西田宗千佳のイマトミライ

第185回

U-NEXTとParaviが統合。国内動画配信は「再編」に向かうのか

2月17日、U-NEXTは、有料動画配信サービス「Paravi」を運営するプレミアム・プラットフォーム・ジャパン(PPJ)と、3月31日付で経営統合すると発表した。存続するのはU-NEXTで、ParaviはU-NEXT側にサービスを移管する。

Paraviは、TBSやテレビ東京で運営されている動画配信プラットフォーム。それが国内大手のU-NEXTと統合することで、国内勢としては最大級の事業者が誕生することになる。この2社はどう進んできたのか? そして、なぜ統合するのかを考えてみよう。

サブスクは国内動画配信の主軸。国内で優位に立つU-NEXT

統合によってどんな事業者が生まれるのか? リリース内では、次のように説明されている。

「統合により売上高800億円以上、有料会員数は370万人以上、配信コンテンツ35万本以上を擁する国内勢で最大の動画配信プラットフォームが誕生します。」

これらの数字は単純合算であることに注意は必要だが、370万人規模のサービス、というのは確かに国内でトップクラスと考えられる。

ではどのくらいの規模なのか?

2月17日、市場調査会社のGEM Partnersは、「動画配信(VOD)市場5年間予測(2023-2027年)レポート」を発表した。

その中で、国内動画配信の市場規模を5,305億円と推計、2027年には7,487億円に拡大する、と推計している。

GEM Partnersの「動画配信(VOD)市場5年間予測(2023-2027年)レポート」リリースより。2022年の国内動画配信市場は5,305億円と推計

ちなみに、同レポートでは、いわゆるサブスク(SVOD:定額制動画配信)の国内市場規模は推定4,508億円となっている。

2月16日、GFK Japanが発表したセル映像ソフトの販売動向によれば、2022年の市場規模は金額ベースで、前年比16%減の1,205億円とされている。別の調査なので単純比較するのは難しいが、「ざっくりとした数字感」で言って、すでに動画配信、中でもサブスクは、日本市場においても「セル市場の数倍大きい、主軸のビジネスである」と言って差し支えないだろう。

その中でU-NEXTやParaviのシェアはどれだけなのか?

Gem Partnersのレポートでは次のようになっている。U-NEXTは12.6%で市場2位、Paraviは2.3%で市場11位。単純合算だと14.9%になる。比率を見てもお分かりのように、市場を拡大できず伸び悩んでいたParaviを、U-NEXTが統合してさらに規模を拡大する、というところだろうか。

同じくGem Partnersのレポートより。金額シェアで、U-NEXTは国内2位、Paraviは国内11位となっている

ただし、上記のグラフは注意が必要だ。この数字は金額シェア、すなわち「契約形態に関わらず、消費者が事業者に支払った金額の総額」で集計されている。そのため、低価格なサービスは低い値に、高価なサービスは高い値に出る。

インプレス総合研究所が2022年6月に発行した「動画配信ビジネス調査報告書2022」での調査によると、動画配信サービスのシェアは以下のようになっている。

インプレス総合研究所が2022年6月に発行した「動画配信ビジネス調査報告書2022」での調査。利用した人数での集計だと、Amazon Prime Videoがダントツになる

こちらはネットアンケートによる、利用している有料の動画配信サービスTOP10。複数回答ありの「利用者人数」をベースとしたシェアだ。

圧倒的にAmazon Prime Videoが多くのシェアを持っていて、ネットフリックスは2位、U-NEXTは5位になっている。実のところ筆者も、各社へのヒヤリングからの推計では、「アマプラ独走」というイメージの方が実情に近い、という感触を得ている。

理由は単純で、他のサービスに比べ、U-NEXTはサービス料金が高いからこうしたデータになるのだ。

U-NEXTの利用料金は月額2,189円。それに対してAmazonは、「Amazon Prime」として年間4,900円、もしくは月額500円だ。金額ベースでシェアを集計した場合、ユーザー数は単純計算でも、Amazonの4分の1で同レベルのシェアになる。

DAZNを除き、他社はU-NEXTの4分の1から半分の価格で見られる料金プランを用意しているので、U-NEXTは、Gem Partnersの資料ではユーザーの実数以上に大きなシェアに見えている、と言ってもいいだろう。

それでも、U-NEXTがシェアで日本トップグループにいる、という状況は揺るがない。むしろ「価格が高くても契約者がいる」という点が重要だ。その理由についてはちょっと後に譲ろう。

テレビ局が集まるも伸びなかった「Paravi」

もう一方のParavi、そしてそれを運営するPPJはどんな会社なのだろうか?

