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ANAとJAXA、旅客機の窓からCO2を高精度に自動観測する新技術

実際の観測データ(羽田発福岡着便)。旅客機の経路上にある都市圏を詳細に観測可能

ANAとJAXAは、世界初となる衛星リモートセンシング技術を活用した、定期旅客便での大気成分の自動観測実証を開始した。太陽光の反射率から二酸化炭素などの増減を観測するカメラを旅客機の客室窓に取り付け、人工衛星よりも高頻度かつ精密に温室効果ガスなどの観測が可能になる。

二酸化炭素排出量は人為起源のものが7~8割を占めると考えられていることから、都市域における温室効果ガスの観測を行なうことで、パリ協定への貢献を目指す取り組み。

これまでもJAXAが開発した機材をANAの運航便に持ち込んで観測は行なってきたが、観測機会が限られていた。今回初めて、ANAの定期旅客便で使用されるボーイング737型機の客室を一部改修。客室内から窓の外の大気を自動観測する機器を搭載することで、より高頻度な観測を可能にする。

設置イメージ。写真は2020年に公開されたもので、今回のものとは異なる

今回の技術は、2009年にJAXAが打上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測技術を応用し、両社が「GOBLEU(ゴーブルー)プロジェクト」として推進してきたもの。「いぶき」では、幅900kmの範囲で温室効果ガスを観測可能だが、その分解能は10kmで、都市部などでの細かな温室効果ガスの排出量を観測するのは難しかった。

今回の技術では、航空機から50km範囲内の地表の状況を観測可能で、「いぶき」よりも範囲は狭いが、最大で分解能100mという高精度を実現し、より細かな排出状況を確認できるようになる。公開された写真からは、都市部の幹線道路に沿って排出量が高くなっている様子も確認できる。

実際の大阪付近の観測データ。左下は「いぶき」により観測された同エリア。右側は今回の技術によるもので幹線道路上に二酸化炭素が多く排出されていることが確認できる

従来から航空機の周囲の大気を取り込んで大気の分析を行なう技術はあったが、この方法では航空機の周囲以外の状況は観測できなかった。今回の技術では衛星写真を撮影するように地表を面で捉えた、広範囲の大気状況を観測できるのが強み。

ANAの定期旅客便を利用することから、一日に何度も日本の都市上空を飛ぶことで、衛星よりも高頻度に排出量の観測ができる。

また、太陽光の反射率から二酸化炭素など温室効果ガスの増減を観測することから、排出だけでなく、森林などが二酸化炭素を吸収している様子も観測できるという。ただし、観測には太陽光が必要なことから、夜間は観測できない。

現在は本技術の特許取得を目指しており、実際の機材などは特許取得が完了次第公開する予定。

ANAとJAXAは今後も観測データの種類を拡大し、国際機関、政府機関、民間企業、地方自治体などの顧客ニーズに応じたデータ利活用事業の構築と温室効果ガス削減に向けた科学的エビデンスの提供を目指していく方針。

さらに大気成分等の観測だけでなく、観測データ利用・応用への発展に向けて研究開発を進め、宇宙と空から環境問題などの課題解決を目指す。