西田宗千佳のイマトミライ

第88回

ソフトバンク新プラン「LINEMO」の意外なシンプルさ。LINE×ヤフー統合が鍵?

LINEMOが発表に。左から、ソフトバンク・常務執行役員の寺尾洋幸氏、同・代表取締役副社長 執行役員兼 COOの榛葉淳氏、LINE 取締役CSMOの舛田淳氏

ソフトバンクは2月18日に会見を開き、かねてより準備中だった「20GBクラス・オンライン専売」プランのブランド名を、正式に「LINEMO」(ラインモ)とすること、3月17日より「月額2,480円(税別)」でスタートすることを発表した。

ソフトバンク、2480円の新料金プラン「LINEMO」

当初の価格、月額2,980円からの改定もあったが、同社の狙いはどこにあるのだろうか? 発表会と、その後に開かれたラウンドテーブル取材の内容から探ってみよう。

通話定額をカットして2,480円に

LINEMOは、昨年12月17日に「Softbank On LINE」の仮称で発表されていたプランだ。NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの大手3社は、「月額2,000円台」「利用可能データ量20GB」「オンライン専売」という共通項を持つサービスを3月より展開するが、そのソフトバンク版として公開されたのがSoftbank On LINE=LINEMO、という事になる。

LINEMOのスタートは3月17日から

「品質は通信サービスの一丁目一番地。LINEMOは、ソフトバンク、ワイモバイルとまったく同一のネットワークサービスを提供する。もちろん5G対応」

ソフトバンクでLINEMOを担当する、常務執行役員の寺尾洋幸氏は発表会でそう説明した。これはもちろん、価格で先行するがエリア拡大にまだ苦戦している楽天モバイルや、インフラを借りるという不利があるMVNOを意識しての発言だろう。大手3社が価格競争に突っ込んでいく中、「大手はどこが違うのか」を強くアピールしたと言える。

一方で、ソフトバンク代表取締役副社長 執行役員兼 COOの榛葉淳氏は、発表会の冒頭にこうも話した。

「1億人いると、さまざまな使い方やライフスタイルがある。そこで3つのブランドを発表いたしました」

メディアでは、LINEMOに代表される20GB・オンライン専売プランだけが注目されている。だが、勝負はそこだけではつかない、ということだ。低価格プランや定額プランなどもあって、さらにその中の特定顧客向けの目玉プランであるLINEMO、という扱いなのだ。

では、LINEMOの軸はなにか?

話はシンプルだ。比較的年齢が若く、LINEを多く使い、通話よりもデータ通信が重要だが、サポートはオンラインでも十分、という層に対し、コストを下げてサービスを提供することだ。

その結果として、ソフトバンクは、12月の発表時には「月額2,980円」だった価格を、さらに500円下げて「2,480円」でスタートすることになった。これは、KDDIのpovoが、5分以内の通話定額をオプションにして「2,480円」を打ち出したことへの対抗だろう。会見ではKDDI対抗、という言葉は出てこなかったものの、「発表後に『LINEが使い放題ならば通話定額はいらないなんじゃない?』という声が寄せられた」(寺尾氏)との説明があった。

LINEMOのサービス概要。5分間までの通話定額をオプションにする代わりに、価格を月額2,480円に下げた

これは確かにそうなのだ。

電話の着信ではお金がかからないし、かける相手が知り合いばかりなら、LINEでの音声通話のような「ネット通話」でも問題はない。むしろ、「友達とLINE通話をつなぎっぱなしにして一緒に勉強する」ような使い方をして育った世代から見れば、通話へのこだわりは小さい。

仕事に電話を使うような層だと、5分以内の通話定額はありがたい存在だが、「それはオプションでもいい」という発想もよくわかる。

「トッピング」より「シンプル」を選んだソフトバンク

一方で、LINEMOがpovoを単純に追いかけたものか、というとそれも違うようだ。

povoは、通話定額や1日データ定額など、多彩なオプションをアラカルト形式で「トッピング」するのが特徴だ。だがLINEMOは、5分間通話定額のオプションは用意するものの、それ以外にはあまりオプションは用意していない。

