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推し活からステーブルコインまで ナッジが進める「クレカ as a Service」

様々な「推し活」カードを発行しているナッジ

新興のクレジットカード事業者であるナッジは、事業開始から4周年を迎え、若年層向けのサービスを強化しながら、一定の利用者を獲得してきた。継続してユーザーの反応を見ながらサービス拡充を図りつつ、今後はさらに、ステーブルコインでの返済を可能にするほか、年内にもナッジの機能を用いた新たなクレジットカード発行会社も誕生する見込みだという。

同社の沖田貴史社長は、Web3分野に関してようやく環境が整ってきたとみており、ユーザーのニーズも高まっていることから、しっかりとしたユーザー体験を作るという観点でサービスを強化していきたい、と話した。

Z世代に向けた「推し活」カード

ナッジは創業が2020年の新興フィンテック企業だ。「通常は2~3年かかる」(沖田社長)というクレジットカード事業スタートの準備期間を1年半で済ませてサービスを開始し、その後の4年間でサービスを作り上げてきた、と沖田社長は話す。様々な企業の出資を募るオープンイノベーションを活用し、約50億円の資金を調達して事業を強化してきた。

ナッジに出資している企業など

創業当時の日本のキャッシュレス決済比率は25%に満たず、キャッシュレス決済比率の底上げを目標に事業を進めてきて、現在は42.8%まで拡大。現金のみの店舗も減って、特に都会では現金を使わずに生活することも可能になってきたが、沖田社長は課題として利用者のキャッシュレス化が進んでいない点を挙げる。

2021年に発表された2018年のキャッシュレス決済比率

「鍵となるのは若年層」だと沖田社長。特にキャッシュレス決済比率の主力であるクレジットカード利用率は、60代が90%なのに対して20代は73%、10代になると24%まで減っている。逆に言えばここに「ビジネスチャンスがある」と沖田社長は指摘する。

クレジットカード比率の低い若年層が普及拡大の鍵

欧米では、こうした若者向けにはデビットカードが普及しているが、日本ではまだ伸び悩んでいる。QRコード決済も増えているが、決済金額で見るとクレジットカードが全体の8割を占めており、主流であることに変わりはない状況。

キャッシュレス決済比率のうち、決済金額で言えばクレジットカードは8割を占めている

そうした中で、ナッジはスタートアップながら「クレジットカード」の発行でサービスを開始した。QRコードからスタートしたメルペイの事例もあるが、新興企業の多くはプリペイドカードとしてサービスを提供しているが、ナッジとしてはクレジットカードにこだわった。

様々なクレジットカードやプリペイドカードが発行されているが、「スタートアップでクレジットカード」だとナッジだけだ、と沖田社長

2022年4月から成人年齢が引き下げられ、高校生を含む18歳以上からナッジでクレジットカードを作成できるようになり、若者のユーザー数の拡大にも貢献。2024年8月には10代が38.2%、20代が38.0%で約7割をZ世代が占める形になった。直近では20代が50%弱まで増え、10代とあわせて7割となっているそうだ。

Z世代の利用者が7割を占めるのがナッジの特徴

ナッジはマイクロアーキテクチャを採用して基幹系でAWS(Amazon Web Services)を使用するなど柔軟な設計思想で開発を進め、ユーザーの反応を見ながら随時チューニングをしていく環境を構築してきたという。

基幹系はAWS、データ分析はGoogle Cloudと複数のクラウドを併用してコストと機能を両立させているという

当初からスマートフォンアプリを前提としているため、ユーザーの入口を絞るという形になって「大きな決断だった」と沖田社長は話すが、結果として柔軟なサービスができるようになった。好きなタイミングで返済できるサービスや、ステーブルコインの対応なども、こうした設計が奏功したためだという。

スマートフォンアプリを前提として、好きなタイミングで返済できる、というのがナッジの特徴

サービス開始前のユーザーアンケートでは、Z世代で口座引き落としが好まれないという声が多かったそうだ。沖田社長自身は「ピンと来なかった」と言うが、ユーザーの声ということでそれに対応したサービスを構築。一般的にはクレジットカードの返済は毎月1回ずつだが、月2回以上の返済をする人が3割いるそうで、カードを利用して即返済する人も一定数いるという。

