レビュー

ポケットサイズの“犬撮り”カメラ「ソニー DSC-RX100M7」

もっと楽して犬を撮影したい

数年前に犬を飼い始めてから、散歩で持ち歩くカメラに悩み続けていた。

まず最初に、「とにかく綺麗な写真を撮って残したい」と思ったところから、手持ちの最上位機であるキヤノンの「EOS 1D X」と望遠レンズを持ち歩いてみたが、そうそうに諦めた。毎日持ち歩くには重いし、かさばるし、犬は引っ張るしで無理がありすぎた。

次はミラーレスのパナソニック「GH4」にしてみたが、こちらも理由としては大差なく、重いというほどではないが、適度に邪魔で、犬は引っ張るので諦めた。

最終的に至った結論が、写真も動画も撮れて毎日持ち歩くiPhone 7 Plusだけでいい、ということ。犬は相変わらず引っ張る。

結局のところ、カメラのためにわざわざリュックを背負ったりしたくないのである。iPhone 7 Plusだと、望遠能力や画質的にはいろいろ諦めているのだが、毎日持ち歩けてすぐに取り出せる。必要なときに撮影できる、というのが重要なのだ。

ちなみにこの間、「コンデジならどうか」などとは一度たりとも考えなかった。とてもではないが犬の撮影には向いてないと思っていたからだ。

コンデジなのになぜ買ったのか

そもそもコンデジの何が不満だったのかといえば、なかなか合焦しないAF(オートフォーカス)、遅い連写速度と、撮影中は液晶ファインダーがブラックアウトしてしまって、動体撮影など論外、というところ。最近はさすがに昔ほどではないが、撮影性能を軸に考えたら一眼レフを使うのが手っ取り早い。

RX100M7を買おうと思ったきっかけは、こうしたコンデジのイメージを払拭してくれる可能性を感じたからだ。ソニーのハイエンドミラーレスカメラ「α9」の技術を使い、高速なAF動作や動体撮影能力が謳われていて、しかも価格が本体だけで145,000円という。今時のコンデジとしてはかなり高い部類だが、だからこそメーカーの「本気度」を感じられた。

安めの一眼レフやミラーレスカメラの本体・レンズセットをまるごと買って、おつりがくるぐらいの値段だが、その本気度に期待して予約購入。購入したのは、動画撮影用のグリップや予備バッテリがセットになったシューティンググリップキットで、購入時の価格は167,400円だ。

RX100M7

ハイエンドカメラの「おいしいところ」取り

RX100M7を使い始めた最初の印象は、とにかくAFが素速く合うということ。これは本当に期待通りで、この時点で元はとった気分になった。大げさではなく、同価格帯で購入できる一眼レフカメラに全くひけを取らないのではないかと思う。

前述のとおり、本機にはソニーの「α9」の技術が使われているという。50万円もするカメラである。筆者はα9を使ったことがないので直接比較することはできないが、AFの速さなどはまさにこのおかげ、ということだ。50万円のカメラの機能が15万円で使えるのだからお買い得ではないだろうか。筆者は、AF性能はカメラ性能の肝だと考えているので、コンデジなのにAF性能はα9並、という一点豪華主義的な性能にはロマンを感じてしまう。

基本的には高いカメラほどAF性能は高い。筆者は写真で失敗をしたくないのでハイエンドカメラを使い始めたぐらいだ。ただ、α9は使った事が無いので違いはわからない。その代わり、キヤノンのEOS 1D Xを使っているが、正直なところAF性能など、撮影のしやすさに関しては遜色がないと思っている。

筆者としてはこのぐらい撮れればもう満足だ

もちろん、本気で動体を撮影するようなところでは厳しいシーンも出てくるかもしれないし、レンズ交換式カメラはレンズ交換という無限のポテンシャルがある。しかし、「こんなに小さいのなら、多少負けるところがあってもいいのではないか」と納得してしまう。

小さいのもいい。普段持ち歩くのに最適なサイズだ。ポケットに入るのは勿論、クビからかけていても重量が軽いので気にならない。犬の散歩ではいつ写真を撮りたいシーンが来るかわからないし、両手もなるべく塞ぎたくないので常に首にかけておくのがとても楽だ。ちなみに、一眼レフカメラを首からかけるのは、個人的には拷問だと思っている。

気軽に持ち運べるサイズ

画質的にも十分な印象で、やはりこのあたりはスマホなどとは一線を画している。1インチサイズのセンサーを搭載しているが、これを超えるスマホはなかなかない。センサーが大きいほど画質は向上しやすいし、ISO感度を上げた時の劣化も少ない。

犬の撮影では飛行機の撮影と同じように基本はシャッター速度を上げ、ISO感度をオートで撮影するのでISO感度が上がるシーンが多いが、あまり気にせず撮影できる。ちなみにシャッター速度は1/1,000~1/1,200前後にしているが、晴天時の屋外なら1/2,000ぐらいでもいい。

戦闘機より強い犬、犬に強いカメラ

筆者は元々戦闘機の写真などを撮影したくて一眼レフカメラを購入していた。しかし、犬の撮影は戦闘機の撮影より難しい。近距離で右へ左へ高速で移動し、予測不能な動きの連続で本当に難易度が高いと感じる。1D Xで撮影していても「犬の写真へたくそ選手権」に応募可能な写真を量産してしまう。戦闘機は、ある程度移動先は予測できるし、いきなりバックしたりしないのだ。

総額90万円ほどの機材で、こんな感じの写真を高速連写。断じてカメラの性能のせいではなく、筆者の腕前の問題である。犬にもカメラにも申し訳ない
後ろの地面にフォーカスが合ってしまうパターン
時々良い感じに撮れる。かわいい