LINEMOの通信オプション。同じ価格のpovoと違ってかなりシンプルだ。

寺尾氏は取材で次のように答えている。

「(KDDIのように)アラカルト形式を取り入れるかどうかは、非常に悩んでいる。色々な料金・ネットワーク形態はあるだろうが、どこまでわかりやすくできるかが重要。本当にオプションを追加していただけるのかどうか、結果的にはある程度のパッケージを提供しなければいけないのではないかと思っている」

記者とのラウンドテーブル取材に答える、ソフトバンク・常務執行役員の寺尾洋幸氏

要は、アラカルトにするのはいいが、結局、なにができてなにができないかの見通しが悪いのではないか……という指摘だ。若い世代向けと言いつつも、ソフトバンクはかなり「シンプルさ」を重視している。寺尾氏はワイモバイルの責任者でもあり、低価格プランで求められるものをよく知っている。その関係から、シンプルさを重視しているのではないだろうか。

携帯電話端末の扱いについて質問した際も、次のように答えている。

「まだ決まっていない部分が多く、どこまで端末を用意すればいいのか、試行錯誤中。ただ、現状の携帯電話販売は、割賦販売などで複雑になっている。まずはそれをシンプルにしていくのがいいのか、と思っている」

この点からも、LINEMOの軸が「シンプル化」にあるのが見えてくる。

本音は「LINE・ヤフー統合」待ち? 政府に急かされた代償も

しかし一方、LINEMOには気になる点もある。

LINEとの連携を強く打ち出しているものの、結局メリットは「LINE関連サービスが使い放題」という部分に集中している。LINEクリエイターズスタンプが使い放題になるのだが、正直、それがあるからLINEMOを選ぶ……というほどの魅力ではない。

「『LINEミュージック』や『LINEマンガ』といった楽しいサービスもたくさんある」(寺尾氏)と、将来的な連携も示唆するような発言はあるが、今のところはLINEよりもソフトバンクとの連携が目に付く。先行エントリーでポイントを付与する先も、LINE Payではなく「PayPay」になっている。といってもこれは、「先行エントリーを受け付ける際、ソフトバンクとして短時間で用意できるのがPayPayボーナスだったため」(寺尾氏)だそうだが。

実のところ、LINEとソフトバンクの連携を詳細に検討して発表するには、今の時期はタイミングが悪い……という部分もある。LINEとヤフーの運営元・Zホールディングスの正式統合は3月1日で、ソフトバンクの元でまとまった新しい付加価値を発表できるのはその後になりそうだからだ。寺尾氏も「まだその点はコメントを差し控えたい」とする。

政府の要望によって値下げが生まれた、と言われているが、実際にはどうやら、大手3社は「若者市場を狙った価格施策」をずっと準備していたようだ。それが、この数カ月で加速され、各社の想定よりも先に世の中に出てくることになった……というのが実情であるようだ。ここまで価格を下げたくなかった、というのも本音ではあるようだが。

記者からの「ここ数カ月はどうだったか」という質問に対し、寺尾氏は苦笑しつつ「久々に死ぬかと思った」と答えた。相当に急いで様々な検討が行なわれたのは間違いない。

本当なら、LINE・ヤフーの統合を経て、明確なシナジーを提示できるタイミングでLINEMOを発表したかったのだろうが、政府からの要請により、事情が許さなかった可能性が高い。

「予想外の会社ですから、今後、いつでも変更がありうる」「システムにおいても毎週見直しをかけて使いやすくしていく。最初はやさしい気持ちで見ていただきたい」と寺尾氏は冗談めかして答える。

実際問題として、3月1日以降、さらに変更される可能性はある。今の「LINEMOに感じる物足りなさ」も、もう少し待ってから判断した方が良さそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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