西田宗千佳のイマトミライ

第167回

なぜ手書きKindle? ハード+サブスク アマゾンのハードウェア戦略を分析する

9月28日(現地時間)、米Amazonは、Amazonデバイス&サービス事業の新製品・サービス発表会をオンラインで開催した。

この時期Amazonが製品を発表するのは恒例のことになってきた。去年はロボット「Astro」の発表があり、目新しさという意味では去年ほどではないかもしれない。だが、Amazonの発想が見えてきたという意味では、今年の発表はより分析しがいがある。

では、その狙いとはなにか? その辺を考えてみたい。

Amazonはなぜ「大型」「手書き」Kindleを出すのか

今年注目を集めた製品は、まずは「ペンでの手書き」対応で10.5型のディスプレイを備えた「Kindle Scribe」だろう。日本でも年内発売ということで、すでに予約した人もいると思う。

Kindle Scribe

Kindleというとハンディサイズのものを思い浮かべる人が多いと思うが、実は、アメリカでのみサービスしていた2009年、9.7型のE Inkディスプレイを採用した「Kindle DX」が発売されている。10年以上前の製品なので性能はかなり低いが、「ハイエンド機種として大画面モデルを」という発想は以前からあったのである。

それが今年復活した理由は、大画面E Inkディスプレイが低価格化したこと、「ペンでの手書きメモ」という要素の底堅さなどを勘案した上で「ハイエンドKindleのあり方」を見直した……というところではないかと思う。

機能的にはiPad Proなどのペン対応タブレットとかぶる部分があるのだが、E-Inkである、ということ、Kindleとしては高価でもiPadよりはかなり安いことなどがポイントになる。

Kindle Scribeと似たコンセプトの製品は多数あるが、「Kindleである」ということがポイントであり、買うか否かの選択肢も、そこに尽きるように思う。

日本からは見えづらい「Echo」の戦略的機能

今回の新製品の中でも、Amazonの戦略がよく現れているのが「Echo」シリーズだ。Echo DotもEcho Studioも、新世代になって音質は上がっているものの、デザインに変更はない。

Echo Studio
Echo Dots

実は、今回の大きな変更点は、日本市場には影響しない部分だったりする。アメリカでは販売しているメッシュWi-Fiルーター「eeroメッシュWi-Fi」のメッシュWi-Fi拡張デバイスとして使えるのだ。

eero 6 dual-band mesh Wi-Fi 6

eeroはメッシュWi-Fiルーターのブランドで、2019年末にAmazonが買収した会社でもある。

広い家が多いアメリカでは、1つのWi-Fiルーターで家中をカバーするのは難しい。そこで、「エクステンダー」と呼ばれるデバイスを使ってメッシュネットワークを形成し、Wi-Fiを家中に拡張する「メッシュWi-Fi」が重要になる。日本でもメッシュWi-Fi機器は広がってきているが、アメリカほどの切迫感はないだろう。

メッシュWi-FiではGoogleの「Nest Wi-Fi」が先行しており、日本でも製品を販売している。スマートホームにはWi-Fiの「不感地帯」が家の中にないことが望ましい。そういう意味では、スマートホームでGoogleと衝突するAmazonとしては、eero買収は大きな意味を持っていた。

eero PoE6ゲートウェイ(日本未発売)

さらに今回、スマートスピーカーであるEcho自身をeeroのメッシュWi-Fi拡張に使えるとなると、スマートホームのためのインフラ作りを進める上で、一挙両得のデバイスが生まれることを意味する。購入する消費者の側としても、よりコストパフォーマンスが良くなるわけだ。

残念ながら現在Amazonは、日本ではeeroブランドのデバイスを販売していないので、この重要な要素が生きてこない。

Amazonのスマートホームが1つになり始めた

もう一つ面白いのは「Echo Show 15」だ。こちらはハード的には変わっておらず、ソフト面での進化になる。すでにあるEcho Show 15にも、後日ソフトウエアアップデートで機能が提供される。

その要素はなにかというと、「Fire TV」機能が搭載される、ということだ。

Echo Show 15にFire TV機能を搭載

Echo Show 15はその名の通り、15インチという大きなディスプレイを備えたデバイスだ。テレビ代わりに使いたい人は多数いたので、Fire TVに対応し、Prime Videoのコンテンツを再生できれば確かに便利だ。

ただ、このことは、もう1つの製品の特徴と合わせて考えると、Amazonの戦略がよりはっきり見えてくる。

同時に発表された「Fire TV Cube」の新モデルだ。

Fire TV Cube

こちらは音声・性能などが強化されたモデルだが、同時に「Alexa連携」「Ring連携」もアピールされた。前のモデルからあった機能だが、テレビの前に置くデバイスでありつつ、スマートスピーカーであるEchoシリーズとしての機能も備えている。さらに、接続されたテレビに、「Ring Doorbell」などの監視カメラの映像を表示することもできる。

Echo Show 15も同じことができて、画面上でさまざまなスマートホーム機器の操作が可能だ。

これらのデバイスにおいては、「EchoなのかFire TVなのかRingなのか」といった区別はかなり曖昧になってきた。当然と言えば当然なのだが、同じ会社であるAmazonのデバイスとして、相互連携がはっきり取れるようになってきた。

Amazonのスマートホーム戦略はスピーカーから始まったが、結果的にはディスプレイが付いているデバイスを1つの軸として、多数の「Amazonブランド」サービスを連携して使うものへと成長してきている。

さらに、これからはスマートホーム機器共通規格である「Matter」対応デバイスが本格的に増えてくる。共通規格なので、Googleのスマートホーム機器でもアップルのスマートホーム機器でも使えることになるのだが、その「基盤」として、Amazonブランドの機器が家庭に入っていて、より安心して使えるようになることを目指しているのは間違いない。

そう考えると、前出のeeroブランドのメッシュWi-Fiが重要である、というイメージもより強くなってくるのではないだろうか。

ハード+少額サブスクの姿が見える「Halo Rise」

もう一つ、面白い新製品が「Halo Rise」だ。

Halo Rise

これはいわゆるスリープトラッキング・デバイスで、睡眠時間を把握して「より良い眠りと目覚め」を提供するものだ。デスクライト的な形状をしており、スリープトラッキングと同時に、起床時間に合わせてゆるやかに明るくなっていく機能を持っている。

同じ課題に対し、Amazonは「ライト」で、アップルは「時計」で、そしてGoogleは「スマートディスプレイ」でと、それぞれ別の形でアプローチしているのは興味深い。ただ現状、日本では発売予定が公表されていないのが残念だ。

もう一つ面白いのが、Halo Riseには「サブスクリプション・サービス」がある、ということだ。

基本的な睡眠トラッキングや目覚まし機能は無料で提供されるが、そこから得られた詳細な情報の分析を伴った「より良い眠りのためのサービス」は有料で提供される。購入後最初の6カ月無料だが、それ以降は毎月3.99ドルが必要になる。

Amazonに限らず、Googleもアップルも、ハードに付随する付加サービスを有料にし始めている。日本でも展開されているAmazonのサービスで言えば「Ring Doorbell」向けの監視動画のクラウド録画がそうだ。2023年3月31日までは無料だが、それ以降は、「Ringプロテクトプラン」が必要になる。

こうした「少額だがハードに付随する有料サービス」はトレンドの1つと言える。ハードでは大きな収益を得ていなくても、少額のサブスクを積み重ねていくことでビジネスの安定性を高めているわけだ。

そうした狙いを図る上でも、Halo Riseは興味深い製品なのである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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