だが、RX100M7なら違う、とはさすがに言い切れないのだが、携帯性の良さを考えると圧倒的なアドバンテージがある。

1D Xより有利な点もある。それはAFエリアが広いことだ。1D XのAFエリアは全体的に中央によっていて、ファインダーの端に寄っている被写体にはフォーカスを合わせにくい。逆に、そのあたりが腕の見せ所でもあるのだが、本機の場合はそもそもAFエリアが撮像エリアの約68%をカバーしているそうで、液晶ファインダーで見た印象では、画面上のほとんどのエリアでAFが可能だ。この差は大きく、ズボラな筆者にはとてもありがたい。

おおよそ、赤い枠に囲んだ内側がAFエリアだ。一般的な一眼レフカメラよりもかなり広い範囲でAFが使える

特に犬が動いているシーンでは圧倒的に便利で、左右へ動き回る犬に対応しやすく、ピントが合う「確率」が上がる。撮影していてとても楽だ。

ズーム機能が優秀なのもありがたい。本機は24mm~200mmまでのズーム機能を搭載するが、24mmというのは大抵のシーンで困ることがないぐらいワイドな画角。風景写真や記念撮影でもまず困らないのではないだろうか。200mmのズーム機能も、犬の撮影では十分な望遠能力で、大抵のドッグランなら犬が遠くに行っても追うことができる。

飛行機の撮影などでは物足りないだろうが、そういう時は1D Xの出番だ。本機は犬用カメラとして割り切っているので不満はない。カメラの得意分野に応じて使い分ければいい。

動物撮影が楽になる「動物瞳AF」

もう一つありがたいのは「動物瞳AF」だ。動物の顔を認識して瞳にAFを合わせてくれる機能で、動物撮影時には非常にありがたい。従来から人の顔を認識して瞳にフォーカスできる機能はあったが、これが動物でも可能になる機能だ。

特に犬などは鼻が前方に長いので、鼻の先にフォーカスが合ってしまうようなシーンはけっこうある。そうなると鼻が長いうちの犬などは普通にピンボケ写真になる。動物瞳AFなら、犬の瞳を自動的に認識してくれるので、犬が正面を向いている時の撮影が非常に楽になった。

ただ、あまり遠くに動物がいると、瞳が小さすぎて認識しない傾向はあるので、ある程度近くによるか、望遠を使うと反応しやすい。動物の動きは予想しにくいので、瞬間的に瞳にピントを合わせてくれる機能は非常にありがたい。

一応、自宅で犬を撮影したのが下記の写真。歩いてくるスピードぐらいだったらしっかりとAFが追随しているのが分かるのではないだろうか。

動物瞳はこうしたシーンでもしっかり生きてくる。瞳認識は被写体から離れているときは反応していないのだが、シーンの途中からしっかり瞳を捉えて追随していた。

小さすぎるのが若干不利にも

本機はコンパクトさが大きなメリットの一つだが、小さすぎて若干グリップしづらいのはデメリットではある。指を引っかける場所がほぼないのでするっと手からすり抜けそうな感じだ。そのため、純正のグリップパーツが別売されているので筆者はそれをつけている。

本体前面に突起状のパーツを両面テープで追加するだけのものだが、これが意外と効果が高い。というより無いとほとんど手に引っかかりがないので、片手で扱う時などは危ないのではないかと思う。本機を買うのならぜひこのパーツも一緒に買うことをお勧めする。というより標準で付属してほしいところだが……。

ハンドストラップは付属しているのだが、落下対策のため、筆者は首掛け用のストラップを別途購入して使っている。

大きすぎる感じもするが首掛け用ストラップをつけて使っている

小型なため、バッテリも小型だ。このあたりもフル充電で数千枚撮影できる一眼レフなどに比べると不利になる。ただ、カタログスペック的にはフル充電で240~260枚程度となっているが、実際にはそれ以上撮影できている。厳密に計測したわけではないが400枚~500枚程度は行けている印象だ。

それに、犬の散歩中に撮影するぐらいではまず困らない。元々シューティンググリップキットを買っているので、バッテリが2つあり、さらにバッテリチャージャーとバッテリのセットも追加で購入したので現在は3本バッテリがある。これだけあればそうそう困らないだろうと思う。

また、いざとなったらUSBで充電もできるので出先でモバイルバッテリを使って充電することも可能だ。ただし、USBコネクタがmicro USB Type-Bなのは唯一改善を求めたいところ。一緒に持ち歩いている「GoPro Hero 7」などと同じUSB Type-Cケーブルにしてくれたほうが荷物が減ってありがたい。ケーブルの本数は減らしたいし、裏表どちらでも挿すことができるType-Cケーブルはやはり利便性が高い。

充電やデータ転送用のmicro USB Type-B

犬の散歩中にベストなカメラ

高い動体撮影能力と、コンパクトなボディ、十分なズーム機能と画質。犬の撮影用としてお勧めしたいカメラだ。もちろん犬だけではなく、普段持ち歩くカメラとしても活躍する。

最近はスマホでも望遠レンズが搭載されるなど、さらにコンデジ界隈を脅かしている感じはするが、本気で作り込んだコンデジにはかなわないことを改めて教えてくれるカメラだ。なにより、スマホはレンズ問題は解決できても大きなサイズのセンサーを搭載するのは難しい。ズームレンズで高速AFもいつかできるかもしれないが、今は無理だろう。

スマホより綺麗な写真を撮りたいが、一眼レフやミラーレスを持ち歩くのはちょっと、と思っている人はぜひ一度試してほしいカメラだ。

清宮信志