西田宗千佳のイマトミライ

第82回

「5Gギガホ プレミア」から見えるドコモ本気の「攻め」

12月18日、NTTドコモは新料金プラン「5Gギガホ プレミア」を発表した。

ドコモ新料金プラン 「5Gギガホ プレミア」はデータ無制限で6,650円

12月3日に「ahamo」を発表して以降、NTTドコモは積極的に料金施策を変えてきている。政府からの強い圧力があった結果であり、実際の開始は2021年3月と少し先だ。それでも、それぞれの料金プランが消費者にとって望ましいものであることに違いはない。

では、今回の「5Gギガホ プレミア」はどういう意味を持つのか? 筆者なりに分析してみよう。

「キャンペーン」を廃してシンプル化するドコモの思惑

「5Gギガホ プレミア」は、その名の通り、現行の「5Gギガホ」を引き継いだものだ。家族割や光回線割引もあり、店舗での説明もサポートも行なわれる。そういう意味では、「ネット完結」を前提としたahamoとはまったく異なる。

NTTドコモは、ギガホに代表される既存型の契約を「プレミア路線」と位置付け、ahamoは高コスパの「新路線」としている。多少高価だがサポートを受けやすく、価格については家族割や光回線割引でカバーする……という形になっている。

「5Gギガホ プレミア」では1,000円の値下げが行なわれている。それは重要なことなのだが、筆者が見るところ、それは一要素に過ぎない。

ポイントは、今回の値引きに「キャンペーン割引」も「キャンペーンによる無料サービス」もないことだ。

今のギガホでは、データ通信量は「キャンペーン適用」で5G契約は無制限、4G契約は60GBまでになっている。だが、新プランではキャンペーンではなくなった。また、「半年間割引」「1年間割引」などの割引はない。家族割も光回線割引も恒常的なもので、条件を受け入れるかどうか、ということで価格が決まり、時期によって変わることはない。

5Gギガホプレミアの料金

このことは、NTTドコモが「携帯電話料金のわかりやすさ」にメスを入れようとしていることを示している。

政府と総務省は、携帯電話の料金引き下げを求めると同時に、料金システムを「わかりやすくする」ことを求めている。

以前にも記事に書いたが、政府による「大手3社が価格を下げないといけない」という、競争を無視した施策には断固反対だ。だが、携帯電話料金の仕組みの見通しを良くすることには賛成する。

なぜ携帯電話の料金は複雑になるのか? それは、「囲い込んだ上で値下げ圧力に対応するため」でもある。

過去から、携帯電話料金には「値下げ論」が付きまとってきた。競争もある。消費者は色々なニーズがある。それに応えるためには、シンプルな1つのサービスで対応するのは難しい。過去、どの携帯電話事業者も「シンプルな料金プラン」を謳ってスタートしたが、結果的には色々なニーズに応えるために複雑化していった。そこにさらに、政府からの圧力や他事業者との競合もある。

家族をまとめて契約してもらったり、一時的にキャンペーンで他社との競合状況を改善したりと、色々な条件が加わる。状況がどうなるかわからず、様子見したい時もある。

そうすると、短期的キャンペーンや付加的な割引策を追加し、「条件があった時に割引する」ような形になる。

携帯電話の正式な料金体系には手を入れず、ある種の「パッチあて」で対応してきたわけだ。結果として、携帯電話事業者に入るお金もユーザーが支払うお金も「割引後」のものを想定しているのだが、結局それは「一時的な策」であり、全ての条件が揃った時……という見通しの悪さが生まれていたのである。

今回NTTドコモは、明確に見せ方を変えてきた。キャンペーン料金的なやり方をやめ、割引は恒常的なものだけにして、さらにはプレスリリースなどでの料金表記も変えている。

今回のプランのリリース(上)と、昨年の「ギガホ」発表のリリース。料金についての表記方法が大きく異なることに注目

携帯電話料金は「割引後」の形で表記されることが多い。それは「できるだけ安く見せたい」というマーケティング上の理由に加え、携帯電話事業者から見れば「多くの人が割引を選ぶので、割引後の表示でいい」という言い訳があったからだ。

確かにそうかもしれないが、わかりにくいし、その条件で全ての人が契約できるわけでもないのは事実だ。さらに、複数の条件を積み重ねた上での割引だと、条件が合う人は減っていく。

12月8日にKDDIがauの新料金を発表したが、SNS上では「炎上」と言っていい状況になった。それは、ahamoに対抗する安価なプランでなかったことに加え、従来型の「割引積み重ね型」であり、見通しが悪いプランであったことが理由だろう。

au、5G料金プランはAmazonプライムがセットに。「最強のセットプラン」

今回NTTドコモが示した料金プランは、KDDIの失敗をかなり意識したものではないだろうか。「家族をまとめて囲い込んで割引」というあり方に変化はないものの、データ通信量を含めて「基本プラン化」を推し進めることで、消費者からの見え方を変えてきたことで、受け止め方は大きく変わった印象がある。

「使い放題」でオールNTTで攻める、他社はどう対抗する?

すでに述べたように、新プランはahamoと違い、店舗でのサポートが行なわれる。ahamoは「家族割」に入らないが、新プランは入る。ahamoに入ろうと店に来た顧客には、「家族割から、家族を含めて外れますがいいですか?」と確認することはできるようになっている。

ということは、ahamoに入るべき顧客はそのままでいいし、そうでない場合には「ahamoに入るべきではなく、新しいプランに」とプロモーションできるわけだ。おそらく、この棲み分けはNTTドコモにとって大きな武器となるだろう。

また「5Gギガホ プレミア」は、正式に「データ利用量」に制限がないことが明言された。スマホ内の利用だけでなく「PCでのテザリング」も含む。NTTドコモも、「無制限に使われてもインフラ的には問題ない」とコメントしている。

実際、無制限とはいっても本当に無制限に使う人は少ない。5Gで増えたとしても、ある程度の量に落ち着くものだ。問題は無線部分の混み合い具合であり、「1つの基地局に、本当に無制限に使うヘビーユーザーが集中する」ようなことがなければ、なんとかなる。NTTグループの持つ光ファイバーインフラを生かすことで、バックボーンの拡充も行なえる。

そうすると、確かに「使い放題でももう問題ない」時代がきている、と言っても過言ではない。もちろん、相応の価格を支払ってくれるならだが。

他社に先駆けて「無制限」を打ち出すことで、単純なコストメリット以上の価値を見せている。これもまた「NTT全体で生み出す価値」と言えるかもしれない。他社から見れば羨ましい限りであり、おそらく今後議論が巻き起こる部分かもしれない。

「安く」は重要だが、今後の社会を考えると「使い放題」も重要。今回、最大7GBまで段階的に料金が上がる「ギガライト」は刷新されなかったが、20GBのahamoがより安価となっていることから、20GBに満たない料金プランの位置づけは難しくなっていきそうだ。

そうなると注目は、まだ「音無し」のソフトバンクと、「炎上対策」が必須のKDDI。非常に厳しい立場にある楽天もどうするか気になる。

年内にさらに動きがあるかはなんともいえないが、1月中には、他社も動きを見せなければいけないだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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