トピック

ヘアアイロンシェア「ReCute」逆風から成功のワケ ドコモ新卒3年目のスピンアウト起業

ヘアアイロンのレンタルスポット「ReCute」

髪をセットするために使うヘアアイロンを、駅近の商業施設などで借りられるシェアリングサービス「ReCute(リキュート)」が若い女性に人気を集めています。

同サービスはNTTドコモグループの新規事業創出プログラムから生まれたもので、入社3年目の女性社員が企画。2024年にドコモからスピンアウトする形で、新会社「ReCute」が立ち上がりました。

2026年4月現在、ReCuteは渋谷ヒカリエやルミネ有楽町などをはじめとする首都圏・関西・九州・北海道など主要都市へ120台以上導入されており、今後は全国約3,500カ所へ拡大する予定です。また、セブン‐イレブンとも協業しており、学生の利用を想定して首都圏の大学近隣の6店舗にも設置されています。

全国の主要都市で120台以上導入

ReCuteのサービスを発案した山下萌々夏氏は、2021年にNTTコミュニケーションズ(現・ドコモビジネス)に新卒で入社。2023年に開催されたドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP CHALLENGE」に、ヘアアイロンのレンタルサービスを新規事業アイデアとして提案し、2024年にスピンアウトして事業化しました。

山下氏はReCuteの代表取締役 CEO / Founderを務めており、現在はセブン-イレブンとの協業をスタートさせるなど成長を見せていますが、その道のりは容易ではなかったようです。ReCuteの誕生から今後の展望まで、山下氏にお話を伺いました。

ReCuteの代表取締役 CEO / Founder 山下萌々夏氏

審査は厳しく 入賞ならずも投資家探し

ReCuteの設置場所は、都内のルミネやアトレなど駅近の商業施設から、コンサートやイベントが行なわれる有明・東京ガーデンシアターの女性用トイレ、福岡・香蘭女子短期大学のキャンパス内など多岐に渡ります。料金プランは10分で385円(以降1分ごとに33円)の都度払いプランと、月1,650円の月額プランがあります。

利用できるヘアアイロンは場所によって異なりますが、ReFaやKINUJOなど女性に人気の製品を揃えています。20,000円以上の高額製品も多く、「買う前に試せる」「外でちょっと直したいときに有名ブランドだから安心して使える」と利用者から高い評価を得ています。

ヘアアイロンは自社で開発したボックスに収められており、アプリでQRコードを読み取ることでボックスが開錠され、ヘアアイロンを利用できます。使い終わったら返却し、決済はアプリで行なわれます。ヘアアイロンの電源コードはボックス内に収められており、簡単に取り外せないので盗難の心配もありません。

専用のボックスに収められており、QRコードで解錠して利用

山下氏はNTTコミュニケーションズに入社後、大企業同士で新規事業を生み出すことをミッションとする部署に配属されました。通信業界のコモディティ化が進む中、他業界と連携して新たな収益の柱を作ろうという、会社全体の方針を体現する部門です。

「正直なところ、初めから起業に関心があったわけではなく、新規事業プログラムへの参加は、メインの業務に役立つスキルを身につけたいという思いからでした。コンテスト形式でしたが講義もあるプログラムで、講義を受けるなかでヘアアイロンのレンタルサービスを思いつきました」(山下氏)

アイデアの出発点は、山下氏自身の「不便さ」でした。

「前髪命、という感じで(笑)。私自身が常にヘアアイロンを持ち歩くタイプの人間でした。どこでも巻き直せる状態でいたかったのですが、持ち歩くのはなんだかんだ重いし、小さいものやコードレスタイプだとパワーも弱くて、機能的に満足できませんでした」(山下氏)

当時、外出先でヘアアイロンを借りられる場所としては、プリントシール機が置いてあるスポットもありました。しかし、そういった場所は中高生が多く、社会人だと少し場違いに感じてしまうそうです。また、ヘアアイロンだけを無料で借りることに罪悪感を覚える人もいます。メイクラウンジを利用する方法もありますが、手軽にヘアアイロンだけを使いたい人には負担が大きい。そこで、ヘアアイロンだけを使いたい人に向けてレンタルスポットを作ることを山下氏は考えたのです。

コードレスタイプはパワーが弱い、プリントシール機が置いてあるスポットの無料貸し出しは気が引けるという声も

ところが、社内での評価は今一つ。なかには酷評もありました。

「社内のピッチコンテストに挑戦して、300件以上のエントリーから最後の5チームに残ることができました。でも、結果として入賞できませんでした。決裁権を持つ年上の男性にはヘアアイロンのニーズがわかりにくく、市場も小さいと思われてしまうのです」(山下氏)

事業に対する理解や共感が得られず、苦悩しながらも、山下氏は諦めませんでした。ヘアアイロンのレンタルに興味を持ってくれるVC(ベンチャーキャピタル)を探すために、自らVC回りを始めます。NTTドコモのスピンアウト制度では、リード投資家となるVCを見つけて投資を受ければスピンアウトできます。時には共同創業者の取締役 COO / Co-Founder 下川佑斗氏とともに相談に出向きました。

そんななか、運命を変える出会いがありました。

「ポーラ・オルビスホールディングスのCVC担当の方が、同世代の女性ということもあり、事業のニーズに共感してくれた上に、絶対にお客様もつくと応援してもらえることになりました。現在も手厚くサポートしていただいています」(山下氏)

このほかに、Connectete、NTTドコモからの出資を受け、ReCuteは2024年7月1日にスピンアウトしました。同年8月下旬に渋谷ヒカリエやみなとみらい東急スクエアなどの商業施設で実証実験を開始します。