ナッジの調査では、Z世代では口座引き落としが好まれなかったという
月に複数回の返済をする人もいるというのがナッジの特徴
若年層向けということで、従来のInstagramから、最近はTikTok経由での認知度が向上しているという。また、若年層はChatGPTを「チャッピー」と呼んで頻繁に使っているとのことで、その中で最適なカードとしてナッジが紹介されることもあるそうだ

ナッジの特徴となるのが1枚から提携クレジットカードを発行できる点で、「クラブ」と表現される提携パートナーは170を超えた。カードデザインは300種類以上で、利用者がカード発行する一番の動機は機能ではなくデザインになっているという。

従来は数万枚発行しないと採算が合わないクレジットカードが、1枚からでも発行できるというのがナッジの仕組み
決済に伴う手数料から一部を「推し」に還元するのがナッジの仕組み。一般的にポイントとしてユーザーに還元されるものをそのまま推しに還元しているというイメージが近い

例えばVTuberグループのV.W.Pは、全員集合のデザインだけでなく、一人一人のキャラクターのデザインも用意し、複数を発行するユーザーも多い。随時カードデザインも追加しており、ユーザーもカードを着替えるように使い分ける人もいるという。沖田社長は「一緒になってサービスを作っている」と話す。

こうした「推し活」ニーズに応えるカードだが、メインカードとして日常的に利用するケースも増えているという。10万円以上の利用も可能にする認定包括信用購入あっせん業者のライセンスも取得したことも、メインカードとしての利用のさらなる追い風になりそうだ。

推し活のためだけでなく、メインカードとして日常利用としても使われているという

クレジットカード業界ではポイント競争が激化しているが、ポイントを付与しない「推し活」を前面に出すナッジとして、独自の機能を提供することで利用者の拡大を図りたい考え。そこでユーザー自身がアップロードした画像をカスタマイズして自分だけのオリジナルデザインのカードを発行できる「カスタムクレカ」機能を提供。

カスタムクレカ機能で、唯一のオリジナルカードを発行できる
実際にカードを作成しているところ。自分の好きな画像をアップして作成できる

推し活ニーズ向けには、決済時の通知画面で音声が鳴る機能を開発。設定した「推し」の画像がランダムで表示され、さらに音声も聞こえるということで、決済頻度の向上や決済通知の確認を促す効果を期待しているという。

決済時に即時利用通知が届くが、不正利用対策としても有効とされている。ただ、チェックされないことも多いとして、推しの画像をランダムで表示することで、通知を開きやすくした

Web3分野では、ナッジアプリ内にウォレットを作ってNFTの受け取り/転送ができるようにした。クラブのオーナーがユーザーへの特典として配布することもできるし、ご当地マンガのクラブである「やくもメンバーカード」では、聖地巡礼でのスタンプラリーとしてNFTを提供する取り組みもしている。

Web3領域ではNFTを扱えるようにして、アプリ内で利用できるようにした
NFTを強調するのではなく、スタンプラリーの特典として配布することで、地域振興にもつなげる取り組みも実施

ステーブルコインで決済できる世界へ

さらに新たに開発したのがステーブルコイン対応だ。米国が先行するステーブルコインだが、国内ではJPYCが承認され、円建てステーブルコインの発行に向けた準備が進められている。JPYCは主に日本国債をベースに日本円に連動したステーブルコインを発行する計画。

日本でもステーブルコインの発行が開始へ

ナッジは、このJPYCに対応することで、ユーザーが利用代金を返済する際にJPYCでの支払いができるように開発を行なった。ポイントは「返済にステーブルコインを使う」という点。

国内初のステーブルコインとなるJPYCの発行にあわせて、ステーブルコインでの返済を可能にする機能を提供。支払い自体は通常通りのVisaカードを使い、ユーザーからナッジへの返済を受け付ける

