鈴木淳也のPay Attention

第95回

海外で復活するレストランとバー。コロナ以降を見据えた動きと混乱

英ロンドンのコベントガーデン付近の目抜き通り(2019年撮影)

新型コロナウイルスの拡散による脅威の報道が連日続く毎日だが、以前まで世界でも最悪の水準だった感染状況から復活し、徐々に日常を取り戻しつつある都市のニュースが最近になりよく聞かれるようになった。例えば、2021年1月には1日あたりの感染者数が6万5,000人以上、1,700人以上の死者報告が出た英国では「第2次世界大戦以来の超過死者数」ともいわれていたが、以降は急速に状況が回復し、営業を停止していたレストランやバーが次々と復活しつつある。

ロイターの5月6日の報道によれば、レストランの復活に合わせて外食を楽しむ利用者の数はさらに増加しており、イングランドだけでも週末の5月1日時点での予約状況が2年前との比較で71%と、ちょうど1週間前の62%から大きく伸びているという。またクレジットカードとデビットカードの利用状況については4月29日の時点で、2020年2月の水準の99%に達しており、こと「消費」という話ではコロナ禍突入前の水準へと戻ってきている。

状況改善の一端を担ったとみられているのが「ワクチン接種の進展」といわれており、BBCの報道によれば本校執筆時点での英国でのワクチン接種人数(最低1回でも接種を受けた人数)は3,500万人に達しており、同国の6,700万人の人口比で過半数を超えている。特に50歳以上のワクチン接種率はロンドンなど一部都市を除けば95%以上と非常に高い。ワクチンの存在が必ずしも感染を予防するものではないが、英国以外の事例でもワクチン接種の進展が経済復活にほぼ連動する状況が見えており、1つの鍵になっているのは確かだ。

レストラン復活のルール

まずは、最近になりレストラン復活のニュースが相次いでいる米国に注目したい。米国では州や郡(カウンティ)、市によって細かくコロナ禍での店舗営業ルールが異なっており、国全体で同じルールが運用されているわけではない。

例えば、東海岸のニューヨーク市では本稿執筆から2週間以内に100%フルキャパシティでのレストラン経営が可能となるが、西海岸のサンフランシスコではまだその半分の水準に留まっていたりする。以前に本連載でも紹介したように、屋内飲食が不許可となっているため、テイクアウトやデリバリー導入に踏み込むレストランが急増したのが1年前のトレンドだった。

現在ではそれも継続しつつ、営業ルールの緩和に合わせて店内のキャパシティを少しずつ増加させ、売上を以前の水準に戻すべく奮闘を続けている。

アラモスクエアから“Painted Ladies”を前にサンフランシスコ市内を臨む

サンフランシスコ市を含むカリフォルニア州の場合、基本的には州政府が決めるルールに沿って、4段階のリスクレベルを鑑みつつ営業状況が決定される。

例えば「Blueprint for a Safer Economy」と題された州政府運営のサイトでは、州内のカウンティごとのリスクレベルが適時更新でモニタリングされている。4つのリスクレベルのうち、上から2段階目の「Substantial」までは「Stay Home」が推奨され、多くの店舗は規模を縮小した状態での営業となる。3段階目の「Moderate」以降は店舗内においても徐々に規制が緩和され、下図の状態ではサンフランシスコカウンティとロサンゼルスカウンティは一番低リスクな「Minimal」の状態にある。

米カリフォルニア州におけるカウンティごとの感染状況を報告するベンチマーク。4段階のリスク評価により、店舗の営業ルールが規定される

とはいえ、「Minimal」状態においても営業に制限が加わることに違いはない。

サンフランシスコ市が店舗営業ルールについてガイドラインを公開しているが、5月6日時点でのレストランの最大キャパシティが50%、バーについては最大25%で100名までとなっている。現在同市はリスク最低の「Minimal」状態であるにもかかわらず、最大で“通常時の半分”にとどまる。先ほどのSafer Economyのサイトによれば、「16歳以上の住人に対して充分なワクチン接種が行なわれている」「病床の利用率が安定して低い状態であり、かつワクチン接種が行なわれている」という2つの条件を満たしていた場合に、6月15日にこれら制限が解除されると説明されている。

つまり、感染状況を抑え込みつつ、ワクチン接種が進むことが営業再開の最低条件と規定されているわけだ。

下記の2つは市政府の「Reopening guidance for restaurants and bars」というページで公開されている、レストラン掲出向けのポスターだが、レストランでの食事を希望する利用者は「高齢者または健康上のリスクがある個人はワクチン接種を行なった状態での利用」が推奨されている。また、レストラン従業員向けのポスターには「ワクチン接種を受けるように」と告知されており、市内で働く従業員はすべて保険の有無に関係なくワクチンを受ける権利を有すると説明されている。

前段での説明と合わせ、営業再開に向けた最低条件が「ワクチン接種」であり、米国では「ワクチンパスポートなど接種証明がないと建物などの施設に入れない」といった規制こそ行なっていないものの、こうした告知を通じて可能な限り家族や知り合いまで広い範囲でワクチン接種を拡大させていく作戦のようだ。

レストランでの食事を希望する利用者への告知ポスター
レストラン従業員などを対象にしたワクチン接種を推奨するポスター

このようにして、リスクレベルが「Minimal」になったサンフランシスコでは今年3月以降にレストランの店内営業が緩和され、これまでデリバリーやテイクアウト限定での営業だった店舗も少しずつテーブルを復活させつつある。