自然流入で20代女性のユーザー数が増加

実証実験で得た知見を基に、正式サービスとしてローンチします。駅周辺の商業ビルの化粧室など、気軽に立ち寄れる場所を中心にレンタルスポットを広げていきました。スポット展開にはそれほど苦労しなかったと山下氏は説明します。

「実証実験が渋谷ヒカリエだったので、他の施設も安心して契約してくれました。実際にサービスを開始してみると、"ヘアアイロン 渋谷 借りられる場所"といったキーワードで検索してReCuteを見つけて利用してくれるお客様が多いので、特に広告を出さなくても、スポット数を増やしていけば自然に顧客数が増えていくとわかりました。自然流入だけでダウンロード数が10万を超えているので、ニーズにはちゃんと刺さったのだと思います」(山下氏)

最初に導入した渋谷ヒカリエでは、現在4フロアに設置

ReCuteユーザーの平均年齢が26歳で、割合として多いのは24~25歳。女性らしいファッションを好む人だけでなく、カジュアル系やクール系など、さまざまなファッションスタイルの女性から利用されているそうです。

「お金は出すので清潔なものを使いたい、一方で時間に余裕はない世代です。ReCuteではReFaやKINUJOといった、高級ブランドのヘアアイロンを貸し出しているので、髪に優しい機器を使えます。アクセスが悪いと利便性が下がってしまうので、駅から近いところを中心に設置しています。デートや女子会の前に髪を整えるだけでなく、推し活の前にも利用されていますね」(山下氏)

ReCuteの利用は金曜夕方と土曜日がもっとも多く、平日は夕方、週末は日中も使われています。クリスマスの時期にも利用が増えるとのこと。利用場所は、繁華街やターミナル駅での需要が多く、ルクア大阪が全国トップの利用率とのことです。

利用できるヘアアイロンはReFaやKINUJOなど

“気分が上がる”デザインと衛生管理

ReCuteはヘアアイロンを収めるボックスを置くスペースがあれば設置できます。

利用後はアプリでボックスの写真を撮り、料金を決済したら返却完了です。写真撮影を義務付けることでヘアアイロンを綺麗に利用してもらう効果を狙っています。

「ブランドのイメージカラーはピンクで統一していて、アプリやボックスも気分が上がるデザインを心がけています。ボックスの取っ手を透明でキラキラしたものにしているのも、同じ理由です。単に私の好みでもあるんですが(笑)。

ブランドのイメージカラーはピンクで統一。ボックスのデザインにもこだわりました

また、ボックス本体は白く光る仕様にしていますが、これは視覚的にも衛生的であることを感じていただくためです。もちろん、定期的な清掃も行なっていますし、特に使用頻度の高い施設については清掃回数を増やすなど、常に清潔な状態で使っていただけるよう運用しています」(山下氏)

返却時に写真を撮影してもらう仕組みは、万が一故障などの異常が起きても、運営側ですぐに状況を把握して対応できるという大きなメリットがあります。

ボックス自体の作りもヘアアイロンが持ち出されないよう工夫していますが、あわせて従量課金制を採用しているのもポイントです。返却しない限り料金がかさんでいく仕組みにすることで、うっかり放置や盗難を自然に防げるようにしているそうです。

広告展開や自社ブランドの美容商材販売を目指す

ReCuteは2025年12月、セブン-イレブンでの貸し出しも開始しました。当初は4店舗でしたが、現在はセブン-イレブンが始めた新サービスのパウダースペース「loven(ラブン)」と提携するなどして、6店舗に増えています。

「当初は『イートインスペースの一角で』というお話でしたが、ちょうどセブン-イレブンの社内でも、『若い女性との接点を持つためにパウダースペースを作る』という別のプロジェクトが進んでいたんです。

そこでぜひ一緒に取り組もうということになり、現在は女子大の近くの店舗などに設置を進めています。この取り組みは手応えを感じており、今後もさらに拡大していく予定です」(山下氏)

また、ドコモショップ内にもブースを設置しており、NTTドコモと若者との顧客接点を持つことにも役立っているそうです。

セブン-イレブンが始めた新サービスのパウダースペース「loven(ラブン)」と提携

3月には、ユーザーの希望にこたえ、月額プランのユーザー限定で予約の機能を始めました。直前の10分間をキープすることができます。

EC事業も開始し、「SINN PURETE(シンピュルテ)」のヘアオイルをアプリから購入できるようにしました。

「今後は大都市を中心に未開拓のエリアがあるので、そうした場所から重点的に拠点を増やしていきたいと考えています。また、お客様から『ヘアオイルなどの商材を置いてほしい』という声をいただいたり、企業側からも『アイロンを試した流れで、そのままテナントで購入してほしい』という要望をいただいたりしています。そのため、今後はReCuteスポットでお化粧品やヘアアイロンをお試し利用できるような運用も検討していくつもりです」(山下氏)

月額プランでは予約機能も利用可能

ReCuteのサービス特性から、サイネージ広告による収益ビジネスも視野に入れています。ボックスの前でアイロンを使い、メイク直しも含めると、その場に留まる時間は20分~30分ほど。美容への関心が最も高まっている瞬間にアプローチできることもReCuteの強みです。

今後はReCuteブランドの確立を急ぎ、ゆくゆくはヘアケア商材や外出先で重宝するミニサイズの香水など、親和性の高い分野での自社ブランド展開も見据えているそうです。

「新卒で入社したときは自分が会社のCEOになるとは思ってもいませんでした。ですが今はReCuteを拡大するために日々色々な挑戦をしていて、とてもやりがいを感じています。今後の展開にも期待してもらえたらと思います」(山下氏)

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。