西田宗千佳のイマトミライ

第222回

マイクロソフトの「コパイロット」とはなにか OpenAIとの依存と共生

11月20日、日本マイクロソフトは「Copilot in Windows」の記者説明会を開催した。先日公開されたWindows 11のアップデート「23H2」では、Windowsに生成AIを活用する「コパイロット」機能が搭載された。

2023年は完全に生成AIの年となったが、マイクロソフトは今年に入ってから矢継ぎ早に生成AI関連機能を発表している。パートナーのOpenAIと組んで、ビジネスとして今年のトレンドをリードした存在、といっても過言ではない。

一方で、あまりに急な施策であるためか、マイクロソフトの中でも名称などが混乱しており、消費者側での理解は進んでいない。整理のためのブランド変更もあったのだが、浸透には至っておらず、わかりにくい状態のままだ。

そこで今回は、マイクロソフトにおける「Copilot(コパイロット)」とはなにか、そしてOpenAIとの関係はどのようなものなのかを改めて解説し、全体像を解き明かしてみたい。

Bing Chatから「Copilot」へ

現在、マイクロソフトは生成AIを使った機能を「Copilot」ブランドに統一している。

コパイロット自体は「副操縦士」のことであり、人の操作をサポートする存在を示す言葉として多くの企業が使っている表現ではあるのだが、マイクロソフトは初期から生成AI関連機能の解説で「コパイロット」という表現を使っていた。おそらくはその関係で、生成AI関連ブランドをみな「Copilot」にしたのだろう。

以下記事中では、マイクロソフトのブランドを「Copilot」と呼称し区別する。

最近のブランド変更で最も大きなものは「Bing Chat」が「Copilot」に変わったことだ。アクセスするためのURLとしても、「bing.com」からアクセスするだけでなく、「copilot.microsoft.com」からもアクセスできる。機能としては同じだが、画面デザインはすでに違う。

copilot.microsoft.com。Bing Chatと機能は同じだが、URLも表示も少し変わった
Bing Chat。もちろんこちらもそのまま使える

このタイミングに合わせ、正式にマイクロソフトの「Edge」だけでなく、「Chrome」「Safari」(ともにモバイル版とPC版双方)にも対応する。ただし、利用にマイクロソフトアカウントが必須である点は変わらない。

また、Windows 11に組み込まれる「Copilot in Windows」も、コアはこの「Copilot」である。ウェブブラウザからの利用だけでなく、Windowsの中からも「Windowsキー+C」のショートカットで簡単に呼び出せるようにし、Windowsの設定やアプリ連携を可能としたのが「Copilot in Windows」、ということになる。

Copilot in Windows。Windows 11とWindows 10からCopilotを直接呼び出す

要はCopilotがOSの中に入った(inした)からCopilot "in" Windows、ということだ。

Copilot in WindowsはWindows 11の他、Windows 10への搭載も行なわれる。Windows 10は2025年10月にサポート終了が決まっており、今後の大きな機能追加はない予定だったが、Copilotの利用と認知拡大を目的に、Windows 10へも搭載が決まったという。

今はできることが少ない「Copilot in Windows」

では、Copilot in Windowsではなにができるのか?

実は現状、個人向けのWindows 11ではできることがそう多くない。正確に言えば、ウェブブラウザー版のCopilotと差別化要素が少ない、というところだろうか。

個人向けと企業向けでは、同じCopilot in Windowsでも機能が異なる

前述のように、Copilot in Windowsはウェブ版のCopilotをベースにしている。追加部分は「OSやアプリとの連携」。とはいうものの、現状は非常に限定されたものだ。連携して複雑なことができるアプリはほとんどなく、OSとの連携についても「設定変更をチャットから行なえる」くらいだ。

下の画像は、「Bluetoothでマウスをつなぐ方法」を聞いた時のものだ。いわゆるオンラインヘルプとは異なり、単に方法が表示されるだけではない。必要な設定変更を行なうか聞いてきたり、ウインドウを自動的に開いたりもする。確かに便利なものだ。

Copilot in Windowsで「Bluetoothでマウスをつなぐ方法」を呼び出し。Bluetoothの設定変更や設定ウインドウの自動呼び出しも行なわれる

とはいえ、この辺がわかっている人にはさほど意味がないし、毎日設定変更をするわけでもない。

ファイルのある場所を探すことはできるが、フォルダ自体は自分で開かねばならず、OS上でよくやる作業を簡単にしてくれるもの、というわけでもない。

同じくCopilot in Windowsで「スクリーンショットのある場所」を探してもらったが、エクスプローラーは開くものの、そこから先の作業は自分で行なう必要がある