沖田社長は、JPYCの発表会でメディアから「コンビニで使えないのか」という質問があったことに着目。そうした利用をする方法を検討した結果、実際の決済は通常のVisaカードとして行ない、最終的な返済をステーブルコインで行なう形にした。

店舗側は、いつものクレジットカード決済なのでシステムの変更や対応は不要。ナッジのカードが使える加盟店であれば使える点がメリットだ。ナッジとユーザーの間の返済のみステーブルコインを使うため、「実質的にステーブルコインで決済ができる」ことになる。仕組みとしてはJPYC専用ではないため、今後別のステーブルコインが登場した際も応用できるという。

ステーブルコインやCBDCをそのまま決済に使うという世界も「今後は十二分にありえる」と沖田社長は話す。とはいえ、店舗側がWeb3ウォレットを開設して対応する必要があるなど一定の知識が必要で、「JPYCで支払いができる店が一気に増えるかというとちょっと考えにくい」との判断だ。

ナッジの沖田貴史社長

ナッジの取り組みは、まずはJPYCなどで支払いをしたいという人をカバーしつつ、Web3ウォレットが日常化して将来的に普及するまでの「繋ぎ」としての位置づけで考えているそうだ。

ナッジは、創業当時「今さらクレジットカード?」という声があり、多くの会社から出資を断られたそうだ。しかし、QRコード決済が10兆円の成長だったのに対してクレジットカードは42兆円の成長で、最も伸びていると沖田社長は強調。

クレジットカードの伸びはQRコード決済以上

「若者をターゲットにしても儲からない」という声に対しても、7割が若者となって事業を拡大。「一番コストがかかって悩ましい」(同)というコールセンターは、アプリからテキストで質問できることにしたところ、コストを下げても満足度が高められたという。

若年層もほとんどが銀行口座は持っているはずだが、「あまり使いこなしていない」と沖田社長。ナッジが、Z世代の顧客獲得に悩む銀行と、若年層ユーザー獲得のために連携も行なっている。また、セゾンカードなどとは、ナッジの利用状況に応じてセゾンプラチナ・アメリカン・エキスプレス・カードのインビテーションが届くなど、利用者のアップセルを期待した取り組みも実施されている。

Z世代は銀行引き落としの設定が少なく、銀行口座を持っていても使いこなしていない
Z世代の獲得に向けて他の金融機関とも連携

金融サービスを外部提供

今後の取り組みとしてはさらに、金融サービスの外部提供を行なう。2024年5月にはTISと提携し、カード発行の仕組みを外部に提供する取り組みを開始した。しかし、いきなりカード発行会社(イシュア)になることが難しいという声が多く、いったんはナッジの機能を外部提供し、将来的にイシュアへ繋げることにした。

ナッジの仕組みをTISに提供し、従来よりも軽量なカード発行事業をスタートしていた
この場合、自社でカードを発行するイシュアになるため、本格的な金融事業参入となり、二の足を踏む企業が多かったらしい

ナッジの仕組みをそのまま使う場合、イシュア自体はナッジとなり、クラブの提携カードと同様のバックグラウンドでカードが発行される。その代わり、アプリはその企業専用のアプリを用意して、見た目にはその企業がカードを発行しているようなサービスとした。例えば審査基準もその企業の用途に合わせるなどのカスタマイズも可能だという。

ナッジをイシュアとするカード発行によって、事業者としてはより気軽にカード事業に参入できる

これをナッジでは「クレカ as a Service」と表現。これによって金融事業に容易に参入できるようになる。沖田社長によれば、年内にも「大手流通系の子会社」がサービスを開始する予定で、来春にはさらに複数社が参入するという。沖田社長は、小売、エンタメ、インフラといった業界からの問い合わせが多いと話す。

こうして軽量のナッジのサービスで金融事業に参入してもらい、その後はさらに高機能で収益も高められるTISのサービスに移行してもらう、というのがナッジやTISの狙いだ。