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NTTとスカパー、宇宙RAN新会社「Space Compass」

NTTとスカパーJSATは、宇宙衛星事業の中核会社となる「株式会社Space Compass」を7月に設立する。宇宙データセンタ、宇宙RAN等に関する事業企画・事業開発などを行なう合弁会社で、資本金は両社が90億円ずつ出資した180億円。

2021年の業務提携で発表した、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の具体的な一歩となるもの。宇宙空間に構築する光無線通信ネットワークと成層圏で構築するモバイルネットワークを手始めに、新たなインフラを構築する。社名は、NTTの頭文字「N」と、スカパーJSATの頭文字「S」を組み合わせると「Compass(方位磁針)」になることから由来するもので、人類が未知の価値を発見する羅針盤のような存在になりたいという思いも込めたという。

主な事業は、「宇宙データセンタ事業」と「宇宙RAN(Radio Access Network)」事業の2つ。

宇宙データセンタ事業は、静止衛星軌道上にデータセンタ機能を持つ衛星を配備し、低軌道の気象観測衛星などさまざまな情報収集衛星からのデータを受信・処理を行なって大容量データを準リアルタイムで伝送する仕組み。2024年度のサービス開始を予定。

光通信によって行なわれる光データリレーサービスで、通信速度は5Gbps以上。観測衛星から地上局に直接データ伝送をする既存サービスでは地上局と通信できるタイミングや電波による通信容量に制約があるのに対し、静止軌道衛星経由での光データ伝送を利用することで、従来よりも10倍高速な通信が可能になるため、観測衛星の能力は飛躍的に向上するという。

また、衛星にコンピューティング基盤を実装することから、希望する企業に貸し出すことで宇宙データセンタを実現する。

HAPSと低軌道衛星のハイブリッド「宇宙RAN事業」

宇宙RAN事業は、Beyond5G/6Gにおけるコミュニケーション基盤とされ、成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)を利用することで、地上のインフラに頼らない低遅延の通信サービスを提供するBtoB向けサービス。2025年のサービス開始を目指す。

機体には地上でスマホの通信に使われる基地局と同等の機能を備え、一般的なスマホを使った通信も可能になる予定。空中から低遅延の高速通信環境を提供することで、災害時の通信や船舶航空機等への大容量通信、離島や僻地へのサービス提供を可能にする。また、提携通信事業者はHAPSと地上基地局を組み合わせ、モバイルネットワークのカバー範囲を効率良く改善できるという。

なお、現時点ではHAPSに割り当てられる周波数は未定。将来スマホで利用する場合は、対応する周波数を受信可能な機種が必要になる。

HAPSは高高度を飛行するグライダーのような機体で、ドコモはエアバスが開発したHAPS「ゼファー(Zephyr) S」を使った電波伝送実験を2021年11月に実施し、成功している。実験では地上から約20kmの高度を飛行した。

Space Compassでは、当面、40機のHAPSを飛行させ、日本全体をカバーする予定で、サービスのニーズ次第でさらに数を増やしていく。また、低軌道衛星も別途打ち上げ、HAPSと連携させることでより柔軟性のあるハイブリッド運用を目指す。

低軌道に打ち上げた数千機の衛星を使うSpace Xの「Starlink(スターリンク)」に近いサービスだが、Starlinkは地上に専用の受信アンテナを必要とするのに対して、Space CompassのサービスではHAPSから直接スマホが受信可能な電波を送受信可能なのがメリットになる。

また、HAPSは衛星と違い、地上に帰還可能なため、搭載装備を柔軟に変更できることや、飛行する高度も様々な国の事情に合わせて変更可能なこともメリットとしている。

NTT代表取締役社長の澤田純氏は、「Starlinkと真っ向から競って最初から低軌道衛星を数千機打ち上げてやるつもりはない。必要に応じて数を増やしていき、その結果、将来数千機規模になることはあるかもしれない。我々は、光伝送技術と衛星運用技術を既に持っているので、むしろ卸として手伝ったり、相互接続などの可能性はある」と、Starlinkとは異なるアプローチで事業に参入することをアピールした。

今後は、これらの事業を主軸として、早期に100億円規模の商圏を獲得し、将来的には1,000億円規模の事業を目指す。2025年度の大阪万博では、大容量光通信技術の宇宙での実証を公開予定。