前出のように、「WindowsからCopilotを呼び出せるようにしただけ」というのが、現状の個人向けWindowsにおけるCopilot in Windowsの位置付け、というところなのである。

個人と大企業向けで異なる「Copilot in Windows」

筆者はここまで「個人向けWindowsでは」と強調して説明してきた。

そこでお分かりのように、企業向け、特に大企業向けのWindows 11では、Copilot in Windowsの位置付けがさらに異なる。

マイクロソフトは、Copilotをオフィスサービスである「Microsoft 365」と深く結びつけている。理由は、大量のデータを持ち、社員同士でも大量のコミュニケーションが行なわれる大企業でこそ生成AIが生きる、と考えているからだ。

次の表は、Microsoft 365におけるCopilot関連機能の有無をまとめたものだ。企業版のMicrosoft 365と連携した「Copilot for Microsoft 365」と単なる「Copilot」では、かなり機能が異なる点に注目してほしい。

マイクロソフトのブログより抜粋。企業版のMicrosoft 365と連携した「Copilot for Microsoft 365」と「Copilot」では機能が大幅に異なる

そして、Copilot for Microsoft 365(旧Microsoft 365 Copilot)は、大企業を中心とした法人顧客にのみ、1ユーザーあたり月額30ドルという価格で展開されている。

要は、マイクロソフトが大企業向けに展開している「Microsoft Graph」やデータストレージ、Microsoft Teamsなどでのコミュニケーションで蓄積されるデータを活用するために生成AIを使うのがもっとも有用で、お金になると同社は考えているわけだ。

これは当然だと思う。

個人や中小企業の持つデータ量では、それだけで生成AIに付加的な「賢さ」「知見」を追加するのは難しい。ウェブで提供されているものと大きな差別化ができるわけでもなく、まず効果が見込める大企業から……という形になっているのだ。

だから、個人向けや中小企業向けのWindowsおよびMicrosoft 365のライセンスには現状、生成AIを使うCopilot機能の存在感が希薄なのである。

特に日本の場合には、個人でPCを買い、そこにバンドルされている「家庭向けMicrosoft 365のライセンス」を使って仕事をする場合も多い。その結果、この辺の関係はさらにわかりづらくなっている。

ただし、今年9月にニューヨークで開催された「Microsoft Copilot」に関する発表会では、個人向け・中小企業向けのMicrosoft 365でのCopilotが「限定的なテストに入った」ことが明かされている。どのような形になるのか、見守っていきたい。

生成AIで依存しあうOpenAIとマイクロソフト

どちらにしても現状、「Copilot」というブランドで提供されるサービスは、すべて同じ基盤技術をもとに作られている。

それはOpenAIとの提携で提供されている、同社の大規模言語モデル「GPTシリーズ」をベースとしたものだ。

だから、OpenAIが新しい画像生成AI「DALL-E 3」を公開すると、マイクロソフトのCopilotからもすぐに使えるようになった。

Copilotではウェブ検索などのために、マイクロソフト独自の技術である「Prometheus」を使っている。似た技術はその後、OpenAIもGPT-4にウェブ検索を組み込むために導入しているが、両者の関係性は不明だ。

マイクロソフトが現Copilot(Bing Chat)を発表したのは今年2月のこと。その間に、大企業向けのMicrosoft 365へ展開し、Windows 11にも搭載した。それぞれの機能は違うし、本記事で解説してきたように名称や位置付けに混乱も見受けられるが、それも当然のこと。すべてはほんの10カ月以内に起きたことなのだ。

逆に言えば、これだけ猛ダッシュしてきた中で、突然OpenAIに「お家騒動」が持ち上がったのは、マイクロソフトにとっても青天の霹靂だったようだ。今回の事件で、マイクロソフトはステートメントを発表、一時は「サム・アルトマン氏らをマイクロソフトに迎える」と発表もしているが、結局詳細が発表になる前に、アルトマン氏がCEOに復帰して終息する……という形になった。

勢いよく走れば転ぶ時のダメージも大きい。

マイクロソフトの快進撃は「OpenAIが健全に運営されている」ことが前提となるし、またOpenAIにとっても、マイクロソフトの支援は必須だ。原発1基分を超える電力を使う、大量のGPUを持ったサーバー群を持つ企業は限られており、マイクロソフトがそれを提供することが、OpenAIの進化を支えている。

だから、マイクロソフトとしてもOpenAIとしても、できるだけ急いで事態を収める必要があった。今後のOpenAIがどうなるかは未知数なところはあるが、両者が「ほぼ不可分」であることは改めて明確になった。そこが強みでもあり懸念点でもある。

来年に向け、両社はどのような施策を展開していくのだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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