるようだ。

昨年のリテールテックは、日本NCRや東芝TECが同様のシステムを参考展示していたが、今年は、東芝TECがさらに進化したシステムを展示。また富士通も同様のシステムを参考展示するなど、より多くのメーカーが開発を進めている印象を受けた。いずれも参考展示ではあったが、東芝TECは2024年度の導入を目指すそうで、比較的近い将来に登場するものが多いようだ。

富士通ブースでも、AI画像解析を利用したセルフレジの防犯システムを参考展示
上部のカメラで商品の動きや客の動作を撮影して画像解析し、怪しい動きを検出するという点は東芝TECのシステムとほぼ同等だ