PPJがParaviをスタートしたのは、2018年4月のこと。筆者はこの時、同社に取材をしている。

PPJはスタート当時、TBS・日本経済新聞・テレビ東京・WOWOW、電通、博報堂DYメディアパートナーズの6社で構成されていた。現在はそれに加え、MBSメディアホールディングス・中部日本放送・RKB毎日ホールディングス・北海道放送・テレビ大阪・テレビ愛知・TVQ九州放送・テレビ北海道といった企業が株主となっている。

簡単に言えば、民放キー5局のうち、日本テレビ・フジテレビを除く3社に、衛星放送をベースとするWOWOWが一緒になり、さらに、規模が大きい地方局も乗り合った、というプラットフォームである。

ただし、サービス加入者数は思ったように伸びていかなかった。

その中で、WOWOWが一歩引く。

2019年2月から、WOWOWはBS配信中の「WOWOWプライム」、「WOWOWライブ」、「WOWOWシネマ」のネット同時配信を、Paravi経由で契約できる「Paravi WOWOWプラン」を展開していた。

しかし、このサービスは2021年1月に終了する。WOWOWが独自の動画配信サービス「WOWOWオンデマンド」をスタートしたからだ。

Amazon Prime VideoやNetflix、Disney+などの海外勢が大きくなってくると、日本のテレビ局もそれを無視できなくなっていく。日本国内での足元のサービスはもちろん重要なのだが、海外プラットフォーマーを介しての「番組外販」を視野に入れる必要が出てくるからだ。

結果として、これらのプラットフォーマーでもテレビ局制作のドラマや映画、アニメなども一部が配信されるようになった。以下のDisney+の事例がわかりやすい。

また、シンプルな「見逃し配信」用としては、TVerがかなり定着してきた。

こうなると、「テレビ局のコンテンツがある」だけではなかなか浸透を図るのが難しくなってくる。

多彩なサービスで攻めるU-NEXT。国内勢再編の口火となるか

では、U-NEXTはなぜ、他社より高い価格で加入者を増やしていけているのか?

理由は「サービス内容の多彩さ」にあるのだろう。

U-NEXTは単品での新作レンタルやライブ配信、電子書籍などのサービスを展開している。月額料金に、同社のサービスで使える「ポイント」が含まれていて、それを使うことでお得にコンテンツが楽しめる。

サブスクは「月額制」であるがゆえに生まれる新作がある一方で、月額制だからすぐには入ってこない作品も、供給されない作品もある。そうしたものを探して視聴したい場合、「単品型」のサービスがあることが望ましい。

単品ストアはAmazonにもHulu(Japan)にもあるのだが、U-NEXTは、前述のポイント制との相性もあり、支持されやすいところがある。

アダルトを料金内で手掛けていることもポイントではあるが、昨今のサービスでは「アダルトもあっていいが、1要素」という傾向が強く、アダルトがあるから伸びている、というわけでもない。

むしろ重要さが増しているのは、電子書籍との連携である。

これは、出版社や動画配信事業者など、各所で聞く話なのだが、アニメやドラマと、その原作のコミック・ライトノベルなどを売ると、これが非常に反応がいいのだそうだ。

2022年12月に参入したDMMもその点を重視しており、動画配信の下に関連電子書籍が並ぶような構造にしている。

この構造は、国内で最初に重視したのはFOD(フジテレビ・オンデマンド)だと記憶しているが、U-NEXTも早期から手がけ、現在は出版社としての機能も持つようになっている。3年前に行なった、U-NEXT・堤社長のインタビューでも語られている。

そうした基盤がありつつ、さらにコンテンツ数と会員ベースを安定させるには、強いサービスとの連携が必要になってくる。

おそらくは、そこでParaviとの連携、ということになったのだろう。Paraviに参加している各社からすれば、独立性は失われるものの、優先的にコンテンツを出す先が作れて、サービスインフラのコストも下げられる。

動画配信が定着してきた中で、小規模なサービスの統廃合は進むと予測している。そこでは、外資に国内サービスがくっつく形よりも、国内勢での再編がやりやすいだろう。

この2社の統合は、そうした事例の典型例になるかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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