ただ、営業再開に向けた動きは店舗によってまちまちのようだ。同市内で飲食店が建ち並ぶ目抜き通りの1つ「フィルモア通り(Fillmore St.)」では、5月初旬時点で店内飲食可能な店舗とそうでない店舗で半々くらいの状況だ。

後者はサンドイッチやアイスクリーム店など必ずしも店内飲食に頼った業態ではない傾向があるが、仮に店内飲食を可能にしようとしても元々のテーブル数が少なく、それほど意味はないと考えているのかもしれない。

一方で、店内飲食が可能な店舗についても最大キャパシティが50%に留まるわけで、おそらく従業員の数を削減しない限りは赤字運営であることには変わりないだろう。いずれにせよ、完全復活しない限りは同じ業態での営業継続が厳しいことには変わりない。

フィルモア通りで店舗内飲食を再開しているレストランの例
1ブロック離れた場所にあるアイスクリーム店舗では、店内飲食は禁止のまま

営業を再開しつつあるレストランにおいても、最大キャパシティ50%では厳しいと判断したのかもしれない。現地の友人から3月下旬ごろに送られてきた写真には、フィルモア通りにおいて急ピッチで店外の路面の飲食スペースを整備している様子が写っていた。しかも1店舗に限らず、複数店舗が急遽屋外テーブルを設営しているようだ。

もともとフィルモア通りにはこのようなテーブルはほとんど設置されておらず、規制の数々が「屋内での飲食」に規定されていることから、「対策を行なったうえでの屋外飲食では制限なし」という点を利用して、感染レベル低下による規制緩和に合わせ、急遽拡張を決定したのだろう。

同市での店舗再開が3月中旬だったので、ちょうど写真が送られてきた時期と一致する。ただし、規制緩和に合わせた急ピッチの対応のせいなのか、テーブル席の手前にパーキングメーターが残っていたり、利用者のレビューに「寒くて最悪」と書かれていたりと、必ずしも本意での拡張工事ではなかったようだ。

3月下旬にSF現地の友人から送られてきた写真には、急ピッチで路面にテーブル席を設営する様子が写されていた(撮影:Stania Zbela)
こちらのテーブル席には目の前にパーキングメーターが残っており、もともと普通の道路だったところに無理矢理テーブル席を設営したことが分かる(撮影:Stania Zbela)

思わぬ誤算

このサンフランシスコの状況よりも進んでいるのがニューヨーク市だ。同市が公開している「NYC Restaurant Reopening Guide」によれば、5月7日時点でレストランの最大キャパシティが75%に設定されている。またEater New Yorkによれば、75%緩和から2週間以内の5月19日には100%フルキャパシティでの営業再開が可能になるという。

同市のワクチン接種率はNew York Timesの直近の報道によれば55%とのことで、カリフォルニア州全体の50%とそこまで差はないが、先行して緩和を進めているようだ。ワクチン接種に関していえば、同市内のコンベンションセンターであるJavits Centerは巨大な接種会場となっており、1回目の接種で対象となる市民であれば誰でもセンターに出向いての予約が可能ということで、その気になれば比較的すぐにでも接種が受けられる。少なくとも、それだけ余力があるということなのだろう。

ワクチン接種の予約がすぐにでも可能と告知するJavits Centerのページ

インフラの再開も進んでいる。先ほどのNY Eaterでも触れられているが、ニューヨーク州知事のAndrew Cuomo氏が自身の5月3日のTwitterへの投稿の中で、ニューヨーク地下鉄(MTA)の24時間運行を5月17日にも再開することを報告している。つまり、ニューヨーク市内で経済活動の足かせになっていた事象の多くが5月中には緩和されることを意味しており、少なくとも感染状況が小康状態を保つ限りは1年以上前の水準まで経済活動を再開させるつもりのようだ。

ところが、ここにきて思わぬ話題が出てきて関係者を悩ませている。

1つは「従業員の確保」で、1年前に店舗休業でやむなくレイオフとなった従業員が、いざ店舗を復活させて活動を再開しようと思っても戻ってこないのだ。Mercury Newsが5月4日に「Bay Area restaurant hiring crisis: ‘I’ve never seen anything like this’」のタイトルで報じているが、サンフランシスコを含むSFベイエリアにおいて、6月中旬のフルキャパシティでの店舗再開を目指して従業員を確保しようにも人が戻ってこないということで、「かつてないレベルの人材不足」というタイトルの内容につながっている。

もう1つはよもやま話的なものだが、CBS Newsが5月6日に報じたところによれば、経済活動再開にともなって「全米でチキンが不足」しており、供給が追いつかず争奪戦の様相を呈しているという。こちらは一時的な現象だとは思われるが、コロナ禍に合わせて最適化されつつあったサプライチェーンが急な経済再開にともなって直撃を受けており、しばらくはチキンに限らずさまざまなサプライで混乱が生じるのではないかと予想する。

CBS Newsによれば、いま全米でチキンクライシスが起きつつあるという

こと日本においては、まだ2021年内の復活に向けた指針が暗雲に包まれた状況だが、今回挙げた例のように海外の一部の国々では復活に向けた動きを早めている。一方で、最後に紹介したように、それに合わせた“ひずみ”も出てきており、おそらくは先行する各国を追いかけることになる日本では参考になる話もあるだろう。

例えば先日のリテールテックのレポートにもあったように、日本で特に問題となるのが「コロナ禍を抜けた直後の極度の人材不足」だとみられており、かなりの争奪戦が展開されることが想像される。雇用問題は経済復活の足かせになりかねず、これから1-2年先を見据えた復活計画の策定は急務となるはずだ。

復活した米国のレストランで食事ができるのはいつの日か

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)